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ベルリンの壁崩壊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

東欧革命
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汎ヨーロッパ・ピクニック
ベルリンの壁崩壊
ドイツ再統一
ビロード革命
ルーマニア革命
ベルリンの壁の崩壊
ベルリンの壁の崩壊

ベルリンの壁崩壊(ベルリンのかべほうかい)は、1989年11月9日に突如として東ドイツ政府が、東ドイツ市民に対して旅行の自由化(実際には旅行許可書発行の大幅な規制緩和)を発表した事によって、実質的に意味を持たなくなったベルリンの壁が、東西通行の自由に歓喜した東西ベルリン市民(東ベルリン西ベルリン)によって、ハンマー建設機械その他によって粉砕された事件のこと。

より広義には、ベルリンの壁に象徴されている東西ドイツの自由往来の制限が緩和され、東西ドイツの統合に至るまでの一連の経緯を指していうこともある。又、東西対立の象徴であるベルリンの壁の物理的な崩壊がニュース映像によって全世界にリアルタイムで伝えられたことなどから、「ベルリンの壁崩壊」をして「東欧革命」のことを指しているテキストも多い。この場合の「ベルリンの壁崩壊」は最広義の捉え方になる。このページのリンクの中にもこの意味で「ベルリンの壁崩壊」との言葉を用いている記事がある。

この事件は、東西ベルリン市民のみならず、東西ドイツ市民、世界中に「感動」と「歓喜」を生み出した。この「感動」と「歓喜」こそがその後の驚異的なスピードでの「ドイツ再統一」の原動力となった。

目次

[編集] 概要

なお本稿では、壁が崩壊した結果達成された「東西ドイツ統一」についても、事件の影響下に起こった出来事として一括して言及する。

ベルリンの壁そのものとその歴史的意味合いに関してはベルリンの壁を、東西ドイツ統一の問題点についてはドイツ再統一の項目を参照のこと。

[編集] 前史

エーリッヒ・ホーネッカー(右)
エーリッヒ・ホーネッカー(右)

1980年代以降、ドイツ社会主義統一党エーリッヒ・ホーネッカー書記長は、ハンガリーポーランドで社会変革の動きが強まってからも、秘密警察である国家保安省を動員して国民の統制を強めていた。

しかしながら、1989年8月19日ハンガリー汎ヨーロッパ・ピクニックが成功すると、ベルリンの壁が持つ意義は相対的に低くなり、多くの東ドイツ市民が西ドイツへの亡命を求めて、ハンガリーチェコスロバキアに殺到した。東ドイツ国内でも、9月にはライプチヒで、10月には首都ベルリンで、民主化と長期政権に居座るホーネッカーの退陣を求めてデモが活発化。東ドイツ政権は根底から揺さぶられる事になった。

ホーネッカーにとって最後の頼みの綱はソ連からの支持を得ることであったが、東ドイツ建国40周年式典に参加するため10月初頭に東ドイツを訪問したソ連共産党書記長ミハイル・ゴルバチョフは、人民議会での演説で、先に発表した新ベオグラード宣言の内容を繰り返し、各国の自主路線を容認する発言をしたのみで、東ドイツ政府を支持する内容には言及しなかった。また当の建国式典では、動員された共産党員らが突如としてホーネッカーら東側指導者の閲覧席に向かって、「ゴルビー! ゴルビー!」とシュプレヒコールを挙げるハプニングがあった。ゴルバチョフによって見捨てられ、民衆に目の前で反目されたホーネッカーは、ドイツ社会主義統一党内での求心力も急速に失われ、党内のホーネッカー下ろしに弾みが付けられた形となった。

こうして東ドイツ国内外での混乱が拡大すると、10月18日、ホーネッカーは辞任し、ドイツ社会主義統一党政治局員エゴン・クレンツが後任となったものの、もはや混乱は収拾が付かない状態に陥っており、後継政府も十分に状況をコントロールできなかった。

