我が闘争
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『我が闘争』(わがとうそう、Mein Kampf)は、アドルフ・ヒトラーが1923年ミュンヒェン一揆の失敗後、獄中で著作を開始した本。第1巻『Eine Abrechnung』は1925年7月18日に公表された。第2巻『Die nationalsozialistische Bewegung』は1926年に公表された。ヒトラーが選んだオリジナルタイトルは『Viereinhalb Jahre gegen Lüge, Dummheit und Feigheit』(嘘と臆病、愚かさに対する四年半)だったが、ナチス党の出版者はこのタイトルが複雑だということで『Mein Kampf』に決定した。
目次 |
[編集] 概要
ヒトラーは1924年のランズベルク刑務所での収監中エミール・モーリスに、のちにルドルフ・ヘスに対し口述した。ヘスに加えて数人が同書を編集したが、雑な著述と反復が多く読解するのが困難であったとされる。この本の中で自分の生い立ちを振り返りつつ、戦争や教育などさまざまな分野を論じ自らの政策を提言している。特に顕著なのは猛烈な反ユダヤ主義で、エスペラント語はユダヤ人の陰謀であるといった主張、また生活圏(Lebensraum)獲得のための東方進出などが表された。群衆心理についての考察とプロパガンダのノウハウも記されている。自叙伝は他の自叙伝同様誇張と歪曲がなされたものであるが、全体としてヒトラー自身の幼年期と反ユダヤおよび軍国主義的になったウィーン時代が詳細に記述されている。
ヒトラーの権力上昇と共に本はゆっくりと売れた。ナチス党は同書が既に大量に売れたと宣伝したが、戦後の調査ではそれが誤りだと証明された。幾人かの歴史家は同書がヒトラーがヨーロッパの平和を脅かすこととホロコーストの実行を警告していたと推測した。英訳版は第二次大戦前に出版されたが反ユダヤ主義と軍国主義的主張のいくつかが削除された。日本語版に於いても、原書に掲載されたヒトラーの人種観、特にアジア人に対する蔑視的表現が削除の上出版された。
ヒトラー政権下では本は巨大な人気を獲得し、事実上ナチのバイブルとなった。結婚している夫婦の全てが一冊の購入を要求され、同書の販売はヒトラーに何百万かの収入をもたらした。しかし購入者の大半が全てを読んだわけではなく、ヒトラーに対する忠誠、ナチス党内での地位、ゲシュタポの追及をかわすために購入した。戦争の終了まで約1,000万部がドイツ国内で出版された。
現在英語版およびオランダ語版以外の全ての『我が闘争』の著作権はバイエルン州が所有している。著作権は2015年12月31日に終了する。バイエルン州政府はドイツ連邦政府とドイツ国内で本の複写あるいは印刷を不許可とすることで合意している。
1999年にサイモン・ヴィーゼンタールセンターはamazon.comやbarnesandnoble.comの様な大手インターネット書店が『我が闘争』を販売していることを報道した。公の抗議の後両社は同書の販売停止に合意した。その後、2006年現在、amazon.com、barnesandnoble.comともにでは英訳版我が闘争を購入する事が出来るようになったがamazon.comではナチス・ドイツおよびヒトラーの研究のために販売しているのでamazon.comとしては購入を推奨していない旨の注釈が大きく表示される。
日本では、今日でも訳書が刊行されており誰でも入手することができるが、現在のところナチスを弁護する議論が法規制されているドイツでは出版が禁止されており、一般人は見ることが出来ない(古本か外国版を入手するしかない)。この法律については言論の自由に反するという批判は立場を問わずある。またヒトラーの自殺後、彼の残した文書の中からその続編が見つかったという。これも、「ヒットラー第二の書」、「続・我が闘争」と銘打たれて翻訳、刊行されている。
『我が闘争』は反イスラエル闘争を行うアラブのバース党活動家にとって影響あるテキストとなっている。『我が闘争』アラビア語版はレバノンの Bisan publishers によって刊行された。同書はパレスチナのアラビア人の間でベスト・セラーの上位に位置している。
[編集] 執筆後のヒトラーの本書に対する見解
当時のドイツ国民にとって必読のバイブルとなっていた『我が闘争』だったが、ヒトラー自身は「政権をとることになるならあの本は出版しなかった。」と語ったと言われ、この本からヒトラーのイデオロギーの全てを推し量る事は不可能だとされている。かつての側近達も同じ見解で、アルベルト・シュペーアは、その回顧録で、ヒトラー自身が「我が闘争は古い本だ。私はあんな昔から多くのことを決め付けすぎていた。」と語っていたのを聞いたと著しており、ヘルマン・ゲーリングも、「総統は彼の理論、戦術等において変幻自在だった。その為、あの本から総統の目的を推測する事は不可能だ。総統は臨機応変に己の意見や見解を変えていた。あの本は総統の哲学思想の基本的な骨組みが著されているのだろう。」と語っている。
[編集] 関連書籍
- 平野一郎、将積茂訳 『わが闘争 改版』(上)(下) 角川文庫 2001年
- 平野一郎訳 『続・わが闘争 ― 生存圏と領土問題』 角川文庫 2004年