科学研究費補助金
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科学研究費補助金(かがくけんきゅうひほじょきん、英 Grants-in-Aid for Scientific Research)は国内の大学などの研究機関に所属する研究者が個人またはグループで行なう研究に対する補助金である。競争的資金の形態により、文部科学省およびその外郭団体である独立行政法人日本学術振興会を通して補助金が交付される。科研費(かけんひ)と略される。
研究の補助は以下の3つの領域に対してなされるが、1.の研究の遂行に対する補助金がその中核をなす。そこで、ここでは1.について説明する。
- 学術上重要な基礎的研究(応用的研究のうち基礎的段階にある研究を含む)の遂行のための助成
- 学術研究の成果の公開のための助成(学術書の出版費の補助、学術団体による学術雑誌刊行費の補助)
- 学術研究に係る事業への助成
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[編集] 科学研究費の概要と特徴
年間の補助金の総額は1,880億円(平成17年度実績)であり、国の予算の多くが停滞・減額される中、毎年、着実に伸び続けてきていることは特筆に値する。
「科学」研究費という名称であるが、研究補助の対象となるのは狭義の科学だけでなく、学術全般が含まれていて、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野で、独創的・先駆的な研究を発展させることを目的とする研究助成費であるという特徴を持つ。
科研費のもう一つの特徴は、その採択がピアレビューシステムによってなされていることである。ピアレビューとは「仲間による審査」を意味し、研究費の申請をする研究者もその採択の可否を審査する研究者も仲間同士であるという民主的なシステムが取られている。これは、為政者による政策的な研究補助や、企業における商業的な目的のための研究補助とは異なり、純粋に学問的な評価のためであるとされる。数年交代で全国の大学や研究所などの研究機関の研究者が審査者を勤め、審査を担当する期間中は審査の中立性を保つため審査者が誰であるかは公表されない。
審査は研究分野ごとに相対評価でなされる。大雑把に言って、研究分野ごとに審査者の評価が高かった上位約2〜3割の研究が採択となる。自然科学分野に比べ、人文・社会科学分野の研究課題への補助が少ないという指摘がなされるが、その根本的な原因は、人文・社会科学分野では申請そのものが件数・金額ともに少ないからであって、自然科学分野への政策的な偏向があるわけではない。
国立大学への配分の偏りもよく指摘されるが、特に国立大学への優遇措置が執られているわけではない。例えば2003年度交付状況を見ると、71.2パーセントが国立大学に交付されている一方、私立大学への交付は13.7パーセントであるが、その大きな理由のひとつは理工系や生物系などの理系の研究分野の方が研究経費が一般に多額であり、また、こうした理系の学問分野が国立大学に多いことである。以下の「採択件数上位10研究機関」にも示されるように、人文社会系では私立大学の早稲田大学が第2位となっている一方、理工系や生物系では上位を国立大学が独占している。
[編集] 科学研究費の主な種目
平成14年度以降は、科学研究費補助金は以下の種目に分けて申請・採択がなされている。これらは、主として研究期間と研究費の総額(研究の規模)の違いに対応している。研究種目によって、文部科学省が所管するものと日本学術振興会が所管するものとに分けられる。
[編集] 文部科学省所管のもの
- 特別推進研究(COE) - 期間3-5年 - 1課題5億円程度(上限なし)
- 特定領域研究 - 期間3-6年 - 1領域2千万円〜6億円程度
- 萌芽研究(独創的な発想の芽生え期の研究) - 期間1-3年 - 1課題500万円以下
- 若手研究(37歳以下の若手研究者への研究助成) - 期間2-3年(平成19年度から2-4年に変更)
- 若手研究(A)1課題 500万円〜3,000万円
- 若手研究(B)1課題 500万円未満
[編集] 日本学術振興会所管のもの
- 基盤研究(研究規模に従って以下のSABCに分かれる。)
- 基盤研究(S) - 期間5年 - 1課題5千万円以上1億円程度まで
- 基盤研究(A) - 期間2-4年 - 1課題2千万円以上5千万円以下
- 基盤研究(B) - 期間2-4年 - 1課題500万円以上2千万円以下
- 基盤研究(C) - 期間2-4年 - 1課題500万円以下
- 若手研究(スタートアップ)(研究機関に新採用の研究者への助成)- 期間2年 - 1課題150万円以下
- 奨励研究(大学などの研究機関の研究者以外への研究助成) - 期間1年 - 1課題100万円以下
- 特別研究員奨励費(学振PDなどの特別研究員に対する研究助成) - 期間2-3年 - 年度あたり150万円以下
