BCL
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BCL (びーしーえる)とは、Broadcasting Listening / Listener の頭字語である。放送(特に短波による国際放送)を聴取して楽しむ趣味を指す。日本では1970年代に一大ブームが起った。
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[編集] 概要
BCLは、広い意味では、放送を聴取して楽しむ趣味一般を指し、狭い意味では、主に短波を使って行われる海外からの放送を聴取することである。後者については、欧米ではSWL (ShortWave Listening / Listener) が使われる。一方日本でSWLというと主に、趣味としてアマチュア無線の交信や業務局の通信を受信する人を指す。他にDX(Distant X: Long Distance =遠距離の意 アマチュア無線、BCLについて 遠距離の通信・受信を行うという意味)という表現もある。
受信日時・受信状態(SINPOコードが使われる事が多い)・受信に使用した受信機やアンテナ、内容についての感想などを受信報告書として放送局に送ると、受信したことを証明する受信確認証(ベリカード)が発行され、これを集めることも楽しみの一つである。
[編集] 日本での歴史
アメリカのVOA(The Voice Of America、アメリカの声)のように、太平洋戦争中から日本語放送を実施していた放送局もあるが、多くの国々からの日本語放送は戦後開始された。戦中は高性能受信機の所持すら規制されていたが、戦後、真空管によるスーパーヘテロダイン式のラジオが広く流通し、それはメーカー製とは限らず、放出品等を用いた自作ラジオの売買も盛んであり、オーディオマニア兼ラジオマニアが生まれた。
[編集] BCLブーム
1970年代になると、主に小・中学生の間で海外の短波放送を聴取することが流行し始め、多くの家電メーカーから短波が受信できるラジオが発売されるようになった。BCLブームの火付け役となったのは、1974年1月に開始された日本短波放送=ラジオたんぱ(NSB、現日経ラジオ社=ラジオNIKKEI)のBCL番組「ハロージーガム」(三菱電機提供)である。もともとの番組の狙いは日本短波放送の聴取者層拡大であったが、予想以上の人気に各社は競って高性能短波ラジオを製造・販売するようになった。その一つの頂点が、ソニーのスカイセンサー 5800 (ICF-5800) や 5900 (ICF-5900)、ナショナルのクーガ2200 (RF-2200)、「PROCEED」シリーズ(RF-2600・2800・5000)、東芝のトライエックス2000 (RP-2000F) といった高性能マルチバンドラジオである。これらの中にはダイヤルからの受信周波数読み取りが可能なものもあり、最終的にはディジタルディスプレイによって直読が可能なところまで高機能化した。特に、ソニーとナショナルは人気を二分し、前者が提供するBCL番組「BCLジョッキー」 (TBS) と後者が提供する「BCLワールドタムタム」(日本短波放送、タモリが司会)もよく聴かれた。
BCLブームが起こるまで、日本には同人誌的なもの(JSWC日本短波クラブ、KDXC、NDXCなど)以外にBCL専門の書籍や雑誌はなかったが、月刊「ラジオの製作」(電波新聞社)がBCL関係の記事を次第に充実させていった。1974年12月には別冊として『BCLマニュアル』(山田耕嗣編)を刊行、すぐに品切れとなり版を重ねた。以後、BCLブームに便乗して類書の出版が相次いだ。また、1976年1月には月刊「短波」(日本BCL連盟発行、1983年休刊)が創刊され、多くの購読者を獲得した。日本BCL連盟は後に『DX年鑑』を刊行し、本格的なマニアの要望に応えた。さらに、放送局が放送開始前に流すインターバル・シグナル (IS) を収録したレコードやカセットテープも発売された。
[編集] 主なBCLラジオブランド
[編集] 日本のBCLブームの特徴
欧米におけるBCLは大人の趣味である。しかし、日本のBCLブームでは主役は小学生から高校生にかけての若年層であった。これは、新しもの好きの若者気質ばかりでなく、あまり安価とはいえない短波ラジオを入手できる機会が、入学や誕生日、クリスマスといった各種のプレゼントなどに限られていることが多かったことによるものであろう。また深夜放送でラジオに親しんでいた若年層と異なり、ラジオを聴取する時間が短い大人が、自分のために短波ラジオを購入することは少なかったのである。多彩なデザインのベリカードを収集する魅力もまた、若者を惹き付けた。いずれにせよ、若者の目を世界に向けさせるきっかけとなったことは確かである。現在の日本では、欧米同様、BCLは大人の趣味として根強い人気を誇っている。
[編集] 現在の趣味としてのBCL
BCLの対象となるのは国際放送ばかりでなく、受信が難しい遠くの局、または近隣においても極めて弱小な出力電力で送信され、または通信が困難な周波数帯のものが受信の対象となる。夜間にしか受信できない国内外の中波局も、夏など特定の時期の突発的な異常伝搬(Eスポ)でしか受信ができない国内外のFM局やVHFテレビ局もDXの対象となっている。難易度が高い受信を行うためには、高性能なアンテナの導入、ノイズ低減や受信感度の向上、受信機の選択など技術的な研究や改良の工夫が必要であるだけではなく、その日、その時の通信コンディション変化があることから、精神的な根気強さも必要とされる。
DX'er(DX受信を楽しむBCLのこと)には、これらの通信技術の開発や研究自体、および根気良く最良のコンディションを待つこと、および僻地等にキャンプして、最良のアンテナの設営や、最高の受信状態を狙う(ぺディションと言う)を行うことを、ベリカード収集そのものよりも優先する人々もいる。一方でアンテナの改良や、受信機の調整に喜びを見出す人々もおり、さらには70年代から80年代にかけて流行したBCLを懐かしむ30代から40代の経済的に余裕の出てきた世代による懐古趣味的な受信機収集という楽しみ方もあり、人により幅広い楽しみ方があるのが特色である。
