ニホンオオカミ
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?ニホンオオカミ | ||||||||||||||
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分類 | ||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||
Canis lupus hodophilax | ||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||
ニホンオオカミ | ||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||
Japanese Wolf |
ニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax Temminck,1839) とは、日本の本州、四国、九州に生息していたオオカミ。
最近まで、1905年(明治38年)1月23日に奈良県東吉野村鷲家口で捕獲された標本が最後の標本であると考えられていた。しかし、近年、1910年(明治43年)8月に福井城址で捕獲されたイヌ科動物が、ニホンオオカミであったとの論文が発表され、従来よりも最終捕獲年度が5年延びることとなった。学術的には、過去50年間生存の確認がなされない場合、その種は絶滅したとされるので、ニホンオオカミは絶滅種である。
同じく絶滅種である北海道に生育していたエゾオオカミとは別亜種であるとして区別される。ニホンオオカミを記載し、飼育し、解剖学的にも分析したシーボルトによると、ニホンオオカミはハイイロオオカミと別種であるという見解である(ニホンオオカミの分類に関する議論については「ノート:オオカミ」を参照のこと)。このように大陸産のハイイロオオカミの亜種ではなく、Canis hodophilaxとして独立種であるとすることもある。この場合でも、エゾオオカミはハイイロオオカミの亜種とされる。
目次 |
[編集] 特徴
脊椎動物亜門 哺乳類綱 ネコ目(食肉目) イヌ科 イヌ属に属する。絶滅種。 体長95~114cm、尾長約30cm、肩高約55cmが定説となっている(剥製より)。 他の地域のオオカミよりも小さく中型日本犬ほどだが、中型日本犬より脚は長く脚力も強かったと言われている。耳が短いのも特徴の一つ。
[編集] 生態
生態は絶滅前の正確な資料がなく、ほとんどわかっていない。本州・四国・九州に生息していた。エゾオオカミと違って、大規模な群れを作らず2、3頭~10頭程度の群れで行動した。山峰に広がるススキの原などにある岩穴を巣とし、そこで3頭ほどの子を生む。自らのテリトリーに入った人間の後ろをついて来る(監視する)習性があったとされ、所謂「送りオオカミ」の由来ともなった。
しかし、人間からすれば手を出さない限りニホンオオカミは殆ど襲ってこない相手であり、むしろイノシシなどが避けてくれる為、送りオオカミ=安全という図式であった。一説にはヤマイヌの他にオオカメ(おおかみ)と呼ばれる痩身で長毛のタイプもいたようである。シーボルトは両方飼育していたが、オオカメとヤマイヌの頭骨はほぼ同様であり、彼はオオカメはヤマイヌと家犬の雑種と判断した。オオカメが亜種であった可能性も否定出来ないが今となっては不明である。
[編集] 現存する標本
[編集] 日本
- 国立科学博物館(剥製、全身骨格標本)
- 東京大学農学部(剥製)
- 和歌山県立自然博物館(剥製、和歌山大学より寄贈)
[編集] 国外
- オランダのライデン王立博物館(剥製)
[編集] 頭骨など
本州、四国、九州の神社、旧家などに、ニホンオオカミのものとして伝えられた頭骨が保管されている。特に神奈川県の丹沢ではその頭骨が魔よけとして使われていた。2004年4月には、肉や脳の一部が残っているイヌ科の動物の頭骨が山梨県で発見され、国立科学博物館の鑑定によりニホンオオカミのものと断定された。DNA鑑定は可能な状態という。
[編集] 絶滅の原因
江戸時代の1732年(享保17年)ごろに、ニホンオオカミの間で狂犬病が流行したことが文献に記されているが、これは絶滅の150年以上前のことであり、要因の1つではあるにしても、直接の主原因とは考えにくい。近年の研究では、明治以降に輸入された犬からのジステンパーなどの伝染病が主原因とされている。
