原油
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原油(げんゆ Crude oil)は油田から採掘したままの状態で、精製されていない石油をいう。
採掘後、ガス、水分、異物などを除去したものが原油である。黒くて粘り気のある液体であり、さまざまな分子量の炭化水素の混合物が主成分である。他に硫黄、酸素、窒素を含む化合物を少量含む。組成は炭素が83~87%、水素が11~14%、硫黄が5%以下、その他の元素は2%以下である。炭素と水素以外の組成は産地によって大きく異なる。これが何故なのかは分かっていない。比重は0.8~0.98。
原油は鉄鉱石と並んで最も重要な鉱物資源である。2001年時点で全輸出量の約5割を占めるOPEC加盟国だけでも、輸出によって2100億ドル以上を得ている。以下に、埋蔵量、産出量、貿易、消費についてまとめた。統計資料には石油開発資料2003とEnergy Statistics Yearbook 2001を用いた。
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[編集] 埋蔵量
現在の技術で経済的に採取できる埋蔵量を確認埋蔵量と呼ぶ。注意しなければいけないのは、「現在の技術で」、「経済的に」という部分である。技術の進歩や石油価格の上昇などによる損益分岐点の変動が起こると、自動的に確認埋蔵量が増える。したがって、確認埋蔵量は新しい油田の発見がなくても変化する。ある時点における確認埋蔵量をその時点における消費量で割った値を可採年数と呼ぶ。2003年時点での確認埋蔵量は全世界で1900億kl。地域分布は偏っており、アジア州、特に中東地域が56.5%を占める。ついで北アメリカ州の17.9%、ヨーロッパ州と南アメリカ州の8.0%である。埋蔵量を産出量と比較すると、カナダ、イラク、アラブ首長国連邦など埋蔵量が上位10位に入りながら、産出量が低い国が確認できる。
[編集] 産出量
2001年時点の全世界の産出量は33億5000万トンである。上位10位の国を以下に挙げる。産出量はアジア州 (42.8%)、ヨーロッパ州 (19.7%)、北アメリカ州 (16.3%)である。ヨーロッパ州が2位となる理由はロシアとノルウェー(北海油田)のためである。なお、日本産の原油については、石油#日本の石油事情を参照のこと。
- サウジアラビア 3億9600万トン、11.8%
- ロシア 3億4600万トン、10.3%
- アメリカ合衆国 2億8600万トン、8.5%
- イラン
- 中華人民共和国
- ノルウェー
- メキシコ
- ベネズエラ
- イラク
- クウェート
[編集] 貿易
2001年時点の全世界の輸入量は、産出量の60%に相当する20億トンである。
2001年時点の全世界の輸出量は、18億9000万トンである。
- サウジアラビア 3億トン、16.0%
- ロシア 1億6000万トン、8.6%
- ノルウェー 1億4000万トン、7.8%
- イラン
- ベネズエラ
- ナイジェリア
- メキシコ
- イラク
- イギリス
- アラブ首長国連邦
[編集] 消費量
2001年時点の主な国の一人当たりの原油消費量と自給率を以下に挙げる。自給率が100%を超えるのは主要八カ国中、ロシア、イギリス、カナダだけである。
- サウジアラビア 4100kg 423%
- アメリカ合衆国 2700kg 36.9%
- 韓国 2500kg 0%
- 日本 1600kg 0.2%
- ロシア 1300kg 184%
- イギリス 1300kg 143%
- 中華人民共和国 170kg 76%
[編集] 単位
通常、原油はklやkgではなく、バーレル(barrel)単位で取引される。英語のバーレルは樽の意味で、ドラム缶普及以前は樽に入れて運ばれていた名残である。1バーレルは約159リットル。原油の価格は先物取引が主導する。商品先物取引での価格は基本的に需要と供給に対する予想によって決定される。仮に投機資金が流入しても、長期的には供給拡大によって需給のバランスは回復するが、短期的な影響は避けられない時がある。
[編集] 主な原油先物市場
- ニューヨーク商業取引所(NYMEX): テキサス産原油(ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI))を標準とする
- ロンドン国際石油取引所(IPE): 北海原油を標準とする
- 東京工業品取引所(TOCOM): 中東ドバイ産原油を標準とする
[編集] 2003年からの価格動向
原油価格は2002年夏頃まで1バーレル20ドル前後で低迷していたが、アメリカ合衆国のイラク侵攻の可能性が高まるにつれて上昇に転じた。主要産油国であるイラクが石油輸出できなくなり、供給がタイトになるからである。2003年春の開戦直前に1バーレル40ドルを付けた後、戦争終結は早いとの予想から下落に転じた。しかし、米軍のバグダット占領後もイラク国内のゲリラ的抵抗のため、イラクの原油輸出が大幅に遅れたために再び上昇に転じ、さらに今は石油輸入国となっている中国の石油需要が高まったため、原油価格は下げにくくなった。また主要産油国となっているロシアの大手石油会社ユコスに倒産の可能性が高まったことから高値を付け出し、直近ではハリケーン(2004年のアイバン、2005年のカトリーナなど)によって米国の精油所が被害を受けたことや産油国ナイジェリアで反乱が拡大したことから2004年9月28日ニューヨーク商業取引所で標準原油価格が1バーレル50ドルを突破し、史上最高値を更新し続けている。現在は株式市場の低迷によって行き場を失ったヘッジファンドの資金が先物市場に流入しているとされる他、中国の原油需要の増大も原油価格高騰の要因とされる。
[編集] 原油価格上昇の影響
原油価格の上昇にともないOPEC諸国はすでに生産能力ギリギリまで生産枠を拡大しており、これ以上の増産は難しいとされる。現在は省エネルギー対策が進み、先進国の多くは原子力発電に頼る部分が大きいので、エネルギー価格が上昇しても急激なインフレが起きる可能性は少ない。しかし原油価格が高値を持続するようだと、これまでインフレの芽が全くなかった先進国経済にインフレの可能性が生じかねない。また不況懸念が高まり株式市場にとってもマイナスである。すでに韓国など中進国は悲鳴を上げており、中国の経済成長も制約を受けるかもしれない。その一方でこれまで原油価格低迷に苦しんできた中東諸国やインドネシア、シベリア油田開発が拡大している非OPECのロシアなど原油輸出国は貿易収支の改善によって大きなメリットを受ける。
[編集] 中国のインパクト
中国はこれまで黒竜江省の大慶油田や山東省の勝利油田を中心に自国の需要を賄える石油を生産し輸出もしてきたが、2003年頃から中国最大の大慶油田が過度の採掘によって生産が低下し、日本への輸出も停止された。一方で、中国経済は経済成長を続け、石油需要が急速に増大している。改革開放政策時に発展に必要だと思われる原油の備蓄を軽んじていたため設備が少なく2005年では備蓄は3日分しかもたず輸入に頼るしかなくなっているのが現状である。このため、中国政府は新疆ウイグル自治区の新疆油田などの開発に力を入れているが、まだ十分な生産量ではなく、中国は原油の輸入国に転じつつある。2004年の中国の原油輸入量は1億2000万米ドル、対前年比34%の増加であった。このような中国の石油事情が世界市場に大きなインパクトを与えており、他地域で原油生産を増加させようとしても、既存施設はどこもフル稼動している。新たな油田を開発して供給を増加させるためには最低でも2年かかるため、後1~2年は長期的な原油高が持続するという声が強い。(もちろん短期的な相場のup downはある。)