C-X (輸送機)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
C-Xは、日本の航空機メーカー、川崎重工業が開発・製造するターボファンエンジン双発の中型戦術輸送機で、航空自衛隊がC-1の後継としての導入を予定している機体である。
目次 |
[編集] 導入経緯
[編集] 開発までの推移


防衛庁(現防衛省)では、国産のC-1(30機)と輸入したC-130H(16機)戦術輸送機としているが、C-1が耐用飛行時間を迎えるため、後継が検討された。日本国内の航空産業の技術育成の観点から、2000年(平成12)末に中型戦術輸送機の国産化を決定、MPA/P-X(次期固定翼哨戒機)と同時に開発し、一部部品や治工具の共用によって両機種あわせた開発費を抑えることとされ、その額は両機合わせて3400億円と見込まれた。
平成13年度予算の要求53億円は満額が認められ、2001年(平成13)初めよりエンジンの選定を開始、また防衛庁技術研究本部(技本)によって研究が行われた。5月25日に航空メーカーを選定する旨を官報にて告示、30日まで希望メーカーを募集した。応募した8社を招いて31日に説明会が開催され、7月31日午後5時を期限として、スペックの提出を行わせた。なお、1社は希望を撤回した。
主契約では川崎がP-X・C-Xの両機製作を希望、富士重工業が両機製作の新会社設立を提案、三菱重工業はどちらか一方(C-Xを希望)とした。分担生産では、川崎が主翼と水平尾翼、富士が主翼・水平尾翼・垂直尾翼・翼胴フェアリング・C-Xのバルジ、三菱が中胴・後胴・垂直尾翼、さらに新明和工業・日本飛行機・昭和飛行機・ジャムコが各部品を希望、計7社が参加を表明した。11月26日に防衛庁は主契約企業に川崎を選定したと発表、「次期輸送機及び次期固定翼哨戒機(その1)」(以下C-X/P-X)契約が締結され、三菱・富士を筆頭に各社が分担生産することとなった。平成14年(2002年)度予算の要求410億円が承認され、開発が開始された。
なお、このとき一部で国産旅客機YSXと共通化させると報じられたが、2001年末に防衛庁と川崎は共同で否定している。しかし、自社で計画中の125席クラスジェット旅客機(2007年に実現を最終決定)では、P-Xの主翼技術を利用するとしている。また、日本航空機開発協会(JADC)では、平成14年(2002年)度よりP-XおよびC-Xを民間旅客機(100席~150席クラス)へ転用するための開発調査を行っている。
[編集] 機体開発
開発計画は、設計が平成13年度~16年度、試作が平成15年度~21年度、試験が平成18年度~23年度(2012年3月まで)、契約は毎年度ごとに「その1」から「その7」まで7段階、総開発費は若干増額されて3450億円とした。三菱が中胴と後胴、富士重工が主翼と垂直尾翼の開発・分担製造を担当している。中型機2機の同時開発と部品共通化は世界的にも珍しい。
2001年(平成13)度に防衛庁と川崎は「P-X/C-X(その1)」契約を締結し、川崎は社内に大型機設計チーム・MCET(MPA and C-X Engineeiring Team)を設置、三菱・富士・日本飛行機などの出向を含め約650名によって設計作業を開始した。基本図は技本による技術審査にまわされ、2003年(平成15)6月12日に「妥当」と判断された。これにより、三面図と性能諸元が想定できるエンジンの範囲内で確定した。翌日からは細部設計に段階に移行し、製造図を2004年(平成16)に完成させた。また、6月には岐阜県岐阜工場に自社最大規模のハンガーが竣工、C-Xの製造をここで行い、将来の旅客機製造も視野に入れている。このハンガーで12月にP-X/C-Xの木製モックアップ(実物大模型)を公開した。
地上試験用の2機(#01・#02号機)と飛行試験機2機(1・2号機)をまず製作、2003年(平成15)度の「C-X/P-X(その3)」により、静強度試験用機体(#01号機)の建造が開始された。2005年(平成17)には富士重工から#01号機用の主翼が納入、川崎で組み立てられた#01号機は2006年(平成18)3月15日に防衛庁に引き渡された。#01号機は空自岐阜基地の第2補給処内に新設された強度試験場で再組み立ての後、耐久試験が行われる。
2004年(平成16)度契約の「C-X/P-X(その4)」により、飛行試験機1号機の建造が開始された。1号機(シリアルナンバー:88-1201)は平成18年度の3月6日のロールアウト・納入を予定しており、地上での整備と試験を経て、2007年(平成19)夏に初飛行する予定であった。しかし、輸入したリベットに強度上の問題があることが判明し、このリベットを交換する必要があるため3月6日にロールアウトは行われず、延期になった。2008年(平成20)から防衛省による飛行試験が、空自岐阜基地の飛行開発実験団にて行われる。
2005年(平成17)度契約の「C-X/P-X(その5)」により、疲労強度試験機(#02号機)の建造が開始された。2006年(平成18)度契約の「C-X/P-X(その6)」では飛行試験機2号機が建造される他、空中受油機能とナイトビジョン・ゴーグル(NVG)対応機器が新たに追加される。2007年(平成19)度予定の「C-X/P-X(その7)」が最終契約となり、一連の開発は冒頭の通り、2012年(平成24)3月の完了を予定している。
2011年(平成23)度以降にC-1の減数が始まることに合わせ、量産1号機(通算3号機)は2008年(平成20)度予算で要求される予定である。
[編集] 配備
中期防衛力整備計画(平成17年度~21年度対象)では、4機のKC-767(空中給油・輸送機)と共に、8機程度が航空自衛隊に納入される予定である。C-1を完全に置き換えるため、C-130Hとの兼ね合いもあるが、30機程度は配備される見通しである。また、航空幕僚監部では、電子情報収集(ELINT)機として使用している4機のYS-11EBの後継として、改造機を4機程度購入することも検討している。
