江戸プロフェッショナル・必殺商売人
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『江戸プロフェッショナル・必殺商売人』(えど - ・ひっさつしょうばいにん)は、必殺シリーズの第12弾として、朝日放送と京都映画撮影所(現・松竹京都映画株式会社)が制作し、1978年2月17日から8月18日にかけてテレビ朝日系列で放映された時代劇。全26回。
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[編集] 作品内容
前作『新・必殺仕置人』最終回で、江戸の一大殺し屋組織「寅の会」が崩壊。念仏の鉄(山崎努)率いる仕置人チームが敵との抗争によって壊滅してから、数ヶ月の月日が流れた江戸の街。粉雪が舞い散るある冬の夜、元・鉄チームのメンバーの一人であった正八(火野正平)が、根津の神社の境内で殺しの現場を目撃した事から物語は始まる。
正八は『新・仕置人』時代の絵草子屋から転業、現在は「足力屋」なる足踏みマッサージ師として郊外の灯台の番人をしながら、同じく元・鉄チームの仕置人であった南町奉行所同心・中村主水とともに、ちっぽけな小遣い稼ぎに明け暮れていた。
そんな中、主水は義母のせん(菅井きん)から、妻のりつ(白木万理)が懐妊(妊娠)した事実を伝えられる。中村家は、これから生まれて来る「子供を中心に」考えてもらうとせんとりつからはっきりと宣言され、殺し屋の自分が自らの子を持つという資格と責任の前に、躊躇と憂鬱さを感じる主水。正八から「寅の会」崩壊後の江戸の街に、再び仕置人が現れた事を告げられた主水は、その仕置人を捕らえ、自らの手柄にしようと考える。
そして、その素性を調べて行くうちにある事件が起こり、裏稼業の意欲を失っていた主水は、頼み人の涙を目の当たりにし、再び復帰を決意する。
だが、突如、主水と正八の前に2人の男女が現れた。その男女こそ正八が目撃した仕置人(商売人)の新次(梅宮辰夫)とおせい(草笛光子)であった。この2人は裏稼業の相棒同士にして、公私ともに良好な関係を保ち続け、夫婦にまでなったが、旅先の京都でのある仕置の依頼で、標的を間違えて殺した事が原因となり、お互いの夫婦関係を解消していた。現在はお互いを大人の関係と位置付け、江戸の根津の花街で日々生活している。そんな中、ある筋から事件を追っていたのだ。
主水と新次は、互いの得物を武器に対決。やがて正八の制止が入り、事件の経緯を知る4人の仕置人。しかし、新次にしてみれば、十手持ちで家庭を持ち、その上、子供を授かった殺し屋の主水はどうも信用できない。最終的に、頼み人の依頼は新次とおせいが請ける事となり、主水は仕事から外れる。新次とおせいの見事な殺しの現場を目撃した主水は、中村家への帰宅途中、2人から「分け前」として小銭を渡された。
ここに「主水・正八」チームと「新次・おせい」チームは、一つのチームとして統合。金を貰って、弱者の晴らせぬ恨みを晴らす「商売人」チームが誕生した。お互いの心情から来る「不信感」を持ち続けながら、同時に殺しのプロフェッショナルとして、仕置に挑む主水・正八・新次・おせいが、許せぬ悪を次々と闇から闇に葬って行く。
[編集] 制作の背景
「必殺シリーズ」第12作、そして「中村主水シリーズ」の第6作となった本作は、前作「新・必殺仕置人」の続編という作品世界を受け継ぎながら、また一味違った世界観を醸し出している。
まず、歴代の主水シリーズには存在しなかった新設定として、これまで子宝に恵まれなかった主水の妻・りつが遂に懐妊する。主水は晴れて「種無しかぼちゃ」の汚名を返上するも、更に家庭内では立場の狭い思いを感じる事となる。
同時に、「生まれて来る我が子の父親になる資格が、自分にはあるのか?」という葛藤を抱えながらも、裏稼業に復帰するという、新しい主水像が描かれた。
本作のキャスティングとしては、まず前作『新仕置人』から火野正平演じる正八が続投。前作同様、バイタリティ溢れる陽気な青年として、商売人の密偵役を務めた。
そして、シリーズ第5作目『必殺必中仕事屋稼業』に登場し、歴代初の女性元締を演じた草笛光子が、第9作『必殺からくり人・血風編』以来、3度目の登場を果たす。本作で演じたおせいは、その名の通り『仕事屋』の嶋屋おせいその人であり、再び登場した事はファンに衝撃を与えた(第13話で、その事実が明らかになる)。
