ヴァイオリン協奏曲 (ベルク)
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アルバン・ベルクの《ヴァイオリン協奏曲》は1935年8月11日に完成された。おそらくベルクの最も有名な作品であり、なおかつ最も演奏回数に恵まれた作品である。「ある天使の思い出に」との献辞が付されているが、ときにこれが副題のように看做されることもある。
目次 |
[編集] 着想と作曲
ヴァイオリニストのルイス・クラスナーによって依嘱された。ベルクは初めてこの依嘱を受けた時、歌劇《ルル》に取り組んでおり、しばらく協奏曲は手付かずのままであった。しかし、アルマ・マーラーがヴァルター・グロピウスともうけた娘マノン・グロピウスが若くして急死する。ベルクはマノンを可愛がっていたため、この訃報を知ると、オペラをいったん脇にのけ、クラスナーから委嘱されていた協奏曲を「ある天使の想い出に」ささげるものとして作曲にとりかかった。
《ヴァイオリン協奏曲》の作曲は非常にはかどり、2~3ヵ月で脱稿したが、ちょっとした虫刺されから敗血症を起こしてしまったベルクは、この作品が自分自身へのレクイエムになるであろうこと、そしておそらく歌劇《ルル》を完成できないであろうことを察知した。ベルクは1935年12月24日に急逝し、《ヴァイオリン協奏曲》はベルクが最後に完成させた作品となった。したがってベルクは、本作の演奏に接することができなかった。初演データは以下のとおりである。
- 世界初演:1936年4月19日、国際現代音楽協会バルセロナ大会。ルイス・クラスナーの独奏。アントン・ウェーベルンが指揮の予定であったが、亡き友のことを思い出してしまいウェーベルンは練習すらまともにできず、逐電してヘルマン・シェルヘンに事後を託した。
- 英国初演:1936年5月1日、ロンドン。招待者のみの非公開演奏。独奏者は再びクラスナー。アントン・ヴェーベルン指揮、BBC交響楽団。アセテート盤に録音され、クラスナーにより保管されていた。後にCDに復刻された音源の出典でもある。
- 英国公開初演:1936年12月9日、BBC定期演奏会。ロンドンのクィーンズ・ホールにて。クラスナーの独演。ヘンリー・ウッド指揮。BBC交響楽団。
[編集] 楽器編成
- 独奏ヴァイオリン
- フルート2(ピッコロ1持ち替え)
- オーボエ2(コーラングレ1持ち替え)
- アルト・サクソフォーン(第3クラリネット持ち替え)
- クラリネット2
- バス・クラリネット
- ファゴット2
- コントラファゴット
- ホルン4
- トランペット2
- トロンボーン2
- バス・テューバ
- ティンパニ2
- 大太鼓、小太鼓、シンバル、タムタム、ゴング、トライアングル
- ハープ
- 弦五部
[編集] 楽曲
演奏時間はおおよそ25~30分。
[編集] 楽章構成
本作品は、2つの楽章で構成されているが、各楽章はさらに2つの部分に分けられる。
「アンダンテ」に始まる第1楽章は、古典的なソナタ形式によっており、ダンス調の「アレグレット」が後に続く。この後半部分では、ケルンテン地方の民謡が引用されている。
猛烈な「アレグロ」に始まる第2楽章は、単一のリズム細胞にほとんど依拠している。この部分はカデンツァ風と評されるように、独奏ヴァイオリン・パートが非常に困難なパッセージに貫かれている。オーケストラはクライマックスに達すると、いよいよ激しさを募らせる。最終部分(第2楽章の第2部、全体的に言うと第4部)は「アダージョ」の速度が指定され、より穏やかな雰囲気に転じる。
第1楽章は現世におけるマノンの愛すべき音楽的肖像であるが、第2楽章はマノンの闘病生活と死による浄化(昇天)が表現されている。
[編集] 楽曲構成
他のほとんどのベルク作品のように、本作品においても、恩師アルノルト・シェーンベルク譲りの12音技法が、より自由な様式によるパッセージに結び付けられている。通常の12音作品の場合と同じく、無調性による作品でありながら、調的な中心を感じさせる点で特異である。これは、民謡やバッハのカンタータの引用に明らかなように、本作品が調性音楽と関連づけられているためもあるのだが、下図のように、基礎音列が、短三和音と長三和音の交替からなるためである。そして最後の4音は、全音音階を含んでいる((1)ソ、(2)♭シ、(3)レ、(4)♯ファ、(5)ラ、(6)ド、(7)ミ、(8)♯ソ、(9)シ、(10)♯ド、(11)♭ミ、(12)ファ)。かくて基礎音列によって、無調性と調性の葛藤が基礎づけられるのである。
12音の音列なので、半音階のすべての音がここには含まれている。しかしながら、調的な要素も強力に流れ込んでいる。音列中の最初の3音((1)~(3))は、ト短調の主和音を構成する。次の3音((3)~(5))はニ長調、その次((5)~(7))はイ短調、さらにその次((7)~(9))はホ長調の分散和音という具合である。そして最後の4音((9)~(12))が全音音階なのである。ついでに言うと、この音列はヴァイオリンの開放弦を、低いほうから高いほうへと順序良く含んでおり((1), (3), (5), (7))、作品の開始部分に現われるのが、まさにこの動きである。
音列の最後の4音である、上昇全音音階は、コラール「われ満ち足れりEs ist genug」の冒頭句に一致する。ベルクはこれを、バッハのカンタータ第60番《永遠よ、汝おそろしき言葉よ》の終曲から直接引用し、クラリネットの合奏に演奏させている。
[編集] 参考文献
- Anthony Pople, Berg: Violin Concerto (Cambridge University Press, 1991)
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