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サブカルチャー - Wikipedia

サブカルチャー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

サブカルチャー(subculture)

目次

[編集] 概論

用語の起源は1950年に社会学者のデヴィッド・リースマンが使用したのが最初である。意味は「主流文化に反する個人のグループ」というもの。日本では特撮、アニメ、アイドルといった、所謂オタク的趣味を指す場合が多いが、それらは元々日本の主流文化であり、高度成長期から既に一般化しているためサブカルチャーとして定義するのは言葉の意味を履き違えている可能性がある。例えば、1990年代の米国でマスコミが挙げたサブカルチャーは若者が愛したヒップホップや入れ墨だったが、今ではこれ等をサブカルチャーとして挙げる人は誰一人としていない。

ハイカルチャーが受け手側にある程度の素養・教養を要求するのに対し、サブカルチャーは必ずしも受け手を選別しない。サブカルチャーのサブとは「下位」の意であり、漫画、イラスト、アニメ、ライトノベル、ポップミュージック、ロック、娯楽映画などは大量生産・大量消費されるべき商品であり、文化的に「劣る」という含意を持っていた。その為、下位文化と訳されることもある。しかし、1990年代以降にはサブカルチャーは既にハイカルチャーやメインカルチャーと同程度の影響力を持つようになり、その定義は曖昧なものとなっている。

日本では「ハイカルチャー対サブカルチャー」という文脈においてサブカルチャーという言説が用いられているが、欧米ではむしろ、社会の支配的な文化メインカルチャー)に対する、マイノリティの文化事象を指す言葉として使われている(この用語としてはROSZAK,T,が1968年The Making of a Counter Cultureにおいて用いたのが早い用法である)。「サブ」とは、社会的マジョリティの文化・価値観から逸脱した、エスニック・マイノリティやストリートチルドレンゲイといった「下位集団」の事であり、メディア文化以外の価値観、行動様式、話し言葉など、本来の「文化」に近い意味でサブ「カルチャー」と言われる。欧米の研究では日本のサブカルチャーは、サブカルチャー研究の領域というよりも、むしろ「メディア文化」研究の領域に含まれる。

この様に日本におけるサブカルチャーと海外、特に英米におけるサブカルチャーはその意味する所が大きく異なる。これはカルチュラル・スタディーズが切実な問題であったアメリカやイギリスとは異なり、日本では社会学や民族学の一環として国内のマイノリティが研究対象となる事がほとんど無かった為である。少なくとも、英米においてサブカルチャー研究が盛んであった1960年代1970年代に、日本で同様の研究が日本国内に対して行われる事はなかった。サブカルチャーという概念が日本に輸入されるのは1980年代になってから、しかも本来の社会学民族学を離れての事である。民俗学では柳田國男の「山の民」概念をきっかけとしたサンカ論が現代に至っているが、サブカルチャーの文脈に乗ることは無かった。

1980年代に入ると、ニュー・アカデミズムが流行し、専門家以外の人間が学問領域、特に社会学や哲学、精神分析などの言葉を用い学際的に物事を語る様になった。サブカルチャーという言葉もこの頃日本に輸入され、既存の体制、価値観、伝統にあい対するものとして使われた。これらの流れは多くの若い知識人や学生を魅了し、「80年代サブカルチャーブーム」と呼ばれる流行を作り出した。この頃のサブカルチャーは現在よりも多くの領域を包含し、漫画、アニメ、ゲーム以外にも、SF、オカルト、ディスコ、クラブミュージック、ストリートファッション、アダルトビデオ、アングラなどもサブカルチャーと見なされていた。しかし、80年代サブカルチャーに共通して言える事はマイナーな趣味であった事であり、この段階で既に本来のサブカルチャーの持っていたエスニック・マイノリティという要素は失われていた。確かに幾つかの要素は公序良俗に反すると見なされたという点で既存の価値観に反抗していたが、それらは1960年代のサブカルチャーが持っていた公民権運動や反戦運動などの政治的ベクトルとは無縁であった。もともと社会学におけるサブカルチャーという用語は若者文化をも含んでいたが、エスニック・マイノリティという概念の無い80年代の日本においては少数のサークルによる若者文化こそがサブカルチャーとなっていた。この含意の転回には日本における民族問題意識の希薄さ以外にも、サブカルチャーという概念の輸入が社会学者ではなく、ニューアカデミズムの流行に乗ったディレッタントによって行われた事も関連している。研究者ではない当時の若者たちにとっては学術的な正確さよりも、サブカルチャーという言葉の持つ、差異化における「自分たちはその他大勢とは違う」というニュアンスこそが重要であったとも言える。

