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直流電化 - Wikipedia

直流電化

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

直流電化 (ちょくりゅうでんか) は、直流電源を用いる鉄道の電化方式。

目次

[編集] 概要

1879年ベルリン工業博覧会で世界最初の電車走行が実現した。この時の電力は直流を使用した。以降、第二次世界大戦後の商用周波数による交流電化が普及するまで、鉄道・軌道の電化方式は直流が標準的なものとなった。

方法としては、高圧特別高圧(送電端6.6kV~77kV)で受電した交流電力を、変電所にて必要な電圧に変換後、整流器で直流にして架線などに電力を供給する。架線電圧は、絶縁耐力からモータの製造可能な動作電圧を上限として500~3000Vが選択されている。

交流は変圧が容易なため、交流電化方式では架線に特別高圧(≧10kV)を用いて車上で降圧・整流してモータに供給するため、変電所間隔を50km~100kmにできるのと比べ、直流では500V~3000Vという電圧値からの許容電圧降下が小さいことで、太い架線や給電線(き電線)を使って電圧降下を抑えても変電所間隔が5km~10km程度になり、多数の変電所を必要とする(最近では、太い架張線を複線にするき電吊架方式にしてき電線を省略する事例もある)。

特に日本における旧・日本国有鉄道での事例では、直流変電所への特別高圧送電線が送電端22kV規格(受電端20kV)から変圧して直流1500Vを得るのが標準的だったのを、交流電化に際して送電電圧20kVをそのまま採用して開発試験を行って定着した経過があるため、直流変電所を地上側に作る(=直流電化)か車上側に作る(=交流電化)か、という選択であったとされている。なお、現在の受電電圧は66・77kV以上が主で、特別高圧22kVは都市部の配電線にも使われるようになった。

直流電化では地上設備側のコストが高くつくが、車両の製造コストは交流車両にくらべて低い。したがって、運転頻度が高い路線に向いた電化方式といえる。北陸本線のように、列車本数を増やすため、および他線区からの直通を目的として、交流電化区間の一部を直流電化に転換する例もある。

また、電圧の高い交流電化に比べて絶縁距離を小さくできるので、結果として周囲の建築物との距離を小さくできる。そのため、トンネル断面の制約のある地下鉄では直流電化が大多数である。また、非電化であった七尾線を電化するにあたって、交流電化の北陸本線に接続するが低いトンネルをくぐるために直流電化された。

[編集] 整流方式

交流から直流に変換する方法としては、800V程度までの低い電圧には、かつては回転変流機などの回転機が用いられ、後に静止型として高圧にも使える水銀整流器が用いられたが、安定した大電力用シリコンダイオードの出現でこれに移行した。


[編集] 回転変流機/電動発電機

当初の回転機型では「電動発電機」よりも効率の良い「回転変流機」が主に用いられた。

回転変流機基本構造図
回転変流機基本構造図
4極48溝三相回転変流機構造図
4極48溝三相回転変流機構造図


回転変流機では回転子と巻線が交直両方で共用されており、直流側リードは各整流子セグメントに繋がれ2組のブラシで直流負荷側に繋がれる直流電動機・発電機の構造で、この巻線から3等配で引き出した交流側リードは、スリップリングを介して三相交流電源側に接続する電機子回転型同期電動機の構造で、巻線が交直共通で電流が相殺され、負荷電流による電機子反作用が交直両巻き線で相殺されて、同寸法の電動発電機方式よりも遥かに大きな電力を扱えた事により鉄道用直流発生装置に多用された。

信越本線横川軽井沢間の碓氷峠アプト式区間の電化はこの回転変流機を使って行われた。

整流子の絶縁の問題で800Vを越える電圧の回転変流機は安定的に作れなかった。電動発電機も回転変流機も可逆的であり電源側への電力回生制動を許容する。


[編集] 水銀整流器

育英高専の水銀整流器(2003年11月2日撮影)
育英高専の水銀整流器(2003年11月2日撮影)

