再処理工場
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再処理工場(さいしょりこうじょう)とは、原子炉から出た使用済み核燃料の中から使用可能なウラン、プルトニウムを取り出す施設である。
核燃料サイクルにおいて、最も重要な施設である。
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[編集] 概要
未使用の燃料棒には二酸化ウランの燃料ペレットが封入されているが、原子炉で使用されると核分裂によりウランが別の元素に転換する。それら核分裂生成物もアルファ崩壊やベータ崩壊による核種変換により、別の物質へと変化してゆく。そのため使用済み核燃料棒内には、多数の元素が混在する状態となる。このような状態の燃料棒から未反応のウラン、及び生成したプルトニウムを取り出す作業が(核燃料の)再処理であり、それを行う工場が再処理工場である。取り出されたウランとプルトニウムは、再び核燃料に加工される。
[編集] 再処理
現在各国で採用されている核燃料の再処理方法はピューレックス(PUREX)法と呼ばれるもので、大まかに言えば、酸に溶かした燃料棒からウランとプルトニウムをキレート錯体として分離する方法である。
最初に使用済み燃料を燃料棒の状態のまま細かく切断し濃硝酸に溶かす(水相)。酸に溶けない燃料被覆管と不溶残渣を取りだした水相を、ドデカンにリン酸トリブチル(TBP)を溶かした有機溶媒(油相)とミキサー・セトラー(mixer-settler)型抽出槽やパルスカラム(pulse column)型抽出塔で混合・接触させると、ウランとプルトニウムがTBPと反応してキレート錯体となって油相に移動する。次に油相を還元剤を含む別の水相と接触させると、プルトニウムだけが水相に移動する。燃料被覆管は低レベル放射性廃棄物として、不溶残渣と各種放射性物質の混合体である硝酸系廃液は高レベル放射性廃棄物として処分される。
なお、プルトニウムは容易に核兵器に転用可能なため、それのみを所有することは核拡散防止条約で禁止されている。そのためプルトニウムとウランと混ぜたMOX燃料として保管している。
[編集] 再処理工場の一覧
核兵器保有国の軍用再処理工場を別にすれば、原子力発電所から発生する使用済み核燃料を扱う世界の主要な商用再処理工場は以下の通りとなる。このうち規模が大きく外国から使用済み核燃料を受け入れて再処理している施設はフランスとイギリスの二施設のみとなっている。
- フランス
- イギリス
- ロシア
- チェリャビンスク-40(またはチェリャビンスク-65。現在は生産合同マヤーク(Mayak Production Association)) - チェリャビンスク市キシュチム町オゼルスク
- 旧ソ連の再処理工場の内、唯一の商業目的の再処理ラインRT-1(400トンU/年)がある。かつては東欧諸国のロシア型加圧水型原子炉から発生した使用済み核燃料の再処理を行っていたが現在は国内から発生する使用済み核燃料のみを再処理している。
- クラスノヤルスク-26(鉱山化学コンビナート(Mining and Chemical Combine)) - クラスノヤルスク市 ゼレズノゴルスク
- 商業再処理のためのRT-2(1,500トンU/年)を建設中だが工事は中断されている。
- チェリャビンスク-40(またはチェリャビンスク-65。現在は生産合同マヤーク(Mayak Production Association)) - チェリャビンスク市キシュチム町オゼルスク
- 日本
- 旧動燃(現在の日本原子力研究開発機構)
- 日本原燃
- インド
- インドでは国内の原子力発電所から出た使用済み核燃料を再処理している。
- バーバ原子力研究センター
- トロンベイ再処理工場(30トンU/年)
- タラプール再処理工場(100トンU/年)
- カルパカム再処理工場(100トンU/年)
- パキスタン
- ピンステク再処理工場
- ピンステク工場は核兵器開発センター内にあり同センターにはプルトニウム生産炉があることから商業用再処理は業務の一部のみと思われる。
- チャスマ再処理工場
- チャスマ工場はチャスマ原子力発電所に併設されているため主に商業用再処理を行っているものと思われる。
- ピンステク再処理工場
- 中国
- 商業再処理用多目的パイロットプラント
- フランスの支援で甘粛省の蘭州核燃料サイクル施設に建設されているプラントは400~800トンU/年を目指している。
- 商業再処理用多目的パイロットプラント
- アメリカ合衆国
- ベルギー
- ユーロケミック社モル再処理工場(100トンU/年)
- 1966年に完成し1974年に運転が停止された。施設は解体されている。
- ユーロケミック社モル再処理工場(100トンU/年)
- ドイツ
- アルゼンチン
- エセイサ原子力研究センターのパイロットプラント(5トンU/年)が運転中である。
- ブラジル
- サンパウロにあった研究用プラントは閉鎖されている。
- イタリア
- 国内にあったEurex SFREやITRECなどの再処理施設は現在では運転されていない。
[編集] 日本での再処理
日本の再処理工場は茨城県東海村の旧動燃東海事業所にあるが、実験的な工場であるため規模が小さく、年間200トンU程度の処理能力しかない。
現在青森県六ヶ所村に建設中の日本原燃の再処理工場は、年間800トンUの処理を見込んでいるが、溶接不良に起因する不具合・構造上の不具合によって試験計画が何度も延期されている。2005年12月現在、劣化ウランを使用したウラン試験がほぼ終了しており、2006年には実際の使用済み核燃料を使用したアクティブ試験が開始される見込みである。
よって、日本で発生する使用済み核燃料の再処理はその大部分をフランス(COGEMA社)やイギリス(BNFL社)に委託している。
[編集] メリット・デメリット
再処理工場にはメリットとデメリットがある。ベルギーとドイツの撤退により核兵器保有国以外で再処理工場を持つ国は、公式には日本だけとなっている。
- メリット
- 資源を有効活用できる。
- 利用可能な資源である使用済核燃料を有効に利用できる。
- 資源を有効活用できる。
- デメリット