技術者
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技術者(ぎじゅつしゃ)とは、基礎となる学問や知識を具体的なものづくりやプロセス、システムの開発に応用する専門家のこと。または、数学・物理などの理学や、機械・電子・情報などの工学分野の知識を基礎とし、有用な物や工程・システムを設計・開発する人のこと。エンジニアとも呼ばれる。
20世紀後半以降、物のなかには具体的な形をもつハードウェアだけでなく、それを使うためのソフトウェアが含まれるようになった。また、作ったものを正しく動作させるための運用や保守に関わる職種も技術者(エンジニア)に含まれる。
技師や技士とも呼ぶことがあるが、これらは役職名や資格名を指すことが多い。
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[編集] 技術者の定義と実情
この項目では、主に技術者と似た分野を扱う職務との差異から、技術者の定義と実情を浮き彫りにする。
[編集] 技術者と技能者
技術者に類似した概念に技能者がある。技能者とは、機械の組み立てや精密加工などの、ものづくりの実作業を担当する者のことである。専門知識を応用して成果を出すことは求められない反面、極めて高度な技能が要求される。これは伝統的な職人の概念に近い。技能者の国家資格に技能士がある。
但し、技術者は、試作といった作業を行う必要性から、実質的に技能者であることも求められる。優れた技術者は、同時に優れた技能者であることが多い。ところが、近年は少年期に電気製品の分解や修理、組み立てなどの電子工作を楽しむことが無いままに成長し、大学においてもシミュレーションしかしたことのない、技能を持たない技術者が増えてきている。
ソフトウェアの分野では、プログラマー(狭義ではコーダーという)は技能者とされ、分析や設計を担当するシステムエンジニアやプロダクトマネージャなどの職種が技術者であるとされる。一方で、プログラミングの出来ない優れたシステムエンジニアや設計の出来ないプログラマーは原理的に存在し得ない。このように、比較的新しい産業であることもあり、コンピュータ産業においては技術者と技能者との差異が明確ではない。特に、データベースやネットワークにおける管理・運営業務を負うエンジニアは、作業自体は技能者寄りだが、大抵の場合、それぞれのシステムの設計及び開発を兼ねることが多いため、技術者としての側面が非常に強い。
[編集] 博士号と技術士
学者(学術の研究者)に授与される学位である「博士(工学)」、旧「工学博士」と、技術者の資格である技術士の違いを、土光敏夫は、次の通り説明している。
- 博士
- 科学技術の理論面での貢献をした人に与えられる称号
- 技術士
- 科学技術の応用面での貢献をした人に与えられる称号
[編集] 技術者と科学者
[編集] 技術者・学者・研究者
技術者は、産業界(主に企業)において実用的な技術を担う職務を意味する。実用的な技術とは、目安としておおよそ10年間以内に役立つような技術のことを指すことが多い。一方、研究者といった場合、実用性以前に実現性の有無すら未知の領域を探求する職務であり、技術者とは棲み分けがなされている。
技術者は主に産業界に属しているが、研究者といった場合は必ずしも属する組織が限定されない。これは、産業界で必要とされる研究と学術界で価値のある研究にも差異があるためである。更に、企業における新製品の研究開発という場合は、研究者というより高度な技術者が必要とされる傾向が強い。
学者といった場合、企業ではなく大学などの学術・教育機関に属している研究者を指すことが多い。これは、教育サービスを提供するがどうかも学者と研究者を区別する一つの基準であることを意味する。故に、産総研のような公的な学術機関の場合は、学者というより研究者と呼称される。私企業の場合、基礎研究に近い事業に関わっている場合のみ、研究者と呼称される(例:日亜化学工業 勤務時の中村修二氏)。ポスドクなどのボーダー職種が増えている。
学者の成果を技術者が汲み取るのは、論文や専門書、講義といった間接的な形であり、直接に組むことは少ない。近年では、産学連携の流れを受け、技術者と学者が共同で研究開発を行う事例が見受けられるが、この場合はお互いの職務に対する無理解から、擦れ違いが生じることも少なくない。