[編集] 事件の経緯

11月9日、「旅行許可の規制緩和」の指令が東ドイツ政府首脳部に提案された。クレンツをはじめとする政府首脳部は国内のデモや国外に流出する東ドイツ市民への対応に追われる余り、大した審議もされず、指令の内容を確認したかも怪しい状態で、政府首脳部の審議を通過した。この指令の内容を発表する東ドイツ政府のスポークスマンであったギュンター・シャボウスキー(社会主義統一党政治局員)も、内容がよく分かっていないまま記者会見を始めてしまった。この記者会見場に詰め掛けたジャーナリストは当初半信半疑で、「この指令はいつから実行されるのですか?」と質問したところ、実際には期日が決められていたにもかかわらず、それを伝えられていなかったシャボウスキーが「この指令は即刻実施される」と言ったため、事態は急速な進展を見る。後に国境ゲート付近でゲートを越えようとする市民と、指令を受け取っていない警備隊の間で当該指令の実施をめぐるトラブルが起きることになった。又マスコミによって「旅行が自由化される」の部分だけが強調されてしまったことも混乱に拍車を掛けてしまった。

この記者会見の模様は夕方のニュース番組において生中継で放送されたが、見ていた東西両ベルリン市民は(ベルリンでは東西双方がお互いのテレビ番組を視聴することが可能であった)半信半疑で壁周辺に集まりだした。一方、国境警備隊は指令を受け取っておらず、報道も見ていなかったので、ゲート付近ではいざこざが起きた。これらは大きな混乱に発展することはなく、事態の悪化を恐れた東ドイツ政府が期日を無視してのゲート開放を決定し、東西ベルリンの国境は開放されることになった。

ベルリンの壁崩壊を祝う東西ベルリン市民
ベルリンの壁崩壊を祝う東西ベルリン市民

本来の指令は、あくまでも「旅行許可の規制緩和」がその内容であって、東ベルリンから西ベルリンに行くには正規の許可証が必要であったが、混乱の中で許可証の所持は確認されることがなかったため、許可証を持たない東ドイツ市民は歓喜の中、大量に西ベルリンに雪崩れ込んだ。こうして、1961年8月13日に建設が始まった「ベルリンの壁」は1989年11月9日の夜、突如としてその役割を終えることとなった。翌11月10日未明になると、どこからともなくハンマーや建築機械が持ち出され、「ベルリン市民」はそれらで壁の破壊作業をはじめた。壁は東側が建設し、東側の所有物であって、東側から壁を壊していい旨の許可は一切出されていない。しかし数日後からは東側によって正式に壁の撤去が始まり、東西通行の自由の便宜が計られるようになった。東西冷戦の象徴・越えられない物の象徴、決して崩れないもの象徴とされてきたベルリンの壁はあっという間にその役割を終えたのである。これは、西ドイツ側でも誰も予想しておらず、事件当時、西ドイツのヘルムート・コール首相は外遊先のポーランドにいたが、このニュースを聞いて慌ててベルリンへ向かったほどである。

東西ベルリンの境界だけでなく、東ドイツと西ドイツの国境も開放された。西ドイツ市民から見ると、ひどく時代遅れなトラバントに乗った東ドイツ市民が相次いで国境を越え西ドイツへ入っていった。西ドイツ市民は国境のゲート付近で彼らを拍手と歓声で迎え、中には彼ら一人一人に花束をプレゼントする者まで現れた。こうした国境線にも越境を阻止する有刺鉄線などが置かれていたが、これらも壁と同じく撤去された。東ドイツ市民が乗っていたトラバントはそれから暫く東西ドイツ融合のシンボルとして扱われた。

[編集] 事件の影響

[編集] 東西ドイツ統一

ベルリンの壁崩壊はソ連・東欧を含めた世界中から祝辞を送られ、次の政治目標には、東西分裂以降ドイツ人にとっては悲願である東西ドイツ統一が設定され、その気運が高まった。ソ連の指導者であったミハイル・ゴルバチョフはドイツ統一には時間がかかると想定していた上に、東ドイツがNATOに参加することを恐れていた。アメリカ合衆国大統領であったジョージ・H・W・ブッシュも、統一がそれほど早い時期に実現するとは考えていなかった。西ドイツ首相のコールですら、早急な統一には無理が生じると考えていた。

