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和声 - Wikipedia

和声

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

和声(わせい、英 harmony、戦前には「かせい」とも)とは、西洋音楽音楽理論用語のひとつであり、和音の進行、声部の導き方および配置の組み合わせのことである。メロディ(旋律)、リズム(律動)と共に音楽の三要素のひとつとされる。

また和声とは狭義には16世紀ヨーロッパに端を発した機能和声のことである。これは、個々の和音にはその根音調主音との関係に従って役割があると考えるものである。歴史的には機能和声に至る以前の和声が存在するが、現在の西洋音楽はほとんどがこの機能和声によって成り立っている。

また、一般的に和声とは和声学のことである。和声学とは、機能和声の理論ならびにその実習のことであり、作曲編曲の理論・実習のひとつである。

目次

[編集] 歴史

13世紀ごろから、ある旋律に対して1つから複数の別の旋律を同時に奏でて音楽を創っていくということが行われるようになった。これを対位法(英 counterpoint)という。ある旋律が他の旋律に従属するのではなく、それぞれが独立した旋律と感じられるように工夫された。

ルネサンス期(16世紀 - 17世紀)になると、和音が意識されるようになった。対位法で複数の旋律が奏でられるとき、ある部分を縦に切り取ってみると、音の積み重ねとしての和音が存在する。対位法でたまたま生じた現象として和音を捉えるのではなく、和音と和音との連結によって音楽を創るという発想が支配的となった。

その後、和音同士をいかに連結すべきかという法則が模索され、ラモーによりカデンツの法則が提唱された。しかしバッハとその一族はラモーの原則になんら従っていないことが文献上から確認できる。こうして、フランスとドイツの和声法は、ラモー以後二分されてゆく。

古典派16世紀後半から19世紀初頭)の時代になると、カデンツの法則にのっとった和音の連結が至上のものとされるようになった。

[編集] 和声学の種類

  • 古典的和声
  • 近代和声
  • ポピュラー和声

[編集] 古典的和声

和声学の基礎は、16世紀ヨーロッパに端を発した機能和声であり、クラシック音楽における古典派の音楽はこれに基づいている。和音の連結のみならず、対位法の影響を大きく受けている。和音を混声四部合唱による構成と見なし、その各声部の旋律的な独立性も重要視されているのが、この時代の和声の特徴である。また、この時代の和声では、声部の導き方も非常に重要視されているのも大きな特徴である。たとえば、導音は主音に解決し、和音の第7音、第9音、第11音、第13音は予備されたり特定の和声音に解決したりする。このような、各声部の独立性や動きに重点をおいて作曲する方法を声部の書法(英 part writing)という。

[編集] 和音の機能

譜例:和音記号(和音の下) 和音の上はコードネーム(参考)である。
譜例:和音記号(和音の下) 和音の上はコードネーム(参考)である。

和音記号でIの機能をトニカ(またはトニック)、Vの機能をドミナント、IVの機能をサブドミナントという。

トニカ 
Tと略記する。和声の中心となる機能である。この和音が鳴らされるとき、「落ち着き」「解放」「解決」「弛緩」といった印象を与える。「自宅」のイメージである。楽曲の最後はTで終わる。Iのほか、VIもIの代理の時、Tの機能を持つ(偽終止という)。IIIもTの機能を持つことがある。
代理和音とは、ある和音の代わりに使われる和音で、似た響きを持ち、ほぼ同じ機能を持つ和音のことである。代理和音は、元の和音の3度上、または3度下の和音がよく使われる。なぜなら、3度関係にある和音は三和音の構成音3音の内2音が同じだからである(3度関係にある2和音の、下の和音の第3音は上の和音の根音に、第5音は第3音に一致するのである)。
譜例:各機能の和音と代理和音
譜例:各機能の和音と代理和音
ドミナント
Dと略記する。Tの5度上の和音であり、Tとは対照的に、「緊張」した印象を与える。「外出先」のイメージである。Tに移行しようとする力が強い(トニカに移行するように緊張が解ける方向で移行することを解決と呼ぶ)。Vに第7音を加えてV7の和音で現れることが多い。また、IIIやVIIもVの代理の時、Dの機能を持つ。
サブドミナント
Sと略記する。Tの4度上、すなわち5度下の和音である。Dほど強くないが、Tに比べれば「緊張」した印象を与える。「発展」「外向的」な印象が強い。Dに移行するか、Tに解決する。IIは、IVとともに非常によく使われるSである(ただし、IIはTには移行しない)。また、VIがIVの代理和音としてSの機能を持つことがある。Tの5度下であるので、Dとは逆方向の和音であると考えられる。いいかえると、SのDはTであるという考えが成り立つ。また、教会音楽などではいったんTに解決した後、再びIVに移行しIに戻るという技法が良く使われる(変終止、アーメン終止などと呼ばれる)。
各機能の関係
各機能の関係
ドッペルドミナント
ドッペルとはドイツ語でダブルのことであるから、ドミナントのドミナントである。VのVであって(ドレミファソ、ソラシドレ)IIに相当する。このことから、Dに移行するIIの和音をDへのドミナントと考えることもできる(この場合、IIの第三音(ハ長調ならファの音)が半音あがることが多い。つまりVをIとして考え、それに対するVという考え方なのでIIの第三音が半音あがるのである)。同様に、Dに移行するIVをIIの代理和音とする理論書もある。一般にはドッペルドミナントの機能とSとは同一視される。

