タッチパネル
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タッチパネルとは、ディスプレイモニタとマトリクス・スイッチ等(下記項目参照)を組み合わせた装置で、画面上の表示を押さえる事で機器を操作する機構(入力装置)である。主に直感的に扱える事を要求する機器に組み込まれる事が多い。
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[編集] 概要
この機構は、コンピュータや他の映像機器からの映像信号を受け取り、画面上に表示する機能と、画面上の点または領域に手で触れたり専用の器具(スタイラスと呼ばれるが、一般の筆記用具で代用可能な事が多い)で圧力を加えるなりして画面上に入力された位置情報を処理して指定の動作を提供する機構(大抵はコンピュータによって処理される)へと伝達、その機構から制御される他の機構の機能を使って、操作者が指定の動作を行うものである。特に画面上に触れて入力する物は、人間の指が想定されている。
実際には、コンピュータやパソコンの画面上に表示された押しボタン(もちろん、スイッチ接点などの実際の機械的な物ではない、ただの絵である)を押す事でコンピュータを操作、内部の巧妙なプログラムの働きによって、(見た目通り・設計通りの)望む動作をさせるための物である。
この機構を上手に利用すると、直感的に操作方法を理解させる事も可能なため、特別な知識を必要としない・誰でも簡単に操作することのできる、非常に扱い易い装置を作る事が可能である。
なお表示機能を持たない、板状のポインティングデバイス(マウスなどの仲間)は、これらタッチパネルとは区別され、また磁気誘導を利用する専用のペンを用いる事からペンタブレットと呼ばれる。しかし近年では液晶ディスプレイを内蔵した機器の登場や、パソコンと一体化したタブレットPCの登場で、分類が曖昧な製品も登場している。
[編集] 利点
この機構は、画面を見ながら(操作手順を指示しながら)操作できるために誰にでも扱いやすくする事ができると云う点で優れている。また画面を随時切り替える事で、同じ画面上で様々な機能を切り替えて使用できる。これにより同じ画面上に様々な機能を集約させ、大きな挙動による操作の必要も無く楽に扱えるようにできる。
例えばホームシアターセットを操作するタッチパネル式学習リモコンの場合、
- 照明操作の画面で電動カーテンを閉めて電灯を暗くし
- プロジェクターリモコンの画面を呼び出し電源ボタンをタッチ
- サラウンドスピーカーの画面を呼び出して電源と音量を調整
- DVDプレーヤーリモコン画面に切り替えたらトレイ開閉ボタンを押してDVDセット
- 続けて再生ボタンを押して……
といった具合である。
[編集] 問題点
これらは、人の鼻の頭や猫や犬の足の裏にある肉球・鉛筆の後ろについた消しゴムなどといった雑多な物で操作しても、概ね同じように反応する。しかし物理的接触を利用しない一部の特殊な機構を利用した物の中には、乾燥肌といったような体質によって反応しにくい場合があり、これにまつわるトラブルが多い。
2004年のアメリカ大統領選挙では、一部地域では投票方法において、画面上の候補者写真をタッチするタッチパネルが導入されたが、一部の人に対して投票装置が反応せず、投票が思うように行えない(人によっては15分以上、担当者を交えて試行錯誤した)という混乱が発生している。
他にも銀行ATMなどの機器で、機器が思うように動いてくれない(画面を押しても反応しない・逆に画面の上を指を移動させただけで反応してしまった…など)のトラブルが発生する事もある。またタッチパネルATMの視覚障害者による利用は非常に困難であり、バリアフリーの立場から批判されることがある。これに対してメーカー側では、入力に旧来の押しボタンも利用できるようにするや誤った操作をすぐに受け付けないように、一端画面上で操作が正しいか確認するといった対応策を図っている。
[編集] 使用(搭載)されている機器
- 銀行ATM
- 金銭の引き下ろし・預け入れ・払い込み・振り替え・送金と言った様々な金融機関の窓口で行う操作を機械で代用させるため、操作種類の多さにも迷わず操作できるよう、画面上に機能を集約させる事で、それら全ての操作を同じ画面上で行う事ができる。
- 自動販売機
- 自動販売機でも、鉄道切符の券売機の場合、行く先や利用列車・年齢で様々な組み合わせが発生する。従来は料金ごとのボタンが並んでいるタイプの物が利用されていたが、運行区間の長い路線ではボタンが多すぎて混乱する元であった。タッチパネルを採用した機種では、行く先の駅名を選択するなどの方法もある他、海外からの旅行者に対応して、各国語表示への切り替えが可能で、旅行者の母国語で券購入が可能な物となっている。航空券の自動チェックイン機もこの仲間といえよう。
