ヨーロッパ特急
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TEE(Trans-Europ-Express, ヨーロッパ特急)は、ヨーロッパで運行されていた国際的鉄道ネットワークである。
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[編集] 起源
TEEのネットワークは、1957年に当時のオランダ国鉄の総裁であったIr. F.Q. den Hollanderのアイディアにより形成され、当初は西ドイツ国鉄、フランス国鉄、スイス連邦鉄道、イタリア国鉄、オランダ国鉄によって共同運行された。(いくつかの列車は運行開始時ベルギーを通過したが、ベルギー国鉄は、1964年のみ参加した。また、ルクセンブルク国鉄も後に共同運行に参加した。)
その背景として、第二次世界大戦後の航空網・高速道路網の急速な進展が挙げられる。鉄道は速度や利便性の面で、飛行機や自動車に対して劣勢に立たされるようになった。そこで、飛行機や自動車にはない居住性を売りに、特にビジネスユーザをターゲットとして、新しいタイプの国際特急列車を、ヨーロッパ諸国の国鉄が共同で運行することとなった。かくして1957年にTEEが誕生した。
それまでの「特急列車」は、(日本でも同様ではあるが)いわば「特権階級」の人々が利用するような豪華列車が一般的であり、ビジネス目的の列車ではなかった。そのため、ビジネスユーザにターゲットを絞った特急列車は、当時としては画期的なものであったと言われている。
ビジネスユーザをターゲットとしたため、全車1等車、ケータリングサービスの充実、ハイレベルなサービス、可能な限りの高速運転などを特徴とした。また、運転時間帯も、日帰り出張を意識した設定となった。そのため必然的に、全列車が昼行列車となった。
運行当初、TEE列車は通過各国で使用される電気方式が交流・直流など異なっていること(現在もそうであるが)や、非電化区間も多かったため、当時の車両は、ドイツがVT11.5型(写真参照)、フランスがx2700型、スイス・オランダがRAm型、イタリアがALn442型というディーゼル車両で運行された。1961年になってスイスの4電気方式を共通で走行できるRAe1050電車が導入され、電化が行われることとなるが、以後ほとんどの列車が、強力な電気機関車が豪華な専用客車を牽引する、客車列車方式に替わった。
TEE列車には、様々な制約が設けられ、客車は全て1等車とし、エアコンを完備し、乗客全員が車内で食事がとれること、また外部色もクリーム色と紅色に塗りわけTEEのロゴマークを掲出し、列車には列車愛称を付け、原則的に最高時速140kmで走行可能な物と定められていた。このTEE列車の外部色は、日本の「こだま型電車」国鉄151系電車や南海「こうや号」20000系などに大きな影響を与え、また、フランスのx2700型は小田急SE車をSSE車に改造されるときのデザインのモデルになったともいわれている。
TEE列車には、普通乗車券の他に、特別急行券が必要であり、接続列車が遅延した場合にも、出発時刻を遅らせることなく定時運行に努めるなど、優等列車としての配慮がなされた。
[編集] サービスの近代化
当初のTEEの目的は、主要な都市を朝に出発し、夜に戻ってくる日帰りのビジネスライク的な国際線ルートの促進であったが、次第に各国ともに最優等列車=TEEという図式に発展し、1965年にフランスのル・ミストラルやドイツのブラウアー・エンツィアンがTEEに組み入れられると、最初の目的からは、いささか逸脱するようになった。
[編集] 成長
TEEネットワークは、スペイン、デンマーク、オーストリアが加わり、1974年まで成長していく。しかしながら、この中でTEEのメンバーとなったのはオーストリア連邦鉄道のみであった。残りの二国は、TEEが通過したものの、運行管理のメンバーには加入しなかった。そのころからTEEは同様のサービスを提供する列車と置き換えられていった。1979年に、ドイツ国鉄は新しく始まるインターシティサービスに備えネットワークの再構成を行い、TEEは大幅に縮小された。
[編集] 終焉
1984年までにTEEの大半はイタリア、フランス及びごく僅かの国際線を残し廃止された。その路線の大部分は、インターシティ・ネットワークに置き換えられることとなった。現在では、TEEに替わってユーロシティ列車がかつてのTEEの役目を担っている。 TEE-VT601がドイツの鉄道発祥の地のニュルンベルク中央駅のすぐ西にある交通博物館(DB Museum)の本館にICE 3の1/1モデルや数々の貴重な車両と共に保存されている。
[編集] 主な車両
[編集] 電車
- RAe TEE型(スイス連邦鉄道)
