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う蝕

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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う蝕うしょく齲蝕とも表記する)は口腔内の細菌が糖質から作った酸により、歯が脱灰されることにより起こる歯の実質欠損。歯周疾患と並び、歯科の二大疾患の一つである。齲蝕になった歯をう歯(齲歯)といい、デンタルカリエスともいう。一般にはむし歯として知られる。

齲蝕は風邪と並び、どの世代でも抱える一般的な病気である。特に歯の萌出後数年は石灰化度が低いため齲蝕になりやすい。このため未成年に多く見られる。

目次

[編集] 原因

口腔内には多くの細菌が存在し、これを口腔常在菌というが、この中にはミュータンス連鎖球菌を中心とする齲蝕原因菌が存在する。これらは食品、特に砂糖デンプン等の糖質を酸に変える。糖質の中でも、砂糖の主成分であるスクロースは酸産生能は高く、キシリトール等は低い。齲蝕原因菌と酸、食物残渣、唾液は結合し、歯垢となって歯に結合する。これは大臼歯の咬合面の溝や、全ての歯の歯肉縁、歯科修復材料との境において最も顕著である。歯垢が歯から取り除かれないと次第に歯石となる。歯垢や歯石は歯肉縁を刺激し、歯肉炎となり、最終的には歯周炎となる。

歯垢の中の酸はエナメル質を溶かし穴を作る。最初期の段階では、エナメル質の抵抗性と歯の再石灰化のため、エナメル質表層は溶けず、その下から溶け始める。これをエナメル質の表層下脱灰といい、この段階を初期齲蝕という。この段階では、まだ、再石灰化により、歯が元に戻る可能性がある

[編集] 症状

齲蝕がエナメル質に限局している間、一般に齲蝕は無痛であり、象牙質に達することにより、象牙細管の露出をみて初めて歯痛を覚えることが多い。このときの痛みは象牙細管内の痛覚神経終末に対する直接刺激や、象牙細管内の組織液圧力変化による歯髄痛覚神経終末に対する刺激が起こることによるものと考えられている。

齲蝕が歯髄まで到達するまでの過程においては歯髄炎を併発することによる激しい自発痛が発生する場合がある。

更に、歯冠崩壊により齲蝕が歯髄まで到達すると髄腔内圧が下がるため、一過性に自発痛は消退する。

歯髄腔が感染した状態を放置し続けると、歯質の崩壊は著しくなり、根尖まで細菌感染が至る結果となり、歯根膜炎を引き起こすことによる拍動感を伴った鈍痛が生じることがある。この時、根尖周囲に歯根嚢胞や歯根肉芽腫が生じることがあり、感染の程度によっては歯瘻が出来ることもある。

やがて歯質の崩壊が進み、残根状態になると、人体の異物排除機転により自然脱落に至る。

[編集] 発生状況

現在の齲蝕の発生状況については平成11年におこなわれた歯科疾患実態調査(外部リンク、厚生労働省)が参考になる。

[編集] 分類

齲蝕は、発生部位や病巣の形態、進行度等により分類ができる。

一般的には進行度により、

C1 
エナメル質に限局した齲蝕(エナメル質齲蝕)
C2 
象牙質に達した齲蝕(象牙質齲蝕)
C3 
歯髄に達した齲蝕
C4 
歯冠部が崩壊し残根状態の齲蝕

という分類が知られる。

この他に、下記のような分類がある。

[編集] 発生部位による分類

小窩裂溝齲蝕 
小窩裂溝部は清掃を行いにくく、食物残渣がたまりやすいため、多く見られる。
平滑面齲蝕 
歯頸部や隣接面に見られる齲蝕。隣接面齲蝕はX線撮影で明らかになることが多い。
歯肉縁下齲蝕 
歯周ポケットが深くなったところに発生。セメント質齲蝕から始まることが多い。
根面齲蝕 
歯肉が退縮し、食物残渣がたまりやすい部分が露出することにより発生。高齢者に多い。

