和楽器
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和楽器(わがっき)とは、日本で、古来から使われてきた伝統的な楽器のことである。邦楽器とも呼ぶ。
弥生時代から続く和琴 (わごん) や起源不明の胡弓など一部を除き、大陸に由来するものがほとんどで、「雅楽の琵琶」 (楽琵琶) のように、大陸では失われてしまった古い姿を残している楽器も多いが、「三味線」「尺八」「能管」「小鼓・大鼓」のように独特な進化を遂げたものもある。アイヌ音楽の楽器であるムックリやトンコリ、沖縄音楽の楽器三線もこの項の解説に含む。
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[編集] 全般的な特徴
きわめてデリケートな音色の変化を尊重、追求する。そのため、特に室内系和楽器の音色の洗練度は非常に高い。
例えば三味線は駒ひとつで大きく音色が変化し、中でも地歌三味線では、一人の奏者が何個もの駒を持ち、その日の天候、楽器のコンディション、曲の雰囲気などに合わせて使い分ける。駒そのものも重さなど実にデリケートな差異による追求がなされている。
また和楽器は、西洋楽器が操作機能や音域拡大、分担化の追求により分化、発展したのに比べ、音色の追求により分化、発展したといえる。三味線音楽の種目ごとに楽器各部や撥、駒、弦 (糸) に微妙な違いがあるのがその好例である。胡弓の弓も、ヴァイオリンの弓が機能的に改良されたのとは違って、音色の追求により改良され現在の形になった。弦楽器は現在でも絹糸の弦にこだわるが(箏は経済的な事情でテトロンが多くなった)、これも絹糸でしか出せない音色を尊重するからである。
また、多くの楽器で音色技法が発達している。特に西洋音楽では現代になってやっと雑音的 (噪音{そうおん} ) 要素を取り入れるようになったのに比べ、和楽器では早くから雑音の美が認められ、雑音的な要素までもが様々に取り入れられていることは大きな特徴である。西洋音楽の楽器(洋楽器)では、和声音楽に用いる音から倍音以外を排除しようという方向性を持っていた。この違いは顕著で、また近隣の中国や朝鮮の音楽と比べても、和楽器には噪音(倍音以外の音)を多く含む音を出す楽器の比率が多い。三味線や楽琵琶を除く各種琵琶の雑音付加機構「さわり」はその代表例である。また通常は噪音を出さない楽器でもわざわざ噪音を出す奏法がある。これは、民族がそのような音を望んだからとしか説明のしようがない。大陸から日本に伝来し、日本に定着する過程で、そのような変化、工夫が加わっていったものである。
西洋音楽の「モダン」な同属楽器と比較すると、音が小さいものが多い。古典派以降の西洋音楽ではコンサートホールのような広い空間で演奏するために大音量を要求され、そのために、音色の繊細さや演奏の容易さ、楽器自体の手触りなどの要素を犠牲にしても大きな音が出るような改良がなされ(ヴァイオリン、フルートなど)、それに向かなかった楽器(ヴィオール属、リュート、リコーダーなど)が淘汰されたのに対し、日本の楽器の多くはその淘汰を受けなかったからである。和楽器ではむしろ室内で耳をこらしてデリケートな音色の変化を賞玩するために、音量よりも音色の洗練、追求に力が注がれた。ただし音量の増大を目的とした改良も行なわれている(山田検校の箏改良など)。
ただし、祭礼(祭囃子、神楽など)のために屋外で演奏される分野の楽器は、音量が大きい。和太鼓、鉦、鐘、篳篥、横笛、法螺がこれに相当する。また、浄瑠璃や長唄の三味線は歌舞伎・文楽・日本舞踊といった伝統芸能と共に用いられてきたため、広い劇場でもよく聞こえるよう、音量を増す方向に進化した。
木・竹・皮など天然素材を生かしたものが多く、近代・現代西洋音楽の複雑な機構を備えたピアノやベーム式フルートなどの楽器と比較すると、構造は簡潔で、操作のための器具がシンプルであり、しばしばそれを全く持たない。西洋音楽は、その発達の段階で半音階や平均律を受け入れ、転調を主体とした変化に富んだ楽曲を育んできた。
