必殺渡し人
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『必殺渡し人』(ひっさつわたしにん)は、必殺シリーズの第20弾として、朝日放送と京都映画撮影所(現・松竹京都映画株式会社)が制作し、1983年7月8日から10月14日にかけてテレビ朝日系列で放映された時代劇。全13回。
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[編集] 作品内容
舞台は、江戸のとある下町の長屋。その長屋に住む、鏡研ぎ職人の惣太(中村雅俊)は、 ある日の夜、渡世人が、女性に襲い掛かる所を目撃する。しかし、女性は一瞬の早業で、渡世人を倒してしまう。
一夜明け、一人の若い女性が、長屋にある診療所を尋ね、堕胎手術を願い出る。この若い女性の名は、お沢(西崎みどり)。彼女は、さる大目付の屋敷に奉公する女中であったが、大目付の息子に襲われ、犯された挙句、お腹の中に、子供を宿してしまったのである。
あくまでも堕ろしたいと懇願するお沢の姿を見かねた、長屋の住人の一人の人足の大吉(渡辺篤史)は、独り身という事もあり、自らが面倒を見ると申し出る。息子の決意を聞いた大吉の母親も喜び、手放しでお沢を歓迎する。だが、息子の醜聞を恐れた大目付とその妻は、配下に手を回し、奉公先を無断で抜け出した罪でお沢を捕縛し、事を闇に葬らんと企てる。
暴行を受け、瀕死の重傷となったお沢。そして、その巻き添えの末に死亡した大吉の母親。お沢のお腹の子は流産し、大吉の母親は診療所で絶命した。重傷のお沢と、自分の母親が死んだ事に逆上した大吉は、怒りに燃え、二人の敵討ちを決意する。惣太は、逆上した大吉を帰らせ、ある女性に協力を要請する。この女性こそ、惣太が目撃した、渡世人を一撃で闇に葬り去った、凄腕の闇の渡し人・鳴滝忍(高峰三枝子)だった。
忍は蘭方の女医であり、普段は長屋の一角にある診療所を営んでいるが、裏の顔は右手の薬指にはめた、鋭利な刃の付いた水晶の指輪で、悪人の首筋を瞬時に切り裂く技を使う事から、闇の世界では「鎌イタチの忍」と呼ばれる渡し人であった。また、惣太も、闇の世界では「鏡」と呼ばれる、凄腕の渡し人という裏の顔を持つが、愛する妻のお直(藤山直美)のため、足を洗っていたのだ。そんな忍と惣太の話のやりとりを陰から耳にし、仲間入りを志願する大吉。
結局忍は大吉の母親から、お沢の薬代にと預かっていた金を仕置料にして、大目付の屋敷を急襲。惣太・大吉・忍の三人は、大目付一派を仕置した。ここに新たなる「渡し人」チームが誕生した。
惣太、大吉、忍の三人が、今日も頼み銭を貰って、弱者の晴らせぬ恨みを晴らす「渡し人」として、悪人たちを三途の川に渡して行く。
[編集] 制作の背景
「必殺シリーズ」第20作の本作は、第11作『新・必殺からくり人・東海道五十三次殺し旅』以降、各殺し屋チームが旅先で仕事を請け負う、いわゆる「旅物」が続いた「非主水シリーズ」において、久々の江戸が舞台となっている。
これは、第9作『必殺からくり人・血風編』以来、7年振りの事である。
この時期の「主水シリーズ」=「必殺仕事人シリーズ」において、次第に多人数化の一途を辿るのとは違い、本作では久々の少人数制を導入。後期「必殺シリーズ」では、日常生活感のある設定作りを目指した、稀有な作品となっている。
本作のキャスティングは、まずシリーズ初出演として、主役の惣太役に、かつての学園青春ドラマからデビューし、一躍スターの仲間入りを果たしながらも、次第に演技派として成長を遂げていた中村雅俊を起用。必殺と同じ松竹製作の時代劇映画「次郎長青春篇・つっぱり清水港」に続いて二本目の時代劇出演となった。一般的に見れば、殺し屋役として、中村は似合わないといった感を第一印象として抱きがちであるが、「必殺シリーズ」のメインコンセプトである「一見すると殺し屋(役)は似合わない、ホームドラマに出演する俳優を起用」する考えに則れば、本作の中村の起用は正解であり、お茶の間に好印象を持って迎える事の出来る中村を主役にする事で、悪印象を作品に与えないのである。
次に第6作『必殺仕置屋稼業』・第7作『必殺仕業人』に、主水グループの密偵役・捨三として連続出演し、『仕業人』以来、7年振りのシリーズ復帰を果たした渡辺篤史が、本作では密偵から殺し屋へ堂々の昇格。寡黙で、一本気な性格の大吉役を好演した。
