ディスクブレーキ
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ディスクブレーキ (Disc brake) は、制動装置の種類の一つであり、主に、航空機・自動車・オートバイ・自転車・鉄道車両に使用されている。
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[編集] 特徴
ディスクブレーキの長所は、主要構造が外部に露出していることにより、ブレーキローターに水が付着した場合でもローターの回転で水を弾き飛ばしてしまうこと、ローター自体の放熱性が良好であること、等、安定した制動力が得られる所にある。
その反面、ドラムブレーキのような自己サーボ効果(自己倍力作用)が無い。そのままでは制動力が弱いため、別途、エンジンの吸気負圧等を利用した倍力装置と呼ばれるシステムを付加し制動力を確保している。当然、エンジンが停止しているときには十分な制動力が得られないので、全車輪にディスクブレーキを採用する車両では、駐車ブレーキ用にディスクローターとは別にドラムブレーキが追加されているものもある。
[編集] 構造
構造は、車輪と一緒に回転する円盤(ディスクローター、ブレーキローター)を両側からブレーキキャリパーに組み込まれたブレーキパッドで押さえつけることで摩擦を発生し、運動エネルギーを熱エネルギーに変換して制動する仕組みである。パッドを押さえつける力を伝達する構造は自動車用では主にパスカルの原理を用いてマスターシリンダーからの入力でピストンを動作させる油圧式。鉄道車両では空気式。ローターの材質は自動車ではダクタイル鋳鉄(FCD)やねずみ鋳鉄(FC)、航空機用では鋳鉄の他にカーボンコンポジット(CCコンポジット)製のものが存在する。[1]オートバイではサビや汚れに対する考慮からステンレス鋼のものが主流。
付着したブレーキパッドの摩擦粉の除去やローターの放熱・冷却のため、ローターの面に穴開けや溝掘りなどの加工を施すことがあり、前者をドリルローター(またはドリルドローター:Drilled Rotor)、後者をスリットローター(Slit Rotor)と称する。ローターの冷却対策としてはディスクを2枚としてその間にフィンを挟んで放熱に関与する表面積と通風性を増したベンチレーテッドディスクブレーキ(Ventilated Disc Brake)を採用することが多い。一枚板のものはソリッドディスクブレーキ(Solid Disc Brake)と称する。
[編集] 倍力装置
制動力を確保するために必要となる倍力装置には、次の3種類の主な方式がある。
- 真空倍力式
- ガソリンエンジンの吸気負圧を利用するタイプで、最もポピュラーな方式である。バキューム、あるいはブレーキサーボと呼ばれることもある。
- 空圧倍力装置
- エアコンプレッサにより圧縮した空気を使用するタイプである。負圧の発生しないディーゼルエンジン車(国内では主に積載量4トン級以上の中大型トラック)に使われる例が多い。補助できるブレーキ力は、真空倍力式の10倍以上になる。
- ※鉄道用車両の場合は、ブレーキ力を発生しているのではなく、圧縮空気によりブレーキ力を弱める又は、ブレーキを解除するために圧縮空気を利用している。
- 油圧倍力装置
- 油圧を利用するタイプである。真空圧があまり確保できない直噴エンジン搭載車や、小型化を図る目的で一部の高級車にも採用されている。動力源は、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)やTCS(トラクションコントロール)用の油圧装置を使用する。量産車では1962年にルノー車で採用されたのが最初である。また、当時のディスクブレーキは、油圧倍力装置の不安定さから、制動力不足となる事があった。
[編集] 主要用途
[編集] 航空機用
大型旅客機ではブレーキローターを複数枚重ねた構造の多板式ディスクブレーキが用いられる。
[編集] 自動車用
自動車(乗用車)では一般的に、前輪にベンチレーテッドディスク(2枚のディスクの間に冷却フィンを挟んだもの)ブレーキ、後輪には制動力の配分上、またコスト上、通常のディスクブレーキまたはドラムブレーキを用いる事が多い。パーキングブレーキ用の小型ドラムブレーキを組み合わせた「ドラム・イン・ディスク」もある。
大型車では車両重量や荷重などの関係でディスクブレーキの採用はつい最近まで見送られていたが、EBS(電子制御ブレーキシステム)やリターダなどの普及で少しずつではあるが採用され始めた。
