日本音楽著作権協会
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社団法人日本音楽著作権協会(しゃだんほうじん にほんおんがくちょさくけんきょうかい、英称:Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishers, JASRAC(ジャスラック))は、日本および日本国外の音楽について、作詞者・作曲者・音楽出版者が持つ音楽著作権を管理する著作権管理事業者である。東京都渋谷区上原3-6-12に本部を置き、全国主要都市に22の支部を置いている。
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[編集] 音楽著作権の管理業務
JASRACは、音楽著作権を有する権利者から著作権の信託を受けて、それを利用しようとする者に対して利用許諾や使用料の徴収を行っている。たとえば、書籍、インターネット等への歌詞掲載、ネットワークを利用した音楽配信、公衆の場での音楽演奏やCD再生、放送での利用などに対して著作権者に代わって権利処理を行っている。
また、無許諾による音楽利用有無を調査、監視し、無許諾による音楽利用(著作権侵害)行為を発見した場合には、利用停止の要求や、使用料の請求を行っている。場合によっては、損害賠償請求や差止請求などの民事訴訟手続や、告訴などの刑事手続に至ることもある。JASRAC がこれまでに行ったことがある法的措置の例としては、以下のようなものがある。
- 民事的請求
- 刑事手続
[編集] 私的録音補償金の分配業務
JASRAC は、私的録音補償金管理協会 (sarah) 経由で私的録音補償金を受け取り、10%の管理手数料を控除して、権利者に分配している。分配対象の権利者には、JASRAC に著作権管理を委託している者(委託者)のほか、JASRAC に著作権管理を委託していない者(非委託者)も含まれる。しかし、非委託者はJASRACとの契約関係にないことから、JASRAC側から能動的に補償金を分配できないため、非委託者側からの請求を受けて分配する[1]。
JASRAC は、私的録音補償金の対象の拡大を求めて、行政に対する働きかけも行っている。2005年4月28日に行われた文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会では、iPod などのデジタルオーディオプレーヤーを新たに私的録音補償金の対象とするように要請した。しかし、プレーヤーを所有しているユーザーのほとんどは、CD の購入やネット配信サービスからのダウンロードなどの方法で正規に入手した音楽データをプレーヤーに複製(いわゆるメディアシフト)しているに過ぎないため、「権利者の損失は無いのではないか」、「著作権料の二重取りである」といった疑問、批判が国会議員や消費者を中心に噴出した。また、私的録音補償金の分配方法の不透明さなど、制度そのものの在り方も疑問視され、2005年9月以降まで結論が先送りされている。[2]
[編集] 沿革
[編集] プラーゲ旋風と仲介業務法
1931年に、旧制一高のドイツ人教師であったウィルヘルム・プラーゲが、主にヨーロッパの著作権管理団体より日本での代理権を取得したと主張して東京に著作権管理団体「プラーゲ機関」を設立した。そして放送局やオーケストラなど楽曲を使用するすべての事業者に楽曲使用料の請求を始めた。
日本は1899年にベルヌ条約に加盟し、著作権法も施行されていたが楽曲を演奏(いわゆる生演奏の他に録音媒体の再生も含む)するたびに使用料を支払うという概念は皆無であった。プラーゲの要求する使用料が当時の常識では法外であったことや、その態度が法的手段を含む強硬なものであったことから、事実上海外の楽曲が使用しづらい事態に陥った。日本放送協会は契約交渉が不調に終わったことから1年以上にわたって海外の楽曲を放送できなくなった。
一方でプラーゲは、日本の音楽作家に対しても著作権管理の代行を働きかけ始めた。プラーゲの目的は金銭ではなく著作権の適正運用だったとも言われているが、楽曲利用者との溝は埋めることができず、日本人作家の代理権取得は更なる反発を招いた。
この事態を打開するため、1939年に「著作権に関する仲介業務に関する法律」(仲介業務法)が施行された。著作権管理の仲介業務は内務省の許可を得た者に限るというもので、同年 JASRAC 設立、翌年1940年に業務が開始された。これに伴いプラーゲは著作権管理業務から排除され、同法違反で罰金刑を受けて1941年離日した。
これら一連の事件は「プラーゲ旋風」と呼ばれ、日本における著作権の集中管理のきっかけとなった。
こうした経緯から、文化庁は JASRAC をはじめ4団体に仲介業務の許可を与えて他の参入を認めなかったので、音楽著作権の仲介は JASRAC の独占業務となった。
[編集] ネットワーク上での独占業務の弊害
1980年代後半よりパソコン通信が普及し始めた。個対多の情報発信が容易になるにつれて JASRAC の問題点が指摘され始めた。
著作権法の解釈では文字情報の一部を引用し、出典を明らかにした上で質・量ともに十分なコメントを付記した行為が認められている。文芸分野において仲介業務を行っている日本文芸著作権保護同盟はこれを認めているが、JASRAC の見解では一節の引用も許容できないとされた。パソコン通信事業者との話し合いでも主張は平行線を辿った。事業者のひとつである NIFTY-Serve (現在の @nifty) は1997年ごろに独自の解釈をまとめ、会員に文芸作品と同等の引用を許容すると発表した。
