七人の侍
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七人の侍 | |
監督 | 黒澤明 |
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製作 | 本木莊二郎 |
脚本 | 黒澤明 橋本忍 小国英雄 |
出演者 | 志村喬 加東大介 宮口精二 稲葉義男 千秋実 木村功 三船敏郎 |
音楽 | 早坂文雄 |
撮影 | 中井朝一 |
公開 | 1954年4月26日 ![]() |
上映時間 | 207分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
allcinema | |
キネマ旬報DB | |
IMDb | |
『七人の侍』(しちにんのさむらい)は、1954年4月26日に公開された黒澤明監督の日本映画。シナリオやアクションシーン、時代考証などの点を含め、世界的に高く評価されており、多くの映画作品に影響を与えたと言われている。
黒澤が、部分的にではあるがマルチカム撮影方式を初めて使用した映画である。本来は撮り直しのできないシーンのための保険的意味合いでの採用であったが、黒澤はその効果に驚き、これ以降の作品では常用することになる。
以後の映画作品に多大な影響を与え、また他国の映画監督にもファンが多いと言われている。フランシス・フォード・コッポラは「影響を受けた映画」と公言してはばからず、ジョージ・ルーカスに至っては『スターウォーズ』シリーズはSFという舞台で黒澤のサムライ劇を再現したかった」とも述べている。幼少期に黒澤作品に触れて多大な影響を受けたというスティーヴン・スピルバーグは、映画の撮影前や製作に行き詰まったときに、もの作りの原点に立ち戻るために必ずこの映画を見ると発言している。
目次 |
[編集] 登場人物
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
[編集] 七人の侍
- 勘兵衛(志村喬)
- 歴戦の武士だが、その戦いは全てが負け戦で、今は浪人。戦略家で冷静なリーダー。
- 五郎兵衛(稲葉義男)
- 経験豊富な浪人。勘兵衛の片腕として作戦を練る。
- 七郎次(加東大介)
- 勘兵衛の古くからの戦友で、数々の負け戦を共にしてきた男。
- 平八(千秋実)
- 苦境の中でも深刻にならない、愛想の良い浪人。武士としての腕は少し心もとない(五郎兵衛は「腕は中の下」と評する)。
- 久蔵(宮口精二)
- 修業の旅を続ける剣の達人。寡黙でストイックであり、勘兵衛は「己をたたき上げる、ただそれだけに凝り固まった男」と評する。
- 勝四郎(木村功)
- 戦いの経験の少ない最年少の侍。勘兵衛の経験と人柄に憧れを抱き、彼の弟子になろうとしている。
- 菊千代(三船敏郎)
- 勘兵衛の強さに惹かれ勝手についてきた犬のような男。どう猛な男だが、戦うときは勇敢に戦う。元々は百姓の出で、戦災孤児だった。「菊千代」という名前は他人の家系図から勝手に拝借したもの。酒癖が悪い。長大な刀を肩に担いでいる。
[編集] その他
- 儀作(高堂国典)
- 村の長老。侍を雇うと言い出す。
- 与平(左卜全)
- 村人。浪人探しに町へ出る。菊千代とは名コンビ。
- 万造(藤原釜足)
- 村人。浪人探しに町へ出る。
- 志乃(津島恵子)
- 万造の娘。勝四郎と恋に落ちる。
- 利吉(土屋嘉男)
- 村人。浪人探しに町へ出る。
- 利吉の女房(島崎雪子)
- かつて野武士にさらわれ、今はその本拠にいる。
- 茂助(小杉義男)
- 村人。浪人探しに町へ出る。防御線の外にある家を捨てる破目になる。
- 野武士首領(東野英治郎)
