脚質
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脚質(きゃくしつ)とは、公営競技において競技対象の走行の方法に関する分類のことである。以下、本項では主に競馬における競走馬の代表的な脚質について記述する。
尚、この項の記述に現役競走馬は除外する。
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[編集] 逃げ
競走開始直後から先頭に立ち、そのままゴールインすることを目指す走行方法。
最短距離を走ることが出来るメリットがある反面、他の競技対象から目標にされやすい、空気抵抗を他の脚質の馬よりうけるというデメリットがある。勝つときは一度も他の競技対象に先頭を譲らないため「逃げて勝つのが一番強い」と言われている。一方で人気薄の競技対象が勝利を挙げるときもこのパターンが多い。この場合は警戒されにくいためマイペースで競走することが可能だからである。なお、競技対象のひとつが単独で逃げることを単騎逃げという。 また逃げた馬とその直後につけた馬がそのまま1・2着でゴールインすることを「行った行った」という。 競馬において、逃げの戦法を多用する競走馬を逃げ馬という。性格的には臆病な馬や砂を浴びるのを嫌がる馬、激しい気性のため他馬に並ばれるのを嫌がり、先頭でなければ気がすまないという闘争心を持つ性格の馬が多い。ゲート出の上手さ、直後のダッシュのスピード(競馬用語で「テンの速さ」という)が必要とされる。 因みに、逃げ馬になる理由は『気性的理由』と『能力的理由』の二つが代表的だが、昨今は後者で逃げ馬になる例は稀である(通常は気性に問題が無ければ先行馬を目指す)。前者の代表としてはカブラヤオー(理由はカブラヤオーの項を参照)、後者の代表馬としてミホノブルボン・トウショウボーイ・マルゼンスキーが挙げられる。
[編集] 大逃げ
2番手以下の馬を大きく引き離す逃げ。
競馬においては、大逃げを多用した代表的な競走馬にサイレンススズカ・セイウンスカイ・ツインターボ・メジロパーマー・エイシンワシントンがいる。日本の競馬では、一昔前にはGIなどの大レースにおいて大逃げをする競走馬がいた。このような大逃げは実力的に大きく劣る競走馬が、「せめてテレビ中継によく映るように」という馬主の要望によって行われることが多く、そのような競走馬はテレビ馬と呼ばれていた。但し、現在は出走頭数制限(昔は最大33頭立てのダービーもあった)とレース体系が整備されている為その様な馬は殆ど存在しない。もっとも、『勝つ為の戦略』としての大逃げは無くなった訳では無い。競馬の格言で「人気薄の逃げ馬は買い」と言われるように、後ろで有力馬が互いにけん制し合い、気が付いたときには逃げた馬を捕らえ切れなかったということで波乱をまねく結果が少なからず発生している。(代表例:第129回天皇賞のイングランディーレ:単勝配当7100円、)。他にも重馬場のときにあえて前半に突き放し終盤に後方待機の馬が届かないことを見越して逃げるときもある。(代表例:第23回ジャパンカップのタップダンスシチー)。因みに、サイレンススズカの場合、主戦騎手の武豊は「他馬との絶対的なスピード差の為に大逃げの形になっているだけ」と述べ、アレはただ速いだけで本来駆け引きを必要とされる戦法としての大逃げとはいえないと言う者もいる。また、同馬は、直線でもう一度伸びる二の脚を使い(ただし後続との差があるときはさほど使わない)後続を突き放して悠々と勝利することから、「天才型逃げ馬」と呼ばれた。メジロパーマーも二の脚を使い勝利することがあったがサイレンススズカとは違い、後続馬に迫られ必死で逃げることから「雑草型逃げ馬」と称された。逃げの完成型といわれたサイレンススズカでさえ当初は差し、もしくは追い込みの戦法で走らせようとしたことから、基本的に能力の高い馬は気性の問題がない限りこの逃げ、並びに大逃げ戦法は使わないと言えそうである。
[編集] 先行
レース前半は逃げる競技対象の後ろにつけ、後半にそれをかわそうとする走行方法。最も競走中の不利を受けにくいと言われ、実力のある競技対象が先行して勝った場合「横綱相撲」と言われる。
競馬において先行を多用する競走馬を先行馬という。馬群も怖がらない性格と、スタートや直後のダッシュも上手くなくてはならず、融通の利く性格や能力が要求される。
もっとも、この戦法で1頭のみである事は少なく、終始 併せ馬の状態になる事が多いために勝ちきるには、自分と並んでいる競技対象を突き放そうとする、と同時に前を行く競技対象を追い越そうとする勝負根性も必要となる。
また、逃げ馬が居ないときは押し出されて本来は先行馬である馬が逃げ馬になることが多い。また、こういう流れによってはいつもと同じポジションで走れない馬は、自分のペースで淡々と走っていくタイプが多く、比較的速いタイムが出ることが多い。
代表的な先行馬はシンボリルドルフやタイキシャトルやビワハヤヒデなど。
[編集] 差し
