川島令三
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川島 令三(かわしま りょうぞう、1950年 - )は、鉄道評論家。兵庫県芦屋市出身、山梨県上野原市在住。
鉄道に関する著作多数。中でも『全国鉄道事情大研究』は10年以上続くシリーズとして現在も続刊中。
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略歴
兵庫県立芦屋高等学校、東海大学を経て、『鉄道ピクトリアル』編集部に勤務。その後鉄道専門出版社「ジェー・アール・アール」設立に参画。鉄道事故などの際、テレビ番組にコメンテーターとして出演することも多い。鉄道アナリストと自称し、著述活動を主に活動している。現在早稲田大学政治経済学部特別講師(交通経済学)、鉄道友の会会員、全国鉄道利用者会議会員。
内田百閒や宮脇俊三、徳田耕一のような紀行文学や種村直樹のような乗車記録とその感想、所澤秀樹のような雑学的なものとは異なり、鉄道に関する評論家として「利用する側に立った辛口の感想と改善への具体的提案」を文章で書くスタイルを確立したパイオニア的存在といえる。ただし、最近は雑学的内容の著書も多い。
提言・提案の中には鉄道事業者によって実現したものも散見される。しかしながら、提言する前から計画されている場合もあり、川島の影響は不明である。提言の中にはコストを度外視したものも多く、その評価は賛否が分かれる。ある意味で過激といえる提言が目立つため見過ごされやすいが、あくまで川島が目指すところは「鉄道の復権」(関西に関しては「民鉄復権」も含む)である。
主な特徴
主張・提言
鉄道の利便性向上を目的として、設備、ダイヤ、車両などに関する改良案を提起することを主体に活動している。著作では都市圏輸送や都市間輸送を担う路線を中心に扱っている。主張は理想論に近く、コスト的・経営的・理論的な視点は比較的薄い。それゆえに提言の実現可能性が低いことは本人も自覚しており、一部でも実現すればよいと考えているようである。
提言に見られる全体的な傾向として、増発や高速化、乗り継ぎの簡略化、また関西で広く採り入れられているパターンダイヤや転換クロスシートの導入などが挙げられる。これらはおおよそ利用者の願望に沿うものであり、日頃通勤電車の混雑や乗り継ぎの悪さに苛立っている人にとっては魅力的に写る内容が多い。ただし、混雑路線に対してもクロスシート車導入を主張するなど、通勤時間帯の実態が見えているのか疑問視する声もある。
また鉄道は他の輸送機関と比較して定時輸送・大量輸送に適していると主張しており、著作でも車の至便性を挙げた上で鉄道の優位性を述べる内容の記述が見られる。輸送量が多い場合には鉄道整備の方がコストが安いとし、道路整備に重点を置く行政に少々批判的である。なお、鉄道好きで車嫌いかというとそうでもなく、地方の取材などでは車を足に使っている。
以前は活字媒体以外にはあまり登場しなかったが、2000年の中目黒駅における帝都高速度交通営団(当時)日比谷線の列車衝突事故以降、大規模な鉄道事故などの際には「鉄道アナリスト(分析専門家)」という肩書きでテレビにも顔を出してコメントしており、日比谷線の事故で初めて川島の顔を見たという鉄道ファンも多い。2005年のJR福知山線脱線事故の際にも数多くのマスメディアに登場した。他の工学博士や運転実務者に比べて客観的・総合的な発言には定評があったと言われるが、著作の中で JR西日本を賛美していた手前もあり、言葉を濁す場面も見受けられた。また、このときマスメディアにおいて事故原因や分析に用いられた用語等に誤りがあるとして、航空・鉄道事故調査委員会の中間発表に先駆け『なぜ福知山線脱線事故は起こったのか』を出版している。
文章の性格
文中で「べき(である)」や「具体化していない」、「どうかしている」、「どうかと思う」、「いただけない」、「……する気にならない(なれない)」といった表現を多用する。「べき」「どうかしている」という表現の使用が200回を超えた著作もある。ただし最近はこのような言い回しは少なくなっており、「必要がある」「してもらいたいものである」というように語調を弱めている。知人から「決め付けるような言い方は控えた方がいい」と忠告され意識していると言われているが、「文章的個性」「著書を面白くするために」と出版社はむしろ以前のような強い表現を求めているともいわれる。
文体はきわめて真面目である。しかし、エンターテイメント性に欠けるとの批判があることを気にしてか、本題とは関係無い話題に突然脱線することがある。研究書と題するには余計であり不適当な記述とも受け取れるが、逆にこれも川島らしさとも考えられる。
問題点
著書の記述には事実や公式発表と整合性が取れていないなどのミスが散見され、特に『なぜ福知山線脱線事故は起こったのか』を脱線原因を究明したとする帯を掛けて出版して、そこで事故車207系電車に使用されているボルスタレス台車の構造が事故の一因であり、「台車メーカーや一部関係者から危険である旨の証言を得た」と述べているが、これについては国鉄小倉工場長などを歴任した鉄道技術者・交通研究家の久保田博らによる構造理解の誤りの指摘・批判に対して再反論は提出されていない。更に同書の各種 ATS、ATC の構造解説には誤りが多く、直しきれないとの批判にもまだ回答していない。これら技術関係については川島の専門分野ではなく、記述をみる限り自身がその技術的内容を十分に理解できているか大変疑わしい。