回転機の整流子の保守を避けたい場合やもっと高電圧を使う場合には「水銀整流器(管)」を使った。回生制動が必要な場合は、ゲート制御電極付き水銀整流器を使って、逆接続の回路を設けて電力回生に必要な交流の逆方向電流を許容した構成にした。日本では陰極共通のガラス製の三相用3~6陽極水銀整流器をその形から「タコ」と呼んだ。

大型の水銀整流器は鉄漕型で、陽極数は6極、12極があり、真空ポンプで真空状態を作って動作させたが、その補助ポンプに高真空を作る拡散ポンプを必要とし、逆弧の発生など扱いが大変だった。

なお、イグナイトロン、エキサイトロンはゲート電極付き単極水銀整流器の一種であり初期の交流電気機関車に採用されている。

[編集] シリコン整流器

3相ブリッジ回路
3相ブリッジ回路

後年、電力損失の少なく安定した大電力用のシリコンダイオードが開発されて、それ以降シリコン整流器方式となった。水銀整流器の順方向アーク電圧降下が20V前後に対しシリコン整流器なら逆耐電圧で3素子直列としても1V×3×2前後で済み、予熱も不要で高効率のうえ動作が安定である事により逆弧などのトラブルに悩まされた水銀整流器を一掃した。

交流位相に合った逆方向電流を許容しないので電力回生は不可能になり、他に力行車両がない場合は回生失効するので、大落差降坂などの回生電力を確実に消費させるためには回生電力吸収装置や電源側に回生電力を送り返す変換機が必要となった。

冷却方式は、以前はファンによる風冷式→油入自冷式→フロン沸騰冷却式→パーフロロカーボン(PHC)沸騰自冷式と進化したが、フロンやPHCは1997年京都会議地球温暖化規制物質となって使用ができなくなったため、最近では純水沸騰自冷式(ヒートパイプ式)が主流である。

[編集] サイリスタ(SCR)整流器

制御電極(ゲート電極)の付いたシリコン整流器(SCR)をサイリスタと呼ぶ。これにより水銀整流器同様に位相制御をして電圧調整をしたり、電力回生制動に用いたり、定格出力以上で電圧を下げる垂下特性を実現することができる。

[編集] 整流回路

3相センタータップ結線
3相センタータップ結線
相間リアクトル付2重星形結線
相間リアクトル付2重星形結線
6陽極水銀整流管略図例
6陽極水銀整流管略図例
単相ブリッジ回路
単相ブリッジ回路
Y-Δ重畳12相整流
Y-Δ重畳12相整流
電鉄変電所フィルター例
電鉄変電所フィルター例

[編集] センタータップ式

整流回路は、水銀整流器に陰極共通の3相~6相用水銀整流器が使われ、その陰極付属設備は相互絶縁が必要なのでそれを一本化したいことから、トランスとの接続回路は逆極性の巻線の半波整流を合成して全波整流(両波整流)とする「センタータップ式全波整流」が基本とされた。さらに巻線の流通角が小さく非効率な欠点があり、次項の改良をして多用した。半波整流ではトランス鉄心に直流磁化を生じて変圧に支障を来すのに対し、センタータップだと磁化方向を相殺するので必須の接続である。

[編集] 相間リアクトル:相間リアクトル付2重星形結線

センタータップ接続整流は流通角が小さくトランス巻線の利用率が悪く大型化させるので、巻線をセンタータップで分離し相間リアクトルを挿入してその中央から直流を得ることでトランス各巻線の流通角を大きくして実効容量低下を抑えている。この接続を特に「相間リアクトル付2重星形結線」と呼んで三相交流を水銀整流器で整流する際の標準的結線となった。三相交流では6相式(6パルス式)となる。

[編集] ダイオード・ブリッジ式

シリコン整流器に換わると、当初は水銀整流器を置き換えただけの「相間リアクトル付2重星形結線」で使ったが、水銀整流器のような複雑な陰極付属設備が要らないため整流器を「ブリッジ接続全波整流」としてトランス巻線の単純化を図った。三相交流では6相(6パルス)式となる。

