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ベルリンの壁

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

西ベルリンを囲むベルリンの壁 丸い記号は国境検問所
西ベルリンを囲むベルリンの壁 丸い記号は国境検問所
ベルリンの壁のサテライトイメージ。黄色の線がベルリンの壁を示している。
ベルリンの壁のサテライトイメージ。黄色の線がベルリンの壁を示している。
西ドイツ、東ドイツ、ベルリンの位置関係 中央右上の赤いエリアがベルリン市。ブランデンブルク州に囲まれている。
西ドイツ、東ドイツ、ベルリンの位置関係 中央右上の赤いエリアがベルリン市。ブランデンブルク州に囲まれている。

ベルリンの壁(ベルリンのかべ、Berliner Mauer)は、1961年から1989年の間に存在した東ドイツ(東ベルリンを含む)と西ベルリンを隔てる壁、東ドイツが建設した。

第二次世界大戦後、西ドイツ側をアメリカやイギリスを初めとする資本主義国が統治、東ドイツ側を社会主義国であるソ連が統治することになった。この際に起きた思想の摩擦により壁が建設されたとされる。冷戦時代の象徴、そしてドイツ分断の象徴とも言われたが、1989年に破壊され、現在は一部が記念碑的に残されている以外存在しない。ベルリンの壁は両ドイツ国境の直上ではなく、すべて東ドイツ領内に建設されていた。

1989年の壁崩壊についてはベルリンの壁崩壊の項目も併せて参照のこと。

目次

[編集] 壁の背景 ~東ドイツの中にあった西ベルリン~

時として「ベルリンは東西ドイツの境界線上に位置し、ベルリンの壁は、その境界線の一部」と思われがちだが、これは誤解である。そもそも、ベルリンは全域が東ドイツの中に含まれており、西ドイツとは完全に離れていた。そして(東)ベルリンは東西ドイツ分断前からそのまま分断後も引き続いて旧東ドイツの首都であったのである(旧西ドイツの首都はボン)。

つまり、東ドイツに囲まれていたベルリン市がさらに国としてのドイツの東西分断とは別に、ベルリン市としても東西に分断されたのである。 この時、分断されたベルリン市の東側部分が「旧東ドイツ領」となり、西側部分が「旧西ドイツ領」(正確には連合軍管理区域)として「西ドイツの飛び地」となった。このため西ベルリンは結果的に地形的に周りを旧東ドイツ国に囲まれる形となってしまった為、この旧西ドイツ領である西ベルリンを東ドイツから隔離して囲む形で構築されたのが「ベルリンの壁」である。壁はベルリン市西半分をぐるっと取り囲む形で建設されたのであり、東西ベルリン市の間だけに壁があったわけではない。

これは、第二次世界大戦後のドイツが連合国()に分割統治されることになった際、連合国は、ドイツの分割統治とは別にベルリンを分割統治したことに由来する。つまり、ドイツおよびベルリンにおいても、東(ソ連統治領域)と西(米・英・仏統治領域)に分断したのであった。

分割統治開始後まもなく、米・英・仏など自由主義陣営とソ連など共産主義陣営が対立する冷戦に突入し、1948年6月からベルリンへの生活物資の搬入も遮断された(ベルリン封鎖)。西側諸国は輸送機を総動員し、燃料・食料を始めとする生活物資を空輸し、西ベルリン市民を支えたため、翌1949年5月に封鎖は解除された。

なお、東西ドイツそれぞれで国家が生まれると、東ベルリンは(東ドイツを統治していた)旧ドイツ民主共和国の首都となったが、西ベルリンについては、西ドイツとは離れていたことから、形式上は「(西ドイツを統治していた)ドイツ連邦共和国籍の人が暮らす、米・英・仏3か国の信託統治領」となり西ドイツ領とはならなかったが、事実上はドイツ連邦共和国が実効支配する飛び地の特別州であった。

西ベルリンと西ドイツとの往来は、指定されたアウトバーン、直通列車(東独領内では停まらない回廊列車)と空路により可能であった。東ドイツを横切る際の安全性は協定で保証されたが、西ベルリンに入れる航空機は、米・英・仏のものに限られ、西ドイツのルフトハンザは入れなかった。

また東西ベルリンは往復が可能で、通行可能な道路が数十あったほか、UバーンやSバーンなど地下鉄や近郊電車は両方を通って普通に運行されており、1950年代には東に住んで西に出勤する者や、西に住んで東に出勤する者が数万人にのぼっていた。しかしこの往来の自由さゆえ、毎年数万から数十万人の東ドイツ国民がベルリン経由で西ドイツに大量流出した。こうして西側から東ドイツを守るため、東西ベルリンの交通を遮断しベルリンの壁が建設されることになる(実質的には、西ベルリンを封鎖する壁というより、東ドイツを外界から封鎖する壁といえる)。

[編集] 歴史

1961年、東ドイツは壁の建設を開始
1961年、東ドイツは壁の建設を開始
ベルリンの壁の崩壊(1989年)
ベルリンの壁の崩壊(1989年)
ほとんど全ての壁はベルリンの壁崩壊後に塵散りになった。
ほとんど全ての壁はベルリンの壁崩壊後に塵散りになった。

