JR東海キハ85系気動車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
キハ85系気動車(キハ85けいきどうしゃ)は、東海旅客鉄道(JR東海)の特急形気動車。同社発足後の新形式第1号であり、同社が運行する特急列車に掲げる「ワイドビュー」を最初に冠した形式である。
同社が保有するキハ80系の置き換えと高速化(この車両を投入するために、軌道強化、両開き分岐器(Y字ポイント)の高速通過(110km/h)対応工事を実施)のために1988年(昭和63年から製造された。1989年(平成元年)3月から高山本線の特急「ひだ」に使用され、1992年(平成4年)からは紀勢本線の特急「南紀」にも使用されている。また、間合い運用として「ホームライナー」の運用にも就く(運用線区は、「ホームライナー大垣・関ヶ原」などの東海道本線のほかに、「ホームライナー太多」として太多線・中央西線にも就く)。
1989年、グッドデザイン賞を受賞。1990年にはブルーリボン賞を東日本旅客鉄道(JR東日本)651系と争ったが、惜しくも敗れ次点となる。
2006年3月現在、名古屋車両区に80両所属している。
目次 |
[編集] 車両概要
車両軽量化とメンテナンスフリーのため、車体は軽量ステンレス製を採用し、窓枠上部にダークグレー、下部にコーポレートカラーであるオレンジの帯を巻く以外は無塗装である。ステンレスでの加工が難しい、曲線を多用する先頭部は鋼製とし、腐食防止のために白色塗装を行っている。側面ステンレス無塗装・先頭部鋼製白色塗装の車体は、371系・キハ11形の一部を除く、同社で以降新製される在来線用車両の基本となる構成要素となっている。
観光路線である高山本線や紀勢本線への投入が前提であったことから、展望性を高める配慮が見られる。前面展望のために、先頭車は傾斜をつけ、運転席後部を全面ガラス張りとしている。また、側窓からの展望のために、通路と座席の間に20cmの段差をつけ(バリアフリー化のため、一部車両ではこの段差を取り外した。この改造車体は1000番台として区別する)、窓の高さ95cm・幅160cmとした。また、シートピッチをグリーン車125cm、普通車100cmとし、ゆとりを持たせている。
グリーン車は2種類あり、1つは「ひだ」用に製造された中間車に組み込まれた、普通車合造の半室グリーン車であり、4列席として定員確保がなされている。もう1つは「南紀」用の先頭車として製造された全室グリーン車で、こちらはある程度定員がとれることから3列席としている。現在は「ひだ」に連結されているが、多客期には一部の「南紀」に連結される。
- 「ひだ」用編成
高山本線内では、右側が富山駅向き。名古屋駅~岐阜駅間は逆向き(右側が名古屋駅向き)。*は非貫通式先頭車。
- 3両編成(グリーン車連結)
- 富山駅発着の列車に使用される。名古屋駅~高山駅間では下記の2編成のいずれかを連結(他の車両は高山本線内での岐阜駅寄りに連結)し、高山駅~富山駅間ではこの3両のみで運転される。
- キハ85-200 + キハ84-300 + キロ85*
- 3両編成(普通車のみ)
- 大阪駅発着の「ひだ」などで運用されている。
- キハ85* + キハ84 + キハ85-100
- 4両編成
- 「ひだ」の基本編成。中間にグリーン車・普通車合造車がある。
- キハ85-100 + キロハ84 + キハ84 + キハ85-1100
- 「南紀」用編成
右側は紀伊勝浦駅向き。*は非貫通式先頭車。
- キハ85-100 + キハ84 + キハ85*
[編集] 搭載機関
本系列の最大の特徴は、日本製の国内向け車両としては数十年ぶりに輸入ディーゼルエンジンを搭載したことである。外国の設計になるエンジンは、1950年代にディーゼル機関車用のエンジンが国内でライセンス生産された例があるが、気動車用としては太平洋戦争後、例のない試みである。これは、貿易摩擦により「内需拡大」が叫ばれていたバブル経済期において、気動車の高性能化のため、国鉄型内燃機関において低出力に甘んじていた国産製品にこだわることなく低コストで優良なエンジンを求め、同時に同車の先進性を新機軸によって訴求することを狙ったものである。
採用されたのは、アメリカを代表するディーゼル機関メーカーであるカミンズ社(Cummins Inc.)のNT-855系エンジンである。直列6気筒14リッターの直噴式ターボディーゼルで、原設計こそ1960年代と古いが信頼性は高く、船舶や自動車などにも広範に使用される汎用型の高速ディーゼルエンジンであった。1970年代~1980年代にはアメリカのトラックメーカーから広く採用を受け、それまで主流だったGM系のデトロイト2サイクルディーゼルに代わって市場で好評を得た実績もある。
このエンジンは世界各国のカミンズ工場や、ライセンス契約したメーカーによって様々なチューニングやレイアウトで製造されていたが、JR東海向けにはカミンズ・イギリス工場製の水平シリンダー形「NTA855-R1」が供給されることになった。
JR東海ではこのエンジンに「C-DMF14HZ」の社内制式名称を与えた。出力は2000rpmで350PSと従来の国産エンジンを大きく凌駕するもので、しかも整備性に優れていた。85系はこれを1両に2基搭載し、なおかつ自動制御化された多段式液体変速機と組み合わせることで、著しい速度向上を成し遂げ、「電車に匹敵する性能の気動車」と称された。
[編集] その他
1991年(平成3年)3月16日、名古屋鉄道から高山本線に乗り入れていた特急「北アルプス」が新型の8500系に置き換えられた際、キハ85系との併結を前提とした仕様で登場し、季節運転の「ひだ」と併結して飛騨路を快走する姿が見られた。その後、1999年(平成11年)からは定期運行となった「ひだ」と併結し、2001年(平成13年)9月30日の「北アルプス」(高山線乗入れ)廃止まで続いた。
1996年(平成8年)6月25日に高山本線下呂駅~焼石駅間で落石に衝突・脱線し、1両が廃車(キハ85-107)となり、その代替車両キハ85-119が1997年(平成9年)に製造された。