中高一貫教育
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中高一貫教育(ちゅうこういっかんきょういく)とは、前期中等教育(一般の中学校で行なわれている教育)と後期中等教育(一般の高等学校で行なわれている教育)の課程を調整し、無駄をはぶいて一貫性を持たせた体系的な教育方式のことである。
また、これを行なっている学校を中高一貫校(ちゅうこういっかんこう)と言う。
無試験で上級学校に進学する学校を俗に「エスカレーター式」「エレベーター式」と呼ぶこともあるため、中等教育学校や中高一貫校もこのように呼ばれることがある。
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[編集] 統計
実施校には以下の3種類がある。(2003年の統計)
- 同一学校型(中等教育学校)
- 全16校。公立5校。私立9校。国立2校。
- 併設型(中学校・高校)
- 全50組。公立26組。私立23組。国立1組(中学校と高校を合わせて1組とした)。
- 連携型(中学校・高校)
- 高校は全54校。公立54校。国立0校。
- 中学校は全133校。公立132校。国立1校。
- 私立1組。
- 中学校と高校で数が違うのは複数の中学校が同じ高校に連携しているため。
上記の数字は公式に認定された中高一貫校のみであり、ある中学校からある高校に一般入試をせずに進学できる場合(内部進学)も、両校を中高一貫校と呼び慣わしているため、実質的な一貫校はもっと多い。代表的な一貫校はいずれも上記の数字には入っていない。このように、実際には私立中高の大部分が一貫校と考えられる。傾向としては、国立・私立には中等教育学校や併設型が多く、公立には連携型が多い。
[編集] 高校募集
外部からの優秀な生徒を入れることによって、生徒に緊張感を持たせて一貫校特有の中だるみを防ぐことを目的としている学校がある。中高一貫校の高校入学組は中学受験のリベンジを目指した生徒が多い。高校入学組の平均的な学力は高く、最下位の高校入学組でも全体の中位程度だという説がある。国立の中高一貫校の場合は、中学から高校に進めない場合があるので、高校から入学したほうが良いという考えもある。
それに対して、高校募集をしない学校を完全中高一貫校と言う。高校募集を停止して完全中高一貫校になる学校が徐々に増えつつある。その背景として、高校入学組は入学時の学力は高いものの、中高一貫したカリキュラムを受けた内進生に比べて進度が遅いことがある。高校募集を継続していても、高校から入学した生徒への未履修分野の補講が必要となったり、中には、高校から入学した生徒を中学からの内進生のクラスに組み込まず、別クラスにする学校もある。中等教育学校も基本的に後期課程募集はしない。
なお、愛知県東三河地方の中高一貫教育校(桜丘高等学校等)では、中学卒業の段階で県立の進学高に生徒の多くが流出し、系列高校への進学が少ないため中学だけの評価が高いものの、高校は中学と比較して著しく低く、中高一貫校としての評価が全く得られていないという東京、京阪神等の中高一貫校(履正社中学校・高等学校を除く)で見られない特異な現象が起きている。
但し、私立の中高一貫校では同じ学校法人によって「高等学校のみ」の学校を別に設置しているところもあり、学校名は、例えば中高一貫校では「○○中学高等学校」、高等学校では「○○高等学校」とされる。
この場合、高等学校のみの学校が中高一貫校より学力が低くなる傾向があり、高校受験において公立高等学校に対する「滑り止め」と位置づけられることがある。その結果、同じ名を冠する学校でありながらそれぞれ「進学校」「教育困難校」という二極分化が起きることがある。また、制服についても一見似ているが中高一貫校の方が高価な素材を使うなど、学校を設立した側でも差別化・序列化を図っていることがある。
[編集] 制度変更
中学・高校併設の私立校や国立校では従来から行われてきた教育方式だが、公立校では、東京都立世田谷工業高等学校が1959年から1973年にかけて付属中学校を設置したくらいしか例が無く、1998年の学校教育法改正により正式に認められ、積極的に一貫教育ができるようになった。
