多層建て列車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
多層建て列車(たそうだてれっしゃ)とは、ある列車が始発駅から終着駅まで運転する間に、異なる始発駅の列車あるいは異なる終着駅の列車と相互に分割併合しながら運転する列車をいう。建物の階層に例えて、2つの列車に分割されるものを2階建て、3つに分割されるものを3階建てのように呼ぶ。よく勘違いされるが、Maxのように車両自体が2階建てであるものは多層建て列車とは全く異なるものである。
目次 |
[編集] 長所及び短所
多層建て列車の長所としては、次のようなものがある。
- 支線区へ乗換えなしで直通運転が実施できるため、乗客にとって乗換えの手間、時間を節約できる。
- 線路容量に余裕がない場合、複数の列車を統合することにより線路容量の有効活用を図ることができる。
- 前項と同じ理由で、乗務員の効率的運用を図ることができる。
- 本線と支線で輸送量に差がある場合、編成の長さを増減することで輸送力の適正化を図ることができる。
一方、次のような短所もある。
- 列車系統と列車ダイヤの整合が困難。本線と支線区の有効時間帯を合わせるのが困難である。
- 分割併合のための構内作業が(客車列車では特に)複雑となる。また自動解結装置・自動連結装置を有していない車両については、連結や解結のための要員が必要になる。
- 分割併合を行う駅で停車時間が増える。
- 分割併合を行う駅では誘導信号等の設備が必要となる。
- 異常時の運転手配が複雑。併結する列車が遅れた場合、その遅れが正常運転している列車にも波及してしまう。また、単独運転する場合は、乗務員の手配が必要となる(すなわち、運転整理面において不利になる)。
- 行先の違う車両を併結するため、駅や車内での旅客への案内が煩雑になり、乗客の車両乗り間違えの虞れがある。
- 運転台付きの車両が増えるため、乗車定員が減る。
国鉄時代には、7~8列車が関係するような大規模なもの(急行「陸中」など)も見られたが、新幹線の開業により接続駅からの乗換え連絡に改められるなどして、その数を減らしていった。
JR発足後は、一転して分割併合運用を前提とした装備を持つ車両が多数新造されるようになり、ミニ新幹線による新在直通など積極的に支線区への直通を実施する例が見られる。
[編集] 多層建て列車の例
以下の()内の区間は複数の列車を併結運転している区間。
[編集] 2階建て列車
2つの列車を併結運転している例
[編集] JR
- 列車名のあるものについて示す。
- はやて・こまち、やまびこ・こまち:(東北新幹線:東京駅~盛岡駅間)
- Maxやまびこ・つばさ:(東北新幹線:東京駅~福島駅間)
- Maxとき・Maxたにがわ:(上越新幹線:東京駅~越後湯沢駅間)
- はやぶさ・富士:(東海道本線・山陽本線:東京駅~門司駅間)
- なは・あかつき:(東海道本線・山陽本線・鹿児島本線:京都駅~鳥栖駅間)
- サンライズ瀬戸・サンライズ出雲:(東海道本線・山陽本線:東京駅~岡山駅間)
- 深浦:(五能線:鰺ヶ沢駅~川部駅間)
- みすず:(信越本線・篠ノ井線:長野駅~松本駅間)
- 草津・水上、あかぎ:(東北本線・高崎線・上越線:上野駅~新前橋駅間)
- 成田エクスプレス:(総武本線・成田線:東京駅~成田空港駅間)
- しおさい・あやめ:(総武本線:東京駅~佐倉駅間)
- 踊り子:(東海道本線:東京駅~熱海駅間)
- ホリデー快速おくたま・あきがわ:(中央本線・青梅線:新宿駅~拝島駅間)
- ひだ:(高山本線:岐阜駅~高山駅間)
- しらさぎ:(北陸本線:名古屋駅~金沢駅間)
- サンダーバード:(東海道本線・湖西線・北陸本線:大阪駅~金沢駅間)
- たんば・まいづる、はしだて・まいづる、きのさき・まいづる:(山陰本線:京都駅~綾部駅間)
- タンゴディスカバリー:(山陰本線・舞鶴線:京都駅~西舞鶴駅間)
- 関空快速・紀州路快速(大阪環状線・阪和線:京橋駅・天王寺駅~日根野駅間)
