花崗岩
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花崗岩(かこうがん、granite)とは、火成岩の一種。流紋岩に対応する成分の深成岩である。
地下の高温下で形成された深成岩のうち下記2条件を満たすものを指す。
- 主成分が石英と長石で、他に10%程度の有色鉱物(黒雲母等)を含み全体的に白っぽく見えるもの。有色鉱物の含有量が多い(約30%)ものは閃緑岩の範疇に入る。なお、花崗岩と閃緑岩の中間的な性質を持つ岩石は花崗閃緑岩(granodiorite)と呼ばれる。
- 成分中にナトリウムとカリウムの含量が少ないカルクアルカリ質であること。アルカリ分が多くなると石英が減って角閃石が多くなり、閃長岩(syenite)と呼ばれる。
花崗岩は大陸や島弧などの陸地を構成する岩石の中では非常に一般的なもので、各地で見つかる。花崗岩の英語名であるgraniteの語源は、ラテン語で種子や穀粒を意味するgranumである。数mmの結晶が寄り集まった粗い粒子構造から命名された。
花崗岩の平均密度は通常2.75g/cm3付近であるが、産地や品種によっては1.74g/cm3から2.80g/cm3に及ぶ。
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[編集] 花崗岩の種類
[編集] 含まれる鉱物による分類
花崗岩の成分は、石英、正長石、斜長石、黒雲母、白雲母、普通角閃石である。磁鉄鉱、柘榴石(ざくろいし)、ジルコン、燐灰石のような副成分鉱物を含むこともある。まれに輝石を含む。産地によってその含有鉱物の種類や比率が様々に異なっている。含まれる有色鉱物の名前を少ないものから順に、「花崗岩」の前につけて呼ぶ。副成分鉱物の場合は「含~」とつける。
- 黒雲母花崗岩(biotite granite):黒雲母・石英・カリ長石(正長石または微斜長石)・灰曹長石からなる。カリ長石が桃色の桃色黒雲母花崗岩もある。
- 両雲母花崗岩(two mica granite):黒雲母・白雲母・石英・カリ長石(正長石または微斜長石)・灰曹長石からなる。
- 閃雲花崗岩(hornblende biotite granite):角閃石・黒雲母・石英・カリ長石(正長石または微斜長石)・灰曹長石からなる。
斜長石と石英を加えた量と正長石の量が等しい花崗岩には、石英モンゾニ岩と呼ばれる場合がある。
なお黒雲母花崗岩中のカリ長石が分解してカオリナイト化し桃色を呈するものを桃色花崗岩と呼ぶ。石材としては、通常の黒雲母花崗岩を「白」、桃色の花崗岩を「錆」と呼ぶ。
[編集] 鉱物粒子の大きさによる分類
一般に花崗岩中の鉱物粒子の大きさは数mm程度で、大きくても数cmまで。それ以上の大きさのものを巨晶花崗岩(花崗岩ペグマタイト)と呼ぶ。巨晶花崗岩は花崗岩が固結する際に最後に残った部分と考えられ、通常は微量しか含まれない珍しい鉱物が濃縮されていることが多い。また大きな鉱物粒子の間に空洞が存在し、美しい水晶(石英の結晶)や、蛍石、トパーズ、トルマリン(電気石)の結晶を産出することがある。このような空洞を晶洞と呼ぶ。
岩石名の先頭に「細粒」(fine-grained)、「中粒」(medium-grained)、「粗粒」(coarse-grained)、「斑状」(porphyritic)などをつけて区別することもある。
[編集] 分布
日本の地表では、阿武隈山地、関東北部、飛騨山脈、木曽山脈、美濃高原、近畿地方中部、瀬戸内海から中国山地、北九州などに広く分布している。花崗岩は深成岩ゆえに地表に出ている部分よりも地下深くの方が広がっていると考えられている。これらの大規模なもの(100km2以上)をバソリス(batholith、底盤)、100km2以下の比較的狭い範囲のものを岩株(stock、ストック)と呼んでいる。