このように、SのドミナントはTであり、DのドミナントがSであるので、T、D、Sは正三角形を成すことになる。

[編集] カデンツ

機能和声においては、Tに戻ることでひと段落となる。言い換えると、和音の移り変わりは、Tから他の機能に移行して、またTに戻るまでがひとまとまりである。このひとまとまりをカデンツという。

機能和声においてDは、Tへ移行する力が強いので、Sには移行しないのが原則である。TとSはいずれの機能にも移行する。このことを考えると、カデンツは、

  • T→D→T
  • T→S→D→T
  • T→S→T

の3種のいずれかとなる。

もしも、DからSへの進行を考慮に入れるならば、上記に

  • T→D→S→T

のカデンツが加わることとなる。実際の音楽においては、他のカデンツに比べて少ないながら、随所に見いだすことができる。

[編集] 進行

「進行」とは、ある和音からある和音に移行することである。

古典的な和声学において、和音記号ごとに可能な進行を考えると、次のようになる。

  1. I は、すべての三和音とV7に進行することができる。
  2. II は、V(7)にのみ進行することができる。
  3. TのIIIは、IかVI→III→IVという進行の中でのみ使われる。DのIIIはTのIかVIに進行する。
  4. IVは、I、II(7)、V(7)に進行する。
  5. V(7)は、TのIかVIに進行する。
  6. TのVIは、Iを除くすべての三和とV7に進行することができる。SのVIは、Iに進行する。
  7. VIIは、TのIかVIに進行する。

(以上の規則はあくまで原則であり、絶対的なものではない。転調進行を初めとした様々な例外規則が存在するうえ、実曲中では無視されることもある)

V7以外の7の和音は、その和音の第7音を前の和音が構成音として持っていて、次の和音がその7音を構成音として持っているか第7音の2度下の音を構成音として持っていれば、三和音の代わりに使うことができることが多い。

[編集] 声部

古典的な和声学では、和音の進行にあたって各音を構成するパートの動きが重要であると考える。このため、和声学の実習においては、混声四部合唱編成、すなわち、ソプラノアルトテノールバスの4声部を使用する。これを四声体という。これらの4声部の動きと、それら相互の関係がスムーズであることが求められる。

  1. ある2つのパートの動きが、同方向であるとき、平行という。逆方向であるとき、反行という。(定義)
  2. 各パートは、それぞれの声域の中で動く。すなわち、ソプラノは中央ハから、アルトはその下のから、テノールは中央ハオクターブ下から、それぞれ2オクターブ弱(1オクターブと長6度)の音域で動き、バスは、中央ハのすぐ上のホから2オクターブ下のホまでの音域で動くように書かれる。(和声学における一般的な規則)
  3. 各パートは、離れすぎない。隣り合う各パートの音程はオクターブまでである。ただし、テノールとバスは1オクターブと完全5度までである。また、上のパートが下のパートより下がることは、避けられる。(和声学における一般的な規則。実曲中では例外あり)

[編集] 限定進行

各パートの動きの中で、この音はこの音に進行しなければならないとするものが古典的な和声学にはある。主なものは次の通りである。なお、あくまで原則であり、例外規則や補則も存在するし、実曲中では無視されることもある。

