三徳山
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三徳山(みとくさん)は鳥取県東伯郡三朝町にある山。標高899.7m。山名は「法身(美しい)」「般若(にごりのない)」「解脱(働きのある心)」の3つの徳に由来する。三徳山全域が三徳山三仏寺(天台宗)の境内となっており、中腹の断崖に浮かぶように建つ国宝・投入堂は特に有名。全山が国の名勝・史跡に指定されている。
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[編集] 成因・地質
- 新生代第三紀にあたる約130万年前に、基盤の花崗岩層や小鹿凝灰角礫岩層・投入堂凝灰角礫岩層から噴出した火山である。山体は流動性の大きい輝石安山岩からなる。長い年月にわたって風雨による浸食を受けているが、頂上から標高600m地点までは、原地形と思われる緩斜面が残っている。南側斜面には、浸食によって生じた40~60mに及ぶ険しい断崖が発達している。
- 三仏寺の堂宇である文殊堂・地蔵堂・鐘楼堂は凝灰角礫岩層の断崖上に、納経堂・観音堂・元結掛堂・投入堂は、凝灰角礫岩層と三徳山安山岩の境目に浸食によって生じた岩窟・断崖上に建てられている。特に投入堂は、下部層である凝灰角礫岩層と上部層である安山岩層の選択浸食によって生じた断崖を、見事に利用して建てられている。安山岩には柱状節理が発達し、溶岩の流下した方向を目でたどることができる。
- 三徳山からは垢離取川(あかりとりがわ)と名のないもう1本の谷川が流れており、不動滝・真蛇滝・龍徳院滝の3つの滝が山中にある。ただし滝は深い原生林の中にあるため、近づくことはできない。
[編集] 自然
- 登山道は中腹にあたる投入堂までの1本のみであり、全山が人跡未踏の原生林に覆われているため、貴重な植物相が見られる。また寒暖両地方の植物が入り交じって見られる。
- 三仏寺まではヤブツバキが多い。標高300m地点の文殊堂のあたりからはブナの大木が目立つようになる。標高450m地点の投入堂から上には、アカマツ、アカガシ、フクラシバなどが見られる。三徳山では、通常はブナ林の下位に位置するアカマツ・アカガシなどがブナ林の上位に位置し、植物相が逆転している。これは山麓の三徳川・垢離取川が作る深い谷から来る冷気の影響で、低地の方が気温が低いために生じる現象と見られている。したがって秋の紅葉も、三徳山では山の下方から始まり、次第に上方へと移っていく。三徳山の南側にある景勝地・小鹿渓でも、同様な植物相の逆転現象が見られる。
- 三徳山で見られる珍しい植物としては、着生植物のシシンラン、ミトクナデシコ(固有種)、ツクシシャクナゲ、ウンゼンマンネングサ、ハナミョウガなどが見られる。ただこれらの植物は、近年の登山客の増加によってめっきり少なくなってしまった。
- 大型鳥獣は多くない。鳥類では、三徳川・垢離取川ではカワガラス、キセキレイが見られる。林にはカケス、コゲラ、アカゲラ、アオゲラなどが見られる。メジロ、ヤマガラ、シジュウカラ、コガラ、エナガ、ヒガラ、キクイタダキなどは、群れを作って現れることもある。
- 陸貝、昆虫類は豊富であるが、本格的な研究はなされておらず、今後に期待したい。
[編集] 登山道
- 前述のように、登山道は投入堂までの1本のみであり、山頂まで登ることはできない。また登山道は三仏寺の境内でもあり、貴重な植物も見られるため、マナーを守った登山を心がけてほしい。危険な箇所や鎖場も多くあるため、しっかりとした準備で登るようにしたい。登山道は全長700m、高低差は200mである。
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- 三徳バス停から急な石段を登ると、3つの宿坊を過ぎて三仏寺の本堂に着く。本堂裏手が登山口になっており、入山料(200円)を払い、安全祈願の輪袈裟とお札をもらう。
- 朱塗りの宿入橋を渡ると、すぐに難所として知られるカズラ坂である。むき出しとなった木の根を伝ってよじ登る難所のため、ホールドをしっかりと確保して登ること。
- カズラ坂を過ぎると急傾斜の山道となる。さらに岩石の断崖に設けられた鎖をよじ登ると文殊堂に着く。ここからは岩場の尾根道となり、危険な箇所が続く。地蔵堂・鐘楼堂と重要文化財指定の堂宇が連なる。
- 鐘楼堂から先は最後の難所である馬の背・牛の背を通る。ここは傾斜はなだらかであり、樹木に覆われているので難所に見えないが、左右両側とも切り立った断崖絶壁であり、過去に滑落事故・死亡事故が何度も起きている。
- 牛の背を過ぎると、なだらかな岩場を納経堂・観音堂・元結掛堂と過ぎ、狭い断崖の道を回り込むと、投入堂の優美な姿が忽然と現れる。自然と人智の作りだした至高の美を心ゆくまで眺めてほしい。なお投入堂は許可なくして立ち入り禁止である。
- 下山は来た道を戻るが、難所・危険箇所は登りより下りの方が数倍危険である。慎重に下山すること。
- 下山したあとは、境内の茶屋で三徳豆腐や山菜天ぷら、精進料理などで、登山の疲れを癒すのもよいだろう。三仏寺本堂近くにある宝物殿には、投入堂の正本尊である蔵王権現立像(重要文化財)や投入堂棟札・古材(ともに国宝)が展示されている。