そして、第2話で大吉の妻となるお沢には、第16作『必殺仕舞人』でシリーズ初登場し、以来本作で3作連続出演を果たした(以降、第22作『必殺仕切人』~第24作『必殺橋掛人』まで続く)西崎みどりが演じた。お沢は第1話の時点で、暴行から来るショックで自らの記憶を失っていたが、ある事件をきっかけに、記憶を取り戻す。しかし、同時に、夫である大吉と、忍、惣太たちの殺しの現場を目撃する(第3話)。それでも自らを愛する大吉を信じ、渡し人の仲間に加入する事になる。
他にも、惣太の愛する浪速(大坂-現在の大阪)出身の妻・お直に、故・藤山寛美の娘、藤山直美。特撮ヒーロードラマ『仮面ライダースーパー1』で、主役を演じていた高杉俊价。第5作『必殺必中仕事屋稼業』で、オカマの目明し・源五郎役を好演、『仕事屋』以来、8年振りのレギュラー出演を果たした大塚吾郎。そして、渡し人の元締・鳴滝忍役には、歴代シリーズで、女元締を演じた草笛光子、山田五十鈴、京マチ子に続く、4人目の登場となる高峰三枝子を起用。
作品内容としては、この時期のシリーズに漏れず、情を重んずるストーリーが展開し、惣太・お直夫婦と大吉・お沢夫婦という二組の夫婦愛が中心となっている。歴代の各作品に良く見られる「金銭目当て」による悪人は極めて少なく、 皆、楽しむために悪事を行う事と、「手篭め」「夫婦交換(スワッピング)」「SM趣味」といった、 色事に纏わる事件が各話を彩り、性描写も手伝い、印象深い悪事が行われる事が、特徴的である。
この様に、本作は、歴代シリーズに無い特殊な作品世界と相成って、同時に、初期~中期シリーズのティストがうまく加味され、後期「必殺シリーズ」=「非主水シリーズ」の中でも、その堅実な作りが好評を得た作品といえる。
なお、番組タイトルの「渡し人」は、当時、細川たかしの歌唱で大ヒットした「矢切の渡し」から付けられた。
また、本作の音楽は平尾昌晃の名義になっているが、平尾が新たに作曲したのは主題歌のみ。劇中曲は旧作からの流用が中心で、新曲は中村啓二郎が手掛けている(クレジット無し)。
[編集] 殺し技
- 惣太…表稼業に使う、手製の手鏡の柄に仕込んだ針で、悪人の首筋を刺す。
- その際、「どうだね、(鏡の)写り具合は? あんたの死に顔のさ」と言い(第2話より使用。以降、第3、9、10、12、13話-最終回にも使用)、相手の目前に、鏡をかざし、絶命の瞬間の自分の顔を見せ付け、精神的苦痛を与えながら、死なせるのが特徴である。
- 大吉…素手で、悪人の腸を掴み、強い握力をもって、捻り切る。
- シリーズ第10作『新・必殺仕置人』の念仏の鉄(山崎努)以来のレントゲン映像を使用。本作にて久々の復活を果たした。また第5話以降レントゲン映像に、新たに悪人の「痛い痛い痛い!」の声が追加された。場合よっては「痛て痛て痛て!」の場合もある。
- 掴む直前に腸を一本ずつ弾き、その際にピチカートのような効果音が出るのも大きな特徴である。
- 悪人を二人同時に、腸を捻り切る荒技を使用した事もある(第2、6話)。
- 鳴滝忍…右薬指にはめている、鋭利な刃の付いた水晶の指輪で、悪人の首筋(頚動脈)を瞬時に斬り裂く。
- なお、殺しに出掛ける前に必ず淋浴をして、身を清めた後、出陣する。
- これは当時、国鉄(現・JR)のテレビCM「フルムーン」(熟年夫婦対象の旅行割引キャンペーンの事)で、高峰本人が、上原謙と共演した事を狙った演出である。
- 第13話-最終回のみ、真の標的を誘い出すため、通常とは違い、左薬指に指輪を付け替えて、悪人の首筋を斬り裂いている。
[編集] キャスト
[編集] 主題歌
- 「瞬間(ひととき)の愛」
- 作詞:三浦徳子 作曲:平尾昌晃 編曲:川村栄二 歌:中村雅俊
- 発売:コロムビアレコード(現・コロムビアミュージックエンタテインメント)
[編集] 放映リスト
- 涼みの夜に渡します
- 秘密の宴で渡します
- 大元締の前で渡します
- 花火の夜に渡します
- 矢切の渡しで渡します
- 精霊流しに渡します
- お化け屋敷で渡します
- 祭り囃子で渡します
- 無縁墓地で渡します
- 湯女風呂で渡します
- 浮世絵の舞台で渡します - 新潟総合テレビでの必殺シリーズの最後の放送。
- 二人がかりで渡します - 新潟テレビ21での必殺シリーズの最初の放送(新潟総合テレビからのネット移行)。
- 秋雨の中で渡します
[編集] 関連項目
テレビ朝日系 金曜22時台(当時はABCの制作枠) | ||
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