- 40人の野武士一団を率いる。雨中の決戦にて、種子島(火縄銃)で久蔵を撃殺すが、菊千代に追詰められ相打ちとなる。
- 町を歩く浪人(仲代達矢)
[編集] あらすじ
時は戦国時代。百姓と侍という相対する存在の描写と、彼らの関係に変化が起こる描写を加えつつ、「百姓と侍の連合軍」対「野武士の一団」の合戦が始まる。
[編集] 寒村
収穫の季節となるたびに野武士たちが村を襲いにくる。ある年の春、今年こそ麦の収穫の季節に襲われまいと、百姓たちは危険を回避する方法を話し合うため集まる。「野武士が来るなら、こちらも侍を雇って対抗する」という案が長である儀作の口から出て、危険な侍を村に入れることに反対する意見も出る中、結局用心棒として飢えた侍を食事で釣って雇うことが決まる。
[編集] 浪人集め
町に出た四人の村人は浪人集めに苦労するが、歴戦の武士であった勘兵衛という浪人の機転と腕にほれ込み、食物を報酬に村を守るよう説得する。勘兵衛は弟子になりたがっていた若侍・勝四郎や、共に戦い今は浪人となった部下を集めるほか、町にたくさんいる浪人から使える者を探そうとテストを行い、最終的に勘兵衛を含め六人の個性的な侍が村人のために戦うことになった。町で会った浪人の中に菊千代という怪しい男がおり、とても使えたものではないといったんは追い出すが、村へ向かう六人に菊千代はどこまでもついて来るため、結局七人の侍が村に到着した。
[編集] 村人の訓練
勘兵衛たちは村の周囲を回り、弱点を調べ上げて村を要塞化する案を練った。百姓たちは堀や柵作りなど村の要塞化の普請を始め、百姓たちも戦いに加わるために組分けされ、それぞれ個性的な七人の侍たちの指導により鍛え上げられる。一方、菊千代は村人が落ち武者を殺して奪った刀や鎧をもらってご満悦だが、村人の落ち武者に対する残酷さに侍たちの気分が悪くなる。
麦の収穫が行われ、そこへ何も知らない野武士たちがやってくるが、村へは今までどおり入れなくなっていた。唯一の侵入路から入った野武士は入口を閉ざされ、侍と百姓たちにより村の中で各個撃破され、ついにやられっ放しだった野武士に反撃することができた。村人の利吉の案内で野武士の本拠を見つけた侍たちは野武士の人数を知ることに成功し本拠を焼き討ちするが、逃げ惑っていた者たちの中に野武士にさらわれた利吉の妻がおり、利吉を見ると火の中に身を投じてしまった。残っている野武士の総数が確定し、野武士の残りがゼロになるまで戦うこととなる。
[編集] 決戦
野武士は一人また一人と倒され数が少なくなるが、侍や村人にも戦死者が出る。村の防衛線の外にある防御の手が回らない農家も、野武士の焼討ちに任せるままにしてしまう。この折、水車小屋に篭った爺様(じさま)を引き戻そうとした息子夫婦が野武士に突き殺され、それを助けようとした菊千代は助かった赤ん坊を抱きながら、「これは俺だ。俺もこうだったんだ。」と叫び、彼の正体は侍ではなく戦に巻き込まれて死んだ百姓の孤児で、侍になりたかっただけだったことが明らかとなる。戦いの合間の一時、いちばん若い侍の勝四郎は村の娘・志乃と短い恋に落ちる。
数が減り食料もない野武士との決戦の迫る前夜、勝四郎は志乃に誘われ逢引するが翌朝ばれてしまい、志乃の父親は激怒する。そこへ折から豪雨が降りだし、野武士の最後の総攻撃が起こり村の中で決戦が始まる。混乱の中、百姓や侍は当初の作戦どおりに戦いを進めることができなくなり、村の中は泥沼の戦場と化す。侍と村人に犠牲が出るが、野武士はついに全滅する。
[編集] 戦いの後
初夏、脅威から逃れた村では田植えが行われる。百姓たちは戦いの中でも意外なほどしたたかであり、戦いが終わった後は何事も無かったかのようにいつもどおりの農作業を始めていた。生き残った侍たちは、死んだ侍たちの墓を見ながら、村を守ることには成功したものの「また負け戦に終わった」ことを悟って村を後にしていった。