- しおかぜ・いしづち:(予讃線:宇多津駅~松山駅・宇和島駅間)
- 南風・しまんと:(予讃線・土讃線:宇多津駅~高知駅間)
- 南風・うずしお:(宇野線・本四備讃線:岡山駅~宇多津駅間)
- ムーンライト高知・ムーンライト松山:(東海道本線・山陽本線・宇野線・本四備讃線・予讃線:京都駅~多度津駅間)
- 現在運転設定のないムーンライト山陽と京都駅~岡山駅間で併結する3階建てもあった。
[編集] 私鉄
[編集] 3階建て列車
3つの列車を併結運転している例
- JR
[編集] 分割の案内例
分割する際の乗り間違いを防ぐために以下の方法を用いるところもある。
- 乗車位置に列車名や行き先を明記する。
- 号車番号をドア上など目立つところに貼り付け、その番号を用いて案内する。
- 客室にも列車名や行き先を表示する。
- 側面の方向幕に「この車両は○○行き」を追記する。
- ホームに「分割案内板」などの切り離し位置を示す看板を用意する。
- 車両の座席や吊革などを行き先別に別の色にする。
- 京王帝都電鉄(現:京王電鉄)が採用した方法で、新宿発の特急で高尾山口・京王八王子の各方面に分割される列車では、八王子行きの編成の吊革の色を変えている。一括放送でも「吊革の色が白の車両は高尾山口行き」など、的確な案内が可能。
- 車両のアナウンスを、内容に応じて流す車両・流さない車両を切り替える(編成別放送)。
- 小田急電鉄などで採用されていた方法で、小田急の場合1000形のうち8両固定・10両固定の編成・2000形以外の通勤車全車両に「分割放送装置」が設置されている。全車一斉・前編成・後編成と放送する対象車両を選択可能。近年は活用されておらず、号車番号での案内になっている。ただし、3000形の近年の増備車では、液晶ディスプレイにより視覚的な案内を行なっており、分かりやすい。
- 京浜急行電鉄では品川方面行列車と羽田空港行列車、三崎口方面行列車と浦賀・新逗子方面行列車が併結されている品川もしくは京急川崎-金沢文庫間で分割放送装置を活用している。
- 国鉄211系電車では、車両個別に放送する対象車両を選択可能になっていたが、高崎線・東北線(宇都宮線)では幌をつなぐことで、隣の編成の放送が聞こえてしまうことがあることから、あまり活用されていなかった。
[編集] 参考
[編集] 1968年10月改正の多層建て列車
仙台~秋田 急行「陸中」の編成
[編集] 現在の増解結列車
多層建て列車に似たケースとして、1つの列車の一部編成を途中駅で増結または解結することが挙げられるが、この場合は多層建て列車とはみなされない。「一部編成の増解結」も輸送力の調整法としてよく行われており、1960~80年代の東北地方の急行列車では多層建て列車と組み合わせての車両運用もよく見られた。詳しくは増解結の項を参照。
2007年3月現在、JRの特急列車で、多層建て列車を組み、かつ一部編成の増解結を行う列車は、宇和島駅発着の「しおかぜ」及び「みどり23号」のみである。
- 宇和島「しおかぜ」:下り列車の場合、宇多津駅で「いしづち」と併結し、「しおかぜ」5両・「いしづち」2両の7両編成を組むが、松山駅で「しおかぜ」の後ろ1両と「いしづち」を切り離し、残った4両で宇和島駅に向かう。上りはこの逆パターンになるが、1本のみ宇和島駅を「しおかぜ・いしづち」の7両編成で発車する。
- 「みどり23号」:この列車は博多駅発車時点で「かもめ41号」と併結しているが、肥前山口駅で「かもめ」と分かれて8両で佐世保線に入る。その後、早岐駅で前4両を切り離し、後ろ4両で終点の佐世保駅に向かう(前の車両を切り離すのは、早岐駅でスイッチバックを行うため)。「かもめ・みどり・ハウステンボス」の3階建て列車の変形バージョンと言える。なお、「みどり」が早岐駅での切り離しを始めたのは1996年3月16日で(当時は21号で実施)、2000年3月11日より「かもめ」と併結するようになった。2007年3月18日より対象列車が23号に変更された。
カテゴリ: 鉄道関連のスタブ項目 | 鉄道 | 鉄道運転業務