公営バス
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公営バス(こうえいばす)は、地方公共団体(都・県・市町村など)が経営しているバスである。
日本においては、地方公共団体が経営する、国土交通省の一般乗合旅客自動車運送事業(路線バス)および一般貸切旅客自動車運送事業(観光バス)の免許(現・許可)事業者のことである。通常、地方公営企業法が適用される。
公営バスの大半は市が経営するものである。市が行うものを市営バスまたは市バスともいう。都道府県が公営バスを経営している例として、東京都と長崎県がある。(都営バス・県営バス)
公営交通の一つという形態から、ほとんどは自治体内の路線バスで、観光バスは運行していないか、保有していてもごく少数に留まる。
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[編集] 日本の公営バス
都営・県営、市営(平成の大合併により生じた新市を除く)バスのような大規模な場合、公営企業管理者を置き、その下に管轄部局(つまり交通局・交通部など)を配して経営する形態を取っている。
社団法人公営交通事業協会の会員であるのはこういった事業者であり、労働者側も日本都市交通労働組合(都市交労組)を結成している。
これに対し、町村および平成の大合併による新市の場合、規模が小さいため管理者を置かず、首長が直接経営する方式をとっているところが多い(地方公営企業法では職員数200人未満または車輌数150両未満)。 また、複数自治体による一部事務組合が公営企業法を適用されたケース、つまり企業団による経営も存在する。
なお、地方公営企業であるため、収支は一般会計から切り離され、企業会計(独立採算)によって処理される。
[編集] 地方公営企業以外の自治体運営バス
詳細は自治体バスを参照
道路運送法第80条に「自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。ただし、災害のため緊急を要するとき、又は公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であつて国土交通大臣の許可を受けたときは、この限りでない。」とある。 この但し書きの規定に準拠して運行されるものを自主運行バス(または「80条バス」)という。その大半を自治体が運営している。
また自治体が貸切バスを借り、それを路線バスとして運行する貸切代替バス(いわゆる「21条バス」)も、同様に多数存在する。
このほか、自治体主体で運営するバスに、コミュニティバスがあり、大半は自治体が民営会社に運行委託する形態をとっている。
これらのバス事業の収支は、行政サービスの一種として地方公共団体の一般会計で処理される。故に、従来の地方公営企業法に準拠する「公営バス」とは別個のものとして扱われる。
なお、80条バスと21条バスについては、廃止代替バスを、コミュニティバスについてはそちらを参照願いたい。
[編集] 縮小傾向にある公営バス
近年、公営バスの経営悪化が取りざたされている。背景には大都市では新規地下鉄路線の開業による利用者の移行や交通渋滞による定時運行の困難、地方都市ではモータリゼーション(自家用車利用)の拡大により利用者が減少しており、2000年以降、この改善の動きが急速化している。
まず、事業を管理委託するケースが増えている。 これは車両・施設・路線などは自治体保有のまま、運営だけを他者に委託するもの。 従って、車両や施設などの外見はそれまでの公営バスと変わらないが、働く人(運転手など)は公務員でないということになる。
先鞭をつけたのが京都市交通局で、従来より一部路線の民間移管が行われていた。 しかし、2000年3月から一部営業所の路線を阪急バスと京阪バスに管理委託する方式を採用。 後に近鉄バスも加わり、2007年度末には市営バスの半数がこの形態になる予定である。