[編集] 病理組織学的分類

  • エナメル質齲蝕
  • 象牙質齲蝕
  • セメント質齲蝕

[編集] 経過による分類

急性齲蝕 
急速に進行する齲蝕で、若年者に多い。
慢性齲蝕 
進行が遅い齲蝕で、成人に多い。第二象牙質が多く形成される。

[編集] 原発性か再発性か

一次齲蝕(原発性齲蝕) 
正常な歯質表面に発生する齲蝕
二次齲蝕(再発性齲蝕) 
治療において窩洞の形成が不十分であったり、修復物の変形や破折により発生した、歯質と修復物の間の間隙のために修復物の周囲で発生する齲蝕のこと。

[編集] 病巣の形態による分類

表面齲蝕 
表面で広がる齲蝕。
下掘れ齲蝕 
表層部よりも内部で広がっている齲蝕。
穿通性齲蝕 
細く深く進行している齲蝕。

[編集] 進行度による分類

浅在性齲蝕 
表面で広がり広く浅い齲蝕
深在性齲蝕 
象牙質深部にまで達した齲蝕

[編集] リスクファクター

齲蝕を引き起こすリスクファクターとして、下記の物が知られる。

口腔衛生状態 
プラークの量が多いほど高リスク。
唾液の量 
少ないほど高リスク。
齲蝕原因菌の数 
口腔内に存在する齲蝕原因菌の数が多いほどリスクは高い。

[編集] 治療

右下の第二大臼歯の治療後。詰め物がされている。
右下の第二大臼歯の治療後。
詰め物がされている。

軽度のう蝕であれば、自然治癒することもあるが、一定水準以上まで進行した、齲蝕により失われた歯の構造は再生しない。しかしながら、治療により齲蝕の進行を止め、歯を保存し、合併症を防ぐことができる。治療はまず、齲蝕部位の歯質を切削し、その後歯科修復材料で形態を修復する。切削時に痛みが伴うと予測される場合は、局所麻酔を使用する。使用する歯科修復材料は齲蝕の部位や患者の希望等によりコンポジットレジンや充填用セメント、インレー、アマルガムなどから決める。アマルガムは水銀の使用に対する問題により、日本では使用が減ってきているが、安価で機械的強さがあることから一般的に使われている国もある。ポーセレンやコンポジットレジンは天然歯と外観が似ているため、前歯に用いられることが多い。奥歯は咬合圧が強い等の理由により、インレーやアマルガムが使われることが多い。齲蝕が広範囲の場合、クラウンにすることが多い。これは齲蝕部位を切削した後、残った歯に上からかぶせる物で、、ポーセレン、陶材焼付合金等が使われる。

歯髄の中の神経が炎症を起こしていたり腐敗した場合や、外傷を負っていた場合、歯髄は抜髄される。歯髄を取り去った後の根管は埋められ、必要であればクラウンが作られる。

なお、後にレントゲン撮影を行った場合に、どのような治療を行い、どこまで歯科材料が入っているのかを容易に判断できるよう、口腔内に用いる歯科材料は、通常、X線不透過性の材料が用いられる。

重度の齲蝕では保存することが不可能であり抜歯適応となっている。

3MIX法や3Mix-MP療法等の新しい治療法も考案されてきてはいる。

[編集] 予防

口腔衛生状態を良好に保つことが齲蝕予防の第一である。このためにパーソナルケアとして、一日最低二回のブラッシングと最低一回のデンタルフロスによる歯間清掃を行うこととプロフェッショナルケアとして、数ヶ月ごとの定期的な歯科検診やPMTCがある。リスクの高い部位には年に一回X線写真を撮るのも良い。

[編集] ブラッシング

齲蝕の予防はブラッシングを基本とする。歯垢を取り除くことで、齲蝕原因菌を少なくし、酸が作られることを防ぐ。歯石となった場合はブラッシングではとれないため、歯科にて取る。ブラッシングは歯ブラシを基本とするが、歯の隣接面を磨くためにデンタルフロス歯間ブラシを利用するのがよい。

口腔内の細菌はバランスを取って存在し、他の菌が入ることを防ぐため、他の口腔常在菌にも悪影響を与える抗菌剤などの利用は菌交代症などを引き起こす。

東芝など大手企業の健康保険組合が職場に歯磨きセットを無料配布し、昼休み時にブラッシングを励行させることにより年間の医療費負担の低減に効果を挙げているなど、昼食後のブラッシングは齲蝕予防に非常に有効的である。