この頃のサブカルチャーは複数の要素を内包しつつも、ジャンル間に横の繋がりは存在せず、場合によっては複数の分野を掛け持ちする事はあったものの、基本的に愛好者たちは別々の集団を形成していた。しかし1990年代に入るとこの群雄割拠に転機が訪れる。メディアミックスの名の下に漫画、アニメ、ゲームといったジャンルの統合が進んだのである。漫画がアニメ化され、アニメがゲームに移植され、ゲームが小説化されるという現象によってこれらのジャンルは急速に接近し、俗に「おたく文化」と呼ばれる、その他サブカルチャーから突出した同質性を持つ集団を形成する様になる[1]。現在では、この「おたく文化」が、過半数を占めるかはさておいて、サブカルチャーの最大与党であり、サブカルチャーそのものという見方すらされている[2]。近年、海外に向けて日本の漫画、アニメなどの輸出が行われ、その文脈でもサブカルチャーという語は登場する。その際、サブカルチャーはおたく文化の意味で使われている[3]

[編集] 論争

現在の日本におけるサブカルチャー論で最大の問題は言説の乖離である。本来のカルチュラル・スタディーズにおけるサブカルチャーは民族階級に関連した政治的色彩を帯びたものであった。1980年代に一世を風靡した日本のサブカルチャーはそこから政治色を取り除き、純粋に趣味の領域へと濾過されたものである。これは(実際はともかくとして)「一億総中流」「単一民族国家」という言説が大きな抵抗も無く通用した事を考えると致し方のない事にも思われる。その後、漫画、アニメ、ゲーム、フィギュアなどが統合されおたく文化=サブカルチャーという見方がされる様になる。

この様に、大別するとサブカルチャーという言葉には3つの用法を持っているが、これらの乖離があまり意識されることは無く、サブカルチャーという言説が一人歩きしている。無論、言説の回収と再統合がまったく試みられていない訳ではない。特にカルチュラル・スタディーズの専門家からは80年代サブカルチャーブームを、日本において独自進化を遂げたものとして、その意義を認めようとする動きが出ている[4]。しかし、それもストリート・カルチャーやテクノ、ヒップホップなど、カルチュラル・スタディーズにおけるサブカルチャー研究で既に経験済みであった要素までである。研究者サイドは未知の分野であるオタク文化の形成等に興味が無く、漫画、アニメをサブカルチャーから切り離している様である[5]

一方、80年代サブカルチャーの側はそもそもカルチュラル・スタディーズの概念などは眼中にない様である。もともと正規の学問の場を離れる事を特徴の一つとしたニューアカデミズムの影響もあり、彼らのサブカルチャーは、起源を切り捨て独自進化を遂げたサブカルチャーの概念からメインカルチャーをも規定しており、従来の社会学が持っていた用法とは異なる、別の意味をもった概念となっている[6]。そこでは「サブカルチャーとメインカルチャー」という概念のみを利用し、政治的・民族的な要素を排除し、単純化した少数者による趣味として、積極的な意味を付与している。また彼らにとっては、おたく文化とされる一群はサブカルチャーの一部に過ぎないか、サブカルチャーですらないか、である。

上記の2つの例とは異なり、おたく文化としてのサブカルチャーは単純である。おたく文化こそがサブカルチャーであり、そこには何の留保も存在しない。メインカルチャーという概念が持ち出される事もない。彼らにとってはカルチュラル・スタディーズなどはどうでもよい事であり、80年代サブカルチャーブームも眼中には無い。むしろクラブミュージックやストリートカルチャーなど一部のジャンルを敵視する場合すらある。

この様にサブカルチャーという語は大きく分けて三通りの用法を持っているが、厄介なのはいまだにそれぞれ用法が現役で使われているという事である。その為、同じサブカルチャーという言葉を用いているにもかかわらず、まったく別の事柄について論じている場合が多々みられる[7]

将来的には、メインかサブかといった学閥的位相でカルチャーが語られるのではなく、プレかポストかといった時間的位相で日本文化全体が語られる公算が大きいものと見られている。

