有機エレクトロルミネッセンス
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有機エレクトロルミネッセンス(organic electroluminescence、 有機EL、 organic Light Emitting Diode、 OLED)は有機物中に注入された電子と正孔の再結合によって生じた励起子(エキシトン)によって発光する現象である。発光原理は、無機EL(エレクトロルミネセンス)よりむしろLED(light-emitting diode)によく似ており、各国では一般的に有機LED(OLED。オーレッドもしくはオーエルイーディーと読む)と呼ばれるが、日本のメディアでは歴史的に有機ELと呼ばれることが多い(OELDもしくはOELと略される事もある)。
主にディスプレイや照明としての活用を期待されている。現時点では耐久性や生産コスト、大型化の困難さの問題からテレビやパソコンのディスプレイはまだ試作段階である。しかしパチスロや、携帯電話のサブディスプレイとして有機ELディスプレイが搭載されているなど、小型・低寿命のディスプレイはすでに実用化されており、液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイなどに肩を並べる技術として実用化に向けた研究が進んでいる。
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[編集] 基本的な構造と発光原理
カソード(陰極)とアノード(陽極)に電圧をかけ、電子と正孔を注入する。電子と正孔がそれぞれ電子輸送層・正孔輸送層を通過し、発光層で結合する。結合が起こった際のエネルギーで周りの分子が励起される。励起状態から再び基底状態に戻るその際に光を発生する。電極の一方は銀やアルミニウム等の金属を使い、他方はインジウム-スズ酸化物(ITO)などの透明な物質を使い、金属電極をバックミラーとしながら透明電極と基板(ガラス板やプラスチック板など)を透過して光を得る。発光層に高分子と低分子のどちらを利用する方法でも原理はほぼ同じである。こうしたサンドイッチ状の構造はヘテロ構造と呼ばれ、電子と正孔をそれぞれ別の層に閉じ込めることによって効率的な反応を起こすことができる。正孔輸送層、発光層にはそれぞれジアミン、アントラセンなどの有機物が使われる。
[編集] 有機ELディスプレイの特長
有機ELの使途としてのディスプレイの特長は、実用化が進んでいる液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどとの対比で語られることが多い。
- 薄型 : 液晶のようなバックライトが不要で薄型化できる。
- フレキシブル : プラスチックなどの基板を使えば、柔らかく折り曲げることができるディスプレイを作ることが可能。しかし、プラスチックシートを基板に使用すると酸素などを透過して発光体を劣化させ、寿命を短くしてしまうことから透過を阻止する層の研究が行われている。
- 低電圧・低消費電力 : 液晶ディスプレイのようにバックライトをカラーフィルタに通して色を出すのではなく、色の着いた光を直接出せるためエネルギーの変換効率が高い。また、プラズマディスプレイのような放電発光ではなく有機半導体内の励起子により発光するので、発光そのものに必要な電圧も数V程度と低い。
- 応答速度が速い : 液晶ディスプレイでは液晶の分子の方向を変えることで輝度を変えているため、応答速度が鈍く動画再生などで問題になる。有機ELは励起子の発光時間は非常に早く、電流を変化させれば輝度が瞬時に変化するので、非常に応答速度が早い。
- 視野角が広い : 液晶のように見る方向によって階調が変わってしまうことがなく、またコントラストの低下も低く、視野角は180度に近い。プリズムシートで集光して表面輝度を向上させている液晶ディスプレイとは異なり、ランバート分布に近い発光分布を持つが、マイクロキャビティー効果を用いることで集光させる事も可能である。
- 高輝度 : 液晶ではカラーフィルターを通して発色させているため、発光量の3分の1しか利用できないが、有機ELでは(方式によっては)発生した光のすべてを生かすことができる。ただ、生産性を向上させるため、カラーフィルターを利用する方法も検討されている。
- 高解像度 : 有機ELディスプレイは薄く作ることができるため、三色の発光層を縦に重ねることもできる。この手法を用いると既存のものより解像度を高くすることができる。
- 磁気の影響を受けない : ブラウン管とは異なり磁気の影響を受けない。
- 色再現範囲 : 分子設計によって所望の色を表示可能であり、色再現域が広い。フルカラーディスプレイだけでなく、特定の色のみを発光する素子が自由に作れる。
[編集] 有機ELディスプレイの課題
