13500トン型護衛艦
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13500トン型護衛艦(- がたごえいかん)は海上自衛隊が取得中の新型護衛艦。1番艦は平成16年度予算で建造が行われるヘリコプター搭載護衛艦 (DDH) であるため16DDH(ひとろくディーディーエイチ)、2番艦は平成18年度予算で建造されるため18DDH(ひとはちディーディーエイチ)とも呼ばれる。1番艦の就役は2009年3月頃の予定である。
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[編集] 概要
全長200メートル近い全通甲板を持つ大型の護衛艦である。推定満載排水量は18,000t以上といわれている。
大規模災害時の海上基地としての機能も盛り込まれており、救援物資をMCH-101に搭載し、要救助地点へ輸送することが可能である。
島嶼部防衛作戦では、離島奪還の中核を担い、搭載ヘリSH-60Kにより対潜脅威、小型船舶による反撃を排除しつつ目的地に急行することが可能である。また、上陸作戦では、おおすみ型輸送艦と共同して、MCH-101やCH-47といった輸送ヘリにより、ヘリボーン作戦が実施可能である。
[編集] 計画の経緯
現在海上自衛隊が運用しているDDHはるな型護衛艦は1番艦「はるな」の就役が1973年で、近代化改装が施されてはいるが艦が老朽化しており、後継となるDDHが必要とされていた。そのため代艦が計画され、2000年の中期防閣議決定時には、次の3つの案が検討された。
- 従来までのDDHと同様に前部に構造物を持ち、後部を発着甲板とする
- 艦橋構造物で前後の甲板を分断し、艦橋の前後にヘリコプター甲板を持つ
- 全通甲板型とする案
以上の3つの案のうち、当初、第2案が予想図として発表された(もっとも、これは空母に近い艦形で反発を買うことがないよう世論対策のために作った図であるとも言われた)。この当初の予想図ではマストや煙突などが艦橋構造物の右弦に寄せられ、左舷の側には前後の発着甲板を行き来できる大型のシャッターや不釣合いなまでに大きな艦橋が置かれているだけで、いわゆる空母のような全通甲板型に計画変更する事は十分意図されていたようである。そして2003年には、ヘリコプターの同時運用能力を高める為という理由で、第3案の全通甲板型の船型へと改められた予想図が発表された。
1番艦に続き、平成17年度予算で2番艦が要求される予定であったが、ミサイル防衛関連に防衛予算全体が圧迫された為この要求は先送りとなり、平成18年度予算で要求が行われ、その建造が認められた。
[編集] 諸元
- 基準排水量:13,500t
- 満載排水量:18,000t(推定)
- 全長: 197m
- 速力:30ノット以上
- 機関:LM2500ガスタービンエンジン4基 2軸推進 COGAG方式
- ヘリコプター:SH-60K対潜哨戒ヘリ 3機(加えて必要に応じMCH-101掃海・輸送ヘリ 1機)
- 兵装
- 射撃指揮装置・対空捜索レーダー:FCS-3改
- 対水上レーダー:OPS-20改
- ソナー:QQS-XX
[編集] 船体
この新DDHは、ヘリコプター運用能力、護衛隊群旗艦能力をはるな型より発展させる事が要求された他、基準排水量は各種の能力向上もあり、歴代護衛艦で最大の13,500tとなった。これは、ましゅう型補給艦と並び最大の自衛艦となる予定である。排水量、船型、装備のいずれも従来の駆逐艦、あるいは護衛艦の概念を大きく逸脱するものと言われているが、海上自衛隊では、ヘリコプター(H)による対潜水艦の駆逐(DD)を任務とするため、本型の艦類をDDHと分類している。
艦橋構造物、いわゆるアイランドは右舷に寄せられ、艦首から艦尾まで甲板が繋がった197メートルの全通甲板を持つ。この事で、従来のDDH、あるいは初期の予想図のような艦形の艦船では不可能であったヘリコプター複数機の同時発着艦運用を可能にした。また、艦橋によって視界が遮られたり気流が乱されたりする事も少なくなる為、ヘリの着艦は作業も容易になった。
艦体や上部構造物の側面には傾斜がつけられ、かつ表面は平滑に整形されており、世界各国の最新の軍艦と同様に、ステルス性を強く意識した設計がなされている。
[編集] 従来のDDHとの比較
13500トン型 | はるな型 | |
---|---|---|