[編集] 研究分野
研究費の申請・審査・交付は以下の研究分野のさらに下位のカッコ内の細目ごとになされる。
- 広領域
- 総合領域
- 情報学(情報学基礎 ソフトウエア 計算機システム・ネットワーク メディア情報学・データベース 知能情報学 知覚情報処理・知能ロボティクス 感性情報学・ソフトコンピューティング 情報図書館学・人文社会情報学 認知科学 統計科学 生体生命情報学)
- 神経科学(神経科学一般 神経解剖学・神経病理学 神経化学・神経薬理学 神経・筋肉生理学)
- 実験動物学(実験動物学)
- 人間医工学(医用生体工学・生体材料学 医用システム リハビリテーション科学・福祉工学)
- 健康・スポーツ科学(身体教育学 スポーツ科学 応用健康科学)
- 生活科学(生活科学一般 食生活学)
- 科学教育・教育工学(科学教育・教育工学)
- 科学社会学・科学技術史(科学社会学・科学技術史)
- 文化財科学(文化財科学)
- 地理学(地理学)
- 複合新領域
- 人文学
- 社会科学
- 数物系科学
- 化学
- 工学
- 応用物理学・工学基礎(応用物性・結晶工学 薄膜・表面界面物性 応用光学・量子光工学 応用物理学一般 工学基礎)
- 機械工学(機械材料・材料力学 生産工学・加工学 設計工学・機械機能要素・トライボロジー 流体工学 熱工学 機械力学・制御 知能機械学・機械システム)
- 電気電子工学(電力工学・電気機器工学 電子・電気材料工学 電子デバイス・電子機器 通信・ネットワーク工学 システム工学 計測工学 制御工学)
- 土木工学(土木材料・施工・建設マネジメント 構造工学・地震工学・維持管理工学 地盤工学 水工水理学 交通工学・国土計画 土木環境システム)
- 建築学(建築構造・材料 建築環境・設備 都市計画・建築計画 建築史・意匠)
- 材料工学(金属物性 無機材料・物性 複合材料・物性 構造・機能材料 材料加工・処理 金属生産工学)
- プロセス工学(化工物性・移動操作・単位操作 反応工学・プロセスシステム 触媒・資源化学プロセス 生物機能・バイオプロセス)
- 総合工学(航空宇宙工学 船舶海洋工学 地球・資源システム工学 リサイクル工学 核融合学 原子力学 エネルギー学)
- 生物学
- 農学
- 医歯薬学
- 薬学(化学系薬学 物理系薬学 生物系薬学 創薬化学 環境系薬学 医療系薬学)
- 基礎医学(解剖学一般(含組織学・発生学) 生理学一般 環境生理学(含体力医学・栄養生理学) 薬理学一般 医化学一般 病態医化学 人類遺伝学 人体病理学 実験病理学 寄生虫学(含衛生動物学) 細菌学(含真菌学) ウイルス学 免疫学)
- 境界医学(医療社会学 応用薬理学 病態検査学)
- 社会医学(衛生学 公衆衛生学・健康科学 法医学)
- 内科系臨床医学(内科学一般(含心身医学) 消化器内科学 循環器内科学 呼吸器内科学 腎臓内科学 神経内科学 代謝学 内分泌学 血液内科学 膠原病・アレルギー・感染症内科学 小児科学 胎児・新生児医学 皮膚科学 精神神経科学 放射線科学)
- 外科系臨床医学(外科学一般 消化器外科学 胸部外科学 脳神経外科学 整形外科学 麻酔・蘇生学 泌尿器科学 産婦人科学 耳鼻咽喉科学 眼科学 小児外科学 形成外科学 救急医学)
- 歯学(形態系基礎歯科学 機能系基礎歯科学 病態科学系歯学・歯科放射線学 保存治療系歯学 補綴理工系歯学 外科系歯学 矯正・小児系歯学 歯周治療系歯学 社会系歯学)
- 看護学(基礎看護学 臨床看護学 地域・老年看護学)
- 時限付き分科細目
- その他
[編集] 申請から成果報告まで
科研費の研究種目のうち、最も一般的で多くの研究者が対象となる基盤研究について、申請から成果報告までのスケジュールの概略を以下に示す。
- 申請:前年度の9月に募集要項が示され、11月上旬までに各研究機関を通して申請をする。各研究者が研究代表者として申請できる研究課題は原則として1件である。各研究者は、上に示した研究分野の一つを選んで申請を行う。
- 審査:12月から翌1月にかけて、2段階の審査が行われる。1段階目は書面審査、2段階目は少数委員による合議審査である。
- 採択課題の内定:4月中旬に各研究機関に文部科学省および日本学術振興会から採択内定課題が通知される。
- 交付申請:内定となった研究課題の申請者は、内定となった研究助成額に応じた研究計画書(交付申請書)を5月中旬までに各研究機関を通して提出する。
- 交付決定:6月中旬に交付が決定し、助成金が振り込まれる。
- 研究の遂行:採択となった研究課題の研究者は翌年3月までに研究を遂行する。
- 成果の報告:助成を受けた研究者は年度ごとに、当該年度の研究成果および研究経費の収支報告を各研究機関を通して年度末に報告する。研究実績報告書の内容は、国立情報学研究所の作成する科研費データベースに収録される。
