交響曲第5番 (ブルックナー)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
![]() |
クラシック音楽 |
---|
作曲家 |
ア-カ-サ-タ-ナ |
ハ-マ-ヤ-ラ-ワ |
音楽史 |
古代 - 中世 |
ルネサンス - バロック |
古典派 - ロマン派 |
近代 - 現代 |
楽器 |
鍵盤楽器 - 弦楽器 |
木管楽器 - 金管楽器 |
打楽器 - 声楽 |
一覧 |
作曲家 - 曲名 |
指揮者 - 演奏家 |
オーケストラ - 室内楽団 |
音楽理論/用語 |
音楽理論 - 演奏記号 |
演奏形態 |
器楽 - 声楽 |
宗教音楽 |
メタ |
ポータル - プロジェクト |
カテゴリ |
アントン・ブルックナーの交響曲第5番変ロ長調は1875年から1878年にかけて作曲された。初演は1894年4月8日グラーツにおいてフランツ・シャルクの指揮で行われた(このときには、後述のシャルク改訂版が用いられた)。
金管楽器によるコラールの頻出やフーガをはじめとした厳格な対位法的手法が目立つ。作曲者自身はこの交響曲を「対位法的」交響曲あるいは「幻想風」交響曲と呼んでいた(ほかに、国ごとに「信仰告白」「ゴチック風」「悲劇的」「ピッツィカート交響曲」などの愛称もある)。構築性とフィナーレの力強さにおいて、交響曲第8番と並び立つ傑作という評価もある。
研究者によると、この曲は一旦1876年に完成され、その後その自筆稿上に直接改訂を加えたとのことである。1876年の完成形の再現が不可能であること、1876年の段階で初演等が行われていないことから、一般には「この曲は作曲者による改訂が行われていない」とみなされている。「原典版」であるハース版(1935年)、ノヴァーク版(1951年)はどちらも、1878年の最終形態を元にしている。資料上の問題点が少ないこともあり、この二つの版の間には、誤植の修正程度の違いしかない。1876年段階の譜面は、一部校訂報告の中で紹介されている。また編成上のチューバは、1877年以降の改訂時に初めて付け加えられた。
原典版の初演は、1935年10月20日ミュンヘン ジークムント・フォン・ハウゼッガー指揮でハース版により行われたものである。
演奏時間約75分。
目次 |
[編集] 献呈
カール・リッター・フォン・シュトレマイアー(ウィーン音楽大学の講師就任を働きかけてくれた文部大臣)
[編集] 楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、バス・テューバ、ティンパニ、弦五部。
[編集] 楽曲の構成
[編集] 第1楽章 アダージョ - アレグロ
変ロ長調、2/2拍子。序奏付き、三つの主題を持つソナタ形式。序奏は低弦のピッツィカートで始まる。ヴィオラ、ヴァイオリンが弱音で入ってくると、突如として金管のコラールが吹き上がる。律動的になって高揚し、収まったところで主部にはいる。高弦のトレモロの中をヴィオラとチェロが特徴的な第1主題を出す。この主題は全管弦楽に受け取られ、魅惑的な転調を見せる。第2主題は弦によるやや沈んだ表情のもの、第3主題は牧歌的で繰り返しながら高まっていく。約20分。
[編集] 第2楽章 アダージョ
ニ短調、2/2拍子。ABABA+コーダの形式をとる。ただし、各部は再現のたびに展開される。Aは弦の三連音のピチカートに乗ってオーボエが物寂しい主題を吹く。この主題は全曲を統一するものである。Bは弦楽合奏による深い趣をたたえた美しい旋律。コーダは、Aの主題をホルン、オーボエ、フルートが順に奏してあっさりと終わるため、ブルックナーの緩徐楽章としては小粒な印象を与えるが、約17分かかる。
[編集] 第3楽章 スケルツォ モルト・ヴィヴァーチェ
ニ短調、3/4拍子。複合三部形式。主部は、せわしなく駆り立てるような第1スケルツォとヘ長調でテンポを落としたレントラー風の第2スケルツォが交錯する。中間部は変ロ長調。ホルンの嬰へ音に導かれて木管が愛らしい旋律を奏でる。約13分。
[編集] 第4楽章 アダージョ - アレグロ・モデラート
変ロ長調、2/2拍子。序奏付きのソナタ形式にフーガが組み込まれている。序奏は、第1楽章の序奏の再現で始まる。クラリネットがフィナーレ主題の動機を奏し、第1楽章第1主題、第2楽章第1主題が回想される。この手法は、ベートーヴェンの第9交響曲のフィナーレに通じるもの。その後チェロとコントラバスが第1主題を決然と出して主部が始まり、フーガ的に進行する。全休止の後ヴァイオリンが第2主題を軽快に出す。再び全休止の後、金管が荘重なコラールを奏する。展開部では、コラール主題に基づくフーガ、これに第1主題が加わって二重フーガとなる。コーダでは第1楽章第1主題の動機を繰り返して高揚し、フィナーレの第1主題の動機、コラール主題が全管弦楽で強奏され、圧倒的な頂点を形作る。最後に第1楽章第1主題で全曲を閉じる。約25分。
[編集] シャルク改訂版
初演者のフランツ・シャルクは、初演時にブルックナーのスコアに大幅な改訂を施している。第3楽章や第4楽章を大きくカットし、第4楽章には別働隊の金管やシンバル、トライアングルを補強している。さらに目立つのはオーケストレーションの変更である。シャルクの改訂は、長大かつ難解なこの交響曲を普及させるためという「好意的」な目的であったと評価されることが多い。しかしながら改訂内容自体は、ブルックナーの管弦楽法とはいささか異なり構造上の難点も挙げられる。ブルックナーの生前に出版された諸楽曲(ほとんど弟子による校訂・改訂が加わっているとされる)に比べると、改訂の度合いが極端であり、「無残な改作」と悪評されることもある。
ブルックナーはこの初演を病気のために欠席している。この欠席に対しては、シャルクの改訂に対する抗議の気持ちが込められていたとの憶説もある。もっとも、この憶測に史料的な根拠があるわけではない。そもそも作曲者がこの時点で、シャルクによるこの改訂版の内容を知らされていたかどうかも、史料的には不明である。いずれにせよ、ブルックナーはこの曲を(原典版にせよ改訂版にせよ)実際に耳にすることができなかった。
シャルクによる改訂版は1896年(ブルックナーの死の年)に出版され、ハース校訂による第一次全集が出版されるまではほとんど唯一のスコアとして演奏されていた。ハース版出版後も1950年代までは、アメリカを中心に、このシャルク版は演奏されていたが、1970年代以降ほとんど使われなくなった。
録音ではハンス・クナッパーツブッシュが指揮したものが有名である。
一方、近年になって、弟子たちがブルックナーのスコアに施した改訂を再評価する動きがでてきている。この第5番のシャルク改訂版についても、たとえば1998年に、レオン・ボッツタイン指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団が録音し、テラーク社からCDリリースした。日本でも、1996年7月20日に、野口剛夫指揮東京フルトヴェングラー研究会管弦楽団(アマチュア団体と思われる)が、このシャルク改訂版を日本初演した。
なお、シャルク改訂版を元にして、グスタフ・マーラーがさらなる手を加えた、“マーラー版第5番”が存在したとの説がある。このマーラー版スコアは現在残っていない。更なる200小節のカットと、第4楽章を自らが再作曲したものに置き換えたという説がある[要出典]。