不二家期限切れ原材料使用問題
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不二家期限切れ原材料使用問題(ふじやきげんぎれげんざいりょうしようもんだい)とは2006年10月と11月の埼玉県新座市の同社埼玉工場で、シュークリームを製造する際に、消費期限が切れた牛乳を使用していたことが発覚したことから始まる、不二家の一連の不祥事事件のこと。
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[編集] 概要
別件で不二家が設置した社外プロジェクトチームによって、「2006年10月と11月の計8回にわたって、埼玉県新座市の同社埼玉工場でシュークリームを製造する際に、消費期限が切れた牛乳を使用していた」等と報告された。しかし報告書に不自然な点が複数あった事から不二家はこの問題を早期に発表せず、2006年末に社内機密文書であるこの報告書が社外に流出すると言う事件が発生。
社外プロジェクトチームによるこの報告書には「マスコミに知られたら雪印乳業(雪印集団食中毒事件)の二の舞になることは避けられない」と、隠蔽(いんぺい)を指示するような文章も含まれており、マスコミによってこれが「不二家の隠蔽体質」として大々的に報道される事となる。
なお、報道には「洋菓子需要の繁忙期であるクリスマス商戦を乗り切った後の2007年1月10日を待って発表した」等とあるが、信頼回復対策会議の報告によると、実際は上でも述べた通り報告書に不自然な点が多く社外プロジェクトチームに対する不信感が募っていたという点が大きく、この報告書が社外に流出したのはクリスマスを過ぎた年末(報道機関による取材を受けたのは1月9日)であるとの事。
また、「内部告発による」とも報道されているが、この文章がどういう理由でどこから流出したのかは(報道機関側からは)一切明かされていない。
[編集] 経緯
- 1月10日 - 「内部告発を受けた」とする報道機関の手により、不二家が消費期限切れの牛乳をシュークリーム製造の際に使用していた報道がなされた。
- 1月11日 - 同社の藤井社長らは釈明会見を開き、消費期限切れの牛乳使用の責任は現場の一作業者にあったとした。また公表しなかったことに関しては、「この問題に関する認識が甘かった」と釈明した。[1]釈明会見の席上で、消費期限切れの卵を用いたシュークリーム(2006年8月頃)、消費期限切れのリンゴの加工品を用いたアップルパイや、食品衛生法が定める基準の10倍、社内規定の100倍を超す細菌が検出されたシューロール(検査対象外の生のいちごを含めた誤った検査方法が採られたためで、いちごを取り除いた正しい検査方法での検査は国の基準を満たしている)、社内の基準を超過した賞味期限表示を行ったプリンといった品質基準未達製品を多数出荷していたこと、2004年に埼玉工場で月に数十匹のネズミが捕獲されていたことが公表された。[2]
- 1月11日 - 同日より、洋菓子の製造・販売を休止した。東京・神楽坂の「ペコちゃん焼き」の店は、唯一問題発覚後も営業を続けた(後に休止)。また、公式ウェブサイトは一部例外を除いて謝罪文のページにリダイレクト(自動転送)させ、ほぼ全ての消費者向け商品情報や株主向け開示資料を含む企業情報などを、閲覧不能にする措置をとった。
- 1月14日 - 2006年11月に関東地方で洋菓子を食べた消費者から、1月11日以降腹痛や嘔吐などの健康被害を訴える苦情電話が数件寄せられていることを公表した。不二家は「昨年の話なので事実関係の確認ができず、健康被害に関しては謝罪するなどの措置も取れない」とした。[3]
- 1月15日 - 記者会見で、藤井社長は問題の責任を取って、事態が収拾した後に辞任する方針を発表した。(1月22日辞任)
- 1月16日 - 1995年6月に泉佐野工場で製造の「ペコちゃんのほっぺ」でブドウ球菌汚染による食中毒が発生していた件を公表していなかったことが明らかになった。(患者が20人未満であったため、報告を受けた保健所も公表せず)[4]不二家は、当時の対応を「まずかった」としている。
