必殺仕業人
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『必殺仕業人』(ひっさつしわざにん)は、必殺シリーズの第7弾として、朝日放送と京都映画撮影所(現・松竹京都映画株式会社)が制作し、NETテレビ(現・テレビ朝日)系列で、1976年1月16日から7月23日にかけて放映された時代劇。全28回。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] 作品内容
前作『必殺仕置屋稼業』最終回で、仲間の印玄(新克利)とおこう(中村玉緒)が殉死。また自身も市松(沖雅也)をわざと逃亡させた失態で、中村主水は、南町奉行所の中でも、最低の地位にあたる小伝馬町牢屋敷の牢屋見廻り同心に降格させられる。
そして「仕置屋」崩壊から、一年の月日が流れた。
ある日の夜、主水の前に、赤井剣之介(中村敦夫)とお歌(中尾ミエ)という、旅の者が現れた。剣之介は元は上州沼木藩藩士・真野森之助という侍であったが、自身が惚れた女旅芸人のお歌のために人を殺し、自らの上級武士としての地位を捨て、沼木藩を脱藩、逃亡。現在は役人に追われるお尋ね者のため、表の仕事を持つ事ができず、日々生きて行くために、名前を変え、素顔を隠し、雑踏の中で、居合い抜きの大道芸人として生活する男である。逃亡先の信州信濃宿で、かつての「仕置屋」市松に出会った剣之介は、金を得るために、地元の悪人を、彼とともに始末する。そこで市松から、主水を紹介された剣之介は、お歌とともに、江戸まで逃げ延びて来たのだ。
一方、主水は「仕置屋」時代の仲間であり、風呂屋の釜炊きから、現在は女郎の洗い張り屋に転業した捨三(渡辺篤史)、「仕置屋」崩壊から一年の間に、主水の仲間に加わった鍼灸師・やいとや又右衛門(大出俊)と、規模を縮小しながらも、裏稼業を続けていた。「仕業人」としての最初の標的が、偶然にも剣之介の元・婚約者であった事から、標的に捕らえられたお歌を救うため、剣之介は主水たちと共に殺しを行い、お歌を救出する。
やいとやは、殺しの腕は立つが、お尋ね者の剣之介を仲間に加入させる事を拒否。それはお尋ね者が仲間にいると、主水グループ全員が役人に捕らえられ、死罪となる可能性が高いためである。しかし、主水は意外な言葉で、渋るやいとやを説得。ここにお尋ね者の剣之介を仲間に加え、新しい「仕業人」チームが誕生。金を貰って弱者の晴らせぬ恨みを晴らし、悪を闇に葬っていく。
[編集] 制作の背景
前作『必殺仕置屋稼業』に引き続き、中村主水の連続登板となった本作は、「反社会的とは、一体何なのか?」といった問題定義を視聴者に問いかけた傑作である。
これまでの歴代シリーズは、登場人物は皆、表の職業を持ち、市井に隠れて生きる殺し屋たちを描いて来たが、本作は主人公に殺人罪で追われる「お尋ね者」を配し、日の当たる表社会では生きる術が無く、殺しでしか日常生活を維持する事ができない男の生き様を描いた。この時点で、「必殺シリーズ」の人気キャラクターの座に君臨しつつあった中村主水は、今作では地位を格下げされ、家族の内職や、家の一室を他人に間借りさせるまでに落ちぶれ、貧窮さが作風に現れていた。作品内容的には、全体を虚無的で、やるせないムードが漂う物だが、本放送当時の高度成長期から凋落した、日本の現実を敏感に察知した物である事は明白だった。
生活が苦しく心に余裕すら無く、現実的となりながらも、とにもかくにも金が必要な主水と剣之介。そして市井の人々には優しいが、仲間には嫌味で冷たく自己中心的で、金への執着心が強い(やいとや)又右衛門。この3人の、金銭以外にお互いを結び付ける物の無い関係が、全シリーズでも異彩を放つ異色作である。映像面でも、前作「仕置屋稼業」に見られた映像美を重視した表現は少なくなり、町中や今作での主水の仕事場である牢獄のシーンでは、不景気で薄汚れた、言わば「ほこりっぽい」雰囲気の映像作りがなされていた。この様な作品であるからか放送途中より視聴率は低迷を余儀なくされたが、それでも頑なに作風を変えずに最後まで貫き通した事は素晴らしい事であり、賞賛に値する。
主役の赤井剣之介には、第1作『必殺仕掛人』の裏番組『木枯し紋次郎』(フジテレビ)の主役を演じた中村敦夫(実際には、『仕置屋』第20話「一筆啓上手練が見えた」(1975年11月14日放送)に、助っ人の仕事師「疾風の竜」役でゲスト出演。また必殺シリーズのスタッフが制作した『おしどり右京捕物車』に神谷右京役で主演と、京都映画のスタッフとはすでに交流があったようだ)を配し、主水とともに連投となる捨三に、渡辺篤史。
新劇の看板役者で、『荒野の素浪人』シリーズ(NETテレビ 現・テレビ朝日)など、テレビドラマの経験もある大出俊。『必殺必中仕事屋稼業』に続く中尾ミエの起用もあり、また、ナレーションに宇崎竜童を起用するなど衝撃的な作品であった。このシリーズ定番となったオープニングのナレーションも、宇崎と思われる人物のサングラスのアップから、従来の残虐な浮世絵図や仕業人の顔などに繋ぐ、というつくりになっている。
この『仕業人』というタイトルは、一般公募から決定した。当初「仕業人」という造語は作中では使用されず、物語中盤から頻繁に使用される様になった。
