国宝
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法隆寺金堂・五重塔 (斑鳩町)
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姫路城天守 (姫路市)
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太山寺本堂 (神戸市)
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清水寺本堂 (京都市)
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長谷川等伯筆 松林図(右隻)東京国立博物館蔵
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三仏寺奥院(投入堂、鳥取県)
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国宝(こくほう)は、日本の文化財保護法によって国が指定した有形文化財(重要文化財)のうち、世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるものであるとして国(文部科学大臣)が指定したものである(文化財保護法27条2項)。建造物・絵画・彫刻・工芸品・書籍・典籍・古文書 (こもんじょ)・考古資料・歴史資料などが指定されている。
法的には、国宝は重要文化財の一種である。国宝・重要文化財の指定手続、指定制度の沿革などについては、重要文化財の項を参照。
なお、いわゆる「人間国宝」とは、重要無形文化財に指定された芸能、技術等の保持者として認定された者の通称である。
目次 |
[編集] 国宝の指定件数
2007年指定分までを含めた国宝の指定件数は以下のとおりである。
- 建造物 213件(257棟)
- 美術工芸品 861件(以下内訳)
- 絵画 157件
- 彫刻 126件
- 工芸品 252件
- 書跡・典籍 223件
- 古文書 59件
- 考古資料 42件
- 歴史資料 2件
なお、以上の数字は指定の「件数」であって、「点数」ではない。和歌山・金剛峯寺の金銀字一切経4,296巻のように員数の多いものも件数としては「1件」と数えている。
[編集] 「旧国宝」と「新国宝」
「国宝」という語の指す意味は文化財保護法施行(1950年)以前と以後とでは異なっている。文化財保護法施行以前の旧法では「国宝」と「重要文化財」の区別はなく、国指定の有形文化財(美術工芸品および建造物)はすべて「国宝」と称されていた。
法令上、「国宝」の語が初めて使用されたのは1897年(明治30年)の古社寺保存法制定時である。同法の規定に基づき、1897年12月28日付けで初の国宝指定が行われた。その後1929年(昭和4年)には古社寺保存法に代わって国宝保存法が制定され、同法は文化財保護法が施行される1950年まで存続した。古社寺保存法および国宝保存法の下で指定された「国宝」は1950年現在で宝物類(美術工芸品)5,824件、建造物1,059件に及んだ。これらの指定物件(いわゆる「旧国宝」)は文化財保護法施行の日である1950年8月29日付けをもってすべて「重要文化財」に指定されたものと見なされ、その「重要文化財」の中から、「世界文化の見地から価値の高いもの」で「たぐいない国民の宝」たるものがあらためて「国宝」に指定されることとなった。混同を避けるため、旧法上の国宝を「旧国宝」、文化財保護法上の国宝を「新国宝」と通称することがある。文化財保護法による、いわゆる「新国宝」の初の指定は1951年6月9日付けで実施された。
以上のように「(旧)国宝」「(新)国宝」「重要文化財」の関係が錯綜しているため、「第二次世界大戦以前には国宝だったものが、戦後は重要文化財に格下げされた」と、誤って理解されることが多い。旧法(古社寺保存法、国宝保存法)における「国宝」(旧国宝)と新法(文化財保護法)における「重要文化財」は、国が指定した有形文化財という点で同等のものであり、「格下げ」されたのではない。また、文化財保護法によって国宝(新国宝)に指定された物件のうち、重要文化財に「格下げ」された例は1件もない。
[編集] 国宝指定の対象