- 1月17日 - 2度目の立ち入り検査を埼玉県が行った埼玉工場の検査の結果、「ない」と言われていた14種類の「原料消費・賞味期限チェック表」記録簿が発見された。埼玉県は食品衛生法第28条に基づき、同工場から出荷された全製品についての製造記録の報告を1月23日までに提出するよう要請した。[7]
- 1月17日 - フジテレビの「とくダネ!」にて3秒ルールが不二家の工場の仕分け作業時に適用されていたと報じた。「(床などに)落っこちて、3秒以内に戻せば(商品として消費者に提供しても)OKと」いう風潮があったと従業員が証言したが、3秒ルールについては不二家側は否定している。
- 1月20日 - TBSのみのもんたの朝ズバッ!にて平塚工場の元パート従業員が製品自体を再利用していたという証言をした。チョコレートを原料として再利用したり賞味期限を改竄をしたと証言した。さらにこのことを誰にも言うなと口止めしていたという。
- 1月27日 - 藤井林太郎前社長は、自身が務めていたビー・アールサーティワンアイスクリーム株式会社の社外取締役を今回の問題責任を取り、26日付けで辞任。[13]
[編集] 他商品・子会社への影響
1月12日には東急ストアやクイーンズ伊勢丹などのスーパーマーケットが、洋菓子工場以外で製造されているものも含めた全ての不二家商品について、全店舗の売り場から撤去を始めた[15]。更に、1月15日には、セブン&アイホールディングス、イオンの各グループのスーパーマーケット・コンビニエンスストアや、ローソン等でも撤去を決めた[16]。
不二家飲料を販売受託しているサッポロ飲料は、独自に安全性を確認したとして販売を継続する方針を表明しているが、自動販売機を設置している個人商店などからは撤去の動きもある。
同社子会社の不二家レストランは営業を続けているが、やはり殆どの店で開店休業状態が続いている。
[編集] マスコミの誤報・捏造報道の問題
「度重なる不祥事の発覚」としてマスコミに大々的なバッシングを受けていた不二家であったが、その後の信頼回復対策会議や、視聴者らの手による検証で、報道の殆どに誤りや誇張表現があったことが明らかになっている。
- 「蛾の混入したチョコレートがあった」との報道があったが、これは一部誤りである。
- 蛾が混入する事自体はチョコレート等を扱う業界では非常に良くある事である。もちろん、だからと言って蛾の混入が許される訳ではないが、「不二家の商品にだけ蛾が混入している」「しかし他の企業の商品は全く大丈夫」と言うマスコミの報道は明らかな誇張である。
- 「消費期限切れの牛乳」を使用したとの報道があったが、これは一部誤りである。
- 不二家の工場で使用していた牛乳は業務用の特殊な容器に入っているものであり、不二家はこの容器の洗浄に問題があった万一の場合を考慮し、通常の消費期限よりも3日ほど短い「独自の消費期限」を設定していた。「1日過ぎた」と言うのはこちらの事である。自社規定を守れていなかったと言うのは事実なのでほめられた話ではないが、「消費期限切れで品質に問題がある」と言うマスコミの報道は誤りである。
- 「大腸菌が検出された」との報道があったが、これは誤りである。
- 検出されたのは大腸菌群であって、大腸菌ではない。大腸菌とは糞便などに多く生息する菌であり、「検出されてはならない」と定められているが、大腸菌群は大腸菌を含めた、よく似た性質を持つ菌の総称である。不二家の問題の件では、大腸菌は全く検出されておらず、検出されたのは大腸菌群に分類される他の菌である。
- 「食品衛生法の規定の10倍以上の菌が検出された」との報道があったが、これは一部誤りである。
- 洋菓子には、食品衛生法による規定は存在しない。あるのは、「洋生菓子の衛生規範」であり、これには法的拘束力は何もない。もちろん、法的な規定がなくても菌は少ないに越した事はないが、マスコミの「違法である」「販売が禁止されている」と言った報道は全て誤りである。