1961年8月13日午前0時、東ドイツは、東西ベルリン間68の道すべてを閉鎖し、有刺鉄線による最初の「壁」の建設を開始した。朝6時までに東西間の通行はほとんど不可能になり、有刺鉄線による壁は13時までにほぼ建設が完了した。2日後には石造りの壁の建設が開始された。東ドイツは当時、この壁は西側からの軍事的な攻撃を防ぐためのものであると主張していたがこれは名目で、実際には東ドイツ国民が西ベルリンを経由して西ドイツへ流出するのを防ぐためのものであり、「封鎖」対象は西ベルリンではなく東ドイツ国民をはじめとした東側陣営に住む人々であった。壁は後に数度作り変えられ、1975年に完成した最終期のものはコンクリートでできていた。壁の長さは155kmあった。

映像などを通じて広く知られている壁(右の写真)に加え、東ドイツ側にもう一枚同様のコンクリート壁があった。すなわち、西ベルリンは二重の壁で囲まれていたのである。その二枚の壁の間は数十メートルの無人地帯(death strip)となっており、東ドイツ当局の監視のもと、壁を越えようとするものがいればすぐに分かるようになっていた。また、無人地帯に番犬を置いたり、コンクリート壁の上部を蒲鉾型に膨らませて乗り越えにくくしたりという工夫もなされていた。なお、一部の無人地帯には電線があったが、これは警報装置への電源・信号線で高圧電流は流れていなかったとされている。

1963年6月26日、西ベルリンを訪問したアメリカ大統領ジョン・F・ケネディは有名な「イッヒ・ビン・アイン・ベルリナー('Ich bin ein Berliner' 私はベルリンの子)」の演説を行った。この中で大統領は「すべての自由な人間は、どこに住んでいようと、ベルリンの市民である」と語り、これはドイツの戦後史での名セリフとしてドイツ国民に長く記憶されることになった。

壁が壊されるまでの間、東ベルリンから壁を越えて西ベルリンに行こうとした住民は、東ドイツ国境警備隊により狙撃された。死亡者の数は192人。ただし、さまざまな方法で壁の通過に成功、生きて西ベルリンに到達した東ドイツ国民は5000人を超える。東ドイツは逃亡者をなるべく殺害せずに逮捕するようにしていたため、3000人を越える逮捕者に比べると死亡者の数は少ない。可能な限りの身柄確保を図ったのは、逃亡の背後関係を調べるためであったと考えられている。

また、あまり知られていないが、西ドイツは東ドイツ国民も本来は自国民であるとの考えから政治犯を「買い取って」いたため、東ドイツ国民であれば「壁を越える」という方法を採らなくても、「西ドイツに行きたがる政治犯」として東ドイツ当局に逮捕されれば、犯罪歴等がない限り西ドイツに亡命できる可能性はあった。例えば、検問所に行き「西に行きたい」と言って当局職員の説得を受け入れず逮捕されるとか、西行きの列車にパスポートなしで乗り込み、国境でのパスポート検査で逮捕されるといった方法である。

1989年11月9日午後7時、エゴン・クレンツ率いる東ドイツは、海外旅行自由化法を制定。即日公布・施行した。しかし手違いにより、国境警備隊への連絡の前にマスコミ向けの発表が行われ、東ドイツ国営テレビ局などがこれを報道。同日夜、東ベルリン市民がベルリンの壁周辺の検問所に多数詰めかけ、東西ベルリンを行き来しはじめた。旅行自由化法は実際はビザの発給を大幅に緩和する法律であり、越境にはあくまで正規のビザが必要であったが、このときに壁に殺到した市民らはほとんどが正規のビザを持っていなかった。

このとき国境警備隊は東ベルリン市民の暴動と思い込んだため検問所のゲートを開き、検問は事実上行われなかった。このため壁はその意味を失った。このことから、ベルリンの壁がなくなった日は1989年11月9日であるとされることが多い。

主な国境検問所はA(アルファ)・B(ブラボー)・C(チャーリー)とあり、Cが「チェックポイント・チャーリー」の別名で知られた有名な検問所である。(通話表を参照の事)

壁の一部は日付が変わった11月10日未明、興奮した東西両ベルリン市民によって破壊され、のちに東ドイツによってほぼすべてが撤去された。また、破壊された壁のかけらはお土産品として販売された(ベルリンの壁の原料であるコンクリートには大量のアスベストが含まれており、壁のかけらの取扱いには注意が必要)。ただし、歴史的な意味のある建造物のため、一部は記念碑として残されている。

ベルリンの壁崩壊により東西両ドイツの国境は事実上なくなり、東西ドイツの融合を加速した。

[編集] 比喩

ベルリンの壁は冷戦の象徴であった。また、ドイツの分断の象徴でもあった。壁のあった時代、決して越えることのできない障害や永遠になくなることのない大きな障害のたとえとしてしばしば使われた。

[編集] ベルリンの壁が登場する作品

[編集] 映画

[編集] ドラマ

[編集] ドキュメンタリー

  • 映像の世紀』(第八集 『恐怖の中の平和』、第十集 『民族の悲劇果てしなく』)
  • 『市民の20世紀(原題: THE PEOPLE'S CENTURY)』(第11回 『引き裂かれた平和 冷戦の厚い壁(原題: BRAVE NEW WORLD)』)(1995年、イギリス(BBC))
  • 『社会主義の20世紀』(第1回 『守護の壁 恥辱の壁』)(1990年、日本(NHK))
  • 『ベルリンの壁(原題:THE FALL OF THE BERLIN WALL)』 (1990年、ドイツ)

[編集] 日本小説

[編集] 海外小説

[編集] 舞台 

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク

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