レース前半は逃げ・先行を採用する競技対象の後ろにつけ、後半にそれらをかわそうとする走行方法。瞬発力に自信のある競技対象がこの脚質を選ぶ。
競馬において差しを多用する競走馬を差し馬という。性格的に馬群の中に入っても怖がらない、前の馬が巻き上げた砂などを浴びても嫌がらない気性の持ち主がとる戦法であるといえる。
先行と同様に、終始 併せ馬の状態が多い為に勝負根性(この戦法の場合は、特に底力)が必要である。
[編集] 追い込み
レース前半は差しの戦法をとる競技対象のさらに後ろにつけ、最後の直線で前を行く競技対象をまとめてかわそうとする走り方。勝つときは派手な反面、展開などで不利を受けて敗れることも多い。
競馬において追い込み多用する競走馬を追い込み馬という。性格的には馬群や砂を浴びるのを嫌う馬や、先に行きたがらない比較的のんびりとした性格の馬が多い。
(古い順から)代表的な追い込み馬は、白い稲妻(あるいは“レース最後方から来る、電光石火の白い稲妻[要出典]”)と呼ばれたシービークロス、“奇跡の鬼脚(おにあし)”を始め“鬼の末脚”や“鬼の豪脚”等と言われたミスターシービー(シンザン以来19年ぶりの三冠馬の誕生だった為“奇跡”と言われた)、デュランダル・ディープインパクトなど。
[編集] (慢性的)出遅れ追い込み
差しの場合とは違いただ単に瞬発力があるという理由だけでなく、元来ゲートからのスタートが下手だったり(出遅れ気味~完全に出遅れ、など言い方は幅広く有る)、出遅れなくともスタート後のダッシュが苦手な(専門用語:ダッシュが付かない)ために結果的に追い込みの戦法を取らざるを得なくなる場合もある。
一般的に、この様な場合スプリント戦線では致命的な差になる事が多い。反面、マイル路線で出遅れ勝ちをした競走馬が実在した事から、最低でもマイルの距離は欲しいとされる。
この件は、上記の(短距離GIを3勝している)デュランダルには当てはまらない。綺麗にスタートし敢えて後方につける事ではなく、スタート後から全然スピードも乗っていない出遅れに伴う追い込み馬についてである。
[編集] 追い込み馬を知る上で
調教師・騎手・競馬評論家を始めとする競馬関係者や、JRAのCMに起用された芸能人(主に、1994年~1995年当時のCMで、シービークロスを熱く語っていた【中井貴一】【時任三郎】【真田広之】らの俳優)の間では、「(前述の)2頭のシービーを無視する者は、追い込みを語る資格は無し」と言う事が暗黙の了解とされている(ただし、特に競馬界の格言にはされていない)。
[編集] まくり
『まくり』とは脚質ではない。まくるとは差し馬や追い込み馬が最後の直線が短いコースでのレースで、速めにスパートをかけ第3、第4コーナーあたりから一気に前方の馬をコースの外側を通って交わしていくことであり、このようなことをまくるまたはまくりをかける、まくりをうつなどとと言う(他にも言い方はある)。驚異的なスピードの持続力を要するためレベルの高い馬で無いとこのようなことは出来きない。
[編集] 自在
レース展開や、馬場状態に合わせて戦法を変える馬のこと。日本ではマヤノトップガンやテイエムオペラオーがこの戦法を用いたとされるが、明確に自在と分けられる場合は少なく、騎手の指示に即座に応えられる素直な性格と、どの位置からでも力を発揮できる根性やスピードの全てを持ち合わせた馬のことを自在脚質と呼ぶ場合がある。それ以外にもレース毎に戦法を変えてかく乱させようとした騎手の判断により、結果的に自在と呼ばれるケースもあるが、それが成功して結果を残した場合でないと自在とは呼べない。言い換えれば、自在脚質と呼ばれる競走馬の多くは「自分の勝ちパターンや決め手」を持たない場合が多い。
[編集] 競馬における脚質と枠順の関係
競馬においては、脚質によって発馬機におけるスタート位置が有利または不利に作用することがある。 一般的には内枠(発馬機内の内寄りの枠)からスタートする場合は先行・差しの脚質の馬は馬群の内側に閉じ込められ、進路が確保できなくなる危険がある(先行と差しとの比較では差しのほうが危険性が高い)。また外枠(発馬機内の外寄りの枠)からスタートする場合、馬群の中に閉じ込められる危険は少ないが、トラック状のコースを走る場合、馬群の外めを走らされることで走行距離の面において不利を被ることがある。逃げおよび追い込み脚質の馬は出走馬中に占める割合が先行・差し脚質の馬より少ないことが多いため、走行距離面の不利が少なくなることが多い。ただし、外枠スタートの逃げ馬は内枠スタートの逃げ馬に先手をとられやすい。
[編集] 競輪における脚質
競輪の選手については、競輪#競輪の主な戦法を参照のこと。
なお上記された競馬との違いを数点挙げ補足する。
- 「先行」が「逃げ」に含められ、「差し」が「追い込み」に含められる。
- 「大逃げ」は競輪でも行われる(「単騎のカマシ」と表現される)。
- 枠順に関する有利不利は、ほとんどない(序盤の周回中に前の位置を確保したい場合、内枠の選手がやや有利になる程度)。