エスカレータ
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エスカレータ(Escalator)とは、主として建物の各階を移動する目的で設置・利用される階段状の輸送機器である。
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[編集] 概要
「エスカレータ(Escalator)」は、もともと米国オーチス・エレベータ社(Otis Elevator Company)の登録商標で、商品名であった。しかし、当時この自動式階段を表す適当な語句が無く、一般に「エスカレータ (Escalator)」と呼ばれたため、普通名称となった経緯がある。オーチス・エレベータ社では、既に商標権を放棄している。
もっとも短いエスカレータは、川崎駅前地下街アゼリアと岡田屋モアーズを繋ぐエスカレータで、ステップが4段しかない。下りのエスカレータでその先には階段があり、結果的には存在意義はない。設計当時には柱が存在しており撤去は困難な物であった。しかし段差解消に必要な為設置された。日立製作所製。
もっとも長いエスカレータは、徳島県鳴門市のエスカヒル鳴門のエスカレータで、高低差34m全長68m。登りのエスカレータで、左右と屋根がガラス張りになっている(入場料300円)。こちらも日立製作所製。であったが、現在は香川県のニューレオマワールドのエスカレータ「マジックストロー」が高低差42m全長96mで日本一となっている。
![古典的エスカレータ(ステップ上面や手すり部分が木製、メイシーズデパート)](../../../upload/shared/thumb/7/7b/OldEscalator.jpg/200px-OldEscalator.jpg)
[編集] 機構
外観は階段に酷似し、自動で昇降する階段状の踏み面(ステップ)とステップと連動して動くベルト状の手すりを特徴とする。
機構の露出部分の多さから建物のインテリアに大きな影響を与えるので、意匠に工夫を凝らしたものが多い。らせん状のスパイラルエスカレーター(三菱電機製のみ、写真参照)や、途中で水平部分をもつエスカレーターも登場している。また、乗り降りを容易にするため、乗降口に水平部分を持たせたエスカレータも出回っている。最近では操作を行うことで複数のステップが水平部分を構築し、車椅子を乗せられるものもある。
規格としては、横幅(欄干有効幅)1,200mmと800mm、傾斜角度30度のものが標準的なものである。近年の建築基準法の改正で傾斜角度35度のエスカレータの設置も認められている。また動く速度は通常、毎分30mであるが、変速装置を取り付けることで、毎分20mから40mまで調節できる(深い場所にある地下鉄駅で、最大の毎分40mに設定しているエスカレータがある)。横幅はステップ幅、欄干有効幅、全体幅があり、800型、1200型等の規格は欄干有効幅で決まる。
ステップ幅 | 欄干有効幅 | 全体幅 | 備考 |
---|---|---|---|
604mm | 800mm | 1150mm | 標準800型、全メーカーで生産 |
802mm | 910mm | 1150mm | 数字は日立製作所製、日立、フジテックで生産 |
1004mm | 1200mm | 1330mm | 数字は日立製、三菱、日立、東芝で生産 |
1004mm | 1200mm | 1550mm | 標準1200型、全メーカーで生産 |
1095mm | 1300mm | 1550mm | 日立で生産 |
機構的にエレベータに比べ省エネルギーであるが、近年ではさらに進んで赤外線センサによって人の接近を検知し、利用時のみ稼働するものも増えている。
[編集] 構成
- ステップ
- 踏板 - ステップのメインとなるところ
- ライザ - ステップの蹴上げ部分
- ステップチェーン - ステップ同士を連結するチェーン
- 駆動ローラ - ステップチェーンの左右についており、ステップを牽引するためのローラ
- 追従ローラ - ステップの左右についており、踏板を水平に保つためのローラ
- 駆動レール - 駆動ローラを走行させるレール
- 追従レール - 追従ローラを走行させるレール
- 車椅子専用ステップ - 特殊ステップがフォークを利用して車椅子が乗れる大きさにできる。
- スカートガード - ステップの両側の鉄板で、側面をふさぎ表面を平滑に保つ
- 駆動装置
- 駆動ユニット - 電動機と減速歯車からなり、ステップチェーンを走行させる
- 駆動チェーン - 駆動ユニットからステップチェーンに動力を伝達するチェーン
- 手すり
- 手すり駆動ローラ - 手すりを駆動させるためのローラ
- 手すりチェーン - 手すり駆動ローラを回転させ、手すりに動力を伝達するチェーン
- 加圧ローラ - 手すり駆動ローラと対になって手すりを表裏から挟み込み、手すり駆動ローラの摩擦力を確保するローラ
- 手すり案内レール
- インレット - 帰路側への手すりの出入り口で、手や物の引き込まれを防ぐために安全装置が設けられる
[編集] 利用シーン
エスカレータの設置目的は大別して、
- 段差(高低差)の大きい場所における利用者の肉体的負担の緩和
- 交通量の多い階段における利用者の円滑かつ安全な移動の促進
- バリアフリーの観点から、高齢者などの弱者に配慮して設置する場合
