JR東日本E351系電車
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JR東日本E351系電車 | |
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E351系 スーパーあずさ | |
営業最高速度 | 130km/h |
設計最高速度 | 160km/h |
全幅 | 2,843.2mm |
全高 | 3,905mm |
軌間 | 1067mm |
電気方式 | 直流1500V |
編成出力 | 150KW |
制御装置 | VVVFインバータ制御(GTO)・(IGBT) |
ブレーキ方式 | 回生ブレーキ・電気指令式空気ブレーキ・直通予備ブレーキ・耐雪ブレーキ・抑速ブレーキ |
保安装置 | ATS-SN・ATS-P |
E351系電車(E351けいでんしゃ)は、東日本旅客鉄道(JR東日本)の特急形車両。
1993年(平成5年)12月1日に特急「あずさ(現「スーパーあずさ」)」として営業運転を開始した。JR東日本の新幹線を含む新製車両の中で、最初に「E」が冠された形式である。
目次 |
[編集] 概要
中央本線で使われていた183系・189系の老朽化が進んだため、代替用として日本車輌製造・日立製作所において製造された。振り子装置やVVVFインバータ制御装置の搭載により、曲線区間でのスピードアップに成功。最高速度は130km/h、松本~新宿の最速列車は2時間25分で、表定速度は山岳路線ながらも90km/hを突破する。なお振り子装置は信濃大町~八王子間で使用し、八王子以東では装置を停止させて走行する。
振り子の有無と最高速度の違いにより所要時間に差が生まれたことで、E351系使用列車は「スーパーあずさ」とし、183・189系使用列車を「あずさ」として、列車名を車両ごとに分別した。開発当初は、183系・189系を殆ど置き換え、山岳区間の線路付け替えによる最高時速160km/hでの運転も視野に入れた高速化計画もあったが、その計画は実現せず、また製造コストの割には劇的な速達効果が見込めないと判断され、結局5編成のみの製造に留まった。
[編集] 運用
1994年(平成6年)12月3日より主に中央本線の特急「スーパーあずさ」として使用されているが、朝夕の間合いを利用して東海道本線のおはようライナー新宿22号・ホームライナー小田原27号でも使用されている(営業運転は平日のみで、土休日は回送)。なお藤沢・茅ヶ崎の両駅ではライナー専用ホームに停車するが、10両分しかホームが設けられていないため1~3号車のドアは締切扱いとなる。
また、8連+4連各1本が検査入場して予備車が無いとき、一部の「スーパーあずさ」をE257系11両編成により代走が仕立てられる。
[編集] 外観
運転台は高運転台となっている。車体は振り子で傾斜した場合車輌限界を超えないように卵形に大きく絞られている。非貫通の先頭車にはLED式の大型の表示機を設ける。方向幕は幕式。ドアは1両に前部・後部の2箇所ある。屋根上はパンタグラフと空調装置の室外機程度しか載っていないためすっきりしている。
[編集] 編成・車体
基本編成8両(松本寄り:S1~S5)、付属編成4両(新宿寄り:S21~S25)が各5本、計60両が松本車両センターに在籍する。基本編成にグリーン車1両連結。大糸線はホーム有効長の限界上、基本編成の8両のみが乗り入れる。
最初の2本は量産先行車(試作車)であり、1000番台として区別されている。以降の3本は量産車である。試作車と量産車ではいくつかの違いが見られる。屋根上の空調装置の室外機は試作車は角が丸いタイプだが、量産車では角ばったものとなっている。また、VVVFインバータ装置も試作車では日立製GTOインバータなのに対し、量産車は日立製IGBTインバータ(3レベル)となっている。車体は鋼製であるが、比較的軽量である。
[編集] メカニズム
VVVFインバータ装置で150kWの交流誘導電動機を駆動。なお上記のように試作車と量産車では搭載されるインバータの半導体素子が違う。12両編成中のM車とT車の比は6:6で半数の車輌が電動車である。台車は制御自然振り子つきボルスタレス台車を履く。床面高さを下げるため車輪径は810mmで、一般的な860mmと比べると小径となっている。ヨーダンパも搭載。
振り子装置の基本構造に関しては381系で実績のあるコロ式を応用した、制御付き自然振り子式を採用する事で、乗り心地を改善している。傾斜角度は約5度である。車体傾斜制御の方法は車上のコンピュータに路線の情報が入力されており、ATS地上子の位置情報を利用して適切な位置で傾ける。これにより、曲線で本則+25km/hの走行性能を発揮出来る。
なお、振り子台車・車両のメカニズムの詳細は振り子式車両を参照されたい。
ブレーキ装置は山間部を走行する為、全編成で回生・発電ブレンディングブレーキを搭載する。高速域ではそれが使用される。極低速域では空気ブレーキを使う。なお、空気ブレーキにはディスクブレーキを使用している。また他のJR東日本の新形式特急車同様に、定速走行装置・抑速ブレーキを備えている。
パンタグラフは軽量なシングルアーム式。量産先行車は登場当初は菱形のものを搭載していた。なお、車体が傾いた場合に架線からパンタグラフが離れないようにするため、パンタグラフを載せる台は車体を貫通した支持台で台車と直結しており、傾斜に囚われない構造としている。この特殊な構造が原因で新宿駅構内でパンタグラフが落下した事故も発生した。この構造はJR九州の883系・885系も採用している。
運転台は左手操作のワンハンドルマスコン。さらに2枚のモニタ装置を備え、車輌の状況と運行情報の両方を表示できる。
