臨時列車
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臨時列車(りんじれっしゃ)とは、需要に応じて運転期日が随時定められる、単発的な列車である。原則として毎日運転される定期列車を補完する目的で運行される。
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[編集] 概要
時期による需要の変動に対応し、定期列車で捌ききれない旅客や貨物を輸送するために臨時に運行される列車(増発列車)や移動することより乗車そのものが目的となるような観光列車と、宗教団体やパッケージツアー、修学旅行など、大口の団体によって貸し切られて臨時に運行される団体専用列車とに大きく分けることができる。ただし、単に「臨時列車」という場合には前者を指す事が多い。
旅客列車では、主に年末年始、ゴールデンウィーク、お盆を中心とした夏休みなどの長期休暇の時期、あるいは大きなイベント(花火大会、プロ野球やJリーグの試合など)開催時といった旅客が集中する時期に運転される。ただし団体列車、特に修学旅行列車の場合は輸送力に余裕のある閑散期に運転されることが多い。運行する鉄道事業者はJRが中心だが、阪神電気鉄道や京阪電気鉄道などでも見られる。
定期列車が臨時に運転区間を延長する場合、延長区間については臨時列車の扱いとなる。また、お召し列車も一種の臨時列車である。
最近は臨時列車と言うかわりに語感が柔らかい増発列車を使うことも多い。東日本旅客鉄道・九州旅客鉄道の発表や時刻表の見出しでは、1990年頃から増発列車という表現になっている。
[編集] 運行形態
臨時列車は基本的に線路が空いている時間を縫って運行される。このため一般には同一区間の定期列車よりも表定速度の遅い(所要時間の長い)列車が多い。また、定期列車とは車両や編成内容が異なる場合もある。
[編集] 予定臨時列車
ダイヤを作成する時点で定期列車と同様に運行時刻を定めている列車のことを予定臨時列車といい、特にある季節において定期的に運転される列車を季節列車と呼ぶ。需要の変動が前もって予想可能な場合に設定される。あらかじめ優等列車の退避や単線区間でのすれ違いなどを考慮してあるため、所要時間が延びやすい問題を解消できるが、線路輸送容量に余裕の無い区間では予定臨時列車の設定により定期列車の退避やすれ違い待ちが増えるなどの欠点がある。予定列車の運転日以外には同じダイヤで団体列車などが運行される場合もある。
国鉄時代には列車番号のうち6000・7000番台を季節列車、8000・9000番台を臨時列車に割り当てていたが、民営化後は列車番号の管理方法が変更されたことから現在6000・7000番台は使用されていない。
[編集] 運転期日
曜日や沿線でのイベントなどを考慮し、数ヵ月後まで運行計画が立てられる。JR の臨時列車の運行計画は1月・5月・8月・10月の年4回、全社一斉に発表される。
通年にわたり定期的に運転される臨時列車も存在する。例えば寝台特急「カシオペア」や「トワイライトエクスプレス」では所定の編成が少ないため定期列車として運行できず、曜日を指定して運行している。
中には毎日運転されていながら臨時扱いという列車もある。代表的な例として「リゾートしらかみ」が挙げられるほか、旅客需要を調べるため長期的に臨時列車を毎日運転する場合がある。また、営業列車ではないが工事列車の回送や資材を運ぶ配給車などが「毎日運転」の臨時列車として多数設定されている。現場の判断で弾力的に運転、運休が変更できるほか、日によって運転方向が異なるといった条件を吸収するのに都合がよいためである。一方、平日と休日などで異なるダイヤを組む場合には、平日のみ運行される列車等についても定期列車に分類する。
[編集] 運行経路・形態
海水浴やスキーのシーズン等、通常は旅客の流動が少ない経路・区間であっても時期によって大きな需要が発生する場合があり、定期列車では見られない経路を走行する臨時列車も運行される(シュプール号など)。
また、時代背景やイベント性によってダイヤ設定される臨時列車も少なくない。その一例として1967年~1972年、「ことぶき周遊券」を利用する新婚旅行客用として大阪駅~宮崎駅間を(一等寝台車→A寝台車)のみで組成された臨時急行「ことぶき」が運転されていた。観光地として(取り分け、新婚旅行先としての)宮崎県への旅行客が多かった時代とされている。
[編集] レジャーと臨時列車
1960年代後半、好景気と所得倍増計画などによりレジャーの多様化が進み、以前にも増してレジャーの多様化が進んだ。その結果、国鉄も季節ごとのレジャーに対応した臨時列車のダイヤ設定を行った経緯がある。