- 成果報告書の刊行:3年以上の研究計画課題については、計画終了年度末に成果報告書を刊行しなければならない。成果報告書は国立国会図書館に所蔵され閲覧に供される。
[編集] 採択件数上位10研究機関
[編集] 2004年度(人文社会系)
順位 | 研究機関名 | 採択件数 | 採択金額(千円) |
---|---|---|---|
1 | 東京大学 | 308 | 841,800 |
2 | 早稲田大学 | 206 | 323,035 |
3 | 京都大学 | 197 | 483,700 |
4 | 広島大学 | 181 | 267,000 |
5 | 神戸大学 | 180 | 339,200 |
6 | 大阪大学 | 154 | 375,800 |
7 | 東北大学 | 151 | 306,000 |
8 | 筑波大学 | 148 | 269,400 |
9 | 名古屋大学 | 145 | 291,000 |
10 | 北海道大学 | 142 | 295,100 |
(出典:光田好孝ほか『科学研究費補助金採択研究課題数による大学の研究活性度の調査研究 - 2004年度(平成16年度)版 - I. 人文社会系編』)
[編集] 2004年度(理工系)
順位 | 研究機関名 | 採択件数 | 採択金額(千円) |
---|---|---|---|
1 | 東京大学 | 785 | 3,576,400 |
2 | 京都大学 | 632 | 2,219,800 |
3 | 東北大学 | 614 | 2,646,700 |
4 | 大阪大学 | 495 | 1,886,800 |
5 | 東京工業大学 | 469 | 1,740,900 |
6 | 九州大学 | 442 | 1,507,400 |
7 | 名古屋大学 | 353 | 1,572,900 |
8 | 北海道大学 | 323 | 1,133,800 |
9 | 広島大学 | 205 | 569,800 |
10 | 筑波大学 | 158 | 502,300 |
(出典:光田好孝ほか『科学研究費補助金採択研究課題数による大学の研究活性度の調査研究 - 2004年度(平成16年度)版 - II. 理工系編』)
[編集] 2004年度(生物系)
順位 | 研究機関名 | 採択件数 | 採択金額(千円) |
---|---|---|---|
1 | 東京大学 | 813 | 3,212,400 |
2 | 京都大学 | 648 | 2,346,000 |
3 | 大阪大学 | 487 | 1,674,100 |
4 | 九州大学 | 486 | 1,498,300 |
5 | 北海道大学 | 484 | 1,644,500 |
6 | 東北大学 | 484 | 1,403,500 |
7 | 名古屋大学 | 339 | 1,106,500 |
8 | 岡山大学 | 329 | 756,100 |
9 | 広島大学 | 305 | 790,000 |
10 | 慶應義塾大学 | 288 | 633,900 |
(出典:光田好孝ほか『科学研究費補助金採択研究課題数による大学の研究活性度の調査研究ー2004年度(平成16年度)版ーIII。生物系編』)
[編集] 2004年度(総合・新領域系および大型研究費)
順位 | 研究機関名 | 採択件数 | 採択金額(千円) |
---|---|---|---|
1 | 東京大学 | 304 | 1,556,900 |
2 | 京都大学 | 254 | 1,086,000 |
3 | 大阪大学 | 217 | 812,300 |
4 | 筑波大学 | 186 | 554,000 |
5 | 東北大学 | 170 | 545,000 |
6 | 東京工業大学 | 156 | 492,700 |
7 | 北海道大学 | 150 | 574,000 |
8 | 九州大学 | 119 | 362,500 |
9 | 名古屋大学 | 117 | 367,200 |
10 | 広島大学 | 104 | 202,800 |
(出典:光田好孝ほか『科学研究費補助金採択研究課題数による大学の研究活性度の調査研究ー2004年度(平成16年度)版ーIV.総合・新領域系および大型研究費編』)
[編集] 制度上の問題点
近年は少し緩和されたとはいえ、複数年交付されることになっている補助金でさえも交付されるのが例年夏ごろであり、また単年度ごとに決算を行い最後の1円まで使わなければいけないため、経理上の不適切な会計的処理がされ問題視されることが多い。モノが納品されていないうちに、伝票を業者からもらい先にプールするなど。4月から7月頃に利用する消耗品などの購入のために。)
審査の際に、同点ならば東京大学などの大きい大学の研究者に加点するようにしてほしいという意向が採択を審査する委員に伝えられたこともある[要出典]など、必ずしも公平な競争となっていないこともある。
[編集] 外部リンク
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