[編集] 機体
[編集] 概要
ターボファンエンジン双発の大型機で、航続距離・ペイロードとも国際共同開発中のエアバスA400Mとほぼ等しいが、ターボプロップ推進のA400M、あるいは他のジェット輸送機に比べても巡航速度が速くなり、民間の旅客機並みの高亜音速で、民間の旅客機と同じ高度や航路を活用して目的地への迅速な輸送が可能となる。操縦系統は電子式フライ・バイ・ワイヤー方式。省力化搭載卸下システムの採用で、陸上で短時間の積み降ろし作業が行える。航続距離はC-1のおよそ3倍、ペイロードも3倍に向上する。これにより、大型の手術車や装輪装甲車などの空輸も可能となり、災害や有事の際の実用性が増す。そのほか、後部ドアに風除けが追加され、空挺部隊降下の際の安全性が高められている。
同時に開発される次期対潜哨戒機 P-Xとコックピット風防、主翼外翼、水平尾翼の先端、統合表示機、慣性基準装置、飛行制御計算機、APU(動力補助装置)などの部品の共通化を図り、機体の15パーセントが共通部品で構成され、搭載システムの品目数では実に75パーセントが共通装備となっている。これにより、開発費を200億から300億円削減できるとしている。三菱重工業が中胴・後胴・翼胴フェアリング、富士重工業が主翼を分担で設計・製造している。
[編集] エンジン
装備するエンジンは防衛庁が2002年(平成14)からロールス・ロイス(RR)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、プラット・アンド・ホイットニー(P&W)の3社からの提案を検討した結果、2003年(平成15)8月にGEのCF6-80C2型エンジンとナセルシステムを採用した。このエンジンの選定にあたっては、すでに航空自衛隊に導入されているE-767や導入予定のKC-767が同一のエンジンを採用しており、整備面で都合が良いことから決定されたと思われる。
日本GE社のウェブサイトによると、このCF6-80C2型エンジンのカタログ価格は1基1,000万ドルである。P-Xのエンジンが純国産である一方、こちらは輸入と対照的であり、防衛省がGE社から購入し、機体を組み立てる川崎へ支給される予定である。
[編集] スペック
- 乗員: 3名
- 全長: 43.9m
- 全幅: 44.4m
- 全高: 14.2m
- 貨物室: L16×W4×H4m ランプ長5.5m
- 空虚重量: 60,800kg
- 最大積載量: 37,600kg
- 最大離陸重量: 141,400kg
- エンジン: GE CF6-80C2 ×2
- 出力: 27,900kg(推定)×2
- 最大速度: 980km/h(Mach 0.8)
- 航続距離: 0t/10,000km 12t/8,900km 37t/5,600km
- 巡航高度: 12,200m
- 武装: なし
[編集] 年表
- 2000年(平成12年)
-
- 次期輸送機(C-X)・次期固定翼哨戒機(MPA/P-X)の国内開発を決定(米国の反応を見る為、大規模報道は自粛)。
- 2001年(平成13年)
- 2004年(平成16年)
- 2005年(平成17年)
- 2006年(平成18年)
-
- 3月15日 - C-Xの静強度試験用供試機(#01)が防衛庁に引き渡される。
- 5月31日 - 経済産業省主催の民間機開発推進関係省庁協議会において、川崎が国土交通省に対し、C-X/P-Xに関する防衛庁の試験データを国交省の形式証明取得に流用できるように、防衛庁の試験に立ち会うことを要望する。防衛庁もデータ開示に協力すると表明。
- 7月 - ファーンボロ航空ショーにて、川崎がC-Xの民間型案を展示。
- 9月22日 - 静強度試験機(#01)過重負荷システムおよび取扱説明書の完成審査を実施。「妥当」(合格)と判断され、試験段階へ移行。
- 9月28日 - 静強度試験機(#01)用の試験架構などを防衛庁技術研究本部へ引き渡し。
- 2007年(平成19年)
-
- 2月2日 - C-X/P-Xにおいて使用される一部のリベット(輸入品)が、所要の強度を有していない事が川崎より防衛省に報告され、該当リベットの交換の為、当初予定されていた3月6日のロールアウトが延期された。
[編集] 発展
- 電子偵察型
- 航空幕僚監部では、4機のYS-11EB電子測定(ELINT)機の後継機として、C-Xを改造母機とする研究を行っている。技術研究本部でも当初から電子戦任務への適合性を視野に入れた開発を進めており、C-Xの量産化事業が本格的となる2008年(平成20)から2013年(平成25)ごろにC-XのELINT機改造計画が開始すると見られ、システムを搭載した後継機は、YS-11同様に4機程度が調達される予定である。電子戦システムには技本が開発している「将来電子測定機搭載システム」が採用される事になる。このシステムは、1・広帯域で高感度のデジタル信号処理が可能な受信方式、2・マルチビーム機能を有し、ビーム形状の制御や偏派面の計測が可能なDBF(デジタル・ビーム・ホーミング)アンテナ方式、3・瞬時に変化する複雑な信号について素早く分析できる能力、4・システムのモジュール化により、進歩した要素技術を組み込めること、などを特徴としている。
- 民間輸送型
- 日本航空機開発協会(JACD)では、平成14年(2002年)度よりP-XおよびC-Xを民間旅客機(100席~150席クラス)へ転用するための開発調査を行っている。川崎重工も2006年7月に、ファーンボロ航空ショーにおいて、C-Xをベースにした民間型を提案した。
[編集] 参考文献
- 『航空ファン』文林堂 各号
- 『JWings』イカロス出版 各号