北朝鮮核問題
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大量破壊兵器 | |
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種類 | |
生物兵器 | |
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北朝鮮核問題(きたちょうせん かくもんだい)とは、北朝鮮の核に関するアメリカ・日本・韓国を中心とした国々並びに国連安全保障理事会、国際原子力機関 (IAEA) 、朝鮮半島エネルギー開発機構 (KEDO) と北朝鮮との間の問題である。
以前は北朝鮮核開発疑惑(きたちょうせん かくかいはつ ぎわく)とも呼ばれた。北朝鮮が大量破壊兵器の一つである核兵器を秘密裏に製造しているのではないかとの懸念があり、各国が北朝鮮の核の平和利用を含めた核開発放棄などをすべく交渉を続けてきた。現在では北朝鮮が核保有宣言をしたため、この呼び方は使われない。
2006年、北朝鮮は核兵器の保有を公言し、10月9日に「核実験を実施した」と発表した。10月15日、国連では全会一致で国際連合安全保障理事会決議1718を採択し、国連憲章第7章第41条に基づく経済制裁実施が発動された。
これにより、東アジアの情勢は軍事的にもドラスティックに流動化しうる局面へと突入したと見られている。詳細は朝鮮民主主義人民共和国の核実験 (2006年)参照。
目次 |
概略
北朝鮮の核開発に関しては事実上、完了していると見られている。これまで起爆装置の製造には欠かせない高爆実験を140回程度行ったとされる。公式には核実験そのものは確認されていない。しかし、1998年にパキスタンが行った核実験では、当時のパキスタンの核開発にはあり得ないはずのプルトニウム爆縮原爆の痕跡があり、北朝鮮の核技術者も核実験場に居た事から、少なくともパキスタンの核実験のうち一回は北朝鮮の核の代理実験だったのではないかという疑惑も浮上している。
各国によって見方はまちまちだが、一般的には北朝鮮は原子爆弾を保有している、とみる見解が有力である。 原子爆弾を小型化する技術についても見解は分かれるが、一般的には北朝鮮は140回程度の高爆実験により、原子爆弾の小型化の基準である1000kgの壁を突破しているとみられ、ミサイルに搭載できる初歩的な原爆弾頭を作れる、といわれている。一説にはミサイル弾頭用のウラン爆縮原爆の設計図がパキスタンから北朝鮮に入っているとするものもある。広島型原爆のリトルボーイや長崎型原爆のファットマンの大きさから北朝鮮の原爆はミサイルに載らないとする説もあるが、当時の原爆は技術的不安が多く、計算よりもかなり多い爆薬をつかっており、構造も頑丈にしているため、重いものとなっており、情報も多く、技術的背景の違う現在の北朝鮮の核と比較する事は適切ではない。
北朝鮮が、米朝枠組み合意以前に黒鉛減速炉から核爆弾1~2個分のプルトニウムを取り出したことは、ほぼ間違いないとされている。また2003年から行ったと見られる8000本の使用済み核燃料棒から核爆弾4個から最大13個分のプルトニウムを取り出したと見られる。2005年の春にも黒鉛減速炉から使用済み核燃料棒を取り出し、さらに1個分取り出した可能性もある。また、パキスタンからウラン濃縮技術の購入を試み、核爆弾1個分程度のウランを入手した可能性もある。
北朝鮮の核兵器に関しては、朝鮮半島の情勢から極めて大きな不安材料になっており、周辺諸国はその動向を注目している。
核開発問題と軽水炉供与
六ヵ国枠組み合意
北朝鮮が保有する原子力発電所の黒鉛減速炉は、核弾頭の原料となる純度の高いプルトニウムが生成されるため、長距離弾道弾への核搭載を危惧した諸国が、米国政府を中心として、北朝鮮政府に対し核開発の放棄を促した。交渉は難航し、1994年には米国は北朝鮮の爆撃を検討し、ソウルでは市民の大規模な避難が行われるなど朝鮮半島での戦争の危機が高まった。核開発に関する交渉は緊迫し、ジミー・カーター元大統領が1994年6月に訪朝し金日成国家主席と交渉にあたった。北朝鮮政府は「黒鉛減速炉はあくまで発電用」としたため、純度の高いプルトニウムが生成されにくい発電用原子炉を提供するということで、当事者各国(米国、日本、韓国、ロシア、中国)と北朝鮮政府の間で「枠組み合意」が成立。