搭載される自動列車停止装置(ATS)は、ATS-P形とATS-SN形。「スーパーあずさ」運用では、新宿から松本までATS-P形を使用し、その他の区間では旧式のATS-SN形が使用される。
ミュージックホーンはE257系や253系などと違い、255系と同じタイプが搭載されている。
[編集] 車内
振り子車両のため、床面高さが低く、他の特急車両と比べると着座位置も低くなっている。普通車・グリーン車ともに横4列のシート配置である。車内の断面は上方に向かって絞られている。
普通車は、シートピッチ970mmで、リクライニングシート。量産車ではシート下に空間があり足が伸ばせるが、量産先行車では塞がれている。なお、量産先行車では座席上の荷物棚の下に蛍光灯を装備しているが、量産車では装備されない。シート背面には、カップホルダーとゴム式(一部車両は網)のマガジンラックを備えている。また、背面テーブルは装備されず、肘掛け内に収納されている。
グリーン車は、シートピッチ1160mmで、リクライニングシート。シートヒーター、上下可動式の枕を備えている。肘掛け内蔵のテーブルに加え座席背面にテーブルを装備する。また、フットレストも装備されている。
車内装備としては、洋式トイレと男性専用トイレを備えており、真空式。客室内の出入り口上、前後2箇所にLED式の案内表示器を備える。自動販売機、カード式公衆電話も備えられる。スキー板などの長尺物を置くことができる荷物置場を一部の車両に装備。車内にAM/FMラジオ電波を輻射している。
空調装置は、室外機を床下に置き、室内機を屋根上に設置するセパレート型となっている。内気の吸入は車両中央の天井から行い、吹き出し口は室内蛍光灯付近に連続的に設置されている。量産先行車と量産車で仕様が異なる。また、寒冷地に対応し、暖房装置が強化されている。
内装仕様が量産先行車と量産車で若干変更されており、天井のデザインなどが異なっている。また、内装の素材に由来すると思われるが、喫煙車である6・8号車と、元喫煙車である3・7号車の内装の黄ばみが著しく、外部から見るだけで汚れが確認できる。しかし、2007年3月18日からは全席禁煙となっている。
基本編成と付属編成の連結部分は、通り抜けが可能な自動幌装置を搭載。
[編集] JR東日本の振り子車両に対するスタンスの変化
量産先行車が実際に営業運転を始めてから、トンネルでの振り子動作時に車体が壁面に接触するなど、所々問題点が発生したが、車体を改造することで解決した。量産車では車体の高さや自重などが変更されている。
振り子車両の特性として、曲線走行時に荷重が曲線外側に移動するため、レールにかかる負担が大きく、当系列を投入する際にも軌道の補強工事が行われた。東海旅客鉄道(JR東海)の383系や北海道旅客鉄道(JR北海道)のキハ283系では自己操舵台車を装備してその負担を軽減するが、当系列ではそのような機構は装備しておらず、軌道の保守面でのコストも大きくなっている。
振り子車両としては珍しい鋼製車体で、低重心・軽量が求められる振り子車両には向いていないように見えるが、381系の先頭化改造車の改造部分や西日本旅客鉄道(JR西日本)の283系も鋼製である。むしろ高運転台構造であるほうが重心に影響するが、これは踏切事故などの安全対策のためである。屋根上の空調装置は、量産先行車の不備をもとに、量産車では異なるタイプの物が搭載され、低重心化した。設計段階では最高本則+40km/hの曲線走行性能を目指していたというが、思ったほど効果が出ず、本則+25km/hに留まった。性能上は最高160km/h運転も視野にいれた設計となっているが、発揮する区間がないため130km/h運転にとどまっている。
本系列と同時期に「TRY-Z」という愛称のE991系試験車が製造され、最高速度160km/h、曲線で本則+45km/hを目指して1995年(平成7年)から中央本線・常磐線でテストされていたが、1999年(平成11年)3月27日に廃車となり、既に解体されている。
以上の理由による費用対効果から、また同社管内で他に振り子機構を使ってまで速達化を図る必要性に迫られている路線が存在しない事からも「今後はJR東日本としては振り子車両は一切開発しない」とも言われている。本系列で置き換えられなかった183系・189系電車の後継車種として2002年(平成14年)にアルミ車体で重心を下げ、最高運転速度は130km/hに向上させた振り子非搭載のE257系が投入開始されている事からも想像できる。
また、かつて同社の会長を務めた山之内秀一郎が、名古屋鉄道管理局に在籍していた頃に381系の試運転に関わった際の数々の苦い経験から振り子機構に対して消極的な姿勢であると語っている事も、少なからぬ影響を及ぼしているとの見方もある(自著『新幹線がなかったら』より)。
また、全面速達化が見送られたのは中央新幹線の建設問題も絡んでいる。
[編集] その他
- 本系列はJR東日本の車両では数少ない日本車輌製造製の車両である。これ以外には215系やE2系などが該当する。
- S3+S23編成は1997年(平成9年)10月12日、大月駅を通過中に、信号を無視して本線に進入した入替車両に衝突されて脱線転覆し、うちS3編成の5両が現地で解体された。その際、廃車手続きはされずに代替の車体を新造。原番で復旧している。
- KATOからNゲージの鉄道模型が発売されている。振り子による曲線通過時の車体の傾きを、台車のセンターピンの位置をずらすことで再現し、発売当時は話題になった。初期版はその特殊な構造により脱線しやすいという欠点があったが、その後再生産の際には改良されている。
[編集] 関連項目
- JR東日本の在来線電車 (■国鉄引継車を含む全一覧 / ■カテゴリ) ■Template ■ノート