ヘリ空母
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ヘリ空母(へりくうぼ)とは、航空母艦の一種で、ヘリコプターを搭載し、海上にて離艦・着艦・整備・補給を行う能力を有する軍艦。
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[編集] 定義
ヘリ空母はヘリコプター運用を主眼とする艦船を分類するための形式上のものであるため、その定義は曖昧である。
一般的には、以下の特徴を有する艦船のことを指すことが多い。
- ヘリコプターの運用が主眼
- 広い飛行甲板
- CTOL機を運用不可能
- ヘリコプターを複数機長期運用可能
この点でヘリコプター運用能力を持つ通常の艦船(むらさめ型など)や、艦内収容能力を持たないおおすみ型のような艦は、ヘリ空母とは呼ばれない。また、米英海軍の分類ではLPH (Landing Platform Helicopter) と呼ばれるものがあるが、これはヘリコプターによる揚陸を目的とした艦船で、日本語では強襲揚陸艦と形容され、ヘリ空母と呼ぶことは少ない。
V/STOL機の運用を第一義に考えられているものは軽空母と呼ばれる。それ以外でもここに分類される多くの艦船はV/STOL機の運用が可能で、純粋にヘリコプターのみの運用しか行わないヘリ空母はきわめて少ない。
[編集] ヘリ空母の任務
現在ヘリ空母の任務は大きく分けて2種類ある。
- 強襲揚陸艦はその名の通り、本国から離れた敵地へ陸戦部隊を輸送し、搭載したヘリコプターや上陸用舟艇を使って部隊を上陸させる。大型化に伴い、ヘリコプターのみならずV/STOL機の運用が可能な艦が増加しており、ヘリ空母との類似性は低下している。
- ヘリコプターの機動力を生かした対潜・対艦戦に対応した艦。この目的に対して現在ではヘリコプターとV/STOL機を併用する軽空母が建造されており、純粋なヘリ空母は少ない。
[編集] 構造
ヘリコプターの離着艦に適した広大な飛行甲板および格納庫、甲板と格納庫をつなぐエレベーターを有する。格納庫には機体を整備する設備があり、海上での長期運用を可能にしている。
- 強襲揚陸艦は、揚陸作戦を実行する兵員や兵器を輸送する施設も有する。
[編集] 歴史
この項ではLPH の後継でV/STOL機運用能力を有するLHA (Landing, Helicopter, Assault) とLHD (Landing, Helicopter, Dock) や、ヘリコプターとV/STOL機を併用する軽空母についても概説する。
[編集] 空母から発展した強襲揚陸艦

ヘリコプターの実用第1号は1939年にアメリカで初飛行した、シコルスキーVS-300である。アメリカ海軍はすぐにヘリコプターを対潜哨戒や救難に使用した。第二次世界大戦後ヘリコプターが発達し搭載力が増大するにつれ、太平洋戦争で大規模な揚陸作戦を何度も経験したアメリカ海軍はヘリコプターを使用した迅速な揚陸作戦の検討を開始した。この案に沿って朝鮮戦争後、余剰になっている護衛空母を強襲揚陸艦 (LPH) に改装し、更に大型のエセックス級航空母艦3隻(ボクサー、プリンストン、ヴァリー・フォージ)の飛行機(固定翼機)運用能力を撤去して強襲揚陸艦に改装した。この3隻は満載排水量3万トンに達し、ヘリコプター30機と海兵隊約1500名を収容できた。この能力や飛行甲板・艦橋配置などの外観は、その後新造されたイオー・ジマ級強襲揚陸艦7隻(1961年、満載排水量18,000t)、タラワ級強襲揚陸艦5隻(1976年、満載排水量39,000t)、ワスプ級強襲揚陸艦7隻(1989年、満載排水量40,000t)に引き継がれている。なおタラワ級とワスプ級はV/STOL機の運用能力を有し、更に通常の上陸用舟艇の他にLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇も搭載している。
イギリス海軍はV/STOL機運用能力を抑えヘリコプター運用能力を重視したLPHオーシャン(1998年、満載排水量20,000t)を建造し、揚陸作戦能力を維持している。イタリア海軍はV/STOL機運用能力の無いサン・ジョルジョ級強襲揚陸艦3隻(1987年、満載排水量約8,000t、ヘリコプター3~5機)を保有している。2006年現在、フランスのミストラル級強襲揚陸艦、オーストラリアのキャンベラ級揚陸艦、韓国の独島級揚陸艦など、この種の艦船は増加傾向にある。
[編集] 巡洋艦から発展したヘリ空母・軽空母
[編集] ヘリコプター巡洋艦・駆逐艦

