暗闇仕留人
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暗闇仕留人(くらやみしとめにん)は、必殺シリーズの第4作目として、朝日放送と京都映画撮影所(現・松竹京都映画株式会社)の制作で、1974年6月29日から12月28日にかけてTBSテレビ系列(当時)で放送された時代劇。全27話。
注意 : 以降に、作品の結末など核心部分が記述されています。
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[編集] 作品紹介
中村主水は「必殺仕置人」最終回で仲間と別れたものの、その黄金時代を忘れられず、たまたま知り合った村雨の大吉、糸井貢と一度限りのつもりで、仕置を行う。しかし、この三人が、実は中村家先代の3人の娘の夫であり、愛人であった(つまり義兄弟)という偶然から、仕置人時代の仲間であった鉄砲玉のおきん、おひろめの半次を加え、再びチームを組む。
中村主水出演の前作「仕置人」では、悪に対する怒りと容赦ない報復が描かれていたが、今作ではオイルショックという放送当時の世情を、黒船来航で混乱する幕末(嘉永6年-1853年)に設定。その作品内容も、悪人を始末しながらも、インテリであるがゆえに、人殺しの無意味さに悩む貢と、悪人を始末することに何の躊躇もない、単純明快な大吉の間で、主水が揺れ動く様が描かれることになる。大吉も基本的には優しい男で、溺死者を自分の手で蘇生させた時には、狂喜していた。ただ、その救った相手は、実は悪人であり、後で大吉自身により始末される。この様に、仕置行為が、何処か矛盾や虚しさを抱えている様に描かれるエピソードが少なくない。
この二律背反は、主水たちに巻き込まれる形になった貢の妻・あやの死、そして最終回での貢の死により決着が付く。最終回にて貢が主水に向けて放った「俺たちは一体何をしてきたんだ?少しでも世の中良くなったか?・・・俺たちに殺された奴らにだって妻や子がいたかも知れないし、好きな人がいたかも知れないんだ。」という問いかけに主水は答えることができない。そして自分の教え子の父親である開国派の大物を殺す事を躊躇し、「わしを殺せば日本の夜明けが遠のくぞ!」という叫びにひるんだ貢は、返り討ちに合ってしまう。人の命、正義、そして日本の未来。あらゆるものに真摯過ぎたがゆえの悲しい最期だった。貢の死を目の当たりにした主水は、シリーズ6作目「必殺仕置屋稼業」まで裏稼業から足を洗う事となる。
今作も「助け人走る」同様「必殺」をタイトルから外しているが、助け人とは違い、最初からコンセプト的には初期二作に近かった。
中村家次女である妙心尼が、愛人の大吉を一応拒絶(実は誘惑)して言う台詞「なりませぬ」は、当時流行語にまでなった。
なお本作で初めて、せんの主水に対して罵る言葉「種無しかぼちゃ」が登場した。一方、辛くも危機を脱して数日振りに帰宅した主水が、心配して待ち続けていたせんやりつに泣き付かれ、自身も号泣するなど、中村家の関係が暖かく描かれる場面も存在する(貢が中盤で愛妻を失うので、彼の孤独を強調する演出意図も有ったと思われる)。
西崎みどりの歌う主題歌「旅愁」は20万枚の大ヒットを記録した。
[編集] 制作の背景
シリーズ2作目「必殺仕置人」放送中に起きた「必殺仕置人殺人事件」による世間の糾弾から、自粛的な内容に軌道修正された前作「助け人走る」を経て、制作された本作は、その仕置人の作品世界をほぼそのままに継承している。
当初、シリーズ第4作目は、「必殺シリーズ」のチーフプロデューサーを務めた朝日放送の山内久司(当時、現・常任顧問)が、制作を担当した時代劇「おしどり右京捕物車」(中村敦夫・ジュディ・オング主演)を予定していたが、諸般の事情により、木曜夜21時枠(当時、制作局の朝日放送の担当枠だった)に、場所を移して放送される事となった。
そこで、「必殺仕置人」の人気キャラクターの一人である中村主水を「このまま眠らせるのは惜しい」と、山内は考え、 シリーズ第4作目に、再び主水を復活させる事に決定した。
他のキャスティングとしては、主役の糸井貢役に、当時のキー局であったTBSの人気ホームドラマ「ありがとう」シリーズに出演し、爽やかな好青年役を演じた石坂浩二を起用。その石坂に、殺し屋役という正反対のキャラクターを演じさせるといった意外性が、視聴者の目を引いた一方、幕末の混乱期に生き、価値観を持てずに悩み続けるインテリ蘭学者の役という事もあり、「殺し屋としては、ひ弱すぎて面白くない」と非難し、敬遠する視聴者が多かった事も事実であった。