[編集] 事例

  • アメリカの1960年代において、ヒッピー文化などサブカルチャーの象徴的存在であったビートルズは、リアルタイムで直接受容される事はあまり無かったものの、日本においてもグループサウンズなどに大きな影響を与え、間接的に当時の若者文化の形成に大きく関与した。この様な意味でビートルズは日本においてもサブカルチャー的であったと言える。当時の若者たちが社会の中枢にある現在ではある意味ではビートルズが教養の一つともなっており、ハイカルチャー(80年代サブカルチャーの言葉で言えばメインカルチャー)的な位置にあると言える。ビートルズ研究の傍ら、電子メディアと音楽についての論文を多数発表するノースウェスタン大学のゲアリー・ケンダルがこの位置の典型とみなせる。

上記の例からも伺えるように、サブカルチャーの範囲は時代とともに変化するもので、即時的に厳密な定義は困難であるし、定義するだけではあまり意味がない。どのような文脈で使われているかを見る必要がある。

[編集] 歴史的変遷

かつて文化と考えられたものは、ハイカルチャー(学問、文学、美術、音楽、演劇など)であり、ブルジョア階級や知識人、教養ある人々に支持されるものであった。文化を享受するには一定の教養が必要であり、少数者のものであった。

20世紀になって、大衆文化の時代になると、こうした文化観は次第に変化していった。大衆の一部はハイカルチャーを身に付けようと努力し、例えば文学全集を応接間に並べることが流行する、といった現象が見られた。第二次世界大戦後には知識人と呼ばれる人たちも次第に大衆文化(映画、マンガ)に注目するようになった。例えば映画のジャンルも分化し、大衆向けの娯楽に徹するものと、芸術性を主張し表現するものが並存するようになった。

1960年代には、アメリカのベトナム反戦運動を始め、各国で既成の体制や文化に対する「異議申立て」が行われた。

このように文化の意味付けが変化してきた結果、メインカルチャーの位置が揺らぎ、サブカルチャーが注目されるようになった。大衆文化から逸脱したマイナーな文化現象がサブカルチャーと称されることが多い。マイナーといっても、必ずしも少数者の文化とは限らず、その社会の中で社会的に認知されているかどうかが指標になる。

日本では、一部にマニアックな愛好者がいるものの、世間的にはまだ評価されていないものとして「おたく文化」と同様の意味で使われることもある。1990年代頃から「サブカル」と呼ばれるようにもなった。

[編集] サブカルチャーの位相

サブカルチャー現象として注目されたのは、例えばレゲエである。ジャマイカの移民が広めた音楽であるが、欧米の白人文化に対する抵抗であり、対抗文化(カウンターカルチャー)として評価された。ただし、日本においてはレゲエも対抗文化として受け入れられるよりは目新しい音楽ジャンルの一つとして受容されている。また、スキンヘッドも一つのサブカルチャーと言えるが、ネオナチなど反動的な政治主張と結びついている場合が多い。欧米のサブカルチャーがしばしば政治的あるいは人種的対立を背景にしており、一定の主張を持ったグループが担うものである点は、日本におけるサブカルチャーとは異なるようである。

近年では、教養そのものが揺らいでおり、従来ハイカルチャーを支えてきた知識人大衆文化オタク文化に注目しているのが現状である。趣味・嗜好の多様化・細分化や価値観の転倒により、従来サブカルチャーと見られていたものが一般に広く評価されるようになったり、ハイカルチャーの一部であったものがサブカルチャーとして台頭するという逆転現象も見られるようになっている。例えばかつては、歴史や古典文学について最低限の知識を持つことは当然で、そうした知識に精通する事はハイカルチャーと考えられていた。しかし、近年では知らないことを恥じるどころか、歴史や古典文学についてある程度の知識を得る事さえもオタク趣味(サブカルチャー)の一つとみなす傾向が指摘されている(とくに日本文学や日本史にこの傾向が強い)。このように、ハイカルチャーとサブカルチャーの境界、色分けは曖昧となってきている。

一般に、重厚長大主義の産業とは折り合いの悪い所為として成立するものである。つまり、個々の主観によって自立して成立する行動様式の理念として昇華した、「顔の見える文化」だと言える。

産業社会が企業利益の効率化を優先させて大衆の均質化を潜在的に志向して、収益のため地球環境の強引な改変をも担ってきた史実を踏まえれば、サブカルチャーの原動力となっている「メインカルチャーへの不快感」は、個々の自立という第一義からさらに発展して、利潤追求の視点では隠蔽されてしまう環境問題の視点をも発露せしめる視点を持っている。1980年代の東京ロッカーズと呼ばれる音楽シーンにおいてはリザードの発表した『サカナ』という水俣病を題材とした楽曲が産業界より圧力を受けた。ロックの本来持っているメッセージ性や反権力の志向が、メジャーとは言えないムーブメントで生き続けていた構図である。チェルノブイリ事故の後に、パール兄弟は『タンポポの微笑』を発表、RCサクセションはLP『COVERS』の発売を東芝EMIから拒否されるといった事もあった。環境問題とサブカルチャー性格との馴染みのよさを感じさせられる。