などがある。但し階段に比べて非常に高価であり、保守点検等コストも掛かる事から、設置場所は主に百貨店や大型スーパーマーケットなどの商業施設、駅(高架駅、橋上駅、地下駅など)、空港、フェリーターミナルなどの交通機関の乗り場、大規模な総合病院やホテルなどの大型施設に限られる。
エスカレータはステップが自動的に動くので、一度乗り込めば次の階に到着するまで立っているだけで良いのだが、急いでいる事を理由に階段を昇降するようにステップを自分で上り下りし移動速度を速める人が多数いるため、左右どちらかの片側(関東、福岡及び北海道及び岡山では乗り込む際に左側に立ち右側を空け、京都府を含む関西及び仙台では右側に立ち左空け)を空けるのが慣例とされている。
これは大阪万博の際、主に右立ち左空けが標準だった欧米諸国にならい左側を空けるようにしたため関西ではそれが定着し、その後首都圏に次々にエスカレータが設置されるにあたっては従来からの「追い越しは右側」という習慣によって関東では左右逆となったという経緯があるとされる。ただ、このようなどちらか左右を空けるという習慣そのものがない(単に前に居る人に合わせる等)といった地方も多い。日本以外でも同様の習慣があり、右側に立ち左側を空けるのが国際的には多数であるといわれている。
しかし、本来エスカレータでの安全基準は、ステップ上に立ち止まって利用することを前提とされているため、エスカレータ上での歩行はその振動によってエスカレータの安全装置が働き、緊急停止することがある。さらに、片側空けは荷重バランスを長時間に亘って崩し、エスカレータに予期せぬ不具合を生じさせる事にもつながる。 こうしたエスカレーター自体への不具合に加え、腕の骨折などの要因により、片側の手すりにしかつかまる事のできない人への配慮、また歩行者によってバランスを崩した人が転倒し、それによって将棋倒し事故を招くなど、利用者に対しての危険性も極めて高い。実際、韓国では老人が転落する事故が発生して波紋を呼んだ。
このため、日本エレベータ協会ではエスカレータでの歩行禁止をマナーとして呼びかけている。また、川崎駅前地下街「アゼリア」では過去の将棋倒し事故を教訓とし、歩行禁止を呼びかけている。
利用者に於いては「急いでいる人は階段を使えばいい、何の為のエスカレータか(急ぎであってもエスカレータを歩いても意味が無い)」といった意見も多く見受けられる。 しかし、エスカレータに対し階段が一緒に併設されていない場所も数多く点在し、特に駅の様に乗降や乗換えの為の急ぎの乗客も多々利用する先述のエスカレータの存在といった問題点もある。
2004年夏より、名古屋市営地下鉄では構内放送で歩行禁止を呼びかけている。これは全国初のことである。また、順次「エスカレーターでの歩行はおやめ下さい」のステッカーが貼られている。(ただ、普及しているとはいいがたい)。 東京都交通局でもエスカレータでの歩行禁止を呼びかける掲示が出されている。
このような呼びかけがあるにもかかわらず、東京、名古屋、大阪などの大都市圏でのエスカレータ内での歩行の事例が後を絶たない。
[編集] 表記について
この機器は、「エスカレーター」と表記されたり「エスカレータ」と表記されたり、表記が一貫していないが、JIS(日本工業規格)では「エスカレータ」と表記している。
JIS の中には、用語や記述記号についての定めもある[1]。JISの表記の定めは、「JIS規格の文書中で使用する用語の定義」であり、日本で一般に使用する用語の定義ではない。ただし、その提案は業界の団体がおこなっているため、どの業界であってもJISに規格のある業界では特にその技術系においてJIS用語に規定された用語が広く使われている。技術仕様では官公庁への届出など公文書への添付などにも使用されることもあるためである。しかしながら、顧客志向に重きを置かれるようになってからは、世間一般と広く接する販売系、マーケティング系においては、たとえ企業向けの販売が多い場合であっても、世の中で広く受け入れられている用語が使用され、一般に、エレベーター、エスカレーターの表記が使われる。業界団体の日本エレベータ協会でも一般広報には同様のアプローチをしている。
新聞や書籍などといった印刷媒体では、文字数が少なくてすむので長音符号を省く表記が抵抗なく受け入れられていったが、日本語会話における口語では「エスカレーター」と伸ばして発音する人も多い。
同様のことは「エレベーター」「プリンター」など、多くの単語に見られる。
- ^ 一般には、外来語で、英語の語尾が「-er」「-or」「-ar」の場合、長音符号で表記する。従って「エスカレーター」となる。しかし、JISでは、学術用語や別の規格がある場合はそれに従うが、それ以外の場合、その言葉が3音以上であれば、長音符号を省くのが原則となっている。従って、JISでは、エスカレーターを「エスカレータ」と表記する。これらは、どちらが正しくてどちらが誤りと決められるものではない。
[編集] 関連項目
中高一貫教育や中高(小中高大学)一貫校など、無試験で内部進学が可能なことを、エスカレータの動作に例えて俗に「エスカレータ式」あるいは「エレベータ式」と呼ぶ。
[編集] 関連リンク
- 日本エレベータ協会の呼びかけ[1]
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