しかしながら、東西ドイツの統一はアメリカ、ソ連、そして西ドイツ首脳が考えていたよりも、はるかに速いスピードで進められた。この驚異的なスピードドイツ再統一の原動力は、ベルリンの壁が崩壊した事によって生み出された「歓喜」と「感動」以外の何物でもなかった。翌年、東ドイツにおいて最初で最後となる自由選挙が行われ、速やかに東西統一を求める勢力が勝利すると、それまでの社会主義統一党政権が主張していた東西の対等な合併ではなく、西ドイツ(ドイツ連邦共和国)が東ドイツ(ドイツ民主共和国)を吸収する方式(東ドイツ4州が自発的にドイツ連邦共和国に加入する)で統一が果たされることに決定した。

結局、ベルリンの壁崩壊から1年も経たない1990年10月3日東西ドイツは正式に統一されることになった。なお、統一式典ではルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン交響曲第9番「合唱付き」が演奏された。この演奏はレナード・バーンスタイン指揮で、独唱・合唱・オーケストラは東西陣営双方から選抜された特別合同管弦楽団・合唱団であった。ドイツが長年望んだ東西統一は、この歌詞の中にあるように正に「歓喜」"Freude"で迎えられた訳である(ただし、この際には、第4楽章の詩の"Freude"があえて"Freiheit(自由)"に替えて歌われ、東西市民、特に東側住人を狂喜させた)。

しかし、この「感動」と「歓喜」の情熱の渦はコールが想定したとおりの弊害をもたらした。東ドイツでは1989年11月19日以降、自分達は二つに分裂したうちの片方である「東ドイツ国民」ではなく、統一された「ドイツ国民」であると言う意識が大きくなっていった。これが早急なドイツ統一を支持する背景となった。統一後の経済的な不安が想定されて然るべきであるが、壁の崩壊直後に西ドイツ政府が西ドイツを訪問する東ドイツ市民に対して渡した一時金はこの不安をかき消す事を助長した。ドイツの再統一は東ドイツ市民を無条件で裕福にするかのような幻想を生み出した。結局「ドイツ再統一」のスピードが余りにも速すぎたことは、その後の経済的混乱によって実証される事になった。世界屈指の経済大国であった旧西ドイツと旧東ドイツの経済格差は一時的な幻想では覆い隠せないほど歴然たるものが存在した。現在でも東西の所得格差は残されたままである。また、旧東ドイツでは資本主義に適応できなかった旧国営企業の倒産によって失業者が増加し、旧西ドイツでは旧東ドイツへの投資コストなどが足かせとなって景気の低迷を招いた。このため東西双方で市民の間に不満が高まることになった。

東西ドイツの統一に関する法的な見方についてはドイツ再統一を参照のこと。

[編集] 冷戦終結

ゴルバチョフは従来から冷戦の緊張関係を緩和させる新思考外交を展開していたが、ドイツ分裂とベルリンの壁の存在は冷戦の代名詞でもあり、いくら緊張緩和といってもベルリン問題を解消しない限り「冷戦の終結」とはいえない状況であった。

ところが、ベルリンの壁が崩壊したことで、東西ドイツの統一に一応の目処が立つこととなった。1989年12月3日のアメリカのブッシュ、ソ連のゴルバチョフの両首脳がマルタにおいて会談し、冷戦の終結が宣言された。

[編集] 東欧への波及

ベルリンの壁崩壊は全東ヨーロッパに波及し、チェコスロバキアではビロード革命ルーマニアではルーマニア革命を引き起こした。すでに民主化への取り組みを始めていたハンガリーでもさらに一層その動きを加速するようにとの圧力が国民から加えられ始めた。さらにはバルト三国の独立が果たされ、共産主義の大本であったソ連自身の崩壊にも繋がった。

[編集] エピソード

  • 東ドイツの政権与党であったドイツ社会主義統一党は、その後衰退の道を辿り消滅寸前かと言われた時期もあったものの、社会民主党の内紛によって同党を離脱した最左派が左派党を結成した2005年の総選挙では、社会民主党政権の新中道左派路線に不満を抱く左派支持者の票を集めて躍進を果たした。
  • ドイツ統一に貢献した当時のソ連外相エドゥアルド・シェワルナゼ2003年グルジア大統領を追われると、かつての恩人を見捨てることなくドイツへの亡命を受け入れた。

[編集] 関連作品

[編集] 関連項目

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