有機農業
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有機農業(ゆうきのうぎょう)とは、自然環境や生態系と調和した形で実践されることを目ざした農業の一形態。有機農法,有機栽培,オーガニック農法などとも呼ばれる。
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[編集] 概説
20世紀の農業は、化学肥料や農薬など、人工的に合成された化学物質を様々な目的で使用することを進めることで、その生産力を大きく拡大させた。しかし、その一方で農薬は薬害や公害を生むことが明らかになり、また、それが本来の生態系を攪乱させることで、新たな害虫の発生や天敵による害虫抑止力の喪失などの弊害を招くことも明らかとなった。また、化学肥料についても、直接的な効果は絶大であるが、土質の悪化や土壌の生態系の破壊をもたらし、長期的にはその土地の生産力の低下や土壌の流出の原因になるとも言われるようになった。
そのような反省から、上記のような化学物質の利用をやめ、旧来のような天然の有機物による肥料などを用いるなど、自然のしくみに逆らわない農業を目ざす方法として提唱されたのが有機農業である。
有機というアプローチは共通の到達点と実践を共有しているが、有機農業の手法は様々である。 合成化学肥料を使用しないことに加え、土壌を浸食や貧栄養化、物理的な崩壊から保護することや、生物多様性の保全(例えば、一品種を栽培するのではなく、多品種を栽培するなど)、家畜類を屋外で飼育すること(平飼い)が含まれる。これらの枠組みの中で、個々の農業者はそれぞれ自分自身の有機生産システムを発展させる。そういった個々の有機農業のあり方は気候や市況、地域的な農業の基準によって規定されている。
[編集] 内容
有機農業者は、土壌の生産性と耕地を維持し、植物へ栄養分を供給し、雑草・害虫・病気などを抑えるために、できる限り、輪作したり、作物の残余物・動物性肥料を利用したりしている。
特定非営利活動法人・日本有機農業研究会は、「有機農業の目指すもの」として、下記の項目を挙げている。
- 安全で質のよい食べ物の生産
- 環境を守る
- 自然との共生
- 地域自給と循環
- 地力の維持培養
- 生物の多様性を守る
- 健全な飼養環境の保障
- 人権と公正な労働の保障
- 生産者と消費者の提携
- 農の価値を広め、生命尊重の社会を築く
また、同会は「有機農産物の定義」として、「有機農産物とは、生産から消費までの過程を通じて化学肥料・農薬等の合成化学物質や生物薬剤、放射性物質、(遺伝子組換え種子及び生産物等)をまったく使用せず、その地域の資源をできるだけ活用し、自然が本来有する生産力を尊重した方法で生産されたものをいう」と定めている。
(注意)上記の内容はあくまで日本有機農業研究会が定めた独自の定義であり、国の認証を受けたものではありません。また、こうした定義は各種団体・グループ等で異なります。
2000年1月に農林水産省は「有機農産物の日本農林規格」を発表し、公的に有機農業による産物たる基準を示した。ただしこの基準には批判意見もある。
[編集] 国際的な動き
なお国際有機農業運動連盟(IFOAM,アイフォーム,International Federation of Organic Agriculture Movements)による「有機農業の原則」は,予防的管理,伝統的知識,社会的・生態学的公正など幅広い内容を含んでいる。 また、同連盟によると、有機農業の役割は、生産・加工・流通・消費のいずれにおいても、生態系および、土中の最も小さい生物から人間に至る有機体の、健全性を持続し強化することである。 しかし、アメリカ合衆国農務省(USDA)等による有機農業の基準は、遺伝子組み換え品を禁じているわけではない。 多くの国では、特例を除いて家畜への投薬を禁じている。
有機農業はまた、フェアトレードや環境管理(environmental stewardship)といった文化的実践の上にある原理への賛同とも関係がある。(これは全ての有機農場・有機農業者に当てはまるわけではない。)
アメリカ合衆国、ブルガリア、アイスランド、ノルウェイ、ルーマニア、スイス、トルコ、オーストラリア、インド、日本、フィリピン、韓国、台湾、タイ、アルゼンチン、コスタリカ、チュニジア、そしてEUなど、多くの国々・地域では、有機農業は法律によっても定義されているので、農業や食品製造における「有機」という単語の商用利用は、政府によって統制されている。 法律が存在する場合、有機であるという認定は有料で行われる。従って、無認可の農場にとって、自分自身あるいは自分の生産物を有機であると称することは違法ということになる。 しかし、例えばカナダにおいては、法律は整備されていないが、任意の認定が可能である。