- 「工場内でネズミが捕獲されていた」との報道があったが、これは一部誤りである。
- 上でも述べられている通りこれは何年も前の話であり、既に改善済みであるが、マスコミのあたかも最近まで捕獲されていたかのような報道は、誤りである。
[編集] 「みのもんたの朝ズバッ!!」問題
2007年1月22日放送の「みのもんたの朝ズバッ!!」において、「賞味期限切れのチョコレートを回収し、溶かして再形成した上賞味期限を書き換えて再出荷していた」等の報道がされ、これに基づいてみのもんたが様々なバッシング発言を行った。
この放送内容についても、後の検証により問題点が指摘されている。
- 賞味期限切れのチョコレートを小売店から回収すると言う行為はあまりにも非効率的であり、不自然である。チョコレート菓子などは高くても1つ500円もしないものばかりであり、これらを再利用するために輸送費・(パッケージを剥く)人件費などをかけていては、明らかに赤字である。不二家側の「回収するシステムなど存在しない」と言うコメントに対し「独自の回収ルートが存在する事が確認されている」との報道があったが、不二家の商品を扱っている店舗は数え切れないほどあり、このようなルートが実在していたとすれば、今更取材するまでもなくとっくに周知の事実になっているはずである。
- 上記の問題点を無視して実際に再利用を行っていたと仮定しても、非難する理由はない。チョコレートは基本的に腐ったりするものではなく、品質面では半永久的に大丈夫である。時間経過によって味が低下する事はあり得るが、これはチョコを湯煎で溶かし再形成する事により元通りになるため、わざわざ「溶かして再利用」していたのであれば、むしろ評価されるべきである。もちろん、味の低下が回復するので、賞味期限を延長して表示する事も全く問題はない。
- 番組内でみのもんたが「牛乳を混ぜて作り直した」と発言したが、チョコレートの製造過程からして牛乳を混ぜる事はない。チョコレートは油分を多く含む食品であるため、牛乳などの水分を混入させてしまうと、分離して整形に失敗する。(ミルクチョコレートも、混ぜているのは脱脂粉乳と言う粉である。)その後の追及によってTBSは「証言者は牛乳とは言っておらずミルクのようなものを混ぜたとしか言っていない」とコメントしたが、牛乳でなくても水分が厳禁であるのは変わらない。
- みのもんたが解説に用いたイラストには、大きな釜でチョコレートを溶かし、周りに従業員が集まって再利用するチョコレートを投入している図が描かれていたが、これは誤りである。実際の平塚工場にはこのような装置は存在せず、チョコレートを製造する装置は全て密閉された容器にパイプで原料を自動注入する装置であり、従業員が原料を外部から投入する事は不可能である。TBSは「分かりやすさのためにイラストを作成したが、誤解を招く部分があった」とコメントしたが、チョコレートを投入出来るか出来ないかという根本的な部分であり、誤解ではなく完全に誤りである。
- この報道の根拠として「元平塚工場のパート従業員」と言う人物が証言を行っていたが、後の追及によるTBSのコメントでは「この従業員は、実は10年以上前に勤務していただけであり、証言もその当時のものである」と言う事が明らかになった。「何故証言の根本部分にかかわる10年前と言う部分を隠していたのか?」と言う問いに対しTBSは「証言者の身元特定につながる恐れがあるため」としたが、同様の他の報道での証言者は勤務時期や勤務地などが全て公開されているため、この件に限って身元を隠す理由としては弱いと言われている。
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- 週刊誌が同様の聞き取り調査を、10年前に勤務していたと言う従業員およそ90人を対象に行ったところ、報道の中にあった証言とは全く異なる証言ばかりが得られたとの事。