これにより北朝鮮が黒鉛減速炉の発電をストップし、その代わり建設費の30%を日本、70%を韓国の負担とし、代替軽水炉の発電所を北朝鮮に無償で建設し、完成までの間の火力発電用の重油を朝鮮半島エネルギー開発機構 (KEDO) を通じ米国が提供する事となった。北朝鮮にとっては、外交での核カードによって、発電所と重油を外国の負担で入手することができ、大きな成果をあげたことになるが、このような米国クリントン政権の外交姿勢は、北朝鮮に甘すぎる対応だったとして、後に米国内でも批判を受けることになる。この後、1994年7月に突然、金日成が死去し、金正日体制のもと、北朝鮮は食糧危機が深刻になるなど混乱を深めたとも言われる。
代替軽水炉工事開始の遅れ
代替軽水炉の建設は最初の1基を2003年までに稼動するとの合意であった。しかし、KEDOが建設する軽水炉の型が韓国型と言う事に対し、北朝鮮が猛反発を行う。また北朝鮮政府は労働者に対する賃金の上乗せを要求した。この要求により、日本や韓国は予算編成の見直しを迫られ、また、原子炉の形式の調整に手間取り、工期のズレ、つまり1基目の完成時期のズレが4年にも及ぶ事となった。これに対し、米国政府は4年間の重油供給の延長を行う事となっていた。
IAEAの査察拒否とKEDO
代替軽水炉への査察保留
代替炉の軽水炉に対し、IAEAでは軽水炉組み立て前からの部品の査察を行うことが義務つけられている。これに要する期間は稼動前の4年間であり、実質は軽水炉本体の建設開始からの査察になる。枠組み合意ですでにこの査察が調印されていたにもかかわらず、北朝鮮政府はこの査察の開始に対し保留を続けた。つまり、IAEAの査察が行えない状態に陥り、原子炉の設置そのものの続行が不可能となったわけである。 米国政府はこの態度に反発し、長期化するようであれば原油の供給停止もやむなしと決めた。
破られた枠組み合意
施設の建設途中、2002年10月4日、北朝鮮を訪問したケリー米大統領特使に対し、「核爆弾(ウラン型核爆弾の事)の保有を行うためのウラン濃縮計画(ウラン高濃縮計画)を持っている」との発言を行ったため、米国並びにKEDOはこれに反発、高濃縮ウラン計画の撤廃が具体的に示されるまでの間と言う期間を設けた上で、代替炉の建設並びに重油の提供をストップし現在に至っている。先の枠組み合意では核兵器の開発放棄を合意しており、この発言は枠組み合意を北朝鮮自ら破った形となったわけである。
保障措置協定違反と再燃する核所有疑惑
北朝鮮はこの処置に対し、IAEA査察チームを国外退去させた上、IAEAの監視カメラも全て目隠しした上で黒鉛減速炉での発電を再開させ、IAEAを脱退した。 これにより、IAEA理事会が北朝鮮の保障措置協定違反を認定し、国連安全保障理事会に報告。国連安全保障理事会、IAEAなどは核兵器の開発計画を放棄するよう求めたが聞き入れられず、2003年には北朝鮮政府は8000本あまりの使用済み核燃料の再処理を完了したと発表した。再処理を行う際には使用済み核燃料から廃棄物として、必ずプルトニウムを分離する必要があるため、プルトニウムの抽出疑惑を北朝鮮は事実上、公にした。
核兵器保有宣言と六ヶ国協議の継続
2003年11月に、KEDO理事会は軽水炉の建設を2004年10月まで停止することを決めた。しかし、当事者である北朝鮮と核開発を懸念した5カ国(中国、米国、日本、ロシア、韓国)の間で、現在「北朝鮮の核開発に関しての査察」について協議している。(6カ国協議)
しかし2005年2月10日に北朝鮮政府は6カ国協議の中止と、核拡散防止条約 (NPT) からの脱退、さらに核兵器保有宣言を行った。北朝鮮一流の瀬戸際外交との見方も強いが、これによって北朝鮮核問題が新たな局面を迎えたとも言える。その後北朝鮮への五ヶ国による協議復活への説得が続けられ協議は再開したが、今のところ核開発計画を断念する気配は見せていない。日本は核開発放棄以外、北朝鮮との重要問題である日本人拉致問題も6カ国協議に加えているが、中・韓・朝・露は拉致問題を持ちこむことに対して後ろ向きの姿勢を見せている。しかし、日米は核問題と人権問題(日本人拉致問題含)で連携することを確認した。また米政府、デトラニ・6カ国協議担当特使は、拉致問題の解決が北朝鮮の国際テロ支援国家指定を解除する条件と述べた。第4回協議で採択した共同声明履行のため、日米は人権問題の作業部会の設置を検討している。