- TEE専用として製造されたものとしては最初の電車で、1961年製。4電源(直流1.5kV,直流3kV,交流15kV16 2/3Hz,交流25kV50Hz)対応。赤とクリームのツートンカラー。6両編成だが、中間の1両に動力や機器を集中させており、4電源それぞれに対応した4つのパンタグラフを持つ。晩年はユーロシティ用となり、灰色のツートンカラーとなった。既に営業運転からは引退。
- ET403型(西ドイツ国鉄)
- もともとは国内のインターシティ用として1973年に製造されたが、ルフトハンザ・エアポート・エクスプレス用に改装されて運用された。4両編成。その風貌から「ドナルドダック」と呼ばれた。既に引退。
- ETR300型(イタリア国鉄)
[編集] 気動車
- VT11.5型(→VT601型)(西ドイツ国鉄)
- X2700型(フランス国鉄)
- 1957年のTEE運転開始時に製造された、液体式気動車"RGP1"。X2700型そのものはTEE専用ではないが、TEE運転開始に伴い、一部の編成をTEE仕様として製造したもの。
- 1000型(オランダ国鉄)/RAm型(スイス連邦鉄道)
- 1957年のTEE運転開始時に製造された、電気式気動車。2つの国鉄で共同開発され、両国鉄が同一仕様の車両を所有・運用した。
- ALn.448型(イタリア国鉄)
- 1958年に製造された、電気式気動車。2両編成ながら、1両の長さが約27mもあり、供食設備も有していた。
[編集] 客車
- TEE用客車(西ドイツ国鉄)
- 1962年から、客車によるTEEが運転されるようになったことに伴い、従来の急行用客車(UIC-X規格)をベースに、大幅にグレードアップし、空調設備も備えた特急用客車。1等車、食堂車のほか、展望車(ドームカー)も存在した。現在のドイツ鉄道の特急用客車の1等車は、このTEE用客車が基本となっている。
- Voiture TEE Inox客車(フランス国鉄)
- Voiture TEE Grand Confort(グラン・コンフォール)客車(フランス国鉄)
- Carrozza Gran Comfort(グラン・コンフォート)客車(イタリア国鉄)
- 1970年頃に製造されたTEE専用客車。現在でも特急用の1等車として運用されている。
- TalgoⅢ RD客車(スペイン国鉄)
- スペイン国鉄の低床連接式客車「タルゴ」の一種だが、軌間が異なるフランスに直通するため、軌間可変機構を備えた客車。以後「タルゴ」は、軌間可変客車の代名詞となった。
[編集] 客車を牽引した主な機関車
[編集] TEE列車リスト
列車番号 | 名前 | 経路 | 運用月日 |
---|---|---|---|
TEE 92/093 | Adriatico | ミラノ中央 - バーリ | 1973/06/03 - 1987/05/30 |
TEE 8/09 | Albert Schweitzer | ドルトムント - ストラスブール | 1980/06/02 - 1983/05/27 |
TEE 78/079 | Ambrosiano | ミラノ - ローマ | 1974/05/26 - 1987/05/30 |
TEE | Aquitaine | パリ(オーステルリッツ) - ボルドー | 1971/05/23 - 1984/05/30 |
TEE | Arbalete | パリ東 - バーゼルSBB - チューリッヒ中央 | 1957/06/02 - 1979/05/26 |
TEE 88/089 | Aurora | ローマ - レッジョ・ディ・カラブリア | 1974/05/26 - 1975/05/31 |
TEE 14/15 | Bacchus | ミュンヘン - ドルトムント | 1979/05/28 - 1980/05/30 |
TEE 66/067 | Bavaria | チューリッヒ中央 - ミュンヘン | 1969/09/28 - 1977/05/21 |
TEE 84/085 | Brabant | パリ北 - ブリュッセル南 - アムステルダム中央 | 1963/05/26 - 1984/06/02 |
TEE 90/091 | Blauer Enzian | ハンブルク・アルトナ - ミュンヘン | 1965/05/30 - 1979/05/26 |
TEE | Capitole (du martin) |
パリ(オーステルリッツ) - トゥールーズ・マタビオ | 1970/09/27 - 1982/05/23 |
TEE | Capitole (du soir) |
パリ(オーステルリッツ) - トゥールーズ・マタビオ | 1970/05/27 - 1984/09/29 |
TEE 83/084 | Catalan-Talgo | ジュネーヴ - コルナバン - バルセロナ | 1969/06/01 - 1982/05/22 |