[編集] 類語

  • サブカルチャーは文脈によってはカウンターカルチャー(対抗文化)と同様の意味で使われる場合がある。カウンターカルチャーは伝統的・支配的な文化に対抗する文化という意味で、1960年代1970年代にかけて、よく使われ、狭義にはヒッピー文化に代表されるものである。1990年代には、オルタナティブカルチャー(オルタ・カルチャー)という言葉も使われている。
  • 若者文化と重なる部分もあるが、サブカルチャーは必ずしも若者だけが支持するとは限らないため、異なる視点から用いられる言葉といえる。
  • おたく文化とサブカルチャーが同一視される場合もあるが、両者の微妙な差異にこだわる向きもある(例:「ユリイカ」2005年8月増刊号 オタクvsサブカル!)
  • アンダーグラウンド(アングラ)は旧来の社会体制に対しての反発、階級闘争や批判精神を含んでいる語。現在のサブカルチャーとは意味合いを異にする。しかし日常では混同して使用されている。

[編集] サブカル本

日本の書店では、サブカル本と称するコーナーにアニメ、特撮、オカルト、性風俗など雑多なものが並べられている。

[編集] 参考図書

『アシッド・ドリームズ―CIA,LSD,ヒッピー革命』(出版社: 第三書館)作者 マーティン A.リー (著), ブルース・シュレイン (著), 越智 道雄 (翻訳)  

[編集] サブカルチャーの例

[編集] 人物

日本のサブカルチャーないしサブカルチャー論を代表すると考えられる人物。

[編集] 雑誌

日本のサブカルチャーを代表する、あるいはしていたと考えられる雑誌。

[編集] 関連項目

[編集] 脚注

  1. ^ ササキバラ・ゴウ 『<美少女>の現代史』 講談社、2004年、31-33頁。
  2. ^ 例えば東浩紀は『動物化するポストモダン』(講談社、2001年)では「おたく系文化」という語を使っているが、『ファウスト』(講談社)連載の「メタリアル・フィクションの時代」では「おたく系文化」に替わって「サブカルチャー」を使用している。また評論家大塚英志は特に定義を明言はしないが、漫画、アニメ、ライトノベル(彼の言葉で言えば「キャラクター小説」)などに対してサブカルチャーと用いている。
  3. ^ ヴェネツィア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館カタログ『OTAKU:人格=空間=都市』所収の宣政佑「おたくの越境」(52頁)など。ただしこのヴェネツィア・ビエンナーレにおける展示自体はおたく文化の空間的特徴や文化的背景に言及したものであり、本来の意味でのサブカルチャーに近いニュアンスである。
  4. ^ 上野俊哉毛利嘉孝 『実践カルチュラル・スタディーズ』 ちくま書房、2002年。
  5. ^ 成実弘至 「サブカルチャー」吉見俊哉編 『カルチュラル・スタディーズ』 講談社、2001年。
  6. ^ 加野瀬未友・ばるぼら「オタク×サブカル15年戦争」『ユリイカ8月臨時増刊号 オタクvsサブカル』(青土社、2005年)にて町山智浩による「学校で教えられる教養」という定義に言及している。また宮台真司は『サブカルチャー神話解体』において主流(メインストリーム)か否かという文脈においてメインカルチャーとサブカルチャーを使用している。注目すべきは「80年代サブカルチャーブームの旗手」であり、社会学者でもある宮台をして、カルチュラル・スタディーズにおける概念に一切触れていない事である。これらの定義に対して文化・メディア研究に詳しい上野俊哉は宮台らによるメインカルチャーの定義はむしろハイカルチャーの概念に近いものである事を指摘している(上野俊哉・毛利嘉孝 『カルチュラル・スタディーズ入門』 ちくま書房、2000年、106-109頁)。
  7. ^ 川村湊は『日本の異端文学』(集英社、2001年)において「サブカルチャー文学」という語を用いている。ここではサブカルチャーという語はカルチュラル・スタディーズにおけるそれとほぼ同じ意味合いで使われている。大塚英志が『サブカルチャー反戦論』(角川書店、2003年)などで用いる場合はおたく文化のそれを意味している。

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