- 寿命が短い : 発光体の有機物に通電するため劣化すると予想されている。酸素や湿気については封止技術で克服された。現時点では約2,000~10,000時間程度の寿命であり液晶の数分の1に過ぎないが、ここ数年間で急速に改善されてきている。
- 生産コストがかかる : 液晶に比べ大型基板による生産が今のところ難しい。大型化はコスト増加を招くため今のところ難しいが、盛んに研究されつつある。
[編集] 商業化
- 1997年、東北パイオニアがパッシブ駆動方式有機ELディスプレイ量産に成功。
- 2001年10月、NECはパッシブ駆動方式有機ELをFOMA N2001携帯電話端末のメイン画面に搭載。
- 2002年5月、ドコモ・富士通、携帯電話端末F504iに、東北パイオニア製パッシブ駆動方式4色カラー有機ELをサブディスプレイとして搭載。
- 2003年3月、三洋電機とコダックはアクティブ駆動方式(低温ポリシリコンTFT駆動)フルカラー有機ELディスプレイの商用出荷を開始。コダック社 LS633デジタルカメラに搭載。
- 2003年7月、ドコモ・富士通、携帯電話端末F505iにパッシブ駆動方式256色カラー有機ELディスプレイをサブディスプレイとして搭載。
- 2004年2月、ドコモ・富士通、携帯電話端末F900iに3色カラー有機ELディスプレイをサブディスプレイとして搭載。
- 2004年2月27日、NEC、2001年にサムスンSDIと共同で設立した会社(SNMD)の全ての株式と関連特許をサムスンSDIに譲渡。NECは事実上、有機EL事業から撤退。
- 2004年8月、コダックはアクティブ駆動方式フルカラー有機ELディスプレイを携帯ビデオ端末用にOEM搭載。
- 2004年9月、ソニーはアクティブ駆動方式フルカラー有機ELディスプレイをPDA「クリエ PEG-VZ90」に搭載。
- 2005年3月、ソニーはパッシブ駆動方式フルカラー有機ELディスプレイをデジタルオーディオプレーヤー「ウォークマン」に搭載。
- 2005年8月、コダックはアクティブ駆動方式フルカラー有機ELディスプレイをハッセルブラッド製カメラに搭載。
- 2005年12月8日、パイオニアはアクティブ駆動方式有機ELから撤退。既に実績のあるパッシブ駆動方式は継続。
- 2006年1月、三洋電機はアクティブ駆動方式フルカラー有機ELディスプレイをデジタルカメラ「Xacti(ザクティー)DMX-HD1」に搭載予定と発表。
- 2006年1月31日、三洋電機は有機EL事業から撤退を発表。コダックとの合弁会社の有機EL製造と販売会社も解散。ただしコダックは有機ELの技術をライセンスすることで事業を継続。
- 2007年3月23日、KDDIはau design projectの携帯電話端末MEDIA SKINに2.4インチ26万色有機ELディスプレイを搭載。
- 2007年内、ソニーが11V型の有機ELテレビを2007年中に発売予定(2007年4月12日発表)。
[編集] 製品・プロトタイプの発表
- 1987年、コダック社C.Tang, V.Slykeらによって現在の有機ELの基本構造である積層機能分離型デバイスが開発される。
- 2000年5月、三洋電機とコダックは5.5インチアクティブ駆動方式(低温ポリシリコンTFT駆動)フルカラー有機ELディスプレイを発表。
- 2001年2月、ソニーは13インチアクティブ駆動フルカラー有機ELディスプレイを発表。
- 2002年9月、三洋電機は15インチアクティブ駆動フルカラー有機ELディスプレイを発表。
- 2003年1月、ソニーは12インチアクティブ駆動4枚のタイリングによる24インチフルカラー有機ELディスプレイを発表。
- 2003年3月、IDTech、IBM、CMOは低コスト、大画面を実現を可能にするアモルファスシリコンTFTを用いた20インチのフルカラー有機ELディスプレイを発表。
- 2004年5月、セイコーエプソンは40インチのフルカラー大型有機ディスプレイ(低温ポリシリコンTFT駆動20インチ4枚のタイリングによる)を開発したと発表した。発光層の形成には同社のインクジェット技術を応用している。
- 2005年1月、サムスン電子は21型フルカラーフルHD有機ELディスプレイを開発した。
- 2005年5月、サムスン電子は一枚のパネルでは世界最大の40型フルカラー有機ELディスプレイを開発した。
- 2007年1月、ソニーは27型のフルHD有機ELテレビの試作機を発表。
- 2007年4月、東芝が有機EL薄型テレビを2009年からの量産を発表。
[編集] 関連項目
- 無機エレクトロルミネッセンス(無機EL)
- ブラウン管(CRT)
- 電界放出ディスプレイ(FED)
- 表面伝導型電子放出素子ディスプレイ(SED)
- 映像機器
- OLED Design Contest
- OLED applications(eng)
- OLED Info website(eng)
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