その後、苫小牧市交通部では2002年度から一部を道南バスに委託。青森市交通部は弘南バス、2006年度から仙台市交通局はJRバス東北に委託している。 今後、川崎市交通局は臨港グリーンバスに2007年4月から上平間営業所を、名古屋市交通局は名鉄バスに大森営業所を2007年度から委託する予定である。
一方で、大阪府・兵庫県では管理部局の外郭団体に一部路線を譲渡してバス運行事業者にした上で、路線委託するケースが生じた。民間事業者での子会社移管・管理委託に近いケースといえる。 2002年4月に大阪市交通局が大阪運輸振興に、2004年4月に神戸市交通局が神戸交通振興に、尼崎市交通局が尼崎交通事業振興にそれぞれ管理委託している。
なお、神戸市交通局の管理委託は2005年度から民間事業者に対しても開始され、現在一部営業所が阪急バス、神姫バスに委託されている。また2007年度から大阪市交通局の一部営業所が南海バスに委託される見通しである。
東京都交通局の場合、2003年度から一部営業所の運行をはとバスに委託している。 はとバスは都内の定期観光バスや、首都圏の大手貸切事業者として有名だが、東京都は同社創業以来の大口出資者でもある。上記2例の中間であるといえよう。
[編集] 公営バス事業からの撤退
前述の一部業務委託から一歩踏み込み、路線そのものを民間に移管するケースも増えている。
従来から地下鉄の開業に伴うドル箱路線喪失に対する経営保障や、競合路線の整理といった形で民間移管が行われたケースはある。しかし、2000年以降は、縮小均衡を図ることが主目的に変化しており、中には完全移管、つまりバス事業からの全面撤退という例が続出する事態になっている。
2000年以降に一部、または全部の路線移管が実施されたのは以下の事業者である。
(以下、移管元事業者名:移管先事業者名)
- 札幌市交通局:北海道中央バス、じょうてつ、ジェイ・アール北海道バス
- 函館市交通局:函館バス
- 八戸市交通部:南部バス
- 秋田市交通局:秋田中央交通
- 仙台市交通局:宮城交通(ただし、今後は当面は路線移管を行わないことで合意)
- 川崎市交通局:東急バス
- 横浜市交通局:神奈川中央交通、東急バス、京浜急行バスグループ、フジエクスプレス
- 岐阜市交通事業部:岐阜乗合自動車
- 神戸市交通局:神姫バス
- 明石市交通部:神姫バス
- 姫路市交通局:神姫バス
- 荒尾市交通部:熊北産交→産交バス
- 熊本市交通局:九州産交バス、熊本バス
このうち、札幌市、函館市、秋田市、岐阜市、荒尾市は全路線の移管が実施された。
町村営については従来から、80条バス化のケースがあったほか、「平成の大合併」の影響を受けて事業主体が変更されるケースが発生している。
合併後の自治体に事業が引き継がれたのは以下の事業者である。
- 芦安村:現・南アルプス市
- 下甑村:現・薩摩川内市
- 上甑バス企業団:現・薩摩川内市
- 桜島町:現・鹿児島市
一方、合併協議の中で廃止が決定したケースもあり、これは以下の事業者である。
[編集] 公営バス事業者一覧
[編集] 現存の事業者
2005年4月1日現在、下記の自治体で公営バスが運行されている。
(括弧内は、管轄部局名称)
- 1) 都道府県
東京市と東京府が合併した東京都の場合、主に旧東京市域の市内路線を運行している。これに対し観光輸送を目的に設立した長崎県は、県内外の中長距離路線を多数保有するなど性格は異なる。
- 2) 政令指定都市
- 仙台市 (仙台市交通局)→仙台市営バス参照
- 川崎市 (川崎市交通局)
- 横浜市 (横浜市交通局)→横浜市営バス参照
- 名古屋市 (名古屋市交通局)→名古屋市営バス参照
- 京都市 (京都市交通局)→京都市営バス参照
- 大阪市 (大阪市交通局)→大阪市営バス参照
- 神戸市 (神戸市交通局)→神戸市営バス参照
- 北九州市 (北九州市交通局) 旧・若松市交通局
- 3) 市(交通専門の部局が存在する(した)ものに限る)
- 北海道苫小牧市 (苫小牧市交通部)
- 青森県青森市 (青森市交通部)→青森市営バス参照
