急行形車両
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急行形車両(きゅうこうかたしゃりょう、きゅうこうがたしゃりょう)とは、国鉄が定めた鉄道車両の一つ。
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[編集] 概要
東海道線普通列車の電車化に際して投入された80系電車(湘南電車)は、準急列車にも投入され、動力分散型車両の特性を生かした高速運転で好評を博した。しかし、80系電車はもともと普通列車用であり、扉付近にロングシートがあるなど、必ずしも優等列車にふさわしい客室設備を持っていた車両ではなかった。
そこで、優等列車への充当にふさわしい設備を持った車両が企画された。当初は準急形と呼ばれたが、後に急行列車にも充当されるようになったため、急行形車両と呼ばれるようになった。
まず、気動車では1956年にキハ55系気動車が、電車でも1958年に153系電車が登場した。当初は準急列車に投入されたが、その居住性の良さ、動力分散式による高速運転が評価され、やがて急行列車へも使用されるようになった。
また、修学旅行列車用として、主にこれを専門とする電車・気動車についても、運転性能が急行形とほぼ同じであり、多客時に臨時急行列車として運用されていたため、広い意味で急行形に含まれる。
客車については、いわゆる「急行形」車両が存在しなかったが、1969年登場の12系客車については、急行形とほぼ同等の車内設備を持っており、急行形に分類される。
急行列車が1970年代より減少したことにより、急行形車両の増備は打ち切られた。また、製造された車両も普通列車や快速列車に充当されることが増え始めた。例として、宇野線の宇高連絡船連絡快速列車や大阪地区の新快速では一時期この車種である153系電車が充当されている。
しかし、こういった普通列車や快速列車への運用でも「デッキ付き2扉ゆえ乗降に手間取る」、「向かい合わせのクロスシートが時代に合わない」などの理由で、次第に他形式(主に近郊形)に置き換えられ淘汰されるようになった。
2005年現在、老朽化もあって多くの車両が廃車になっている。2004年までに直流専用の電車はほとんど廃車され、2005年現在交直両用車両や気動車は、乗降の激しくない場所で使用されることから、コスト的な問題があるため比較的多く残っている。しかし、製造当初の内装のままの車両はほとんど残っておらず、普通列車に使用されることが前提となっていっることからデッキ撤去・一部ロングシート化等の改修を施されたものがほとんどである。その為、本来の急行に使われているのは、一部のイベント列車を除けば、キハ58系気動車使用の芸備線急行「みよし」のみである。
また、急行形車両の置き換えは、特急に格上げした際には特急形車両を、快速・普通に格下げされた場合については近郊形車両や一般形車両を充当することから、「急行形」をうたった後継車は製造されていない。唯一の例外は、釜石線・山田線急行置き換え用に製造されたキハ110形くらいであるが、これも一般形気動車と共通設計(内装のみ急行仕様)であるので、急行形車両という概念からは外れていると考えるべきだろう。
[編集] 車内設備
旧国鉄の構造の定義としては「客室が出入口と仕切られ、横型腰掛(いわゆるクロスシート)を備え、長距離の運用に適した性能を有する車両形式のもの」とされる。
普通車の設備は、デッキ付きの片開き2扉で座席がすべて固定クロスシート(いわゆるボックスシート)であり、従来からあった客車をほぼ踏襲している。
また、グリーン車については、回転式クロスシートとしている。当初「準急形」として新製された153系電車や55系気動車等は非リクライニング式であったが、急行に運用される編成については、一部の例を除けば従来のいわゆる特別二等車と同様の設備であるリクライニング機構付きの回転式クロスシートを採用している。
従来客車列車で連結されていた食堂車は、急行形電車においては電車化による所要時間の短縮に伴い、全室の本格的な食堂車ではなく、普通座席とビュッフェ室の合造車両とされた。急行形気動車では需要の兼ね合いと、多層建て列車を組む運用上の兼ね合いからビュッフェ室付き車両ですら製造されていない。
なお、変わり種としては、電車については車内販売準備室を兼ねた売店を設置した車両も少数製造された。
[編集] 私鉄における事例
私鉄の場合、有料急行を運転している事で専用車両を保有している私鉄もあるが、たいていの場合には特急形車両に近い装備を持っている車両がほとんどである。
ちなみに、秩父鉄道の電車急行「秩父路」に使用されていた3000形電車や富士急行の「フジサン特急」は、元々東日本旅客鉄道が保有していたこのタイプの電車である165系電車を改修・改造したものである(ただし、フジサン特急は国鉄時代にジョイフルトレイン、パノラマエクスプレスアルプスに改造されている)。
変わったところでは、大手私鉄のうち路線延長が長く、都市圏輸送・観光輸送に特化した列車を運行している近畿日本鉄道の場合、特急形車両と通勤形車両の中間に位置する5200系を急行形車両と位置付けているが、この車両の登場後、JRグループ各社(東日本旅客鉄道(JR東日本)を除く)の新型近郊形電車の多くが同様の配置の転換式クロスシートを採用するようになったため近郊形車両に括られる事が多い。
また、有料急行列車を2006年3月まで運行していた東武鉄道の場合、ほぼ特急形車両に近い内装・性能を有する300・350系電車・1800系電車が充当されていたが、これについては2006年3月のダイヤ改正に伴う種別変更により列車種別上特別急行列車に一元化されたことを受けて、専用車両を用いる急行列車は消滅した。