TEE 22/23 | Cisalpin | ミラノ中央 - パリ(リヨン) | 1971/07/01 - 1984/01/21 |
TEE 68/069 | Colloseum | ローマ - ミラノ中央 | 1984/06/03 - 1987/05/30 |
TEE | Cycnus | ミラノ - ヴェンティミリア | 1973/09/30 - 1978/05/27 |
TEE 42/043 | Diamant (I) | ドルトムント - アントウェルペン | 1965/05/30 - 1976/05/29 |
TEE 80/081 | Diamant (II) | ミュンヘン - ハンブルク・アルトナ | 1979/05/27 - 1981/05/27 |
TEE | Edelweiss | アムステルダム - チューリッヒ中央 | 1957/06/02 - 1979/05/26 |
TEE 26/27 | Erasmus | ミュンヘン - ニュルンベルク - ハーグ | 1973/06/03 - 1980/05/31 |
TEE | Etendard | パリ(オーステルリッツ) - ボルドー | 1971/08/26 - 1984/05/30 |
TEE 82/085 | L' Etoile du Nord | パリ北 - アムステルダム中央 | 1957/06/02 - 1984/06/26 |
TEE | Faidherbe | パリ北 - リール - トゥールコワン | 1978/10/02 - 1987/05/29 |
TEE 16/17 | Friedrich Schiller | ドルトムント - シュトゥットガルト | 1979/05/27 - 1982/05/19 |
TEE 14/15 | Gambrinus | ハンブルク・アルトナ - ケルン - ミュンヘン | 1978/05/29 - 1983/05/27 |
TEE | Gayant | パリ北 - リール - トゥールコワン | 1978/10/02 - 1986/05/30 |
TEE 50/051 | Goethe (I) | フランクフルト・アム・マイン - パリ東 | 1970/05/31 - 1975/05/31 |
TEE 24/25 | Goethe (II) | フランクフルト・アム・マイン - ドルトムント | 1978/05/27 - 1983/05/27 |
TEE 58/059 | Gottardo | チューリッヒ中央 - ミラノ中央 | 1961/07/01 - 1987/05/30 |
TEE | Heinrich Heine | フランクフルト・アム・マイン - ドルトムント | 1979/05/27 - 1983/05/27 |
TEE 78/079 | Helvetia | チューリッヒ中央 - フランクフルト・アム・マイン - ハンブルク・アルトナ | 1957/06/02 - 1979/05/26 |
TEE 88/081 | L' Ile de France | パリ北 - アムステルダム中央 | 1957/06/02 - 1981/05/28 |
TEE | Iris | チューリヒ - ブリュッセル南 | 1974/05/26 - 1981/05/30 |
TEE 30/31 | Jules Verne | パリ( モンパルナス) - ナント | 1980/09/28 - 1981/05/30 |
TEE 60/061 | Kleber | パリ東 - ストラスブール | 1971/05/23 - 1987/05/29 |
TEE | Lemano | ミラノ中央 - ジュネーヴ - コルナバン | 1958/06/01 - 1982/05/22 |
TEE | Ligure | マルセイユ・サン・シャルル - ミラノ中央 | 1957/09/12 - 1982/05/22 |
TEE | Lutetia | パリ東 - ミラノ中央 | (不明) |
TEE | Lyonais | パリ(リヨン) - リヨン・ペラーシュ | 1969/02/09 - 1976/09/26 |
TEE 84/085 | Mediolanum | ミュンヘン - ミラノ中央 | 1957/10/15 - 1984/06/02 |
TEE 86/079 | Memling | パリ北 - ブリュッセル南 | 1974/09/29 - 1984/06/01 |
TEE 34/35 | Merkur | シュトゥットガルト - ケルン - コペンハーゲン | 1974/05/26 - 1978/05/27 |