これらの楽しみ方における必要な技術やノウハウの多くは、現在、本などの出版がほとんど無いことから、主に各人の試行錯誤や経験によって獲得されるものが多くなっている。このことは趣味としてのBCLに奥行きを与えるファクターである一方で、初心者がBCLに親しむための障害となっている。しかし現在ではそれぞれのサブテーマ毎にインターネット上のブログ等でこれらのノウハウ等が公開・共有化されることにより、従来のBCL書籍が果たしていた機能が、横に複数のサブテーマ毎に連携し、錯綜する一つのバーチャルコミュニティーにより果たされるようになっているのが近年の動きである。このため現在のBCLでは全国的な単一組織は持たず、複数のリーダー的な人物を中心に広がる仲間が、さらに錯綜して形成する、束縛の無いきわめて緩やかで自由闊達な個人の連合体となっている。
受信報告書の提出とベリカードの収集が70年代的なBCLでは主流の楽しみ方であったが、現在のBCLは、ブログなどを中心に受信記録を交換したり、通信技術やぺディションの話題を行う、BCLという趣味を介在させた人間的な交流を楽しむという面も大きくなってきている。
[編集] 受信確認証の収集について
BCLというと受信確認証(ベリカード、Verification Card)の収集家であるという解釈は必ずしも正確ではないが、多くのBCLが受信確認証を集めているというのも事実である。DX局を受信したことの証明を取るためというのが大きい理由である。最近はブログ等でそれを公開することが一つのステータスともなっている。また時代を経るにつれて、歴史的な価値が生じるという点もあり、一部はネットのオークションで高値で落札されている。また美しい印刷であったり、その地域の風土を感じさせるものであることから、見て楽しむという点でも極めて趣味性の高いものである。
これらの受信確認証を得るには、受信した事を放送局側で確認できる受信報告書(時間毎の番組の概略の内容と、感想、聴取周波数、信号強度・混信・ノイズ・フェージング・総合評価を5段階の数値で表したSINPOコードによる受信状況、言語、使用受信機とアンテナ、自分の氏名と住所を記載し、最後に受信確認証の発行を依頼する形式)と、局によっては郵便局で購入可能なIRC(国際返信切手券)という返信用切手代の国際共通クーポン券や宛名を書いたシールを同封すれば大抵の局は発行してくれる。しかしそれでも発行してもらえない場合は、カセットテープやCDなどに受信した音を録音して送付してみたり、旅行のついでに、録音したCDを持って直接海外の現地の放送局の見学に行き、そのとき受信確認証を求める方法などがある。遠距離では無いがハイウェイラジオや航空保安無線施設(ATIS,VORDME及びVORTAC並びにNDB,VOLMET放送)、船舶気象放送でも「受信確認証」を発行している官署もある。
[編集] BCLラジオの収集について
BCLという趣味が、現在でも続いていることを支えている一つの要因が、ネットオークションによるBCLラジオの流通である。
現在では一部のメーカーのみがBCLラジオを作っている状態であるため、これらの安価な中古BCLラジオの流通が、学生時代にBCLをしていた人が、最近復活する一つの要因となっている。現在では程度の高いBCLラジオはあまり流通していないため、オークションで入手したラジオで、程度の良いものは、新品当時とほぼ同じ、もしくはそれ以上の高値で取引されている。ソニーのスカイセンサーや、ナショナルのクーガ等は流通量が多いことから値段もそれ程高くならないが、ソニーのCRF-1は長波域から受信出来る業務通信用の性格もあって流通量が少ないことから、程度がたとえ悪くても、10万円半ばから20万円近い値段で取引されることが多い。
しかしこれらの受信機は既に製造から30年程度経過しており、既にメーカーが補修を行っておらず、仮に自分で修理が可能であっても部品の入手が困難であることから、落札にあたっては、当初は動作しても、すぐに故障するリスクを十分に理解し、自己補修の技術力が無い場合は、高値で取引することには慎重になることが望ましい。しかし当時BCLが流行した時代に学生だった人には、その美しい姿を見ると、どうしても高値で取引したくなるのは、いたしかたないものである。
[編集] PLCとBCL
日本においては、電力線搬送通信(PLC)の一種であるHF-PLCの規制緩和によって、短波帯がノイズで埋まり放送が聴けなくなる可能性が高いことから、趣味としてのBCLは危機に瀕している。
DXerは「自然環境の中における電波の釣り人」ともいえるため、自然における電波の汚染を行うPLCには絶対に反対するという立場を取っている。少数の個人の集まりからなるBCLサークルは、これまでのPLCに間する官民の議論の中へ参加権が認められることなく推移しており、疎外されている。このためBCLサークルの多くは、市民として、各種ソーシャルネットワークを通じて、鮮明にPLCに反対し続けていこうという方針を打ち出している。
[編集] 豆知識
「BCLという言葉は和製英語である」という誤った通説があるが、1930年代にアメリカで発行されたThe radio amateur's handbook(アマハン)には、専門用語としてBCLという略語について説明がされている。つまり英語、あるいは米語が起源である。ただし、現在、アメリカなどでは、BCLという言葉が知られておらず、ハムと同様に受信についても、DXingが使われている。
[編集] 日本のDX/BCLクラブ・サークル
- 日本短波クラブ 月刊で「SW DX GUIDE」発行。
- 関東DXersサークル
- 名古屋DXersサークル
- Japan V・UHF DXers Circle
- アジア放送研究会
- 日本BCL連盟