[編集] 評価
一般的に黒澤映画の最高傑作と評されることも多い。侍や百姓たちは一面的ではなく、特に百姓たちは善悪や強弱を併せ持った存在として描かれ、侍たちと百姓たちが相互にかかわりあい変化してゆく様がしっかりと描かれている。
また、当時の映画としては超大作と言える2億円の資金が投じられ、製作には充分な時間がとられた。脚本は数人がかりで練りこまれ、衣裳なども時代劇にありがちなきらびやかなものではなく、着古したような衣裳が手間をかけて作られ人数分用意された。撮影は一部スタジオで行われた分を除き、大部分が東宝撮影所付近の田園に作られた巨大な村のオープンセットと、伊豆から箱根にかけての各地の山村でのロケで行われた。ロケ地にもオープンセットと違和感なくつながるように村の一部を建設したため建設費も大きくなった。
本作の評価の一つに、時代考証が正確無比だったことが挙げられる(注:ただし、戦国史家藤木久志は、この作品が傑作であることを認めつつ、戦国時代の農民は基本的に武装し、状況に応じて兵士に早変わりする獰猛な存在であって、刀ひとつ持てないなどということはあり得ないとの批判を述べている(藤木久志「刀狩り」岩波書店))。それは映画史に残る合戦シーンも同じである。黒澤が合戦シーン及び侍たちがとった戦法にリアリティがあるのかどうかを自衛隊などの識者に聞いて回ったところ、皆が時代に非常に忠実と口をそろえたという。しかし、実は戦闘シーンや戦法(特に村を要塞化するなどの描写)は、資料が足りなかったのか黒澤たちが適当に描いたものだった。それゆえに黒澤はわざわざ識者に聞いて回ったのである。それまでは脇役であった野武士というものの生態を浮き立たせたのもこの映画の特徴であった。
本作は、小津安二郎の『東京物語』、本多猪四郎の『ゴジラ』等と共に日本映画という枠のみならず、世界映画の傑作としてしばしば挙げられ国外での評価も高い。1954年度 ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した。
また、「腕利きの7人(または数人)の個性的なプロフェッショナルが、弱者を守る・秘宝を盗むなどの目的のために結集して戦う」というプロットは、リメイク作の『荒野の七人』とその続編群を始め、『地獄の七人(Uncommon valor)』、『黄金の七人(Sette uomini d'oro)』、『宇宙の七人(Battle beyond the stars)』、『プライベート・ライアン』、『キング・アーサー』など多数のアクション映画・ドラマに多大な影響を与えた。 またそれらのパロディとして、『サボテン・ブラザーズ』を始め、『タンポポ』、『七人のおたく』、『ギャラクシー・クエスト』、『バグズ・ライフ』といったコメディ映画も製作されている。「7人」という登場人物の映画・ドラマの原点とも言われている。
[編集] リメイク
- ハリウッド製西部劇としてこの作品のリメイクが作られ(『荒野の七人』)、黒澤作品と同様にここからも多くのスターが誕生した。ユル・ブリンナー、スティーブ・マックイーン、ロバート・ヴォーン、チャールズ・ブロンソン、ホルスト・ブッフホルツ、ジェームズ・コバーンなどが出演。
- 宇宙を舞台にした『宇宙の七人』というリメイクもある。
- GONZOによりアニメ『SAMURAI 7』としてリメイクされている。
- サミーからPS2用ゲーム『SEVEN SAMURAI 20XX』が発売された。
[編集] 参考文献
- 都築政昭 『黒沢明と『七人の侍』 - “映画の中の映画”誕生ドキュメント』 朝日ソノラマ ISBN 4257035765
- 黒澤明、宮崎駿 『何が映画か - 「七人の侍」と「まあだだよ」をめぐって』 徳間書店 ISBN 4195552729