また、シリーズ初登場として東映の劇場用映画『遊星王子』、『不良番長』シリーズ、『仁義なき戦い』シリーズに、それぞれ主演・出演。テレビドラマ『前略おふくろ様』(倉本聡脚本、日本テレビ)にて、寡黙な板前役としてお茶の間の人気を得ていた梅宮辰夫。
同時に、歴代シリーズにゲスト出演の経験もあり、後に第15作『必殺仕事人』にて初登場し、以後「必殺仕事人」シリーズで、明るく陽気で、金にがめついといった仕事人の密偵役・何でも屋の加代を演じた、 鮎川いづみ(現・鮎川いずみ)が登場した。
本作の特徴として、歴代初、2つの殺し屋グループ(「主水・正八」組、「新次・おせい」組)が1つのグループとして統合し、毎回の仕置に挑むという事と、お互いに「不信感」を持ち続けてはいるが、1人のプロの殺し屋として仕置を遂行して行くという描写が上げられる。
歴代の主水シリーズでは、当初はお互い信じられなくとも、数々の修羅場を経て次第に仲間意識が芽生えていく描写が大半を占めたが、本作では最後までほぼ一貫して不信感を持ち続ける主水と新次、そしておせいといった描写が作品世界を彩った(ただ、回を重ねて行く上で「ある程度」の仲間意識が芽生えて行ったのも事実であった)。
そして、歴代の主水グループでは(『仕置人』『新仕置人』を除いて)常に主水がリーダー格として、グループを引っ張っていたが、本作「商売人」グループは、仲間に『仕事屋』の女元締・おせいを配しているためか、さすがの主水もリーダー格では無く、あくまでグループ内は皆、並列関係であった。そのため本作は、明確な元締の存在は確認されないというのも新趣向である。
また本作は、主水と『仕事屋』のおせいが共演している事で、「主水シリーズ」と「非主水シリーズ」の登場人物が、お互い一つの作品に集う、歴代唯一のシリーズとなっている(『助け人走る』第12話と、後の『必殺剣劇人』第8話-最終回では、主水はあくまでゲスト出演扱いであり、後の「恐怖の大仕事 水戸・尾張・紀伊」「仕事人大集合」で、主水は『必殺仕舞人』坂東京山(京マチ子)、『必殺からくり人』仕掛の天平(森田健作)と、それぞれ共演しているが、これはあくまでスペシャルのみの扱いである)。
なお、劇中で「商売人」の呼称は途中から使用され、初期の主水たちはお互いを「仕置人」と呼び合っている。
本作は歴代主水シリーズに登場した「若手青年殺し屋」は一切登場しない。従って作品内は、今までに無いアダルトな渋さが漂う物となり、前作『新仕置人』と比較して、華やかさと躍動感に欠けるという弱点はあるものの、出演者たちの巧みな演技も手伝い、前期と後期の必殺シリーズをほど良く繋ぐ佳作と言えるだろう。
なお、本作の放送途中でシリーズは通算300回を数える事となり、これを記念して第18話「殺られた主水は夢ん中」(脚本・安部徹郎 監督・石原興-シリーズの名カメラマンとして知られる石原の初監督作)が制作された。
ゲスト出演者として、歴代の各作品で悪人を演じ、なおかつ闇の仕事師たちに仕置された今井健二、菅貫太郎、神田隆、江幡高志、弓恵子ら、歴代トップ5の悪役俳優たちが大挙登場し、主水を全員で殺してしまうといった趣向を凝らした作品となっている(ただし、これにはオチがあるのだが…)。
また、本作途中のある事件で、新任の南町奉行暗殺を、同じ裏稼業の外道商売人・京極(演ずるは、『新・仕置人』第41話-最終回で、同心 諸岡役を怪演した清水紘治)から依頼された事で、歴代主水シリーズでは、仲間以外は完全シークレットだった、主水の裏の顔が同業者に知られてしまうという前代未聞の話があり、この話をもって主水シリーズのお約束が破られるという形になった(第22話。『新・仕置人』では、主水は仕置人組織「寅の会」の一員だったが、その正体は「寅の会」の元締・虎(藤村富美男)も、用心棒兼監視役の死神(河原崎建三)も、全く気付いてはいなかった)。
本作のオープニングナレーションは、アイドル歌手で女優の桜田淳子が担当している。いわゆるナレーターを本職とする者や、歴代シリーズ出演者以外でナレーションを担当した者は、第7作『必殺仕業人』の宇崎竜童以来、本作が二人目の起用となった。