[編集] 12相式

リップル(脈動)分を小さくするため、特に大出力変電所では三相交流をそのまま全波整流して6相整流するのではなく、3相Y結線とΔ結線の巻線を組み合わせて位相差30度の交流を作ってそれぞれ整流して直列、或いは並列に重畳し合計12相(12パルス)整流とすることで脈動周波数を2倍に、脈動振幅を4半分以下にした。


[編集] 平滑リアクトルと高調波フィルター

平滑リアクトルを直列に挿入してリップル(脈動)分を阻止している。

平滑リアクトルはリップル周波数に比例してインピーダンスが大きくなり,6相整流と12相整流を比べるとリップル電圧は4半分より更に小さくなり、リップル周波数は倍になるので12相方式は脈動抑制に大変有効である。

更にリップル分による通信線への障害軽減のため、平滑リアクトルの負荷側に直列共振による高調波フィルター群を設置して脈動分を短絡している。

6相式で基本周波数の6倍、12倍、18倍、24倍の高調波(50Hz系で300Hz×N、60Hz系で360Hz×N)を、12相式で基本周波数の12倍、24倍の高調波(50Hz系で600Hz×N、60Hz系で720Hz×N)を直列共振回路で短絡している。しかし負荷側である電車線のインピーダンスが極めて低いためか実際にはあまり有効に機能していない様であり、撤去が検討される場所もあり、逆に誘導障害が現れれば現フィルター後段にもう1段の逆L型LCフィルターが必要になる。

フィルター定数例
平滑リアクトル=0.56mH
L [mH] C [μF] fr [Hz] 50Hz比
2.3 122 300.5 6.0
2.85 25 596.2 11.9
1.26 24 915.2 18.3
0.93 16 1,304.7 26.1


[編集] 日本の事例

現在、日本国内の電化鉄道および軌道では、新幹線北海道東北九州の各地方の大半のJR線を除いた電化路線の多くで、直流電化を採用している。なお、これらの鉄道事業者の大半は、自前の発電所や送電網を持つ東日本旅客鉄道(JR東日本)の首都圏など一部地域を除き、各電力会社から電力を購入している。

[編集] 電圧など

電気設備技術基準・解釈で以下のように定められている。

  • 直流高圧の架空方式の電車線路は電気鉄道の専用敷地内に敷設すること。日本では1500Vが主に用いられている。過去には1200Vを採用した路線も存在したが、昇圧により消滅している。
  • 第三軌条方式の電車線路は電気鉄道の専用敷地内に敷設すること。感電や短絡事故を避けるため低圧の750Vや600Vを採用するのが普通である。
  • 併用軌道などの専用敷地外では低圧 (600V) を用いる。
ただし、京阪電気鉄道京津線浜大津駅付近の併用軌道区間で1500Vが採用されているなど、特例による例外もある。
  • 索道及び鋼索鉄道(ケーブルカー)の電車線路にあっては300V以下。

[編集] 1500V電化の例

日本最初の事例は、1923年大阪鉄道(現・近畿日本鉄道南大阪線他)である。

[編集] 750V電化の例

[編集] 600V電化の例

[編集] 世界の事例

[編集] フランス

国有鉄道(SNCF)の電化路線では戦前、直流1500V電化が主流であった。戦後は、商用周波数交流を用いた交流電化 (50Hz/25000V) が主流となる。

[編集] イタリア

国有鉄道の電化路線では、3000Vが多用されている。

[編集] ドイツオーストリアスイス

戦前から低周波交流による交流電化が進んだこれらの国では、国有鉄道(ドイツは民営化)の幹線路線では直流電化は見られないが、ベルリンやハンブルクの通勤電車では第三軌条集電式の直流電化が採用されている。

[編集] 韓国

韓国では、原則的に地下鉄路線は1500Vによる電化がなされている。韓国鉄道公社が運営する広域電鉄一山線を除き交流電化 (60Hz/25000V) が採用され、地下鉄路線との境界にはデッドセクションが設けられている。

[編集] 関連項目

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