モアハウス・カレッジ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア（Wikipedia）』

現在のキャンパスに移って最初に建てられたグレイブス・ホール。建設された1880年代は寮・教室・事務所すべてがこの建物に収まっていた。2007年現在は成績優秀者のための寮になっている。

モアハウス・カレッジ (Morehouse College) はアメリカ合衆国ジョージア州アトランタにあるリベラルアーツ大学。アフリカ系アメリカ人（以下黒人）の歴史に必ず登場する由緒ある名門私立で、全米に4つ残る男子大学の一つとしても知られている。61エーカー（247,000㎡）のキャンパスを有し、約3000名の生徒を抱えている。学生教員比率は16：1であり、大学に終身在籍権を持つ教員の100%が博士号など専門分野での最高学歴を保持している。

クラーク・アトランタ大学、超教派神学センター、モアハウス医学校、近隣の女子大学であるスペルマン・カレッジとともに、モアハウス・カレッジはアトランタ大学センター (Atlanta University Center)に属している。アトランタ大学センターとは、黒人高等教育のための全米最大の連携機構である。2006年、605名の学生が卒業し、全米の歴史上最多の卒業生を送り出した大学の一つとして記録された。モアハウス・カレッジの姉妹校の女子大学であるベネット・カレッジ(Bennett College) はノース・カロライナ州グリーンスボロにある。

[編集] 歴史

南北戦争終了2年後の1867年、オーガスタ専門学校 (Augusta Institute) は、オーガスタ・バプテスト教会の牧師ウィリアム・ジェファーソン・ホワイトがジョージア州オーガスタ出身の元奴隷リチャード・C・コルター牧師と、ワシントンD.C.で自由についての教育を行う国立神学研究所を管理していた牧師エドムンンド・ターニーの支援を得て設立した。この学校は黒人男性が牧師になるためと教育を受けるための教育を行う機関として創立された。所在地は全米で最も歴史の古い独立した黒人教会であるスプリングフィールド・バプテスト教会内であった。最初の学長は、組織会議運営の名著『Robert's Rules of Order』の著者である陸軍のH・M・ロバート少佐の息子であるジョセフ・T・ロバート牧師である。

1879年、オーガスタ専門学校はアトランタにあるフレンドシップ・バプテスト教会の地下室に移り、名前をアトランタ・バプテスト神学校 (Atlanta Baptist Seminary)に変更した。後にアトランタの中心地に4エーカーのキャンパスを得た。1885年、サミュエル・T・グレーブスが2代目の学長に就任した。同年、ジョン・D・ロックフェラーから寄付された土地に移転し、2007年現在も同じ位置にある。1890年、ジョージ・セールが3代目学長に就任し、1897年にはアトランタ・バプテスト大学 (Atlanta Baptist College) に改名した。

1906年ジョン・ホープは同大学設立以来初の黒人として学長に就任し、この大学は規模を拡大し、より広範囲の学問を学べる機関へと変貌した。ブッカー・T・ワシントンが掲げる農業と貿易に重きを置いた黒人のための教育方針に反して、ホープは学術に厳しい優れた大学を目標にしていた。1913年、北部パブテスト・ホーム・ミッション協会の通信秘書、ヘンリー・L・モアハウスに敬意を表してモアハウス・カレッジと再び改名された。モアハウスは1929年にクラーク・カレッジとスペルマン・カレッジと協力提携を結んだ。この協定が発展して後にアトランタ大学センターが設立された。

1931年にサミュエル・H・アーチャーが5代目学長に任命され、自身の母校であるコルゲート大学と同じ小豆色と白をスクール・カラーに選んだ。1940年には、ベンジャミン・イライジャ・メイズが学長となった。メイズはベイツ･カレッジをファイ・ベタ・カッパ（最優秀成績者）で卒業し、シカゴ大学の大学院を卒業している。メイズは国際的にもモアハウスの名声を上げるべく努め、オメガ・サイ・ファイ学生友愛会のサイ分会の創立アドバイザーでもあった。またマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの指導者でもある。1960年代にはモアハウスの生徒はアトランタにおいて公民権運動に参加するようになった。メイズが在籍中のモアハウスの生徒達はその人格形成にメイズの深遠な演説の影響を受けた。

1967年にヒュー・M・グロスターが7代目学長になった。1968年にモアハウスのファイ・ベタ・カッパ会が創立された。1975年に医学校が創立されたが、1981年にはモアハウス医科大学となりモアハウスから独立した。1987年にリロイ・キース・ジュニアが8代目、1995年には卒業生のウォルター・E・マスィーが9代目の学長となった。マスィーは2006年に2006-2007年度の学年末に引退することを表明した。母校の学長を10年以上勤め、先頭に立って1億2000万ドルの資金調達キャンペーンを行ったマスィーは役目を終える時期が来たと感じた。

[編集] 卒業生

キャンパス内に立つマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの銅像

モアハウス・カレッジは政治家や黒人社会におけるリーダーを多く輩出しているが、日本でもよく知られている卒業生に次のようなメンバーがいる。

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア（キング牧師） (1948年) ノーベル賞受賞者、公民権運動家
ルイス・W・サリバン (1954年) アメリカ保健福祉長官
デイヴィッド・サッチャー (1963年) 第16代アメリカ公衆衛生局長
サミュエル・L・ジャクソン (1972年) 俳優
エドウィン・モーゼス (1978年) オリンピック金メダリスト、ジェームスサリバン賞受賞者
スパイク・リー (1979年) 映画監督、プロデューサー、俳優、作家
ソウル・ウィリアムズ (1994年) 詩人、俳優、ラッパー
ジョン・デイヴィッド・ワシントン(2006年)プロフットボールチーム「セント・ルイス・ラムス」のプレイヤー。映画俳優デンゼル・ワシントンの息子。フットボールの特待生として学費全額免除で通っていた。

[編集] キング・コレクション

2006年2月にキング牧師夫人が亡くなった後、マーティン・ルーサー･キング・ジュニアが残した自筆の文書類（キング・コレクション）が遺族によって一般に売却されることになった。アメリカ議会図書館や大学などを売却先と考えていたが、結局同年6月30日にサザビーズのオークションにかけられることになった。このコレクションには1964年にノーベル平和賞授賞式での演説や有名なI Have a Dreamで始まる演説の草稿も含まれる。議会図書館の計算では時価2800万から3000万ドルの価値があるとみられていた。オークションされた後の資料が散乱するおそれを懸念する向きもあった。しかしアトランタ市長のシャーリー・フランクリンが民間企業50社、政府、個人から集めた寄付金3200万ドルで、オークション間際に介入し、事前入札を行った。そして6月23日に約7000点にのぼるキング・コレクションの保管先が、キングの母校であるモアハウス・カレッジ決まったという公式発表があった。6月29日、同市長はキング・コレクションを研究や一般閲覧・展示などができるよう市内に公民権博物館を建設する予定であることを発表した。10月24日にはアトランタに本社を置くコカ・コーラが建設計画の援助として1000万ドル相当の一等地を寄付するという報告があった。