次に DTM の普及で演奏データの配布が可能になると、JASRAC の規定では当時コンピュータ上の送信権がなかったことから使用料が提示されず、手続きの上ではネットワーク上で音楽の送信はできないことになった。実情に対処するため JASRAC は実験という名目でパソコン通信事業者に対して演奏データの蓄積と送信を黙認した。しかしこれも全体の管理者が存在しないインターネットでは全く対処することができず、個人が非商用目的を理由に無断で演奏データや音声ファイルをウェブサイトに掲載する脱法行為が日常化した。
これらに対して利用者のみならず権利者側からも非難の声が上がり、長い議論の末に2000年8月にインタラクティブ配信の利用規定が認可を受けた。2001年には非商用のインタラクティブ配信、主として個人のウェブサイトに対する楽曲の使用許諾を開始した。またインタラクティブ配信におけるネット上の使用許諾窓口としてJ-TAKTがある。
また、ネット上の MP3 や歌詞などの違法ファイルを監視するシステムとして J-MUSE があり、違法ファイルと認められたホームページの管理者には個別に警告メールを送付している。
[編集] 仲介業務法の終焉とJASRACの今後
著作権の一元管理は効率の良いシステムとして運用されてきたが、音楽ソフトのデジタル化、ネットワーク化の進展にともなって JASRAC の非効率性が指摘されるようになってきた。カラオケでも使用料や権利者への分配方法が業界や権利者代表との話し合いでも決定しないままビジネスが先行するなどの弊害も生んだ。
権利者側からも、従来からあった楽譜出版、録音、演奏の権利とゲーム、着信メロディ、ネット配信などの権利は別に管理したいのに、JASRAC の著作権信託ではそれができないことを指摘して、これを改めるよう求める動きも活発化した[3]。
こうした流れの中、2000年に著作権等管理事業法が成立、2001年に施行され、イーライセンス、ジャパン・ライツ・クリアランス(コピナビ)、ダイキサウンドなどの株式会社が音楽著作権管理事業に参入した。これまでの仲介業務法と最も異なる点は管理団体の設立が許可制から登録制に緩和されたことであり、これにより60年にわたる JASRAC の独占は転機を迎えた。しかしこれがすぐに JASRAC に代わり得る管理団体の誕生を意味するものではなく、依然として JASRAC の独占は続いているといった声も根強くある。
また、1998年からは著作権思想の普及を目的として文化事業を行っている。また、2000年辺りからは集中的な著作権管理システムとして「JASRAC NETWORCHESTRA SYSTEM(ネットワーケストラ)」を運用している。
[編集] 批判
[編集] 包括的利用許諾契約の運用
スナックなどの飲食店で JASRAC 管理曲を演奏する場合、JASRAC は包括的利用許諾契約(ブランケット契約)の締結を求めている。包括的利用許諾契約では、演奏の回数に関係なく、店舗の客席数や床面積に応じて演奏使用料が決定されるため、JASRAC管理曲を僅かに利用するに過ぎない飲食店にとっては、使用料負担が重過ぎるとの批判がある。また、飲食店等に対しては、演奏された曲目を記載した報告書(演奏利用明細書)の提出を原則として求めていないため、実際に演奏された楽曲の権利者に対して、徴収した使用料を分配できないのではないかとの疑問が出されている。使用料の支払者に対し、権利者への配分割合に関する情報を開示すべきとの意見もある。
[編集] 委託者による権利侵害のチェック体制
2005年、プロ野球阪神タイガースの私設応援団であった中虎連合会が、作者不詳だった阪神タイガース応援歌『ヒッティングマーチ一番』及び『ヒッティングマーチ二番』の作詞・作曲者を「中虎連合会」として JASRAC に届出し、使用料の分配を不正に受けていたことが発覚した。
JASRAC の著作権信託契約約款7条1項は、委託対象の著作権が委託者のものであり、他人の著作権を侵害していないことを保証するのは受託者 (JASRAC) ではなく委託者の責任であるとしているが、JASRAC 内部における不正チェック体制の弱さも指摘された。それを受けて JASRAC は、作者不詳の楽曲と作品名が同一もしくは極めて似ている作品に対するチェックを強化することを発表した。
[編集] マスコミからの批判
ダイヤモンド社が発行する経済誌『週刊ダイヤモンド』は、『<企業レポート>日本音楽著作権協会(ジャスラック)/使用料1000億円の巨大利権 音楽を食い物にする呆れた実態』と題する記事を、2005年9月17日特大号に掲載した。この記事は、JASRAC が徴収する著作物使用料の用途やその徴収方法、職員の天下りなどの問題点を特集したものであった。
2005年11月11日、JASRAC は、記事の内容は虚偽または歪曲された事実であることを理由として、出版社の株式会社ダイヤモンド社を相手取り、損害賠償と名誉回復措置を求めて東京地方裁判所に提訴した。裁判は2007年現在も係属中である。なお、この記事は、Yahoo! JAPANとzassi.netが2005年12月から2006年1月にかけて実施した「やっぱり雑誌がおもしろい! 雑誌ネット大賞」における一般投票の結果、「ニュース・報道部門」の1位を獲得し、同部門賞を受賞している[4]。
[編集] CM等
現在はニッポン放送制作全国ネットのラジオ番組、オールナイトニッポンでCMが放送されている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 日本音楽著作権協会公式サイト
- 全国音楽利用者協議会(対JASRAC協議団体)
- 「補償金もDRMも必要ない」――音楽家 平沢進氏の提言
- デザフィナード(JASRACの音楽著作権管理業務の独占禁止を求める運動)