KEDOは2005年11月22日、ニューヨークで理事会を開き、軽水炉建設事業を廃止することで合意した。これを受け、北朝鮮は朝鮮中央通信を通じ同年12月20日、「ブッシュ政権はわが国に対する軽水炉提供を放棄した」と米国を非難、「わが国は5万キロワットと20万キロワットの黒鉛減速炉と関連施設により、独自の原子力工業を積極的に発展させる」とし、また、軽水炉についても「いずれ独自の開発で建設する」と発表して、黒鉛減速炉建設の再開と、軽水炉建設によって、自衛力強化を図る意向を表明した。米国務省スポークスマン、ジャスティン・ヒギンズ (Justin Higgins) は、核開発事業の廃止と核兵器開発の断念を要求している。
周辺国への核の脅威
現在、北朝鮮が保有しているとされる中距離弾道ミサイルは数種類あり、射程は1000km~4000kmほどあるといわれ日本全土が射程内に入る。また、射程6700km以上とも言われるミサイル(テポドン2)も開発中であるとされ、もしこれらのミサイルに核弾頭を 搭載すれば周辺諸国はもとより北アメリカ大陸の米国の州、アラスカまでミサイルでの核攻撃が可能となる。また、北朝鮮は外貨獲得の為、ミサイル関連技術を他国へ輸出しており、大量破壊兵器の拡散に繋がらないかと各国から懸念されている。
核開発断念への圧力
日本側は北朝鮮に対し、2機の情報収集衛星(偵察衛星)を相次いで打ち上げ上空からの監視活動を開始すると共に、北朝鮮に対し、日本国内からの送金を停止することを可能にした経済制裁法案を可決した。これらを梃子に、北朝鮮に対し核開発を断念させる為の圧力を加えている。また、米国はミサイル巡洋艦(イージス艦)などを日本海に展開し軍事的圧力を加えてる。
これとは別に、弾道弾による核から国土を防御するため、日本や米国などはミサイル防衛構想を推し進めている。
核兵器(原爆)の直接的被害を受けた広島市の秋葉忠利市長は、北朝鮮の核兵器保有発言に対し抗議文を出している。
2005年6月14日、国会で「防衛庁設置法等の一部を改正する法律案」が可決され、自衛隊法82条2「弾道ミサイル等に対する破壊措置」が追加された。これは、北朝鮮のミサイル攻撃への対処について法整備を行ったものである。
- 「我が国に飛来するおそれがある場合、防衛庁長官は首相の承認を得て部隊に対し、我が国領域または公海上空で当該ミサイルの破壊を命ずることができる(1項)
- 事態が急変し、首相の承認を得るいとまがない場合、事前に作成した「緊急対処要領」に従い、長官は自衛隊の部隊に対し破壊措置を命令することができる(3項)
関連項目
文献
- ケネス・キノネス『北朝鮮 米国務省担当官の交渉秘録』(伊豆見元監修)、中央公論新社、2000年9月、ISBN 4120030229
- 原著: C. Kenneth Quinones, North Korea's Nuclear Threat: "Off the Record" Memories, 1992-94
- ケネス・キノネス『北朝鮮 2 核の秘密都市寧辺を往く』(伊豆見元監修)、中央公論新社、2003年5月、ISBN 4120033937
- 原著: C. Kenneth Quinones, Beyond Negotiation: Implementation of the Agreed Framework
- James Clay Moltz (Editor), Alexandre Y. Mansourov (Editor), The North Korean Nuclear Program: Security, Strategy, and New Perspectives from Russia (Library Binding), Routledge, Oct 1999, ISBN 0415923697
- 春原剛『米朝対立 核危機の十年』日本経済新聞社、2004年9月、ISBN 4532164826
- Victor D. Cha, David C. Kang, Nuclear North Korea: A Debate on Engagement Strategies, Columbia University Press, Sep 2003, ISBN 0231131283
外部リンク
- 北朝鮮の核開発(原水爆禁止日本国民会議)
- 朝鮮半島エネルギー開発機構(日本国外務省)
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