第24話「あんたこの替玉をどう思う」(1976年6月25日放映)は、必殺シリーズ200回記念のイベント編である。かつてのレギュラー出演者(中村玉緒、沖雅也、草笛光子、中谷一郎、大塚吾郎、野川由美子、田村高廣、緒形拳、三島ゆり子、石坂浩二。以上登場順 )が、大挙出演して盛り上げた。
余談だが、エンディングでの中村主水のテロップの順番がトメ(最後尾、重要な役割を担う)だったのは、本作までである(現在発売中のDVDソフトも同様。主水が完璧な主役となるのは、シリーズ10作目『新・必殺仕置人』からである)。
最終回(第28話)は、又右衛門役の大出俊のスケジュールの都合で、大出のみ先にクランクアップすることになり、第26・27話より先に撮影された。第26話「あんたこの心眼をどう思う」(1976年7月9日放映)には又右衛門が全く登場せず、第27話「あんたこの逆恨をどう思う」(1976年7月16日放映)では書き置きを残して温泉に旅に出ていることになっており、殺しの場面では代役による後ろ姿と針を持った手のみが登場する(エンディングテロップにも大出俊の名はない)。これはこの番組が当初は全26話の予定で、大出もそれに合わせてスケジュールを確保していたが、後番組「必殺からくり人」の製作が遅れたために穴埋めとして急遽「仕業人」が2話延長されることになったため、という説がある。
[編集] 殺し技
- 赤井剣之介…剃刀付きの指輪で、悪人の元結(もっとい)を切断。その乱れた髪の毛で、相手の首を絞め殺す。
- 剣の腕では主水に迫る程でありながら、殺しに刃物を使う事は無く、専ら元結を切る事に使っていた。刀を使わないのは剣之介の元武士としての矜持…もさることながら、経済的に困窮していてまともな刀を入手できない、お尋ね者故に返り血を浴びたり凶器を現場に残す心配がない殺し技を使わなければならない、というのも理由である。
- また、殺しの際は常にお歌を伴っている。お歌は武術の心得はなく自ら殺しには関わらないものの(懐に匕首を隠し持ってはいる)、剣之介に殺し道具の指輪をはめたり、敵の目を逸らしたり、油断を誘うなどして剣之介をサポートする。しかし、お歌を悪人に襲われて危機に陥ることもしばしばあった。
- やいとや又右衛門…常に携帯する印籠に火種が詰まっており、その中で熱した真っ赤な針を相手の眉間や急所に刺す。
- この技にかかった悪人は誰もが痙攣し、次第に体を硬直させ息を引き取る。武器を使わない状態での腕っ節がからっきしな為、攻撃は全て不意打ちであるが、それにも関わらず逆襲される事もあった。
- 中村主水…太刀・脇差で、悪人を斬る、刺す。
- 作風を反映してか、派手な殺陣は少なく、正に殺す為の暗殺剣の様相が強くなっている。が、最終回では…。
[編集] キャスト
- 赤井剣之介 … 中村敦夫
- やいとや又右衛門 … 大出俊(第26、27話除く)
- お歌 … 中尾ミエ
- 捨三 … 渡辺篤史(第13話除く)
- 島忠助 … 美川陽一郎(第1~11、13、15、16話)
- 出戻り銀次 … 鶴田忍(第23話除く)
- ※第1、3~6話は、出戻り銀次郎、第7~9話は、出戻りの銀次郎と表記。
- 中村主水 … 藤田まこと
- ナレーション
- 語り … 宇崎竜童(ダウン・タウン・ブギウギ・バンド)
- 作 … 早坂暁
[編集] 主題歌
- 「さざなみ」
- 作詞:荒木一郎 作曲:平尾昌晃 編曲:竜崎孝路 歌:西崎みどり
- 発売:ミノルフォンレコード(現・徳間ジャパンコミュニケーションズ)
挿入歌
- 「西陽の当たる部屋」
- 作詞:荒木一郎 作曲:平尾昌晃 編曲:竜崎孝路 歌:荒木一郎
※トリオレコードを劇中で使用(第1、2、4、5、16話)。
[編集] 放映リスト
- あんたこの世をどう思う
- あんたこの仕業どう思う
- あんたあの娘をどう思う
- あんたこの親子をどう思う
- あんたこの身代りどう思う
- あんたこの裏切りどう思う
- あんたこの仇討どう思う
- あんたこの五百両どう思う - この回からエンディングの映像が変更。
- あんたこの仕組をどう思う
- あんたこの宿命をどう思う
- あんたこの根性をどう思う
- あんたこの役者どう思う
- あんたこの神隠しどう思う
- あんたこの勝負をどう思う
- あんたこの連れ合いどう思う - 市原悦子が被害者役で再びゲスト出演(1回目は『仕置屋』第25話)。中村敦夫と市原はのちに『東京メグレ警視シリーズ』、『翔べ! 必殺うらごろし』で共演する事になる。
- あんたこの無法をどう思う - 島=美川陽一郎の最後の出演作品。1976年6月2日に逝去。
- あんたこの掠奪をどう思う
- あんたこの手口をどう思う
- あんたこの奥の手をどう思う
- あんたこの志をどう思う
- あんたこの計り事どう思う
- あんたこの迷惑をどう思う
- あんたこの女の性をどう思う
- あんたこの替玉をどう思う - 必殺シリーズ200回目。
- あんたこの毒手をどう思う
- あんたこの心眼をどう思う
- あんたこの逆恨をどう思う
- あんたこの結果をどう思う
[編集] 関連項目
NET系 金曜22時台(当時はABCの制作枠) | ||
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