灰田勝彦
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灰田 勝彦（はいだ かつひこ、本名（正しくは幼名）：灰田稔勝 はいだとしかつ1911年8月20日 - 1982年10月26日）は日本の歌手。ハワイアンと流行歌で太平洋戦争前後に一世を風靡した人気歌手。映画俳優。
[編集] 生涯
医師である父親が、明治時代の移民政策で広島からハワイに渡る。灰田勝彦は明治44年8月20日、米国ハワイホノルルで生まれた。このとき本名は稔勝だが、終戦直後に芸名の勝彦を本名に改名した。博愛家として現地の邦人に慕われた父親は、過労がたたり勝彦の小学校時代に急逝。母親、兄灰田晴彦とともに帰国するが、ハワイとの環境があまりにも違う日本の生活に幼年の勝彦が馴染めないであろうとの判断から、ハワイに戻ることを決意。荷物をまとめ、乗船の切符も全て用意した矢先に、乗船するはずであった横浜市で、関東大震災に見舞われる。震災の混乱から、一切の荷物を盗難され、灰田一家は日本滞在を余儀なくされた。
灰田兄弟は、父親の遺志を継ぐべく、独協中学に進学し、医師への道を志すが、勝彦はサッカーに熱中、成績が芳しくなかったことから、医学部への進学はあきらめ、兄と同じく立教大学に進学する。今度は野球に熱中する一方で、在学中に、晴彦が主宰したハワイアン・バンド「モアナ・グリークラブ」のボーカルとして活躍。日本に初めてスチールギターの音色を伝えたバンドの人気は上昇し、早くも昭和9年には緑川五郎の名前を使いテイチクでアルバイト吹き込み。また昭和10年には、藤田稔の名前でポリドールにも「追分がらす」など数曲をレコーディングしている。
立教大学卒業後の昭和11年、日本ビクターと正式に専属契約を結び、「ハワイのセレナーデ」でデビューした。早くも昭和12年には、「雨の酒場」「真赤な封筒」などがヒットとなるが、その矢先の昭和13年に応召され、中国戦線に赴くこととなる。戦地で黄疸を患い、現地の野戦病院で静養をしていたが、昭和14年に応召を解除され、同年暮れから歌手に復帰した。灰田勝彦は、歌手デビューとほぼ同時期の昭和12年に、後に東宝系となるJOスタジオと俳優としても専属契約をしており、「たそがれの湖」でスクリーンにデビューしていた。灰田の復帰作として、学生時代から好きだった野球を全面的に取り入れて、当時の人気アイドル的存在であった高峰秀子と共演した南旺映画「秀子の応援団長」は、主題歌の「燦めく星座」と共に大ヒット。灰田の甘い歌声は、横浜から火がつき、全国的な人気を博すのである。続いて出演した東宝映画「燃ゆる大空」では、飛行兵を好演。不時着して重症を負いながら、「故郷の空」を歌うシーンは、若い女性の紅涙を絞り、映画俳優としての人気をも確立していった。
レコードにおいては、「燦めく星座」の爆発的なヒットに続いて、「こりゃさの音頭」「お玉杓子は蛙の子」「森の小径」とヒットを連打。日米開戦後は、昭和17年「マニラの街角で」「ジャワのマンゴ売り」「新雪」「鈴懸の径」と戦時中にもかかららず、絶大な人気を得ることとなる。人気の上昇につれて、灰田の甘く切ない歌声は、「感傷的で好ましくない」と徐々に、内務省をはじめとする当局から睨まれ、ヒット曲「燦めく星座」は「軍隊の象徴である星を、愛の星の色とは何事か！改訂版を出さなければ、ビクターにシェラック（レコードの原料）を提供しない。」と難癖をつけられ、止む無く昭和18年に改訂版を「ジャワの夕月」のカップリングで発売するという事態になる。しかしながら、灰田の人気は衰えず、「バタビアの夜は更けて」「加藤隼戦闘隊」「ラバウル海軍航空隊」とレコードのヒットは続き、スクリーンにおいても東宝映画「ハナ子さん」「誓いの合唱」など、終戦まで精力的に活躍を続けた。
昭和20年の敗戦後の灰田の人気はさらに上昇、リバイバルヒット「新雪」「燦めく星座」をはじめ、「紫のタンゴ」「東京の屋根の下」とレコードは大ヒットが続く。昭和21年、高峰秀子と日劇で公演した「ハワイの花」は、連日超満員の観客動員を果たし、まさに灰田勝彦の絶頂期を迎えるのであった。戦争のため、関係を引き裂かれていた地元ハワイのフローレンス君子と昭和23年に結婚。スクリーンでは、東宝映画「歌え太陽」をスタートとして、「花くらべ狸御殿」「銀座カンカン娘」「ターキー銀座を歩く」など、主にミュージカル的な歌謡映画に数多く出演している。灰田勝彦が「立教出身者で固めよう」と企画した映画「歌う野球小僧」は、上原謙、笠置シズ子らの共演により成功し、主題歌「野球小僧」は灰田勝彦のテーマソングとなった。昭和20年代後半に入っても、「アルプスの牧場」「水色のスーツケース」「新橋駅でさようなら」とヒットが続く。この頃、野球選手の別所毅彦、大相撲の東富士、俳優の鶴田浩二らと義兄弟の契りを交わし映画「四人の誓い」に出演して話題となる。民間放送が設立されると、放送におけるコマーシャルソングが盛んに作られたが、その第一号である小西六フィルム（現コニカミノルタ）の「僕はアマチュアカメラマン」を歌ったのも灰田勝彦であった。
昭和30年代に入ると徐々に人気は衰えてくるが、ラジオ・テレビに活躍は続き、作曲なども手掛けるようになった。昭和40年代のなつメロブームでは、欠かせない存在として活躍。「僕は野球の合間に歌ってるみたいなもんだから・・・」という灰田の野球狂は有名で、立教の後輩・長嶋茂雄やホームラン王・王貞治といったスター選手とも親交を持っていた。また父親が広島出身のため1966年、杉村春子、梶山季之ら広島出身者が結成した「広島カープを優勝させる会」にも参加した。別所毅彦が「ハワイの江戸っ子」と評した灰田勝彦は、まさに「喧嘩っ早くて、お人好し」、酒を飲んで仲間と麻雀をすることを楽しみにしていたが、昭和57年10月26日、肝臓ガンのため、71歳でこの世を去った。死の一週間後には、母校・立教大学に「鈴懸の径」の歌碑が建立され、その除幕式が開催される予定であった。灰田に代わり、母校の先輩・ディック・ミネが兄・灰田晴彦や君子未亡人らとともに、「鈴懸の径」の除幕式が行われ、灰田勝彦の死を悼んだ。