文化財保護法による国宝の指定対象となるものは有形文化財であり、具体的には建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書、考古資料、歴史資料である(同法第2条参照)。したがって、古墳、貝塚、住居跡などは国宝指定の対象とはなっていない。ちなみに奈良県・高松塚古墳の場合は、古墳自体は文化財保護法第109条に基づき「特別史跡」に指定され、石室内の壁画が「絵画」として国宝に指定されている。
なお、文化財保護法第2条の「これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む」という規定に基づき、国宝建造物とともに「土地」が併せて指定される場合がある。建造物が周辺の土地を含んで国宝に指定されている例としては、清水寺本堂(京都府)、宇治上神社本殿(京都府)、浄土寺本堂(広島県)がある。
「国宝○○寺」あるいは「国宝○○城」のような表記がまま見られるが、厳密に言えば、寺院や城郭全体が国宝に指定されているのではなく、指定の対象はあくまでも個々の建造物である。姫路城の場合を例にとれば、国宝指定物件は4棟の天守とそれらをつなぐ4棟の渡櫓(わたりやぐら)のみであって、これら以外の櫓、門、塀などは重要文化財となっている。
有形文化財でありながら国宝・重要文化財の指定対象とされていないものに、皇室関係品がある。御物(ぎょぶつ、皇室の私有品)および宮内庁(書陵部、三の丸尚蔵館、京都事務所、正倉院事務所)管理の文化財は文化財保護法による国宝、重要文化財、史跡、特別史跡等の指定の対象外となっている。これらを国宝等の指定対象外とするということは、文化財保護法に明文規定があるわけではなく、第二次世界大戦以前からの慣例となっている。したがって、正倉院宝物、桂離宮、修学院離宮などは国宝の指定対象となっていない。例外は正倉院の建物で、「古都奈良の文化財」の世界遺産登録を期に1997年(平成9年)に「正倉院正倉 1棟」として国宝に指定されている。これは世界遺産登録の前提条件として、登録物件が所在国の法律により文化財として保護を受けていることが求められるため、例外的措置として指定されたものであった。
[編集] ジャンル別の指定物件概要
以下の説明は、2006年現在の指定状況を元にしている。
[編集] 建造物の部
2006年8月現在国宝の建築物は、神社36件、寺院154件、城郭8件、住宅12件、民家0件、その他3件、計213件である。なお、ここで言う「住宅」は城郭の御殿、社寺の書院、客殿などを指し、「民家」は町屋、農家などを指す。2006年現在、民家の国宝指定物件はない。また、洋風建築の国宝は大浦天主堂(長崎県)1件のみである。
1972年に法隆寺綱封蔵が指定されて以後、国宝建造物の新規指定は25年間にわたり行われていなかったが、1997年には正倉院正倉と瑞龍寺(富山県)仏殿・法堂・山門が指定された。
異色の指定物件としては、元興寺と海龍王寺(ともに奈良県)の五重小塔がある。元興寺塔は高さ5.5メートル、海龍王寺塔は4メートルほどの小品で、当初から屋内に置かれたものだが、工芸品ではなく建造物として国宝に指定されている。
[編集] 絵画の部
国宝指定物件には仏画、絵巻物、肖像画、水墨画、障壁画など各種のものがある。古墳壁画では高松塚古墳壁画が2006年現在、唯一の指定物件である。平等院鳳凰堂壁扉画、醍醐寺五重塔初層壁画、室生寺金堂壁画のように、国宝建造物の一部が「絵画」としても国宝に指定されているものもある。日本の作品だけでなく、古くから伝来していた中国(宋・元)の絵画で国宝に指定されているものも多い。作品が国宝に指定されている画家としては、日本人では雪舟、狩野正信、狩野永徳、長谷川等伯、俵屋宗達、尾形光琳、円山応挙、池大雅、与謝蕪村、渡辺崋山、浦上玉堂など、中国では梁楷、李迪、徽宗皇帝などが挙げられる。なお、2006年現在、浮世絵の国宝指定物件はない。
厳島神社の平家納経は「書籍・典籍」の部ではなく「絵画」の部で国宝に指定されている。同様に経典でありながら「絵画」の部で指定されているものとしては「扇面法華経冊子」(四天王寺、東京国立博物館)、「白描絵料紙金光明経」(京都国立博物館)などがある。これらは、経典そのものよりも下絵の絵画の方に資料的・美術的価値を認められたものである。
[編集] 彫刻の部
国宝指定物件はすべて仏教・神道関係で、仏像・神像がそのほとんどを占め、時代的には鎌倉時代までの作品に限られている。異色の指定品としては、平等院鳳凰堂本尊阿弥陀如来の頭上の天蓋があり、単独で「彫刻」の部の国宝に指定されている。