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- この証言の中で明確に「賞味期限」と言う言葉が出てくるが、10年以上前の時点で通常1年半~2年とされるチョコの賞味期限が切れていたと言う事で、実質12年前=1995年に製造されたチョコには、賞味期限表示は存在しないはずである。(賞味期限の項参照)もっとも、これに関しては、現在の賞味期限と言う言葉を使って分かりやすく表現しただけであると言う可能性もある。
- 後の追求によるTBSのコメントおよび不二家側の発表によると、そもそもチョコレートに関する取材が行われていなかった事が明らかになっている。当初証言者は「カントリーマァムを再パッケージしていた」と証言しており、それに基づいた不二家に対する電話での取材でも「カントリーマァムの再利用」に関して取材が行われており、報道にあったような一般的なチョコレートの話は全く出てきていない。平塚工場ではそもそもカントリーマァムを扱う設備が存在せず、不二家もはっきりと否定しているが、何故かこれがチョコレートに関して取材したものとして報道されている。(なお、カントリーマァムはチョコレートをクッキーで挟んだ菓子であり、このチョコレート部分を取り出して再利用しようとすれば膨大な手間がかかる。)
このように明らかに間違いが認められる報道に関して不二家はTBSに抗議したが、「一部誤解を与える部分があったかも知れないが、根幹部分に問題はなく、断じて捏造ではない」と否定。謝罪も行っていない。
[編集] 今後
一部のマスメディア[17]によると、不二家は財務力が弱く、雪印乳業の二の舞になるのではないかと懸念する声もある。不二家は以前から経営改善のために店舗の閉鎖等が言われていたが、この事件により事業所の閉鎖が多くなる可能性がきわめて高いという見方が出ている。 読売新聞1月30日の報道によると、不二家とりそな銀行が山崎製パンに対して、品質管理などの業務支援を要請し、これに対して、山崎製パンも全般的に支援を検討すると報じている。[18]
[編集] 脚注・出典
- ^ 不二家社長が謝罪、洋菓子販売を一時休止 NIKKEI NET 2007年1月11日報道
- ^ 不二家が隠蔽文書、全国894店舗休止 nikkansports.com 2007年1月12日報道
- ^ 不二家:腹痛や嘔吐を訴える苦情数件 問題発覚後 毎日インタラクティブ 2007年1月14日報道
- ^ 不二家 食中毒発生を公表せず Sponichi Annex 2007年1月17日報道
- ^ ペコちゃん焼き販売自粛に惜しむ声続出 JanJan 2007年1月17日報道
- ^ 不二家社長に「改善」要求、厚労・農水両省 NIKKEI NET 2007年1月17日報道
- ^ 「ない」はずのマニュアル確認 不二家埼玉工場立ち入り asahi.com 2007年1月17日報道
- ^ 22日不二家が買い気配、新社長に桜井氏 ラジオ日経 2007年1月22日報道
- ^ 不二家:食品衛生マニュアルも甘い 細菌基準は国の10倍 毎日インタラクティブ 2007年1月25日報道
- ^ 不二家:埼玉工場 ネズミ、実は485匹捕獲 内部文書 毎日インタラクティブ 2007年1月26日報道
- ^ 大腸菌回収、本社より10倍緩い基準 不二家泉佐野工場 asahi.com 2007年1月26日報道
- ^ 消費期限延長は「食品衛生法違反も」 不二家巡り埼玉県 asahi.com 2007年1月27日報道
- ^ 不二家の藤井前社長、サーティーワンの社外取締役も辞任 asahi.com 2007年1月27日報道
- ^ 不二家:チョコにガの幼虫、4件目 回収せず 毎日インタラクティブ 2007年1月27日報道
- ^ 不二家製品を撤去、食品スーパーで相次ぐ NIKKEI NET 2007年1月14日報道
- ^ 不二家商品を相次ぎ撤去 nikkansports.com 2007年1月15日報道
- ^ 不二家に外資ファンドの触手も 業界再編焦点 SANKEIWeb 2007年1月17日報道
- ^ 山崎製パンが不二家支援へ、業務提携に発展も YOMIURI ONLINE 2007年1月30日報道