従前の批判は、見解・評価に対するものが主であるからその点では異論併存の余地もあったし、誤字脱字、文脈の乱れのある文章は単なる記述誤りや誤植とも考えられるが、それらも結果として著者の見解に対する信頼性・信憑性を損ねる一因となっていることに加え、技術的内容を理解できないままの誤った主張とその放置が決定的に批判を強めている。
鉄道事業者に対する姿勢
概して旧・日本国有鉄道への評価は厳しい。中でも103系電車には非常に手厳しく、同時期の私鉄の車両と比較して空気バネ台車等を採用していない為に乗り心地が悪い、運転性能が大幅に劣る、回生ブレーキを装備していないなどといった点、また103系を常磐快速線などの中距離運用にまで混用した国鉄の方針を批判している。対して国鉄末期に作られた211系電車の評価は高く、起動加速度がやや低いとする一方で座り心地のよさ、快適性、ドア幅の広さなどを評価し、後継車両といえる E231系電車を乗り心地等の観点から批判している。なお、関西の国鉄は他の地域に比べ格段に良好であったが、当時の関西私鉄の質がそれ以上であったために評価が低かったとも述べている。
東日本の鉄道事業者への評価は全般的に辛口で、特に東日本旅客鉄道(JR東日本)を盛んに批判している。理由はロングシート主体の車両を中長距離運用や東北地方の閑散路線にまで使用し転換クロスシートをあまり採用しないこと、パターンダイヤの導入に熱心でないこと、ダイヤに余裕をとりすぎて表定速度が全般的に低いことなど、他の交通機関への対抗意識が弱いからだとされる。ただし、関東で唯一の転換クロスシート導入(川島によると手動転換ができないため価値が半減)や速達列車中心のダイヤ設定を行う京浜急行電鉄、運賃を値下げしスピードアップにも意欲的な京王電鉄などは好意的に評価されている。
一方で西日本の事業者、特に西日本旅客鉄道(JR西日本)への評価はかなり甘い。それは、アーバンネットワーク内の高速化やひかりレールスターといった顧客に目を向けた新列車を登場させるなど、JR 各社の中では積極的な施策を行っている面が多いからだとされる。また高速・高頻度運転、パターンダイヤ、転換クロスシートなど、旧国鉄・私鉄ともに質が良いものが多かったと、関西全般の鉄道施策を賞賛することも多い。だが最近では競合私鉄に対して JR が優勢になり、関西の大手私鉄の施策にはかなり手厳しい発言が見受けられる。例えば優等列車の停車駅を増やすなど、JR との競争においてどちらかといえば守りの姿勢に入ってきているからである。特に阪急電鉄への批評はかなり酷く、「あれだけの設備があるのに、なぜ積極的なスピードアップをしないのか」と厳しく論評している。川島は更なるスピードアップを行い都市間の利用者増を計るべきだと論じている。また最近は安全についての不十分な施策にも苦言を呈するようになってきている。
川島による造語
- 近畿日本鉄道の特急車輌である12400系の愛称「サニーカー」。
- 優等列車の列車種別を増やして停車駅を分散する方式「千鳥式運転」。
- 駅構造について、2面3線で島式・単式ホームの複合型「JR型(国鉄型)配線」。
主要著作
- 東京圏通勤電車事情大研究(草思社、1986年)
- 関西圏通勤電車事情大研究(草思社、1987年)
- 新幹線事情大研究 (草思社、1988年)
- これでいいのか、特急列車(寺本光照との共著、中央書院、1989年)
- 新東京圏通勤電車事情大研究(草思社、1990年)
- 日本「鉄道」改造論(中央書院、1991年)
- 「ライバル鉄道」徹底研究(中央書院、1992年)
- 全国鉄道事情大研究(草思社) 斜体は品切。
- 神戸篇/京都・滋賀篇 1992年
- 大阪都心部・奈良篇/大阪南部・和歌山篇 1993年
- 東海・甲信篇 1994年
- 北陸篇 (1)/北陸篇 (2) 1995年
- 名古屋都心部・三重篇/湘南篇 1996年
- 名古屋北部・岐阜篇 (1) 1997年
- 名古屋北部・岐阜篇 (2)/東京西部・神奈川篇 (1) 1998年
- 東京西部・神奈川篇 (2) 1999年
- 東京都心部篇 2000年
- 名古屋東部篇/東京東部・千葉篇 (1) 2002年
- 東京東部・千葉篇 (2)/東京北部・埼玉篇 (1)/東京北部・埼玉篇 (2) 2003年
- 群馬・栃木篇/常磐篇 2004年
- 九州篇 (1) 2006年
- 九州篇 (2) 2007年
- 私の戦後「電車」史(PHP研究所、1995年) …2001年、『私の電車史』として同社から増補修正の上文庫化。
- 幻の鉄路を追う(中央書院、1996年) …2003年、『幻の鉄道路線を追う』としてPHP研究所から増補修正の上文庫化。
- 鉄道はクルマに勝てるか(中央書院、1998年)
- 三大都市圏の鉄道計画はこうだった(産調出版、1999年)
- 新幹線はもっと速くできる(中央書院、1999年)
- 通勤電車なるほど雑学事典(編著 PHP研究所、2000年)
- 鉄道未来地図(東京書籍、2001年)
- 私鉄王国の凋落(草思社、2001年)
- 鉄道再生論(中央書院、2002年)
- 関西圏通勤電車徹底批評 上・下(草思社、2004年)
- なぜ福知山線脱線事故は起こったのか(草思社、2005年)
- 贅沢な出張 全国鉄道ガイド(角川書店、2006年)
- 東京圏通勤電車 どの路線が速くて便利か(草思社、2006年)