風評被害
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風評被害(ふうひょうひがい)とは、災害、事故、不適切あるいは虚偽の報道などが生じた際に、生産物やサービスの質の低下を懸念して消費が減退することにより、それらとは関係のない業者が経済的損害を受けること。
情報化社会の進展に伴い、種々雑多な情報の氾濫や、事実全体の一部のみを強調する報道などについて、消費者が冷静で適切な判断をすることが困難になった。また、製品選択の幅が広がり、関係製品の排除が容易になったことから、それらの内容に対して情緒的に過剰に反応する傾向が強くなった。以上のことが、風評被害の発生とその拡大の要因になると考えられる。更に近年ではインターネット掲示板やチャットにより株価を操作する目的の風評被害が多発、風評により株価を操作したとして逮捕される者が出てきている。その為、各企業ではこれら風評被害に対する対策を講じることになってきている。
ただし、例えば1997年に起きた日本海でのナホトカ号重油流出事故では、風評被害だけでなく、実際に重油による被害で水産業や観光業が打撃を受けている。また、2001年の同時多発テロの直後には、実際に爆弾テロなどが生じている。したがって、
- 風評による被害
- 災害、事故による直接の被害
- 危機回避のための適切な判断(リスクの増加)
のいずれであったかを厳密に区別することは難しい。
[編集] 風評被害対策
風評被害を防ぐための取り組みの例として、2000年6月、産業廃棄物の処理・溶融施設を持つ香川県香川郡直島町において風評被害対策条例が設けられた。同町において事業を営むものが風評により経済的被害を受けたときは、当該被害の範囲内で直島町風評被害対策給付金を支給するとされている。
[編集] 風評被害の事例
- 1995年
- 1996年
- 大阪府堺市で学校給食による学童のO157集団感染。死者3名。原因食材としてカイワレ大根が疑われるという当時の厚生省(現・厚生労働省)の中間発表(疫学調査によりカイワレが有意となった)により、カイワレ業界が壊滅的な打撃を受けた。(なお、カイワレ大根を含め、原因菌が検出されず、汚染源は特定されなかったこともあり、2004年にこの件による国家賠償請求訴訟2件で、国の敗訴が確定している。)
- 1999年
- 2月1日『ニュースステーション』で久米宏によるダイオキシン高濃度検出報道で葉物(実際には乾燥のためみかけ上高濃度になる煎茶)から多く検出されたとの報道したことにより、埼玉県所沢市産のホウレンソウなど野菜の価格が暴落。(「ニュースステーション#所沢ダイオキシン訴訟」を参照のこと)
- 茨城県東海村のJCO臨界事故により、農作物への放射能汚染はまったく無かったものの、東海村や茨城県内の農作物、茨城名物の納豆の売り上げが激減した。
- 2000年
- 埼玉県が特定企業のハム・ソーセージからO157を検出したと誤って発表し、回収騒ぎ、売り上げの激減。
- 伊豆諸島における三宅島の噴火により、直接影響を受けていない伊豆大島や八丈島への旅行キャンセルが殺到し、観光客が激減。
- 2001年
- 日本国内で初のBSE感染牛が発見されたことにより、国産牛肉の価格暴落と売上激減。(「BSE問題#日本のBSE問題」を参照のこと)
- 2003年
- 佐賀銀行が倒産するという電子メールにより、取り付け騒ぎが起こり、およそ500億円が引き出された。(取り付け騒ぎを参照のこと)
- SARSを発症した台湾人医師が日本旅行ツアーに参加し、小豆島の旅館にも立ち寄ったことが判明し報道されたところ、該当旅館以外の小豆島全域でも旅館の宿泊キャンセルが相次いだ。この時期、世界的にもSARSの影響によってアジアのほぼ全域への観光客数が減少している。(「重症急性呼吸器症候群#影響」を参照のこと)
- 2004年
- トリインフルエンザに感染した疑いのある鶏肉・鶏卵が京都府、滋賀県、大阪府に流通したとされ、トリインフルエンザにより健康被害などは発生しないにもかかわらず、鶏肉の売り上げが減少。
- 新潟県中越地震により、佐渡島など新潟県でも全く被害を受けていない地域についても旅行キャンセルが殺到し、観光客が激減。
- 2005年
- 3月22日、米国カリフォルニア州の女性が、ファーストフード店「ウェンディーズ」の料理の中に人間の指が入っていたと主張し、メディアの報道が過熱した。しかし、実際には、この女性は過去にも他店に対して訴訟を起こしたことがあり、人間の指は女性の夫の知人が産業事故で失った本物だったものの、女性自らが混入させたものと確認された。この事件により、売り上げの低下などの風評被害によって約250万ドルの経済損失が出たとして、女性は重窃盗容疑で逮捕された。
- 『報道ステーション』の反日デモの報道において「深圳」と「香港」を取り違え、実際には大きな混乱が無かった香港でデモ群衆が暴徒化したと誤って報道した。2日後に「技術上のミスで、意図的なものではない」として訂正と謝罪をしたものの、香港への旅行キャンセルが相次いだ。(「2005年の中国における反日活動#香港における活動」を参照のこと)
- 韓国産キムチの寄生虫問題により、それらと無関係である日本国内産キムチの売り上げまで減少。(「キムチ#寄生虫問題」を参照のこと)
- 2006年
- 日本国内でノロウイルスによる感染症が大流行。過去にノロウイルスがSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれていた時代より、カキなどの二枚貝に生息するという報道がなされていたことからカキの価格が下落し、養殖・販売業者の売り上げが低下した。宮城県、岡山県、広島県などの生産・養殖地ではカキを加熱する料理を振る舞って安全性を主張した(ノロウイルスは摂氏85度以上で1分以上加熱すると感染性を失う)。
[編集] 関連項目
- 報道被害
- 噂
- プロパガンダ
- 放送倫理・番組向上機構(BPO)