次に、シリーズ恒例と化した坊主頭の殺し屋・大吉役には、当時の人気刑事ドラマ「太陽にほえろ!」(日本テレビ)で、通称・山さんこと山村精一役を演じた露口茂が当初予定されていた。しかし、露口に断られ、その後、決定したのが、同じく「太陽にほえろ!」で、ゴリさんこと石塚誠役を演じた竜雷太であった。一旦は出演を了承し、当時の一部の新聞やテレビ情報誌に掲載された広告や記事には、竜雷太出演と表記されながら、後に大吉が坊主頭である事を知った竜は、ゴリさん役に支障を来たしてしまうという事で、撮影を前に降板してしまった。最終的に大吉役は、近藤洋介に決定した。そして、「必殺シリーズ」初期の3作品(「必殺仕掛人」、「必殺仕置人」、「助け人走る」)全てに出演した津坂匡章(現・秋野太作)と野川由美子が、本作も連続登板し、脇を固めながら作品を盛り上げた。しかし、津坂と野川はこの作品を最後に「必殺シリーズ」からは「卒業」する。
この頃から「「必殺シリーズ」は面白い」といった声が、世間のあちこちから聞こえる様になり、それまで一部のファン層に受けた作品から、一般向けの娯楽作に変化して来たのが、本作といえよう。
なお、当初の作品タイトルは「暗闇始末人」と予定されており、前述同様、一部の新聞・雑誌媒体に掲載された広告や記事の中には、「始末人」と発表されている物も多数存在しており、脚本も、第2話の表紙には「始末人」と書かれていた。そこに「暗闇始末人」以前、「始末人」(漫画「始末人」シリーズ)を既に使用していた漫画家・明智抄から、朝日放送に抗議が届いたため、「暗闇仕留人」に変更したという経緯があるという噂もあった。 しかし実際には、明智のデビューは1980年であり、本作の制作時点では、未だ「始末人」シリーズは発表されていない。
[編集] 殺し技
- 糸井貢…刃を仕込んだ二枚重ねの三味線の撥で、悪人の喉を斬る。
- 第18話より、太い針を仕込んだ矢立(携帯用の毛筆用の、硯を兼ねた一種の筆箱)を使用し、悪人の首筋を突き刺す。
- 大吉…素手で悪人の胸部を圧迫、心臓を握り潰し、鼓動を停止させる。
- 「必殺仕置人」の念仏の鉄同様、レントゲン映像を使用し、悪人絶命の瞬間に、心臓停止に至るまでの心電図まで披露した。
- また、この技は心臓マッサージによって、死人の蘇生も可能であり、劇中にて実際に披露された。
- 中村主水…太刀と脇差で、悪人を斬る・刺す。
- 「必殺仕置人」から一転、本作より毎回、自ら殺しに参加する様になった。
[編集] キャスト
- 糸井貢 … 石坂浩二
- 村雨の大吉 … 近藤洋介
- おきん … 野川由美子
- おみつ … 佐野厚子(現・佐野アツ子 第1~15話)
- 妙心尼 … 三島ゆり子
- 糸井あや … 木村夏江(第1~17話)
- 同心・田口 … 古川ロック
- おまさ … 鳴尾よね子
- 半次 … 津坂匡章(現・秋野太作、第1~15話)
- 中村せん … 菅井きん
- 中村りつ … 白木万理
- 中村主水 … 藤田まこと
- ナレーション
- 語り … 芥川隆行
- 作 … 池田雅延
- 池田は『おしどり右京捕物車』のナレーションも手がけた。
[編集] 主題歌
- 「旅愁」
- 作詞:片桐和子 作曲:平尾昌晃 編曲:竜崎孝路 歌:西崎みどり
- 発売:ミノルフォンレコード(現・徳間ジャパンコミュニケーションズ)
[編集] 放映リスト
- 集まりて候
- 試して候
- 売られて候
- 仕留て候
- 追われて候 - 必殺シリーズ100回目。
- 狙われて候
- 喰うて候
- 儲けて候
- 懸想して候
- 地獄にて候
- 惚れて候 - 池波志乃と新克利が被害者役でゲスト出演。特に新はこれが『必殺仕置屋稼業』の起用につながった。
- 大物にて候
- 自滅して候 - 山本學が悪役、南田洋子が被害者役でゲスト出演。
- 切なくて候
- 過去ありて候 - おきんの仲間のおみつが殺害される。また津坂匡章はこれで「必殺」から離れる。
- 間違えて候
- 仕上げて候 - 糸井貢の妻・あやが殺害される。
- 世のためにて候
- 乗せられて候
- 一途にて候
- 仏に替わりて候
- 怖れて候- 山谷初男がゲスト、悪役を怪演。
- 晴らして候
- 嘘つきにて候
- 晒されて候 - 中村玉緒が被害者役でゲスト出演。
- 拐かされて候
- 別れにて候 -主題歌を唄う西崎みどりがゲスト。 野川由美子はこれで「必殺」から離れる。
[編集] 関連項目
TBS系 土曜22時台(当時はABCの制作枠) | ||
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