トヨタ・センチュリー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
センチュリー (CENTURY)は、日本の自動車メーカートヨタ自動車が生産する最高級乗用車。ハンドメイドに近い形で限定生産が行われている。 ショーファーズカーのライバル車として、国産では日産・プレジデントなど。 輸入車ではメルセデス・ベンツ Sクラス、BMW・7シリーズ、アウディ・A8などが価格的に近いが、その性格的な側面では、値段に開きがあるもののロールスロイス・ファントムや、マイバッハなどがどちらかというと近い。 2005年よりトヨタ系列の高級車ブランドとして、日本国内でレクサスが販売開始されたが、「目立たず」「自分では運転しない車」として独自のポジショニングを確立している。
目次 |
[編集] 概要
トヨタのみならず、日本製乗用車全体のピラミッド階層における最上級の存在であるが、ロールス・ロイス・ファントムやマイバッハなどの国際輸出を念頭に置いた超高級車とは性格を異にし、日本国内のコンサバティブな需要のみを対象とした特殊な高級乗用車である。その点では、イギリスのオースチンA135(1952年~1968年)、旧ソビエト連邦・ロシアのZISおよびZIL(1936年~)や中国の紅旗(1958年~)などと同様に、極めてドメスティックな指向に立脚した存在と言える。
皇族・政府首脳や政治家の公用車、また大企業の幹部クラスの専用車や保守的な富裕層の自家用車として広く用いられている。ショーファードリブン(専属運転手による運転)が前提とされており、後部座席の快適性に重きを置いた作りになっている。
[編集] 歴史
[編集] 初代(1967-1997年)
豊田佐吉生誕100年、及びトヨタ自動車工業設立30周年を記念して1967年に発売され、爾来日産自動車の「プレジデント」と並び、日本の支配的階層の専用車両として独自の地位を築き上げた。そして細部の改良を受けながらも、1997年まで30年間に渡ってモデルチェンジなしで生産される希有な記録を作った。1960年代中期のアメリカ車の流れを汲んだ、長大で保守的なセダン・デザインのボディを持ち、登場当初は日本車としては珍しい長矩形の異形ヘッドライトを備えていた。
1964年に、それまでのトヨタの最上級車であった「クラウン」の車体を拡幅してV型8気筒(エンジン形式はV型)2600ccエンジンを搭載した「クラウン・エイト」が開発されたが、初代センチュリーはこれを全面的に改設計し、従来アメリカ製高級車によって占められていた日本国内のVIP向けショーファー・ドリブン用途への本格的参入を狙ったものである。メカニズムはコンベンショナルではあったが高品質であり、高いレベルの居住性と静粛性を追求した。
V型8気筒のフロントエンジン・リアドライブ車で、エンジンは3V型OHV・3000ccエンジンから始まり、その後排気ガス対策等で3400cc(4V-U/4V-EU型)まで排気量拡大が為された。
1982年にビッグマイナーチェンジが実施された。エンジンが3400ccの4V-EUに代わり4000ccの5V-EUとなった。デビュー以来大幅変更されなかった内外装が変更され、オートエアコン、内装の総ウレタン化、ラジオの電子チューナー化、各種スイッチの日本語表記などが行われた。
1987年マイナーチェンジ。デジタルメーターと内外装の変更、ATを3速から4速に変更。
1990年ホイールベースを150mm延長したLタイプ追加。
1992年一部改良。運転席エアバッグが装備され、内装が少し手直しされた。
このモデルはライバル車の日産プレジデントと同様、近年は中古で比較的安価で入手でき、またアメリカ車並に大柄なボディサイズやベンコラ(ベンチシートにコラムシフトの組み合わせ)が受けローライダー、あるいはVIPカーのベース車として若者にも人気がある。
[編集] 2代目(1997年-)
1997年に発表され、2006年時点でも生産されている。日本製乗用車としては史上初にして唯一のV型12気筒エンジンを搭載したフロントエンジン・リアドライブ車。
最新のメカニズムを満載したハイテクノロジーの権化のような自動車でありながら、車体デザインは1967年以来の初代モデルのデザインをほとんど踏襲し、遠目には初代モデル末期型と区別を付けにくい外観となった。リムジンの設定がなくなった。
V型12気筒エンジンは4カムDOHCの5000㏄・280HPで、基本構造はトヨタで長い実績のある既存の直列6気筒エンジンをベースにしている。エンジンの形式名は、1GZ-FEであり、片バンクの6気筒にトラブルが生じても、残りの6気筒が機能して走行できるようになっている。その他の走行機器の多くにバックアップのための2重系統化が施されている。
内装に使われている木目パネルには職人が一つ一つ丹念に手で作り上げたものが使われるなど、高度な素材・技術が使われており、ボディーカラーも「摩周(ましゅう)」「神威(かむい)」など、およそ他の車種では有り得ないような名前が使われている。車の性格からオーナードライバーが自ら運転するケースは多くないものの、オーナードリブン時とショーファードリブン時で、走行性能を切り替える機能もある。