- 青森県八戸市 (八戸市交通部)→八戸市営バス参照
- 大阪府高槻市 (高槻市交通部)
- 兵庫県伊丹市 (伊丹市交通局)
- 兵庫県尼崎市 (尼崎市交通局)
- 兵庫県明石市 (明石市交通部)
- 兵庫県姫路市 (姫路市交通局)
- 島根県松江市 (松江市交通局)
- 広島県尾道市 (尾道市交通局)
- 広島県三原市 (三原市交通局)
- 広島県呉市 (呉市交通局)
- 山口県岩国市 (岩国市交通局)
- 山口県宇部市 (宇部市交通局)
- 徳島県徳島市 (徳島市交通局)
- 徳島県鳴門市 (鳴門市企業局)→鳴門市営バス参照
- 徳島県小松島市 (小松島市運輸部)
- 佐賀県佐賀市 (佐賀市交通局)
- 長崎県佐世保市 (佐世保市交通局)
- 熊本県熊本市 (熊本市交通局)
- 鹿児島県鹿児島市 (鹿児島市交通局)
- 4) 町村、企業団、上記以外の市
- 東京都八丈町 →八丈町営バス参照
- 東京都三宅村 →三宅村営バス参照
- 新潟県胎内市 - 旧:黒川村 貸切免許
- 山梨県南アルプス市 - 南アルプス市企業局による運営 旧:芦安村
- 長野県伊那市 - 旧:上伊那郡長谷村
- 長崎県松浦市 - 旧:鷹島町
- 鹿児島県薩摩川内市 - 旧:下甑村および上甑島バス企業団
- 鹿児島県沖永良部バス企業団 - 大島郡和泊町・知名町
胎内市、南アルプス市、伊那市は、登山者の輸送が主な目的であり、他の公営交通と設立意図が異なる。
[編集] 消滅した事業者
下記はバス事業を廃止、もしくは地方公共団体自体の解散により消滅した公営バス事業者の一覧。 ただし下記に示す地方公共団体でも地方公営企業以外の市町村営バスを運行している例はある。
(括弧内は、廃止時の部局名)
- 1) 民間への移管
- 札幌市 (札幌市交通局 2004年3月31日限りで廃止)
- 2000年より縮小、当初は一部存続の予定であったが後に全面廃止に方針転換。
- 路線バスは北海道旅客鉄道→ジェイ・アール北海道バス(2000・2003年)、じょうてつ(2000・2003年)、北海道中央バス(2000年・2001年・2004年)に移管
- 北海道函館市 (函館市交通局 2003年3月31日限りで廃止)
- 2001年より縮小、路線は函館バスに移管。
- 秋田県秋田市 (秋田市交通局 2006年3月31日限りで廃止)
- 2000年より縮小、路線は秋田中央交通に移管。
- 茨城県笠間市 (1966年11月12日限りで廃止)
- 静岡県浜松市(浜松市交通部 1986年11月30日限りで廃止)
- 路線は遠州鉄道に移管
- 岐阜県岐阜市 (岐阜市交通事業部 2005年3月31日限りで廃止)
- 2003年より縮小、路線は岐阜乗合自動車に移管
- 島根県出雲市 (1968年3月31日限りで廃止)
- 路線は一畑電気鉄道に移管
- 岡山県倉敷市 (倉敷市交通局 1989年3月31日限りで廃止)
- 山口県山口市 (山口市交通局 1999年3月31日限りで廃止)
- 路線は防長交通に移管。
- 愛媛県新居浜市 (1965年10月31日限りで廃止)
- 路線は瀬戸内運輸に移管。
- 愛媛県温泉郡中島町 (2004年10月31日限りで廃止)
- 船舶事業とともに新規設立の中島汽船に移管。なお中島町は2005年4月1日に松山市に編入
- 熊本県荒尾市 (荒尾市交通局 2005年3月31日限りで廃止)
- 2004年より縮小、九州産業交通系列の熊北産交→産交バスに移管。
- 長崎県西彼杵郡伊王島町 (2004年9月31日限りで廃止)
- 路線は長崎バスに移管(運行委託)。なお伊王島町は2005年1月4日に長崎市に編入
- 2) 80条バスへの転換
- 富山県婦負郡八尾町
- 富山県上新川郡大山町
- 富山県東砺波郡利賀村
- 愛媛県越智郡岩代村(岩代村は2004年10月1日に他2町村と合併し上島町に)
- 愛媛県越智郡弓削町(1999年4月 廃止 弓削町は2004年10月1日に他2町村と合併し上島町に)
- 4) 市町村合併