基準排水量 | 13,500t | 4,950t(ひえい5,050t) |
満載排水量 | 約18,000t(推定) | 7,000t |
主な兵装 | Mk41VLS 16セル(ESSM、アスロック) ファランクスCIWS 2基 3連装短魚雷発射管 2基 |
5インチ単装砲 2門 シースパローランチャー 1基 アスロックランチャー 1基 ファランクスCIWS 2基 |
格納庫容量 | 7機程度 | 3機 |
搭載ヘリコプター | 対潜哨戒ヘリ3機 (加えて必要に応じ、掃海・輸送ヘリ1機) |
対潜哨戒ヘリ3機 |
ヘリ同時発着艦 | 可能 (同時に4機) |
不可能 |
従来のDDHは広いヘリコプター甲板と大きな格納庫を持ち、他の護衛艦に比べればヘリ運用能力が高かったが、それでもヘリコプターは、20分おきに1機しか発着艦できなかった。そのため、万が一飛行中のヘリに問題が起こった場合、すぐに着艦が出来ない場合があるなど運用に不安があった。また、格納庫内ではメインローターを広げての整備が行えなかった為、そのような重整備を行う必要がある場合には甲板上に出して行う必要があり、その間発着艦を行う事は出来ず、当然悪天候の場合にその様な整備を行う事も出来なかった。
これに対して13500トン型護衛艦は、同時に4機までヘリの発着艦が可能で、格納庫は1個護衛隊群の定数である7機程度を収納するスペースがあるとされ、広い格納庫内でメインローターを広げ、天候や他のヘリの発着艦に影響されずに整備も出来る様になる予定。
[編集] 装備
13500トン型護衛艦は、海上自衛隊の護衛艦としては初めての砲を装備しない艦であり、ヘリコプター運用などの航空支援能力と対潜能力、それに指揮通信能力に特化した装備を持っている。
射撃指揮装置には試験艦あすかで搭載したFCS-3の改良型、FCS-3改を装備する。FCS-1やFCS-2と異なり、FCS-3改は射撃指揮装置としての機能のほか、3次元対空捜索レーダーとしての能力も備える多機能フェーズドアレイレーダーを4面持ち、アイランド前部に0度と270度を向いたもの、後部90度と180度を向いたものを装備し、全周を走査する。
艦首には、新型のソナーOQS-XXが装備される。これも試験艦「あすか」に搭載されていたものの改良型で、音の減衰が比較的少なく、遠距離まで到達する低周波帯の音を捉える事が可能である。その為、従来のソナーより遠距離での探知が出来る。
また、高度な指揮通信システムを備えており、護衛隊群の旗艦としての装備のみならず災害時などに司令部として使用出来る様、多目的スペースや通信設備なども設けられる。
[編集] 航空支援設備
13500トン型護衛艦は、SH-60K対潜哨戒ヘリ3機、それに加え必要時にMCH-101掃海・輸送ヘリ1機を搭載することとなっている。格納庫については、少なくとも1個護衛隊群の定数であるSH-60を8機または、MCH-101を4機、格納する事が出来る広さを持っている。また、格納庫の後方にはヘリコプター整備区画が設けられ、艦内でメインローターを展張したまま整備を行うことができる。飛行甲板から格納庫へヘリを移動させるエレベーターは、前後2基装備され、ヘリに搭載するミサイルや魚雷などを輸送する弾薬用のエレベーターも2基装備する。飛行甲板には3~4機分のヘリスポットが装備される。
[編集] ミサイル
13500トン型護衛艦は、個艦防空用に艦対空ミサイル発展型シースパロー(ESSM)、対潜水艦用に対潜ミサイルアスロックを16セルのMk41VLSに装備する。従来のDDHであるはるな型がシースパロー16発(うち発射機に即応弾8発)、アスロック16発(うち発射機に即応弾8発)を搭載しているのに対し、13500トン型はMk41を16セルしか持たない為、搭載するミサイル数は減少する事になると思われる。もっとも、ESSMはMk41VLS 1セルに4発搭載可能であり、即応弾の数は増え、VLS装備とした事で即応性も向上する(また、艦内に1斉射分(16発)のESSMが予備として搭載される予定との情報もある。
なお、海上自衛隊の護衛艦でESSMを新造時から搭載するのは16DDHが初めてである。アスロックも射程が従来の倍程度になった新アスロックを搭載する予定であったが、開発の遅延と価格の問題により、当面は従来の垂直発射型アスロックが搭載される模様である。また、これまでのDDHと同じように艦対艦ミサイルは装備しないが、搭載するSH-60Kにはヘルファイア空対艦ミサイルが搭載出来る為、一応の対艦攻撃能力は備える事になる。