なお、2003年に官公庁での使用を見込んで圧縮天然ガス(CNG)仕様車が登場したが、四国のように都市ガスの天然ガス化が遅れている地域が少なくないうえ、ベースモデルよりも約300万円高いため、導入拡大にまでは至らず、2005年の一部改良時に設定は消滅した。CNG仕様車のエンジンは1GZ-FNEで、出力は258馬力とやや下がっている。また、識別のためフロントドア横に「CNG」の文字が入っている。
2005年1月、一部改良。ATが6速化され(フロアシフトはシーケンシャルシフトマチックとなる)、平成17年排出ガス75%低減でSU-LEVの認定と平成22年度燃費基準を達成した。また、デュアルEMVが標準装備になった。この時後席ビデオデッキに代わりDVDプレーヤーが標準になっている。
2005年8月、1967年以来使用されてきた天皇・皇后両陛下の御料車が老朽化のため、「プリンス・ロイヤル」から更新されることになったが、同車を納入した日産が開発費の問題から次代の車両納入を辞退した。その後、トヨタが納入を提案したため、センチュリーをベースとした特別生産車「センチュリーロイヤル」の購入が決定。9月28日の臨時国会開会式に出席する際から使用された。
[編集] センチュリーの特殊性
[編集] 販売施策
現行車の価格設定は最低でも1,130万円からであるが、実際には製造・販売による利潤はなく、売れれば売れるほど赤字になると言われている。かつては1,000万円を切る、車格からすれば異常な水準の廉価で販売されていたが、2005年に値上げが図られた。トヨタにとってセンチュリーは、日本のトップメーカーとしてのステータスを誇示する一つの象徴であり、またトヨタ製量産車の顧客となる官公庁や企業に対する営業アイテムとも言える存在である。
販売ディーラーはトヨタ店(東京地区は東京トヨペットと併売)。尚、カタログは同車の性格上購入する意思が無い限りカタログをもらうことは出来ない。また日産・プレジデントと違い個人で購入する意思があってもディーラーが購入者の勤務先の業種や年収等を徹底的に調査し、購入に相応しくない結果が出た場合は、例え現金で全額購入する金額があっても購入出来ない販売方針となっている。ここが予算があれば購入できる他車種とは異なる点の一つといえる。勿論ユーザーに渡った後のことはコントロールできないため、(トヨタからして)好ましくない人物に転売されることもある。
[編集] 国内専用車
日本国外には輸出されていないと思われたが、アジアやヨーロッパ市場でも消極的ながら販売されている。左ハンドル・右側通行のアジア各国・ヨーロッパ各国では主に在外公館向けとして左ハンドルのセンチュリーが極少数存在する。
センチュリーの主なユーザーである皇族、保守的上流層、政治家や企業幹部は、「センチュリーに乗ることを誇示する」のではなく、この車特有な一種の匿名性と儀礼的性格を利用している傾向が強い。30年近い生産期間に固定化してきた「センチュリー」のこのようなキャラクターを崩すことは、ユーザーにとって好ましいことではなかった。ゆえに2代目の開発にあたっても、初代の古典的デザインが踏襲されることになった。
2代目センチュリーに試乗した欧米の自動車評論家やジャーナリストは、一様にその驚異的な静粛性と居住性を「イギリスやドイツの最高級車に比肩するもの」と賞賛する一方で、ボディデザインについては「あまりにも前時代的」「奇怪、異様、醜悪」と口を極めて酷評している。
欧米人の美意識からすればこのような悪評を受けるデザインを敢えて用い続けるところに、国際商品ではなく、あくまで日本国内専用車としてセンチュリーを位置付けているトヨタのスタンスが伺える。
[編集] エンジン二重化
自動車エンジンを二重化した例としてトヨタ・センチュリーはよく知られている。コスト高よりも信頼性を高めることを優先した実装例でもある。搭載されているV型12気筒エンジン制御システムが二重化されており、いずれか片方の6気筒が故障しても走行できる。また燃料ポンプも二重化されている。日本国内での唯一の実装であることが、官公庁の選択時において他社(他車)と差別化する大変大きな訴求ポイントともなっている。この場合贅沢さはほとんど訴求されずエンジン二重化による信頼性の高さからくる公務執行能力の高さが訴求される。
[編集] 年表
- 1964年 前身のクラウンエイト(VG10系)が登場(~1966年)。
- 1967年 初代センチュリー登場(VG20系:3000cc、1972年まで)。
- 1973年 マイナーチェンジで3400ccへ変更(VG30系、1981年まで)。
- 1982年 大幅なマイナーチェンジで4000ccへ変更(VG40系、1996年まで)。
- 1997年 発売30周年を機に、現行モデル(GZG50系)へフルモデルチェンジ。
- 2005年 マイナーチェンジにより、6速AT化。
- 2006年 皇室専用車センチュリーロイヤル登場
- 2007年 発売40周年
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- トヨタ・センチュリー(公式)