[編集] 間食について

間食としては、ドライフルーツのような良く咬む必要のある粘着性食物がスナック菓子に比べて良い。可能で有れば食後にブラッシングを行うか水で口をすすぐのがよい。スナック菓子は、口腔内に酸を供給する原因になるので、最小限に抑えるべきである。砂糖を含んだ飲み物を飲み続けたり、キャンデーをなめ続けるのは良くない。

[編集] シーラント

シーラントは齲窩が出来るのを防ぐ良い方法である。臼歯の咬合面の小窩裂孔に薄い膜を作ることで、この膜で歯垢が蓄積することを防ぐ。通常、シーラントは臼歯の萌出直後の子供の歯に行うが、大人でも齲蝕の予防に利益がある。

[編集] フッ素

フッ素の利用はEBMによって主張されているが、証明されておらず、それどころか、フッ素の体内への蓄積による様々な疾病の原因となるといわれており、事実カナダはフッ素による齲歯予防効果を否定している。フルオロキシアパタイトにより歯の表面が犠牲腐食されることにより、齲蝕になりにくくなるとされているが、これを否定する調査結果も多い。総合的に見て、フッ素の効能は不明であり、悪影響ははっきりしている。

齲蝕予防にフッ素を用いる方法としては、

  1. 水道水へのフッ化物添加(水道水フッ化物添加
  2. フッ化物入りのによる洗口
  3. フッ化物の歯面への塗布
  4. フッ化物入り歯磨剤

などがある。

慢性腎不全患者が上記の各種フッ素含有物をを摂取し続けた場合、人工透析ではフッ素を排泄できず骨に蓄積して健康上非常に問題である。

アメリカ等では大部分の水道水にフッ素が添加されている。しかしそのアメリカにおいても反対意見が多数存在する。日本においては、西宮市宝塚市で、かつて使用された水源にフッ素が多く含まれていたことにより斑状歯が多数発生した事が原因で、フッ素添加に反対意見が強く、また水の品質確保に必要なもの以外のものを水道水に添加する必要はないとして、日本水道協会はフッ素添加を否定している。2005年現在、水道水へのフッ化物添加は行われていない。ただし、過去には京都市の山科(1952年1965年)等でフッ素が添加された事例は存在する。


近年、フッ化物入りのフッ酸水による洗口を実施する学校が増加してきている。

[編集] キシリトール

キシリトールによる歯の再石灰化作用は現段階では認められておらず、疑問視されている。ただし、上記の通り、酸産生能は低いため、スクロース等と異なり、齲蝕の原因にはならない。

S.mutansはキシリトール存在下ではそれを呼吸基質とするよう酵素誘導が行われる。その結果、菌が口腔内の粘液に留まりにくくなり、唾液によって洗い流されやすくなることで、う蝕の予防に役立つという説がある。

[編集] 学校保健

子供のうちの罹患が多いこと、小学生のときに歯が乳歯から永久歯に生え変わることなどから、戦後社会が安定した時代(それ以前は、栄養失調や各種の感染症などが重視された)(高度経済成長期以降?)以来今日に至るまでその予防は学校保健で重視された。保健の教材での記載、保健室でのポスターなどでの虫歯の進行や恐ろしさを啓蒙、歯磨の励行などである。ただし、近年では強制的な虫歯治療の励行などは控えられる傾向にある。

[編集] 飲食の回数と齲蝕

飲食直後は歯垢のpHが低下する。これにより臨界pHを超えると、歯の脱灰が進む。これが唾液などの働きにより、pHが上昇していき、一定のpH以上となったときに逆に再石灰化するようになる。飲食の回数が増加すると、歯垢のpHが低下している時間が長くなる。このため、歯の脱灰が進み、また、再石灰化量が減少するため、齲蝕となりやすくなる。 歯の脱灰が進むのは一般にpH約5.5以下であるといわれているが、歯の石灰化度によって代わり、たとえば、歯の石灰化度が永久歯よりも低い乳歯では、これより高いpHでも脱灰が進む。


[編集] 関連項目

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