大井川鐵道井川線
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井川線(いかわせん)は、静岡県榛原郡川根本町の千頭駅と静岡県静岡市葵区の井川駅とを結ぶ大井川鐵道の鉄道路線である。南アルプスあぷとラインの愛称がつけられている。
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[編集] 路線データ
- 路線距離(営業キロ):25.5km
- 軌間:1067mm
- 駅数:14駅(起終点駅含む)
- 複線区間:なし(全線単線)
- 電化区間:アプトいちしろ駅~長島ダム駅間(直流1500V)これ以外の区間 非電化
- 閉塞方式:特殊自動閉塞式
- トンネル:61ヶ所
- 橋梁:55ヶ所
[編集] 概要
大井川の流れに沿って山間を縫うようにゆっくりと走る。全線の1/3がトンネルと橋梁で占められており、また非常にカーブが多く走行中は車輪が軋む音が絶えない。そのため井川線の機関車および制御客車は水撒き装置を備えている。
閑蔵駅~尾盛駅の間には、日本で営業中の私鉄では、橋の高さがもっとも高い「関ノ沢鉄橋」がある(川底から100m)。
沿線に民家は非常に少なく、定住人口は奥泉と接岨峡温泉に少しあるだけで、利用者は大半が観光客である。駅の半数がいわゆる秘境駅となっている。終点駅の井川駅は静岡市内であるが南アルプスのふもとの山中にある。
本線は日本で唯一のアプト式区間のある路線である。長島ダム建設に伴い一部区間が水没することになったが、補償金を受けて廃止することはせず、湖岸に新線を建設した。途中90.0‰(パーミル)の急勾配があるため、碓氷峠越えの信越本線で1963年に廃止されて以来、日本では途絶えていたアプト式を採用した。なお、ループ線などを設けて急勾配を避け建設する手法も可能であったが、早期に建設できるという理由でアプト式のラック鉄道となったとされる。また、いくつか種類があるラック鉄道の中でアプト式を採用したのは、レールの製造会社の都合によるものと言われる。
元々762mm軌間で建設されたため、貨車を直通させるために1067mmに改軌された後もトンネルなど車両限界が小さく、車両もそれに合わせて軽便鉄道並みの大きさとなっている。
鉄道資産は中部電力が保有(ただし第三種事業者ではない)しており、同線の赤字額は中部電力が負担している。
[編集] 歴史
- 1935年(昭和10年)3月20日 大井川電力の専用鉄道として千頭~大井川発電所(現在廃止)間で運行開始(762mm軌間、内燃動力)。
- 1936年(昭和11年)11月19日 1067mmに改軌、ただし千頭~沢間間は軌間762mmの富士電力専用線(後の千頭森林鉄道・廃線)が乗り入れるため三線軌条。
- 1954年(昭和29年)4月1日 中部電力の専用鉄道として大井川ダム~堂平(井川駅の先)間の運行開始
- 1959年(昭和34年)8月1日 中部電力専用鉄道を大井川鉄道が引き継ぎ、大井川鉄道井川線として旅客営業開始。
- 1971年(昭和46年)4月1日 井川~堂平間廃止。
- 1990年(平成2年)10月2日 アプトいちしろ~接岨峡温泉間を新線に変更。アプトいちしろ~長島ダム間アプト式・電化。川根市代駅を移転してアプトいちしろ駅に、川根長島駅を接岨峡温泉駅に改称。
- 1998年(平成10年)10月18日 接岨峡温泉~井川間が災害のため運休。
- 1999年(平成11年)3月7日 不通だった接岨峡温泉~井川間が復旧。
- 1999年(平成11年)8月1日 愛称が「南アルプスあぷとライン」に決定。
[編集] 運行形態
全列車がDD20形ディーゼル機関車が推進・牽引する客車列車によって運行される。 基本編成は以下のとおり。
- 千頭~アプトいちしろ、長島ダム~井川
- 機関車(DD20)-客車-客車-客車-制御客車(クハ600)
- アプトいちしろ~長島ダム
- 電気機関車(ED90)-機関車(DD20)-客車-客車-客車-制御客車(クハ600)
※いずれも列車の運転時刻によっては客車の両数が増減する。
[編集] 車両
- DD20形ディーゼル機関車:1982年に登場した井川線における主力機関車。プッシュプル方式で運転するため、列車の麓側(千頭方)に連結される。
- DB1形ディーゼル機関車:DD20形登場以前の主力機関車。1952年製造。現在は構内入替用およびイベント用にのみ使用されている。
- ED90形電気機関車:1989年に製造されたアプト式電気機関車。他の井川線の車両に比べ一回り大きい(このため、建設規格の小さな軌道上を回送出来ず、トレーラにより搬入した)。アプト区間であるアプトいちしろ~長島ダム間において列車の麓側(千頭方)に補機として連結される。
- スハフ1形客車:1953年に製造されたオープンデッキ形客車。現在はイベント・多客時のみの運用。
- スロニ200形客車:1961年製造の客車。座席はロングシートで、車体の1/3程度が登山客向けの荷物スペースとなっている。
- スロフ300形客車:1962年より製造された井川線における主力客車。座席は2列+1列のクロスシート。
- スハフ500形客車:1972年に増備された客車。座席はロングシート。
- クハ600形制御客車:アプト式区間の開業に伴い、重量の大きい機関車を列車の麓側に配置する必要が生じたため、1990年に登場した制御客車。列車の山側(井川方)先頭に連結される。運転席にはDD20形制御用、ED90形制御用の2種類のマスコンが装備されている。客室の座席は2列+1列のクロスシート。
なお客車はすべて手動ドアであり、駅に停車すると車掌がすべての車両のドアを開けてまわる。
[編集] 駅一覧
[編集] 営業中の区間
駅名 | 営業キロ | 接続路線 | 所在地 | |
---|---|---|---|---|
千頭駅 | 0.0 | 大井川鐵道:大井川本線 | 静岡県 | 榛原郡川根本町 |
川根両国駅 | 1.1 | |||
沢間駅 | 2.4 | |||
土本駅 | 3.9 | |||
川根小山駅 | 5.8 | |||
奥泉駅 | 7.5 | |||
アプトいちしろ駅 | 9.9 | |||
長島ダム駅 | 11.4 | |||
ひらんだ駅 | 12.6 | |||
奥大井湖上駅 | 13.9 | |||
接岨峡温泉駅 | 15.5 | |||
尾盛駅 | 17.8 | |||
閑蔵駅 | 20.5 | 静岡市葵区 | ||
井川駅 | 25.5 | しずてつジャストライン:静岡井川線(バス路線)新静岡駅・静岡駅方面 |
[編集] 廃止区間
奥泉駅 - 川根市代駅(現在のアプトいちしろ駅付近) - 大加島仮乗降場 - 川根唐沢駅 - 犬間駅 - 川根長島駅(現在の接岨峡温泉駅)
井川駅 - (貨)堂平駅