なお、1892年の6月まで上野動物園でニホンオオカミを飼育していたという記録があるが、残念ながら写真も残されていない。当時は、その後10年ほどで絶滅するとは考えられていなかった。
[編集] 生存の可能性
紀伊半島山間部では、1970年代に、ニホンオオカミを目撃したという証言が度々話題となり、ニホンオオカミが生存しているのではないかとの噂が絶えない。現在でも、紀伊半島山間部ではニホンオオカミの目撃証言を募るポスターをしばしば目にする。秩父山系でも、ニホンオオカミ生存の噂は絶えない。
[編集] ヤマイヌとオオカミ
ニホンオオカミという呼び名は、明治になって現れたものである。
日本では古来から、ヤマイヌ(豺、山犬)、オオカミ(狼)と呼ばれるイヌ科の野生動物がいるとされていて、説話や絵画などに登場している。これらは、同じものとされることもあったが、江戸時代ごろから、別であると明記された文献も現れた。ヤマイヌは小さくオオカミは大きい、オオカミは信仰の対象となったがヤマイヌはならなかった、などの違いがあった。このことについては、いくつかの説がある。
- ヤマイヌとオオカミは同種(同亜種)である。
- ヤマイヌとオオカミは別種(別亜種)である。
- ニホンオオカミはヤマイヌであり、オオカミは未記載である。
- ニホンオオカミはオオカミであり、未記載である。Canis lupus hodophilaxはヤマイヌなので、ニホンオオカミではない。
- ニホンオオカミはオオカミであり、Canis lupus hodophilaxは本当はオオカミだが、誤ってヤマイヌと記録された。真のヤマイヌは未記載である。
- ニホンオオカミはヤマイヌであり、オオカミはニホンオオカミとイエイヌの雑種である。
- ニホンオオカミはヤマイヌであり、オオカミは想像上の動物である。
ニホンオオカミを記載したシーボルトは前述の通りオオカミとヤマイヌの両方飼育していた。現在は、ヤマイヌとオオカミは同種とする説が有力である。
なお、中国での漢字本来の意味では、豺はドール、狼はタイリクオオカミで、混同されることはなかった。
現代では、「ヤマイヌ」は次の意味で使われることもあるので、注意が必要である。
- ヤマイヌが絶滅してしまうと、本来の意味が忘れ去られ、野犬のことだと解釈されるようにもなったが、これは本来は間違いである。
- 英語のwild dogの訳語として使われる。wild dogは、イエイヌ以外のイヌ亜科全般を指す(オオカミ類は除外することもある)。「ヤマネコ (wild cat)」でイエネコ以外の小型ネコ科全般を指すのと類似の語法である。
[編集] 犬神
各地の神社に祭られている犬神や大口の真神(おおくちのまかみ)についてもニホンオオカミであるとされる。これは、農業社会であった日本においては、食害を引き起こす野生動物を食べるオオカミが神聖視されたことに由来する。
[編集] ニホンオオカミ絶滅の弊害とオオカミ導入計画
ニホンオオカミが絶滅したことにより、天敵がいなくなったイノシシ・シカ・ニホンザル等の生物が異常繁殖することとなり、人間や農作物に留まらず森林や生態系にまで大きな被害を与えるようになった。アメリカでは絶滅したオオカミを復活させたことにより、崩れた生態系を修復した実例がある。それと同様にシベリアオオカミを日本に再導入し対応するという計画が立案されたこともあった。しかしながら、ニホンオオカミよりも大型で体力の強いシベリアオオカミが野生化することの弊害が指摘されて中止になった経緯がある。現在も、祖先がニホンオオカミと同じという説がある中国の大興安嶺のオオカミを日本に連れてきて森林地帯に放すという計画を主張する人々がいる。
いずれのオオカミにしても種あるいは亜種レベルでニホンオオカミと異なる別の動物であり、日本の気候・土地に適応できるか不明である。また、オオカミの行動範囲は広いことが知られており、人と接触する可能性も否定できない(北米ハイイロオオカミの群れの縄張りの広さは20-400平方キロメーター程度あり、1日約20km移動するという[1])。 さらには、沖縄でハブ駆除のために放たれたマングースのように外来種としての被害を与える可能性もあるという議論もある。しかしながら、マングースは同じ生態系地位を占める動物が存在しなかったのに対して、アジア系のハイイロオオカミはニホンオオカミとほぼ同じ生態系地位を占める動物であることが異なる。