[編集] 軽空母への改造について
- 詳細は海上自衛隊の航空母艦建造構想を参照
13500トン型護衛艦は、各種装備を搭載した推定満載排水量では2万トン近くとなる。大きさを他国の軽空母と比較すると、イギリスのインヴィンシブル級(20,600t)と比べると小さく、スペインのプリンシペ・デ・アストゥリアス(17,190t)、タイのチャクリ・ナルエベト(11,485t)、イタリアのジュゼッペ・ガリバルディ(13,850t)よりは大きい。ちなみに、これらの軽空母は、艦載機としてハリアーを運用している。
13500トン型護衛艦は、ハリアーのような固定翼航空機の離艦を助けるスキージャンプ甲板を持たない。飛行甲板もV/STOL機のジェット噴流に対する耐熱対策がとられてない為、軽空母としての使用は不可能である。しかも現在唯一の艦上V/STOL機であるハリアーが完全な平甲板から実用装備で発艦するには、16DDHでは全通甲板距離が足りず、この点からも軽空母としての運用は不可能であるといえる(16DDHの全通甲板は、最大197mであって、実際に使用できる距離はこれを下回る。完全な平甲板で同機を運用している最小の艦はアメリカ合衆国海兵隊の強襲揚陸艦であるが、全通甲板は250mを下回ることはない)。
一方、この艦を空母とすることは可能とする説は、「甲板強度は十分にあり、スキージャンプ追加や、耐熱素材を張る改造は、各数日間で数億円ですみ、1000億円をこえる建造費と比べ極めて安価に可能である」と主張する。しかしこの改造が数日・数億円で済むとする説の積算根拠が示されたことなく、また英国空母の改装が必要とした時間・費用に鑑みると、この数日・数億円説は全くの間違いである。
例え技術的・予算的・政治的諸制限をクリアして大改造を施すとしても、載せる艦載機の問題も生じる。ハリアーは既に生産ラインが閉じられており、入手する場合は中古機をかき集めるしかない。また、次世代に期待される国際開発機F-35については日本は開発参加していないのみならず、F-35自体の開発も遅延しているため現状では改造しても搭載機がない。
仮に護衛艦の改造、艦載機の配備が可能だとしても、整備の問題がある。自衛隊の整備運用能力はもともと高いと言われるが、それでも未経験のV/STOL機の運用・整備・修理能力を付与する必要がある。
現在、防衛省は軽空母を保有することを計画していない。またこの護衛艦を軽空母に改修する計画は全く存在しない。
なお、一部インターネットや軍事誌上においては、無人の固定翼機(いわゆるUAVなど)を16DDHにおいて運用する構想が語られることがあるが、これについては言及されることが少なく議論が深まっているとはいえない。技術的には、機体の大きさにもよるが、小型UAVの運用は十分可能であるとされている。また、V-22オスプレイなどのティルトローター機についても語られている場合があるが、非公式なものを含め発表などはなく、噂の域を出ていない。
[編集] 同型艦
13500トン型は、はるな型の代艦である為、現在のところ合わせて2隻の建造が予定されている。艦名や艦番号は未定であるが、艦名は命名基準に従った場合は山の名前に、艦番号はしらね型護衛艦の続きと考えた場合は145と146となる。尚、はるな型退役の数年後には、もう1クラスのDDHであるしらね型2隻も退役が望まれる艦齢となるが、現在のところ、しらね型代艦として13500トン型がさらに2隻建造されるのか、或いは別のタイプの艦船が建造されるのかは決まっていない。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 防衛省平成15年度 事前の事業評価 政策評価書一覧
- 朝雲ニュース 建造順調の海自最大艦16DDH、来夏には進水
- 海上自衛隊次世代艦
- ヘリ空母13500トン型護衛艦
- カラーCG13,500トン型護衛艦
- 16DDH側平面CG
護衛艦の型式一覧
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13500トン型 しらね型 はるな型 |
DDG ミサイル護衛艦 |
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