法的に中高一貫校の形をとっている学校としては、1999年度に公立中等教育学校の宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校、公立併設型の岡山市立岡山後楽館中学校・高等学校、公立連携型の飯南町立飯南中学校・飯高町立飯高西中学校・飯高町立飯高東中学校・三重県立飯南高等学校、私立併設型の横浜共立学園中学校・高等学校の4組が設置されたのが最初である。文部科学省は日本に500校の中高一貫校を設置する予定である。
[編集] 中高一貫教育のメリット・デメリット
中高一貫校では高校・後期課程進学時に高校受験が不要または簡単な試験で済むため、6年間のうち大部分を試験勉強に追われずに過ごせるという点が人気の一因となっている。しかし、高校段階で募集をしていない学校も多いため、学校の校風が自分に合わなくても別な学校に進学しにくいという問題もある。それでも高校募集をしている高校に受かれば転校は可能だが、中学校によっては、外部の高校を受験すると落ちた場合でも附設の高校に内部進学する資格を失ってしまうというペナルティ規定がある場合もある。なお、私立大学の附属校は一般入試を受けなくても大学に内部進学できる場合が多く、そのため難関大学の附属校は人気が高くなっている。
また、中高一貫校では、教育熱心で、そこそこ裕福な家庭で暮らしている生徒のみが6年間同じ環境で過ごす場合が多く、異質な生徒との交流機会が余り無い為、狭い世界しか知らない偏った考えの持ち主になってしまうという批判が有る。しかし、公立中学校にはゆとり教育やいじめ問題や学級崩壊などの諸問題が発生する場合が比較的多い為、公立中学校に入学することへの不安も強い。また私学人の中には、「知識を磨いてこそ徳性も磨かれるため、『知育・体育・徳育』のうち知育が欠けた公立学校よりよほどよい」と主張している人もいる。しかし、中高一貫校だからいじめ問題がないと言い切れるわけではない。また、大学進学実績のみを重視する一部の中高一貫校の場合、素行に問題のある生徒や成績の伸びない生徒を中学卒業時点で高校へ内部進学させないなどの手法により、ビジネスライクな発想で実績を維持している学校もあり、そのようなプレッシャーが生徒間のひずみを産んでいるという声もある。
典型的な中高一貫校の教育課程は、高校2年(中等5年)までに中高の内容を終わらせ、最後の1年で大学受験に特化した学習をするというものである。現在の学習指導要領では、中学校の内容がゆとり教育のため薄く、その代わり高校の内容が濃い。それを5年間で均等に引き延ばしているわけなので、必ずしもこの方法が詰め込み型の教育とは言えない。
[編集] その他
中高一貫校は高い進学実績を残すのに有利とされている。例えば東京大学合格上位校の大部分を私立・国立一貫校が占めており、公立高校は宇都宮、県千葉、土浦第一、岡崎、一宮など少数にとどまっている。
近年では公立改革が進み、日比谷や浦和などの名門公立校が進学実績を持ち直してきている。また、公立中高一貫校の設置も全国で進んでおり、小石川や県千葉といった名門公立進学校でも設置が相次いでいる。
一貫教育のメリットは中高にとどまらず、公立学校を中心として小中一貫校を設立するところも現れている。開智中学校・高等学校では、小学校も設置して小中高一貫校にする予定である。幼稚園から短大、四大まで擁している学校法人もある。ちなみに大部分の盲学校・聾学校・養護学校は小中高一貫校である(幼も入る場合がある)。
また、トヨタ自動車・中部電力・JR東海の中部財界3社は、2006年4月に中高一貫校「海陽中等教育学校」を愛知県蒲郡市のラグーナ蒲郡内に開校した。イギリスの名門イートン校をモデルにし、実現すれば、民間企業による初の学校経営となる。(学校法人ではない企業内学校はこれまでも存在した。なお実際の運営は学校法人海陽学園となる。)
特異なケースとしては、叡明館という中高一貫教育の全寮制校が石川県に1984年開校したが、1995年に廃校となっている。