ヨーロッパ諸国では、研究者の方が技術者より格上であるという風潮がある。これは、もともと貴族が趣味として自然科学を探求し、先導してきた歴史背景があるためと言われている(実際、応用技術より基礎研究に対する関心が強い)。この背景が存在しないアメリカでも、社会に大きな影響力を持ち、指導者的な役割を果たす研究者は存在する。 近年では、学者(研究者)であるにもかかわらず技術的実働的作業を兼ねる 現場派 の学者(研究者)も増えてきている。
[編集] 技術者の職階
企業の一部には、日本国内外を問わず、下記の技術者の職階を有することが多い(組織によって名称や階級は一部変わる)。また旧内務省では、技師、主任技師という職階が存在していた。
- 所長(または工場長)
- 技師長(所長級技術者)
- 副所長(または副工場長)
- 主幹技師(部長級技術者)
- 部長
- 課長
- 主任技師(課長級技術者)
- 技師(係長級技術者)
[編集] 各種の技術者
[編集] 製造業一般における技術者
製造業における技術者は、職場において横断的に仕事をこなすため、明確な職名が存在しなことが多い。そのため、以下は該当資格が存在する職種を列挙するに留める。
- 電気主任技術者(資格 - 電気工作物全般を扱う技術者)
- 電気通信主任技術者(資格 - 電気通信ネットワーク全般を扱う技術者)
- 薬剤師
- 建築士
- 測量士
- 総合無線通信士(資格 - 主に船舶で使われる無線を扱う技術者)
- 情報処理技術者(狭義 - 組み込み系や電子回路設計などは製造業と親和性が高い)
[編集] サービス産業における技術者
サービス産業、つまり第三次産業の定義は曖昧かつ広範に渡る。そこで当項目では、工業・製造業関係のサービス業に従事する職種を列挙した。また、便宜的に広義の情報技術者をここに含める。
- プログラマー
- システムエンジニア
- ネットワークエンジニア
- データベースエンジニア
- プロダクトデザイナー
- CADオペレータ
- 管理栄養士(資格 - 外食産業における技術者と言える)
- 技術士(資格 - コンサルタント業で必要な場合がある)
- フィナンシャルエンジニア(金融業における技術者と言える)
- 下記のレコード・CD制作におけるエンジニア
[編集] レコード・CD 制作における技術者
レコーディングエンジニアを参照。
[編集] 技術者に関する周辺知識
[編集] 出世システムと国別の差異
技術者に対し実務家(技能者)としての能力を併せ持つことが要求されることが多い日本と異なり、欧米ではエンジニアとメカニックは明確に区別されている。基本的にエンジニアは物やシステムの開発・設計といった上流工程のみを担当し、メカニックはエンジニアの設計に従い部品の製造・組み立てといった下流工程を担当する。また日本ではメカニックの中から経験を積んだものがエンジニアになることは珍しくないが、欧米においてはメカニックがエンジニアに昇格することはほとんどないといわれている。
上記の傾向の一例として、極端な学歴社会であるアメリカ合衆国の出世システムが挙げられる。例えば、学歴が高校もしくはコミュニティ・カレッジ(日本の短期大学に近い性質の学校)卒業程度では決してメカニック(工場勤務)以上に出世することが出来ず、大学卒業程度では同様にエンジニア(開発設計)以上に出世することが殆どない。理系大学院卒の学歴でようやくリサーチャ(研究)や技術系管理職といった職務に就けるようになる。但し、理系の大学院卒であっても会社経営に関わるような職務にまで出世することは余り多くない。そのため、技術者が経営に関わりたい場合は、一般的に起業する必要がある。この傾向がアメリカのベンチャービジネス躍進の一端を担っているとされる。
(補足)アメリカの場合、就業しながらもしくは一時的に休職して大学で学び直すことが社会通念上許されているため、理工学系の修士・博士号を取ってより上の技術職を目指したり、MBAの資格を取得して、経営に関わる職務への昇格のチャンスを得るといった事例がしばしば見受けられる