[編集] 海水浴(夏レジャー)と臨時列車
夏のレジャーである臨時列車として、通常の愛称の臨時列車とは別に次の愛称を使う列車が多数存在した。
- 「●◆ビーチ」や「●◆マリン」などの海をイメージさせる愛称。(快速列車などに多く設定されていた)
- 「マリンブルーくじらなみ号」は、その好例である。
- 夏の臨時列車の拡大という意味合いでは、以前房総地区で導入されていた夏ダイヤの存在がある。毎年夏休みが始まる7月20日前後から8月にかけては、海水浴客が集中するシーズンで通常期に比較すると莫大な乗客が集中するために臨時列車を多数設定した特別ダイヤが設定されていた。特急列車の増発は元より、普段は君津・大原までしか入線しない総武線快速の113系電車を快速「青い海」「白い砂」として内房線の館山・千倉、外房線の安房鴨川まで延長運転を行っていた。これらの列車にはヘッドマークも取り付けられており、千葉鉄道管理局の意気込みも感じられた。房総地区夏ダイヤは、高速バスの普及や東京湾アクアラインの開通などによる乗客動向の変化により、現在では行われていない。
- 東京湾を挟んだ対岸にある三浦半島への海水浴アクセスには、京浜急行電鉄が、やはり夏シーズンに着座整理券を必要とする海水浴臨時特急列車を運転していた。
[編集] スキー・スケート(冬レジャー)と臨時列車
夏のレジャーと対極な位置に存在していたのがスキー・スケートであり、1970年前後からスキー・スケート列車が多数運転された、これらには愛称のつけ方に特徴があった。
- 「●◆銀嶺」(●◆には定期列車名)
- 全車指定席もしくは指定席主体の臨時特急・急行列車。(「あさま銀嶺」「あずさ銀嶺」などが存在した)
- 「●◆スキー(スケート)」(●◆には定期列車名もしく行先)
- 全車自由席もしくは自由席主体の臨時急行・快速列車。(「ざおうスキー」「小出スキー」などが存在した)
- オリジナル列車名(「新雪」など)
- 「シュプール号」
- 旧国鉄が1986年に冬のスキー客輸送のため、北海道と四国を除く全国の主要都市から各地のスキー場への運行を共通キャンペーン的に取扱って運行を開始したスキー臨時列車。列車名称は「シュプール●◆(●◆には目的スキー場の地域名)」で統一していた。
- スキーバスに対抗すべく特急車両を使用し、渋滞知らずをセールスポイントに大々的なPRを行い、列車種別は「急行」扱いながら運賃込みの格安パック料金を設定、目的地からゲレンデまでは「シュプールバス」が接続する、等トータルでコーディネートされた企画列車でもあった。
- 2001年度にはJR東日本がスポーツ用品販売のアルペンとタイアップし列車名称を「アルペン●◆」と変更して運行したが、スキー人口の減少に伴い利用客が減少したことからその後は減少気味。翌2002年度には大阪~黒姫間の運転のみとなり、2006年度から廃止された。
スキー臨時列車は、バスツアーの増加やスキー人口の減少により壊滅的になったが、JR東日本エリアでは上越新幹線、長野新幹線開通でスキー場への日帰りをセールスポイントにシフトが好調であり(往復割引きっぷなども多数設定されいる)、さらには直営のGALA湯沢、ならびに直結するガーラ湯沢駅の設置。また、冬シーズンには新幹線の臨時列車を増発することで対処している。
[編集] リゾートと臨時列車
所謂リゾート地への臨時列車を意識して増発していたのは、国際的避暑地である軽井沢の存在を外すわけにはいかない。特急「あさま」急行の「信州・妙高」のみならずに1968年7月20日日本初の季節特急「そよかぜ」を東京~中軽井沢間で運転を開始。また、高級別荘地ということで全車グリーン車の旧型客車のみで組成された「軽井沢グリーン」なる急行列車も存在した。
しかし、リゾートと鉄道のコラボレーションという形でトータルでのイメージアップに成功したのは1985年に登場した「アルファコンチネンタルエクスプレス」である。列車の運行は国鉄だが、車内の施設運用は、これを用いた臨時列車の主な目的地であった「アルファリゾート・トマム」(トマム駅隣接)が担当。在来車を改造して、アメニティを大幅に改善し独自の空間は爆発的なヒットとなる。その後の「フラノエクスプレス」や、分割民営化でJR北海道に経営が変わってからも「トマム・サホロエクスプレス」「ニセコエクスプレス」「クリスタルエクスプレス トマム&サホロ」 等もヒットし、リゾートと臨時列車を融合させることに成功させた。
同時にこのことは、お座敷列車(和風客車)などで団体列車的存在でなかったジョイフルトレインの地位を大幅に向上させたと共にJR各社にも大きな影響を与えた。今日では、ほぼ定期的に運転される臨時列車も少なくなく、リゾートが臨時列車に与えた物は非常に大きいと言える。