- 携帯情報端末(PDA)
- これらの機器は、小型化のために様々な物を犠牲としている。特に入力用の部分は、あまりに小型化し過ぎると、入力ボタンが小さくなって、不器用な人では満足に操作が出来ないなどの弊害も発生し、更に小型化すると、誰も操作出来なくなってしまう。このため電源ボタン等の一部の機能キーを残して、キーボードやポインティングデバイスを廃し、表示部分と操作部分を一箇所にまとめる様式が、今日では一般的である。
- 複写機・ファクシミリ・複合機
- この装置は多機能化の過程で様々な機能が盛り込まれたが、同時に使う機能は限られ、逆に原稿によって機能を調節したり、あるいは幾つかの階層化した操作手順から、タッチパネルで操作を案内しながら順を追って設定できるような機種が主流である。ただし家庭用で廉価版の複写機・ファクシミリなど単純な機能しか持たないものにはあまり使われない。
- ゲーム機
- 旧来は十字ボタンと数個の押しボタン個という物が一般的であったが、近年ではタッチパネル機能を安価に、また壊れにくく作れるようになったため、ニンテンドーDSを始めとする携帯ゲーム機にも搭載する事ができるようになった。これにより更なる新しいアイデアを盛り込んだゲームの開発も期待されている。筐体のサイズに比較的余裕のあるアーケードゲームでは、競馬ゲーム・ビンゴゲームなどメダルゲームの一部機種に長く採用されており、2002年頃からは通信対戦機能を持つ機種を中心に導入作品が急増している。
- 案内板
- 古くから博物館やデパートといった公共施設において、案内板は様々な場所に設置されていたが、施設規模が大きくなるほど図も大きくなり、また細かくて分かりにくい物となった。このためコンピュータのモニタとタッチパネルを組み合わせ、目的別に項目を選択・所定のフロア・コーナーへの経路を表示、更には展示物や商品・施設の利用案内・サービスや最新の情報などを利用者に提供できる物が利用され始めている。
- カーナビゲーション
- 停車中にルート設定や施設名検索を操作できる。安全のため、運転中に操作できないようになっているものが多い。一部機種ではリモコンや音声認識を組み合わせて使うことも可能で、カーオーディオの機能を内包したものもある。
- マルチメディアステーション
- コンビニエンスストアに設置されている多機能端末。Loppi、Famiポートなど。似たようなものにデジタルカメラの普及で登場したコイン式のフォトプリンターがある。(かつて東京都内のセブン-イレブンに設置されていた「セブンナビ」は富士フイルムの旧型「プリンチャオ」と同型)
- 携帯電話
- 携帯電話にもタッチパネルが使用されているものがある。携帯史上初めてタッチパネルが搭載されたのは、パイオニアが1996年にデジタルホン(当時)向けに供給したDP-211(ただし画面は白黒)で、ほとんどの操作をタッチパネルで行うことができる、当時としては画期的なものであった。最近では、NTTDoCoMoが三菱電機との共同で、「2画面ユニバーサルデザイン携帯」を試作している。2007年に発売のiPhoneなどスマートフォンのような音楽プレーヤーやデジカメ・携帯情報端末の機能を持つ多機能化機種では、広い表示機能を求めるためにも、操作部分を画面に集約できるタッチパネルが採用されるようになってきている。
- 鉄道車両のモニタ装置
- ワンマン運転や車内サービス機器の多様化などで、運転席から機器の設定を行えるようにモニター機器の操作部にタッチパネルを採用する車両が多い。
- クイズ番組などの回答者用機器
- テレビのクイズ番組では番組の進行や設問に応じて選択肢が流動的に変化する。早押しクイズなどでは単純で丈夫なスイッチでも構わないが、選択一斉回答などルールの異なる番組では利用し難い。選択肢の多い場合や任意の回答が出来るクイズ番組では古くは手書きの回答ボードやライトペンによる絵文字入力も行われたが、1990年代末頃よりは映像的にも洗練された雰囲気を作るためにタッチパネルを使う番組も見られる。激しい衝撃には耐えられないものの使用するプログラム次第で市販のタッチパネル式液晶ディスプレイでも同種の機能を作ることは可能だが、TBS系特番クイズ番組の『オールスター感謝祭』などでは早押しボタンもそなえたキーパッドと呼ばれる専用のタッチパネル装置が利用されている。
[編集] マトリクス・スイッチ