TEE | Mistral | パリ(リヨン) - マルセイユ・サン・シャルル - ニース中央 | 1965/05/30 - 1978/05/27 |
TEE | Mont Cenis | リヨン-ペラーシュ - ミラノ中央 | 1957/06/02 - 1972/09/30 |
TEE 40/041 | Moliere (ex Paris-Ruhr) |
パリ北 - ケルン | 1957/06/02 - 1979/05/25 |
TEE 80/089 | L'Oiseaux Bleu | パリ北 - ブリュッセル南 | 1957/06/02 - 1984/06/02 |
TEE 32/33 | Parsifal | パリ北 - ドルトムント - ハンブルク・アルトナ | 1957/09/29 - 1979/05/26 |
TEE 26/27 | Prinz Eugen (I) | ブレーメン - パッサウ - ウィーン西 | 1971/09/25 - 1975/05/31 |
TEE 26/27 | Prinz Eugen (II) | ハノーファー中央 - ケルン - フランクフルト・アム・マイン - ウィーン西 | 1975/06/01 - 1978/05/27 |
TEE 10/11 | Rembrandt | ミュンヘン - シュトゥットガルト - アムステルダム中央 | 1967/05/28 - 1983/05/28 |
TEE 6/07 | Rheingold | アムステルダム中央 - ジュネーヴ - コルナバン | 1965/05/30 - 1987/05/30 |
TEE 16/17 | Rheingold | アムステルダム - フランクフルト - ネルトリンゲン - ミュンヘン (多層建て列車) |
1982/05/23 - 1987/05/30 |
TEE | Rheinpfeil | ドルトムント - フランクフルト・アム・マイン - ミュンヘン | 1965/05/30 - 1971/09/25 |
TEE 74/075 | Roland (I) | ブレーメン - バーゼルSBB - ミラノ中央 | 1969/06/01 - 1979/05/26 |
TEE 90/091 | Roland (I) | ブレーメン - フランクフルト・アム・マイン - シュトゥットガルト | 1979/05/28 - 1980/05/29 |
TEE 78/079 | Rubens | パリ北 - ブリュッセル南 | 1974/09/29 - 1987/05/27 |
TEE | Rhodanien | パリ(リヨン) - マルセイユ・サン・シャルル | 1971/05/23 - 1978/09/29 |
TEE 28/29 | Saphir | フランクフルト・アム・マイン - ブリュッセル南 | 1957/06/02 - 1979/05/26 |
TEE 68/069 | Settebello | ローマ - ミラノ中央 | 1974/05/26 - 1984/06/02 |
TEE 62/063 | Stanislas | パリ東 - ストラスブール | 1971/05/24 - 1982/09/25 |
TEE | Ticino | チューリッヒ中央 - ミラノ中央 | 1961/07/01 - 1982/09/25 |
TEE 22/23 | Van Beethoven (ex Rhein-Main) |
フランクフルト・アム・マイン - アムステルダム中央 | 1957/06/02 - 1979/05/26 |
TEE 94/095 | Vesuvio | ミラノ中央 - ローマ - ナポリ | 1973/09/30 - 1987/05/30 |
TEE | Watteau | パリ北 - リール - トゥールコワン | 1978/10/02 - 1987/05/27 |
TEE 61/062 | LH 1001/2 | フランクフルト・アム・マイン - デュッセルドルフ国際空港 | 1982/03/27 - 1991/06/01 |
TEE 63/064 | LH 1003/04 | フランクフルト・アム・マイン - デュッセルドルフ国際空港 | 1982/03/27 - 1991/06/01 |
TEE 65/066 | LH 1005/06 | フランクフルト・アム・マイン - デュッセルドルフ国際空港 | 1982/03/27 - 1991/06/01 |
TEE 67/068 | LH 1007/08 | フランクフルト・アム・マイン - デュッセルドルフ国際空港 | 1982/03/27 - 1991/06/01 |
- 列車番号および運行月日は、運行最終日のものを表わす。
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