花崗岩はおそらく完新世を除くあらゆる地質年代にわたって地殻に貫入してきた。世界的には先カンブリア時代に生成したものが多いようだが、日本では中生代に生成したものが最も広い面積を占める。花崗岩は大陸地殻の全域にわたって広く分布しており、大陸の表面を覆う比較的薄い堆積岩の下に横たわる基盤岩の大半を占めていると考えられる。
[編集] 起源
花崗岩の起源については二つの学説がある。
マグマ理論によれば、マントルとの境界近くで生成した高温マグマが上昇してきて、地上へ出ることなく冷却されたとする。冷却速度が遅いため溶融成分が分離して各鉱物が結晶化したものだ。即ち液体のマグマが既存の岩石に侵入することで、花崗岩の塊ができたという。花崗岩を直接に形成したマグマの起源についても、堆積岩の再溶融、火成岩の再溶融、マントル起源によるものなどがある。
花崗岩化作用理論によれば、砂岩や泥岩などの堆積岩が地下深部の高熱で極端な変成作用を受け、花崗岩が形成されたという。
どちらの理論にも証拠がある。理論が2つあることで、実際の花崗岩の産出状況や特徴を説明し分けることができる。2つの理論は高温という点で一致している。即ち変成作用が強い(温度が高い)条件では、岩石は融点を越え溶融状態となるからである。なお花崗岩と同等成分のマグマが急冷された場合は流紋岩となる。
[編集] 用途
花崗岩は緻密で硬いことから、日本では古くから石材として使用されてきた。石の鳥居や城の石垣や石橋に用いられるほか、道標や三角点の標石にも用いられてきた。近代の建造物の例としては国会議事堂の外装が全て国産の花崗岩で出来ている。
また緻密なので表面を研磨して光沢を出すことが可能で、墓石などのほかパネルとして、また公共の建物や商業施設、記念建造物の床石として広範囲に利用されている。
[編集] 花崗岩の風化
花崗岩は結晶粒子が大きくかつ鉱物結晶の熱膨張率が異なるため、温度差の大きい所では粒子間の結合が弱まり、表面がぼろぼろになりやすい(風化しやすい)。風化が進むと構成鉱物の粗い粒子を残したままばらばらの状態になり、非常にもろく崩れやすくなる。このようにして生じた白く粗い砂を真砂土(まさど)、あるいは単に真砂という。花崗岩地帯には真砂が広く分布し、強い降雨により多量の砂が流れ出すため、花崗岩地帯の多くが砂防地域として指定されている。また、真砂は学校の校庭の敷き砂などとして利用される。
花崗岩は固くて緻密であるが、花崗岩中の斜長石や黒雲母は比較的風化を受けやすい。
斜長石が分解してできるカオリナイトの良質なものは陶土として使用される。それゆえ焼き物の街と呼ばれる場所は、花崗岩が地表に出ている地域の周辺に存在することが多い。瀬戸、信楽などがその代表例である。
花崗岩中の主成分である石英は非常に風化しにくく、花崗岩がそのまま風化すると、粘土質と細かい硬粒子が混ざった真砂土と呼ばれる白から黄土色の粗い砂になる。この土が河川によって海まで運ばれると、風化に強い石英主体の砂となり白い砂浜となる。瀬戸内海の白砂青松や山陰地方の砂丘は、中国山地の大量の花崗岩が元になっている。
[編集] 他の呼称
花崗岩は(特に石材として)御影石(みかげいし)とも呼ばれる。「御影」は、兵庫県神戸市の地名(旧武庫郡御影町、現在の東灘区御影石町など)に由来し、御影の北端に位置する六甲山地に花崗岩が産出したことによる。切り出した花崗岩を大阪湾に面した海岸から石船に積載し、古くから各地に出荷していた。
御影の名前は各地の産地にも転用されている。代表的な例が、福島県伊達市を中心とした吾妻御影と茨城県桜川市(旧真壁町)を中心とした真壁御影である。なお墓石などに使われる黒御影は花崗岩ではなく閃緑岩や斑れい岩である。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 木股三善・宮野敬編修 『原色新鉱物岩石検索図鑑 新版』 北隆館、2003、ISBN 4-8326-0753-7。
- 木下亀城・小川留太郎 『標準原色図鑑全集6 岩石鉱物』 保育社、1967、ISBN 4-586-32006-0。
- 「日本地質図」(産業技術総合研究所 地質調査総合センター)