なお広義の自動車という観点ではレーシングカートにも採用されている。
[編集] オートバイ用
オートバイでは、原付などを除き前後輪とも採用されているのが普通だが、制動力配分が低い後輪への採用は、後輪自体の軽量化や整備性を優先していることが多いため。
[編集] 鉄道車両用
鉄道車両では東急車輌製造がアメリカのバッド社(en:Budd Company)のライセンス供与を受けて製作された東急7000系を筆頭に見られたパイオニアIII型や相模鉄道の車両が有名だが、制動時に車輪がロックすることによる偏摩耗を抑えるのと放熱性を考慮して、新幹線やJR西日本681系電車では高速走行に対応するため、ディスクブレーキを採用する。
鉄道用車両におけるディスクブレーキは、2種類ある。1つは、既に記述済みの新幹線などで使用されているタイプであるが、これは「油圧キャリパー式」と呼ばれる。2つ目は、「テコリンク」と呼ばれるタイプである。このブレーキは、文字通りテコの原理により強い制動力を確保する。テコリンク式ブレーキは、主に在来線電車の付随車に採用される。これは、ブレーキアッセンブリが車輪の内側に設置されるため、モーターの搭載が難しくなるためである。 補足であるが、ディスクブレーキが採用されている車両には、車輪とレールの間に細かいゴミや塵、雨天時には雨が入り込むのを防ぎ粘着力を確保する目的で、ほぼすべての車両が踏面ブレーキを併用する。
[編集] 建設機械用
[編集] 農業機械用
農業機械では、湿式によるインボードディスクブレーキとして主にトラクターに採用しているケースがほとんどである。
[編集] 自転車用
自転車分野でも、特にスポーツ向けのマウンテンバイクで近年採用されることが多くなっている。
以前は制動装置として、カンチブレーキ、Vブレーキ、油圧リムブレーキ等が使用されていた。しかし、これらのブレーキはすべてホイールの最外周であるリム部を利用するため、効率の面では優れるが、路面が荒れている状態で使用すると、水や泥の影響で極端に制動性が落ちてしまう。また、ホイールに激しい衝撃が加わるダウンヒル競技などでは、リム部にゆがみが発生し、リムタイプのブレーキでは一定の制動力を得られない、ホイール交換ごとにブレーキの設定を更新する必要がある等の不満があった。
これらを解決するために、既に一般的技術となっていたキャリパー式のディスクブレーキを小型化・軽量化したものが自転車に採用された。油圧式、ワイヤー式があり、油圧式はピストンの個数や方式等によりさまざまな商品が展開されている。また、ワイヤー式(メカニカルディスクと呼ばれる)は、安価でVブレーキなどの以前の資産が流用できる点や、メンテナンス性に優れる点などが長所である。ただし、どちらの方式もリムブレーキに対し重量面では劣り、部品数も多いことから故障率も高くなってしまうので、重量をある程度無視できるダウンヒル競技や、路面状況の悪いトレイルを舞台とするクロスカントリー競技以外では、装飾用を除きあまり採用されない。
ほかの用途と異なり、自転車用のディスクブレーキはパッドとローターの間への異物の混入を前提としているため、波形の円周をもつウェーブローターをはじめとし、ローターの形状やパッドの材質に工夫が見られる。また、取り付けにはフレームやフロントフォーク、ホイールのハブに専用の台座が必要。例、ポストマウント・IS(インターナショナルスタンダード)
[編集] 主要メーカー
自動車・オートバイ用においては、アドヴィックス、ブレンボ、デルファイロッキード、APレーシング、ウイルウッド、フェロード、アルコン、曙ブレーキ工業、トキコ、日信工業、日清紡績、住友電工ブレーキシステムズなどが代表的メーカーで、F1、WRC、MotoGPなどの各種レースで実績を持つ。 アフターマーケットではエンドレス・アドバンス、プロジェクト・ミュー、ウェッズなどに代表されるブレーキ系パーツに強いメーカーもあり、こちらもモータースポーツで実績を上げている。
[編集] 脚注
- ^ カーボンコンポジットブレーキは、1000℃を超える超高温状態でもフェード現象を起こさない事から、F1(Formula One World Championship)でも使用されている。しかし、非常に高価であることと耐久性に乏しく磨耗が早い事に加え、ある程度の高温に達しないと良好なブレーキングができないので、市販車への採用はなされていない。
[編集] 関連項目
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