劇中の音楽は、第1作『必殺仕掛人』以来担当していた平尾昌晃が、久しぶりに歌手としての活動を優先するため、森田公一が担当することになった(次作『必殺からくり人・富嶽百景殺し旅』でも、劇中の音楽は継続使用された)。
藤田と梅宮は後に『はぐれ刑事純情派』のレギュラーとなり、1997年8月6日のスペシャル版では草笛がゲスト出演し、久々に「必殺商売人」の主役3人が再共演を果たした。
後年藤田はインタビューで、「中村主水というキャラクターが自分の中に確立できたのはいつ頃か」という質問に「必殺商売人の頃だ」と答えていた。
[編集] 殺し技
- 中村主水…太刀・脇差で悪人を斬る、刺す。
- 本作では歴代の各作品を超える、最も躍動した剣技を発揮した。
- 第1話の新次との対決時には、二刀流を披露。
- 悪人が仲間を盾にしている時でも、全く臆せず相手を斬り捨てたり(第13話)、「目には目を 歯には歯を」の言葉通りに、相手を斬り付けた後、その首を刎ねるといった豪快な殺陣を見せたりもした(第9話)。
- また、ある事件で罠に掛けた悪人を「てめえみてぇな薄汚ねぇ野郎は、切り刻んでやるんだ!!」と言い、4回も斬り、とどめに1回突き刺し川へ落とした。(第21話、悪人役は高峰圭二)
- これは、歴代主水シリーズ中、一人に対して行った殺陣としては最多である。
- 新次…表稼業(髪結い兼箱屋(芸者の三味線を管理する仕事))に使う櫛で、悪人の額や首筋を刺す。
- 初期は櫛の歯の一部を指で折り取り、残った歯で突き刺し、刺した歯を相手に残す形で殺していた(第1、2、4話)が、第3話では尖った柄の方から刺して殺していた。
- 以後、第5話より柄で刺す形態に定着した。
- また、補助武器として赤い帯(第12、21、23話)や、元結に使用する糸(第14話)で、首を絞めながら櫛で刺す時もある。
- おせい…主に半月形の刃を仕込んだ舞扇を使用し、悪人の首筋を斬る。
- 他にも朱塗りの長い短剣(第8、12、15、20、24、26話)、
- 仕込み柄杓(第11話-『仕事屋』第11話で用いた物と同様)、
- 主水から借りた脇差(第13話)、氷室内の氷柱(第15話)、
- 仕込み扇子(第23話-中央が割れて、首を挟みながら斬る)なども使用した。
[編集] キャスト
- 中村主水 … 藤田まこと
- 新次 … 梅宮辰夫
- 正八 … 火野正平
- 秀英尼 … 鮎川いづみ(現・いずみ)
- 花竜 … 八木孝子(第1~14、17、18、20、24、25話)
- 蝶々 … 森みつる(同上)
- 与力坂口 … 有川博(第1、3、8~10、15、17、21話)
- お梶 … 小柳圭子(第1~4、7~9、11、14、18、21話)
- せん … 菅井きん
- りつ … 白木万理
- おせい … 草笛光子
- ナレーション
[編集] 主題歌
※次作「必殺からくり人・富嶽百景殺し旅」でも使用された(歌詞は1番。本作は2番を使用)。
[編集] 放映リスト
- 女房妊娠! 主水慌てる
- 誘拐されて女よろこぶ
- むかし夫婦いま他人 ※のちの勇次役の中条きよしが悪役ゲストで必殺シリーズ初登場。しかも二人が別れるきっかけとなった京都での殺しでの、本来の標的役であった。
- お上が認めた商売人
- 空桶で唄う女の怨みうた
- 手折られ花は怨み花
- うそか真実かまことが嘘か
- 夢売ります手折れ花
- 非行の黒い館は蟻地獄 ※この話から山口放送が同時ネットを開始(テレビ山口からのネット移行。最初は第1話と3話が放送された)。
- 不況に新商売の倒産屋
- 女体が舞台の弁天小僧
- 裏口を憎む男にない明日
- 裏の稼業にまた裏稼業
- 忠義を売って得を取れ!
- 証人に迫る脅しの証言無用
- 殺して怯えた三人の女
- 仕掛けの罠に仕掛けする
- 殺られた主水は夢ん中 ※この話で通算300回を迎えた。
- 親にないしょの片道切符
- 花嫁に迫る舅の横恋慕
- 暴走を操る悪の大暴走
- 殺した奴をまた殺す
- 他人の不幸で荒稼ぎ
- 罠にはまって泣く主水
- 毒を食わせて店食う女
- 毒牙に噛まれた商売人
[編集] 関連項目
テレビ朝日系 金曜22時台(当時はABCの制作枠) | ||
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