マトリクススイッチとは、碁盤の目のように電極が並んでいるスイッチの事で、操作者がその面の一部を押さえると、縦と横の位置情報を検出する機能を持つ。これを簡略化して図にすると以下のようになる。
碁盤の目のように平面に並べられたスイッチ 12345 A○○○○○ ○押されていないスイッチ B○○○○○ ●押されたスイッチ C○○○○○ D○○○○○ E○○○○○ 12345 A○○○○○ B○○○○○ 3のCが押されたという情報が送られる C○○●○○ D○○○○○ E○○○○○ 12345 A○○○○○ B○○○○○ 4のEが押されたという情報が送られる C○○○○○ D○○○○○ E○○○●○
実際には、これよりも遥かに細かい升目状に並んだスイッチとなるが、こうして得られた情報を処理する機構に送り、それぞれのボタンに割り振られた動作を行わせる。
構造的には2層構造の透明電極からなり、例えばA~Eまでの水平の帯状電極と、1~5までの垂直な帯状電極を向かい合わせに僅かな隙間をあけておいて、上から押した時にだけ接点が生じるようにすれば、上の図の2番目では3からCにに電流が流れ「3C」という出力が発生し、3番目の図では「4E」という出力が発生する。これは電子手帳などの旧来機器に利用された。現在では物理的接触によらない(隙間を設けない)方式の、電気抵抗の変化で操作位置を測定する様式に変化している模様である。
[編集] マトリクス・スイッチの種類と利用例
勿論、このマトリクス・スイッチが透明でないと、下にある画面を見る事が出来ないため、これらのスイッチは、光が透けるほど非常に薄く作られたり、透明な素材を電極に利用したり、スイッチの働きをする別の何かが利用されている。
現在、広く使われているのは以下の通りである
- 物理的接触を伴わない物
- 光学的な変化を検出する物
- 静電気的な電流の微弱な変化を計測する静電容量スイッチング
- 物理的接触を伴う物
- 透明電極とフィルム基板を使った画面上に貼り付けるタイプ
前者のグループは、手の皮脂や埃といった汚れに弱いものの、定期的に清掃すれば非常に長期間使えて傷に強い。後者は、それこそ水や油・食べ物の汁・泥等でベトベトに汚れた手で操作しても機能するが、非常に薄く作られていて、また樹脂の薄膜であることから傷に弱く、長期間の使用では表面に細かい傷がついて曇ってしまう事もあり、そうなってしまった場合には交換が必要である。
この両者は、双方の長所・短所が正反対であるため甲乙付け難いものの、小型化する上で透明フィルムのスイッチを利用した方が消費電力が少なく、また機構的にも単純であるため、PDAなどの、小型で持ち歩く装置に使われる事が多い。
もう一方の物理的スイッチではない、別の何かを使う物は、定期的に拭き掃除の手間が必要だったり、機構的に複雑である事から大きな機器にしか使用できないものの、大勢の人が触れる装置には欠かせない耐久性に優れているため、様々な人が引っ切り無しに利用する銀行ATMや図書館・博物館といった公共施設の情報案内を行う装置に適している。
[編集] マトリクススイッチに代る物
マトリクススイッチは、操作した範囲を大雑把に把握する事しかできず、画面レイアウトをマトリクススイッチにあわせて設計しなければならない等の制限がある。これは装置のインターオペラビリティを低下させてしまい、例えば銀行のATMは銀行毎の専用装置となってしまう。またPDAといった緻密なGUIを持つ装置には全く適合しない。そこでマトリクススイッチに代るものとして以下の方式がとられた。
[編集] 抵抗膜方式
透明電極を構成する金属薄膜は抵抗を持っている。対向する2枚の抵抗膜のうち1枚に対して電圧をかけておくと、操作した位置に応じた電圧が2枚目に発生する。電圧を検知する事によりアナログ量として操作した場所を検知することができる。
抵抗膜方式には欠点が2つあり、面積が大きくなればなるほど精度が下がる事、もう1つは金属薄膜を2枚必要とする為に透明度が劣る事である。前者はマトリクススイッチ構造を応用し複数のエリアを独立して検知することで回避できる。後者は抵抗膜方式の本質的な構造によるもので材料を工夫する以外の対処方法はない。
[編集] 表面弾性波方式
抵抗膜方式の欠点である透明度の低さを解決する為に開発された。剛性の高い(主にガラス)板に圧電素子を取り付けておき、板に振動を与える。板に触れていると振動はそこで跳ね返り、圧電素子に到達して電圧を発生する。振動を与えてから反射してきた振動が戻ってくる時間を計測する事により、操作した場所を検知することができる。
画面を覆う物は1枚のガラス板だけであり、抵抗膜方式に比べて視認性に優れる装置を作る事ができる。また構造的に抵抗膜方式よりも堅牢であり寿命が長い。