1960年代に各国の海軍では、駆逐艦以上の戦闘艦艇にヘリコプターを搭載して対潜・対艦任務に用いることが始まっていたが、その中で艦の後半分を広大な飛行甲板と格納庫に充当したヘリコプター巡洋艦・駆逐艦が建造されることとなった。1964年にフランス海軍は、ヘリ空母ジャンヌ・ダルク(満載排水量12,000t、ヘリコプター8機)を建造しているが、同艦の前半分は通常の巡洋艦スタイルであり、後年のヘリ空母・軽空母よりもヘリコプター巡洋艦に近いスタイルであった。また同年イタリア海軍は、より小型のアンドレア・ドリア級ヘリコプター巡洋艦(満載排水量6,500t、ヘリコプター4機)を2隻建造している。イギリス海軍もタイガー級巡洋艦(改装後、満載排水量12,800t、ヘリコプター4機)を改装し、後部の砲を撤去してヘリコプターの格納庫を装備している。
この流れは一方では艦の拡大に繋がり、最大の艦であるソヴィエト海軍のモスクワ級ヘリコプター巡洋艦(1967年、満載排水量14,000t、ヘリコプター14機)、イタリア海軍のヴィットリオ・ヴェネト(1969年、満載排水量9,200t、ヘリコプター9機)に至るが、1980年に完成したイギリス海軍のインヴィンシブル級によって本格的なヘリ空母・軽空母へと移行した。
なお、これらの艦は公称がヘリ空母であるジャンヌ・ダルクを除き、通常ヘリ空母とは呼ばれない。
他方、コンパクト化への流れは、最小の艦であるカナダ海軍のイロクォイ級ミサイル駆逐艦(1972年、満載排水量5,100t、ヘリコプター2機)、海上自衛隊のはるな型護衛艦(1973年、基準排水量4,950t、推定満載排水量6,500t、ヘリコプター3機)を経て、しらね型護衛艦(1980年、基準排水量5,200t、推定満載排水量6,800t、ヘリコプター3機)を最後に、フリゲート以上の艦艇へのヘリコプター搭載の一般化に行き着くこととなる。これらの艦は、ヘリコプター運用能力に注目されるものの、ヘリ空母と呼ばれることはない。
[編集] 軽空母

- 詳細は軽空母を参照
1975年、ソ連では大型の軽空母キエフ級(改型のアドミラル・ゴルシコフを含めて4隻建造、満載排水量36,000t、ヘリコプターとV/STOL機約30機搭載)を建造した。キエフ級は、ミサイル巡洋艦の性格が強く、搭載したV/STOL機(フォージャー)の能力も低かったこともあり、その後は大型空母の建造に移行した。なお、ソ連海軍はキエフ級に「航空巡洋艦(重航空巡洋艦)」という名称を与えていたが、その理由は、空母のボスポラス海峡通過を禁じたモントルー条約を回避するためであり、空母であっても「巡洋艦」とみなすことで通過を可能とするためである。
1980年に完成したイギリス海軍のインヴィンシブル級(満載排水量20,600t)は、最初全通甲板型巡洋艦として設計されていたが、ヘリコプターとV/STOL機(ハリアー)合わせて21機の運用が可能な軽空母であり、以後の西側各国で建造される軽空母の方向性を決定付けた。
西側各国ではインヴィンシブルに倣って、ヘリコプターとV/STOL機の両方を搭載できる空母の建造が行われた。イタリア海軍のジュゼッペ・ガリバルディ(1985年、満載排水量13,850t、航空機16~18機)、スペイン海軍のプリンシペ・デ・アストゥリアス(1988年、満載排水量17,200t、航空機27機)、タイ海軍のチャクリ・ナルエベト(1997年、満載排水量11,500t、航空機12~14機)などである。
[編集] 13500トン型護衛艦
詳細は、海上自衛隊の航空母艦建造構想及び13500トン型護衛艦を参照。
海上自衛隊は1950年代末期、HSS-2/2A対潜ヘリコプター18機を搭載する、基準排水量11000トンのヘリ空母 (CVH) の建造計画を立てたが、実現しなかった。この再来とも呼べるのが、2004年度計画による次期ヘリコプター搭載型護衛艦(13500トン型、通称16DDH)である。この艦の種別は護衛艦ではあるが、全通甲板を備えた事実上のヘリ空母となる。V/STOL機は搭載せず、ヘリコプターのみの運用を行う構想で設計されており、公表されている常時搭載機は哨戒ヘリ×3、掃海・輸送ヘリ×1と、1万トンを超える船体には過小な数字と思えるが、格納庫内は1個護衛隊群の定数である8機程度の収納及び整備する空間があると言われる。13500トン型護衛艦は、全通甲板を持ち、砲戦能力・揚陸機能・V/STOL機の運用能力のいずれも持たない純然たるヘリ空母としては、世界で初めて新造される艦となる。
[編集] その他のヘリコプター搭載艦

現在ではフリゲートより大きい水上艦には、対潜作戦や連絡・物資運搬用等の目的でヘリコプターを搭載する場合が多い。例えばアメリカ海軍のオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートは満載排水量4,100tの艦体に2機のヘリコプターを搭載しており、イスラエル海軍のアリヤ級ミサイル艇は、約500tの艇体に1機のヘリコプターを搭載しているが、これらの艦はヘリ空母とは呼ばれない。また、韓国海軍の駆逐艦はDDHを自称しているが、一般的な搭載能力の範疇を出る物ではなく、ヘリコプター駆逐艦には分類されない。