一方で日本の場合は、勤務態度や仕事の成果によっては様々な出世の道が開かれており、その意味で日本型システムはアメリカ型よりもメリトクラシーの傾向が強い。この傾向によって、自動車産業に見られるように、同じ産業に数多くの大企業が存在し、切磋琢磨して世界水準の技術力を獲得する一因になっているとされる(アメリカ型は寡占状態に収束する傾向が強い)。
[編集] 技術者の初任給の国別差異
[要出典]アメリカは技術者(エンジニア)の初任給が高額である。大卒の新卒技術者(エンジニア)の初任給平均が年俸約5万ドル以上であり、現在(2007/3/23)の為替レートで約600万円であり、日本の約2倍である。
技術者(エンジニア)になる場合は、大卒以上の水準を求められることも多い。地方から関東・関西の私大に進学した場合、授業料・生活費を合わせ1千万円近くかかると推測されるが、にもかかわらず初任給が月約20万円弱では教育費対給料が割に合わないと感じる技術者(エンジニア)も多い。 そもそも大卒者技術者(エンジニア)の初任給が比較的高額なアルバイト・パートの月給とほぼ変わらないというのは諸外国と比較しても、極めて歪んだ状況であると言える。
[編集] 男女比率の格差
日本では技術者に占める男性の比率が高い。一説によれば、これは日本における男尊女卑の影響であるとされる。特に、技術者として私企業に勤める人物がノーベル賞を受賞した際、 技術者全体における女性が占める割合の少なさを指摘する論調が一時的に強まった。
顕著な男女差別の一例を挙げる。近年においては言及されることは稀だが、戦前から戦後のしばらく、「女性は初経後に理系科目に対する感受性・思考能力が欠落していく」という偏見が信じられていた。このため、女性が理系の進路を取ることが社会的に好ましいとは思われていなかった。現代においても、脳構造の性差から、女性には科学技術的思考に向いていないとする説がある。現在では、放射能研究で著名なキュリー夫人や新進気鋭の理論宇宙物理学者 リサ・ランドール博士のように、性差説の根拠は否定されている。
[編集] 技術者に対する偏見
日本人女性には、技術者を志望する者(理系学生)や技術者との交際を避ける傾向がある。これは、理系学生や技術者がおたくであるとか、研究や開発業務の中で論理的な判断や具体的な表現を求められる影響から、日常生活においても感性に乏しく議論的な会話や、そのような姿勢で人と関わろうとする傾向が強いなど、人間的に冷たいといったマイナスのステロタイプを持たれることが多いためである。実際問題、自分の専門分野を徹底的に追求していく姿勢が「オタクっぽい」と見られたり、ツールとして使われる数学や理系科目の精緻なイメージが人間味を感じさせないといった偏見を生み出している(理科離れ、おたく、情報技術を参照)。但し、理系学生におけるサブカルチャーや機械全般に対するおたくの比率が高いことは、一般的に合意が得られるところである。しかしながら、まじめな女性に技術者が好まれる傾向もあり、大半の技術者は普通どおり結婚できているため、これら偏見は恋愛経験の未熟な技術者自身の思い込みであることも少なくない。
[編集] 近年の諸傾向
近年は結婚出産をライフプランの絶対要素とする志向が薄れて、技術者の道を志す女性も増えている。東北大学の戦略はこれを踏まえている。特に、環境系やデザイン系(産業デザイン・建築など)、バイオ系(生化学・薬学など)といった学部・学科は、大学の進学先として女性に人気である。技術職は、前述のマイナスイメージから学生ないし新人のうちは女性に敬遠されることの多い。しかし、勤務を続ければ職業として比較的安定している(科学技術の知識は普遍的であることから「つぶしが利く」とされる)ため、結婚相手として特別に避けられてはいない。これは、日本の巨大企業が主に工業産業に属していることにも一因がある。また、コンピュータ産業の技術者は、良い意味でのステロタイプ(ITバブルの影響)によって人気が高い。
日本の工業が重厚長大な従来の第二次産業から、アイデアやデザインを重視する第三次産業的傾向を帯びるに比例して、社会的イメージの観点から女性が技術職に進出しやすくなりつつある。
[編集] 関連項目
- しばしば技術者の前駆となっている場合がある。
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