  1. V(7)の第3音は、Tに進行するとき、2度上行しなければならない。
  2. V7の場合、第7音は2度下行しなければならない。
  3. 7の和音、9の和音の第7音や9の和音の第9音は、次の和音に進行するとき、2度下行する(解決という)か、同じ音に留め置かれる。
  4. V7を除く7の和音、9の和音の第7音、第9音は、前の和音の同じ音から留め置かれる。これを予備という。したがって、そのような音を持たない和音から7の和音、9の和音に進行できない。

[編集] 禁則

古典的な和声学で、避けるべき、また禁止とされる動きは数多くあるが、重要なものは次の2つである。

[編集] 連続1(8)度

ある2つのパートが、連続する2つの和音の間で、続けて完全1度または完全8度になることを連続1(8)度といい、禁止される(このような進行は実際の音楽ではよく見かけるので不思議に思われるが、和声的に「異なる2つのパート」であるとき禁止されるのであって、和声的にひとつのパートと考えられるときには問題とならない)。したがって、限定進行をする音は、基本的には同時に2パートで鳴らすことはできない(限定進行をすると連続1(8)度になるため)。

[編集] 平行5度

ある2つのパートが、連続する2つの和音の間で、続けて5度になっていて、しかも平行して完全5度に到達することを、平行5度といい、禁止される(実曲中では一部例外あり)。反行である場合、また、後続音程が完全5度以外の5度である場合には、平行5度と呼ばず、問題とならない。

[編集] 課題実習法

和声の学習にあたっては、多く課題の実習を行う。四声体の内1声部を与えられて、残り3声部を埋めて完成するもので、ソプラノもしくはバスが与えられるのが普通である。ソプラノが与えられるものをソプラノ課題、バスが与えられるものをバス課題という。

[編集] 近代和声

[編集] 前期ロマン派の和声

前期ロマン派19世紀中盤)、つまりフレデリック・ショパンフランツ・リストロベルト・シューマン等が活躍した時代には、遠隔調への頻繁な内部転調が好んで用いられるようになった。減七の和音や、ポピュラー音楽でいうところのテンション・ノートが多く用いられるようになった。

[編集] 後期ロマン派の和声

後期ロマン派19世紀末期)、つまりトリスタン和音を媒介したリヒャルト・ワーグナーやその後継者であるアントン・ブルックナーグスタフ・マーラーリヒャルト・シュトラウス等が活躍した時代には、内部転調が頻繁となって調性感が希薄となり、音の跳躍進行が頻繁になり、リズム感が薄れ、ついには調性を感じられなくなった。16世紀ヨーロッパに端を発した調性はこうして崩壊した。

[編集] 印象派の和声

印象派19世紀末期~20世紀初頭)になると、C. A. ドビュッシー旋法(モード)の手法を導入した。教会旋法をより発展した形で用いたり、全音音階といったある法則性に基づく音階を創作し、旋律や和音をその音階を用いて構成するという手法を用いた。俗に色彩和声と言われる。

[編集] 現代の和声

現代(ここでは20世紀初頭~現在21世紀)においては、調性が崩壊した無調の音楽が出現している。手法の面において様々な試みがなされていて、例えば、複調、多調、多旋法、12音技法、音列作法、雑音微分音や非平均律などが挙げられる。これらは必ずしも和声の手法のみを指すものではなく、実際の楽曲では対位法や非対位法・非機能和声法・色彩和声法等が融合している。それぞれの手法・楽曲にはその場その場の和声法が存在しており、その理論を統一して語ることは極めて困難である。またこれらを総合して音響作曲法とも言われる。直接の始まりは調性崩壊からと言われ、また電子音楽の影響を多分に受けている。

[編集] ポピュラー和声

[編集] 狭義の機能和声によるもの

[編集] 和音

前述のクラシック古典派の和声の規則・法則を捉え直したり、解釈を拡張したりして、ポピュラー音楽でも広く機能和声が用いられている。

クラシックの理論では三和音 triad が単位であったが、ポピュラー音楽の理論では四和音 four notes chord が単位となる(ほとんど三和音ばかりのポピュラー音楽も存在するが、ここで説明する和音の第7音または第6音が省略されたものと捉えることができる。つまり理論的にはまったく同じである)。

ポピュラー音楽の理論で主として扱う四和音には次の種類がある。

  • セブンス・コード seventh chord
  • シックス・コード sixth chord

和音の構成音(和声音)は、セブンス・コードではRoot、3rd、5th、7thであり、シックス・コードではRoot、3rd、5th、6thである。コードを書き表すとき、8th未満の数で書き表される音はコード・ノートchord note(和声音)であり、8thを超える数で書き表される音はテンション・ノート tension note である。