既指定物件は近畿地方に集中しており、近畿以外の地区に所在するものは神奈川・高徳院の銅造阿弥陀如来坐像(鎌倉大仏)、東京・大倉集古館の木造普賢菩薩騎象像(本来どこの寺院にあったものか不明)、岩手・中尊寺の金色堂堂内諸像及天蓋、福島・勝常寺の木造薬師三尊像、大分・臼杵市所有の臼杵磨崖仏などがある。
国宝彫刻のそのほとんどを寺社が所有しているが、例外として奈良・奈良国立博物館所有の薬師如来坐像(京都・若王子社旧蔵)、東京・大倉集古館所有の木造普賢菩薩騎象像(伝来不明)、大分・臼杵市所有の臼杵磨崖仏がある。
[編集] 工芸品の部
金工、漆工、染織、陶磁、刀剣、甲冑など各種のものがあり、このうち刀剣類が全体のほぼ半数を占めている。金工は梵鐘、仏具など仏教関連のものが多い。漆工は硯箱、手箱などがあり、日本漆工の特色である蒔絵と螺鈿を併用した作品が多い。染織は袈裟類のほか、奈良国立博物館の刺繍釈迦如来説法図、当麻寺の綴織当麻曼荼羅図など、やはり仏教関連のものが多い。陶磁器については、大量生産型の美術品で類似の作品が多数あるためか、国宝指定物件は比較的少ない。少ない指定物件の中では曜変天目茶碗(静嘉堂文庫ほか)など、中国製品の多いのが目立つ。刀剣は、太刀、短刀などの刀身のみ指定されているものと、飾剣(かざりたち)のようにおもに外装が指定対象になっているものとがある。このほか、1つのジャンルに納まらないものに、熊野速玉大社、厳島神社、鶴岡八幡宮などの「古神宝類」がある。これらは各神社の祭神に奉納された衣服調度類一括で、1件のうちに染織、漆工、刀装具など各種のものを含む。
[編集] 書跡・典籍の部
「書跡」は書道史上の遺品を指す。「典籍」は経典、物語、和歌集、歴史書などの著作物のことで、この中には高野切本(こうやぎれぼん)古今和歌集のように書道史上貴重な遺品も含まれるが、書道史上の価値よりも文学作品・歴史書などの古伝本・テキストとしての価値が評価されて指定されたものも多い。絵画と同様、中国からの渡来品の指定も多く、その中には写本だけでなく、宋時代の刊本も多数含まれている。
[編集] 古文書の部
「こもんじょ」と読む。かつては古文書類も「書籍・典籍」の部に含まれていたが、1985年度から、「書籍・典籍」の部と「古文書」の部は別個に指定されるようになり、既指定物件についても「書籍・典籍」と「古文書」とにあらためて区分されている。古文書の部に分類されている物件には、厳密な意味での「文書」(特定の発信元と宛て先があり、何らかの目的を達するために作成するもの)だけではなく、日記などの記録類をも含む。既指定物件には、書状(手紙)類が多く、その他、東大寺文書、東寺百合(ひゃくごう)文書、島津家文書、上杉家文書などの一括文書、寺院の資材帳、日記、祈願文、遺告(遺言)、系図などがある。空海、最澄、藤原佐理などの書状は、古文書としての史料的価値とともに、書道史上においても貴重な遺品である。
異色の指定品としては京都・妙法院の「ポルトガル国印度副王親書」、栃木・笠石神社の那須国造碑などがある。
[編集] 考古資料の部
縄文・弥生・古墳の各時代の出土品のほか、経塚遺物や墓誌など、歴史時代に入ってからのものも多い。もっとも時代が降るのは東京・普済寺の「石幢」で、南北朝時代のものである。
[編集] 歴史資料の部
この分野の国宝指定は歴史が浅く、最初の指定物件は「慶長遣欧使節関係資料」(仙台市博物館蔵、2000年12月国宝指定)であった。
[編集] 2001年以降に指定された国宝の一覧
国宝は文化財保護法施行直後の1950年代~1960年代に集中的に指定され、以降は年に数件の指定に留まっている。参考までに21世紀 (2001年以降) に入ってからの指定物件を挙げておく。
- 2001年 (平成13年) 指定
- 紺紙著色金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅図 (岩手・中尊寺大長寿院)
- 上杉家文書 (山形・米沢市立上杉博物館)
- 慶長遣欧使節関係資料 (宮城・仙台市博物館)
- 2002年 (平成14年) 指定
- 2003年 (平成15年) 指定
- 拾遺愚草 (京都・冷泉家時雨亭文庫)
- 2004年 (平成16年) 指定
- 2005年 (平成17年) 指定
- 2006年 (平成18年) 指定
- 2007年 (平成19年) 指定
- 土偶 著保内野(ちょぼないの)遺跡出土 (北海道・函館市所蔵〉
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- -e国宝- :国立博物館の所蔵する国宝の詳細
- 文化財保護法
- 国指定文化財データベース
- 国宝を訪ねて