つまり音を無機的にとらえデジタル的に体系化したため、個々の音そのものの次元では極めて単純化、信号化されて特別な意味を持たなくなり、反対に楽器に複雑な機構を要求する結果となったが、日本の音楽にはそのような要求は少なく、あっても調弦変えや持ち替えなど、演奏者の奏法上の工夫で十分対応できたからである。むしろ逆に、近世邦楽では特に、音を有機的にとらえ、非機械的な操作でしか表現できない微妙な音色、音程、余韻の変化などを積極的に利用、追求して来たことの方が重要といえる。
なぜならば、この美学的ともいえる傾向は非常に根強いもので、現代でもほとんどの和楽器が基本的に江戸時代の姿を変えていないからである。これは西洋楽器の影響を受けて「近代化」したものが少なくない中国楽器とは対照的である。また、楽器の改良もシンプルな方向に進むことが多かった。尺八、幕末の一弦琴や二弦琴はその最たる例であり、簡潔さの中にこそ美があり、そこにこそ魂、霊が宿り、神や仏に近づくという日本古来の美意識、思想が音に反映された現れであるといえる。ただし、近親調への転調は近世邦楽では非常に多い。例:箏・三味線における「楽曲途中での調弦変更(『転調』) 地唄を参照」) や、尺八・篠笛の「指穴半開」、「持ち替え」
弥生時代から存在する和琴 (わごん)などを除き、ほとんどの楽器は大陸(中国大陸)伝来 (胡弓は不明) のものに変化が加えられたものである。材料が日本国内で入手しやすいものに変えられていった点 (ただし三味線や琵琶では江戸時代でも輸入材 {唐木} が使われたことが少なくない) と、より繊細な音色が出せるような改良、また次項に述べる「噪音」の追加が主な変化である。
[編集] 主な和楽器
和楽器の場合、弦楽器は糸 (絹糸) を用い 、管楽器は竹でできているので、楽器、ひいては音楽を「糸竹 (いとたけ・しちく)」と呼ぶこともある。古代中国では楽器を材料で8種に分類し、これを「八音」と呼んだ。わが国でも古くはこれに従ったが、普通は「弾き物 (弦楽器) 」「吹き物 (管楽器) 」「打ち物 (打楽器)」に分けることが多い。和楽器においても西洋楽器と同様に弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器に分ける事はできる。
[編集] 弦楽器
[編集] ツィター属
- 箏、筝(そう)
- 一弦琴 (いちげん きん)
- 二弦琴 (にげん きん)
- 八雲琴 (やぐも ごと)
- 東流二弦琴 (あずまりゅう にげんきん)
- 新羅琴 (しらぎ ごと)
- 大正琴(たいしょうこと)
- 七絃琴 (しちげんきん)
[編集] ハープ属
- 箜篌(くご)
[編集] リュート属
- 琵琶(びわ)
- 阮咸 (げんかん)
- 月琴 (げっきん)
- 三味線(しゃみせん)
- 三線(さんしん)、蛇皮線(じゃびせん)
- トンコリ
- 胡弓(こきゅう)
- 三弦胡弓 (さんげん こきゅう)
- 藤植流四弦胡弓 (ふじうえりゅう よんげん こきゅう)
- 大胡弓 (だい こきゅう)
- 明治胡弓 (めいじ こきゅう)
- 五絃胡弓 (ごげん こきゅう)
- 玲琴 (れいきん)
- 胡弓 (くーちょー)
- 胡琴 (こきん)
- 提琴 (ていきん)
[編集] 管楽器
[編集] 複簧管楽器 (木管楽器に相当)
- 篳篥(ひちりき)
- 大篳篥 (おお ひちりき)
[編集] 無簧管楽器 (木管楽器に相当)
[編集] 自由簧管楽器
[編集] 唇簧管楽器 (金管楽器に相当)
[編集] 打楽器
[編集] 膜鳴楽器
[編集] 体鳴楽器
- 銅鑼(どら)、和ドラ
- 鉦(かね、しょう)
- 鈴(すず、れい、りん)
- 妙八(みょうばち)、妙鉢
- チャッパ、銅鉢(どうばち)、銅拍子(どびょうし)
- 方響 (ほうきょう)
- 拍子(ひょうし)
- 鳴物(なりもの)
- 石琴(せっきん)
- ムックリ、口琴(こうきん)
[編集] 宗教用具
[編集] 弦
- 梓弓(あずさゆみ)
[編集] 打
- 太鼓 (たいこ)
- 団扇太鼓(うちわ だいこ)
- 鐘(かね、しょう)
- 木魚(もくぎょ)
- 木鉦(もくしょう)
- 魚板(ぎょばん)、板木(ばんぎ)
- 鈴(すず、れい、りん)
- 巡礼鈴(じゅんれいすず)、振鈴(しんれい)
- 巫女鈴(みこすず)
- 錫杖(しゃくじょう)