ダイアトニック・コード diationic chord 
長音階または短音階の構成音からなるコード。

長調のダイアトニック・コード

コード I△7
I6
II-7
II-6
III-7 IV△7
IV6
V7 VI-7 VII-7(♭5)
機能 T S T S D T D

短調のダイアトニック・コード

1. 自然短音階 natural minor scale 上のダイアトニック・コード

コード I-7 II-7(♭5) III△7
III6
IV-7
IV-6
V-7 VI△7
VI6
VII7
機能 T SM T SM D SM SM

2. 和声的短音階 harmonic minor scale 上のダイアトニック・コード

コード I-△7 II-7(♭5) III△7+5 IV-7
IV-6
V7 VI△7
VI6
VIIO7
機能 T SM × SM D SM D

3. 旋律的短音階 melodic minor scale 上のダイアトニック・コード

コード I-△7
I-6
II-7
II-6
III△7+5 IV7 V7 VI-7(♭5) VII-7(♭5)
機能 T S × S D T D

※一般的な機能
T: トニック tonic
S: サブドミナント subdominant
SM: サブドミナント・マイナー subdominant minor
D: ドミナント dominant
×: 響きが奇異なためオーソドックスなスタイルでは使用されない。

ノン・ダイアトニック・コード non diationic chord 
ダイアトニック・コード以外のコード。

長調のノン・ダイアトニック・コード

コード 機能 備考
I7 T I△7の第7音がブルー・ノートに転じたもの。
#IV-7(♭5) T I△7またはI6にLydianスケールを適用してフレーズを作ることがある。このときのLydianスケールの第4音(#iv)をルートにした和音。
II7 D V7と同じトライトーンを持つ、減5度上の調からの借用和音。
IV7 S IV△7の第7音がブルー・ノートに転じたもの。
VII7 S IV7と同じトライトーンを持つ和音。
#IV-7(♭5) S IV△7のルートが半音上げられた和音。
II△7 SM 短調のII-7(♭5)のルートが半音下がった形。クラシックでいうナポリの六の和音II-(♭5)第1転回形)のiiをルートとして表記し、第7音を付加した和音。
VI7 SM 同主調の短調のダイアトニック・コードであるVI△7の第7音がブルー・ノートに転じた和音。
VII7 SM 同主調の短調のダイアトニック・コードからの借用和音。

※ トニックの#IV-7(♭5)とサブドミナントの#IV-7(♭5)とは前後の流れで判断できる。

短調のノン・ダイアトニック・コード

コード 機能 備考
II7 D V7と同じトライトーンを持つ、減5度上の調からの借用和音。
VII7 S IV7と同じトライトーンを持つ和音。
II△7 SM II-7(♭5)のルートが半音下がった形。クラシックでいうナポリの六の和音II-(♭5)の第1転回形)のiiをルートとして表記し、第7音を付加した和音。
VI7 SM VI△7の第7音がブルー・ノートに転じた和音。


ケーデンス cadence の法則 
カデンツの法則に同じ(英語読み)。
  1. T は D、S、SM に進行しうる。
  2. D は必ず T に進行する。
  3. S は T、D、SM に進行しうる。
  4. SM は T、D に進行しうる。

※同じ機能のコードへの進行は基本的には常に可能。

以上をまとめると次のようになる。

  • T - D - T
  • T - S - T
変形として
  • T - SM - T
  • T - S - SM - T
  • T - S - D - T
変形として
  • T - SM - D - T
  • T - S - SM - T

[編集] ボイシング

クラシック音楽におけるボイシング voicing(声部の配置と導き方)は、各旋律の独立性を重視した声部の書法 part writing が主であるが、ポピュラー音楽では、ある声部に和声的な厚みを持たせるためにその声部に従属した声部を配置するというセクションの書法(英 sectional writing)も頻繁に用いられる(クラシック音楽でセクションの書法がまったく用いられないわけではないが、主ではない)。

[編集] モーダル・ハーモニー

モーダル・ハーモニー modal harmony とは、モード(教会旋法)を調として捉えて、和声を構成する技法。これは古楽復興が起こった20世紀前半から創められた。

[編集] 関連記事

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